二分間 ― 秒針が百二十、コチコチと進む間 ― 同じものをみつめる習慣。
これが、ニュートンも、コロンブスも、フランクリンも、エジソンも、きっとしたにちがいない『新しい発見をする秘術』だと、けさ、にいさんが、朝日のような顔つきで教えた。
にいさんは先週から、四日、図書館へかよい、二日ノートを整理し、親友と議論し、ゆうべは隣りのクロにほえられながら、うち二階の窓からヤネへのぼって、ひとりで考えつづけていた。そしてこの『発見秘術』を発見したのだろう。
サブロウはきいてすぐ、本屋へ出かけなければならなかった。七時半から、新学期教科書を売りますと、貼り紙が出ていたことを知らせてくれたシミズ君が待っている。
道を歩きながら、二分間、みつめていたくなるものを探した。
あっ、きたきた。薬屋の角から出てきたおじさんの鼻は、とびきり丁寧なカギ鼻だ。サブロウの目は、二分、その鼻をみていたくなった。(停電の時、あの鼻にチョウチンをぶらさげたら、どんなもんだろう)と思った。
「いかがでしょう」
とユーモアの国へ、カギ鼻のおじさんを、さそいたかったが、
「では君。ぶらさげてみてくれたまえ」
と頭がいい答え方をしそうもないしぶつらで、さっとすれちがってすぎた。
第一にやってきた ― 二分間みつめるにたる鼻 ― が手もなくゆきすぎるのが、なんとなく、のこりおしくて、サブロウはふりかえって見おくった。
すると、あっ、またみつけた。第二 ― 二分間 ― は、おしゃれですましたお嬢さんの、見ごとにしゃくれたアゴ。サブロウはその小気味よい傾斜の角度をしらべた。スケート場にあれだけのしゃくれがあったら、よほどカジをうまく取らなきゃなるまい。サブロウは目で、すべりおり、すべりのぼり、しゃくれたアゴをスケートした。(地球の自転と引力に感謝しよう)
サブロウの目のスケートは、すくったようなしゃくれアゴスケート場に、すべらず、ころばず、愉快に成功した。(さよなら、しゃくれスケート)
次ぎは、牛のシッポのタクト。
(モー君、君のタクトは、二分音符だけつづいた音楽を指揮しているね。アブでもとまって、急変符号つき八分音符、十六分音符、三十二音符、そして、アブをぶんなぐるために、クルリとシッポをひとまわり大きくふったら、どんな大演奏がはじまるだろうか)
第四番め。アメ屋の店番のアクビ。この店番、夜光リュウのばけたのではあるまいか。アバラ骨の間に、宝玉中で尊い「夜光の玉」をかくした夜光リュウは、とんでもないものにばけていて、時々、これでもわからないのかと、みせびらかすそうだ。アーとじまんそうな大アクビ。のどへ飛びこんでいって、アバラ骨の間を、探検してきても、アクビはまだ終っていそうもない。
みちみち、こんな『発見』をしながら、本屋へつくと、まるで、この四つの『発見』がまだまだほん物ではないように、本屋のガラス戸にはってあったビラは、
「荷がつくのが遅れました。明日のおたのしみ」
シミズ君はまだこないのか、もう帰ったのか、そこらあたりにいなかった。
サブロウはすっかりペシャンコになって、つまらなくって、午前中は、単語帳をあけて、つづりをみながら、うわクチビルのまんなかをつまんで、うつむいていたし、午後はひるねをしてしまった。ゆめに、学校の机の中にいれておいて、ぬすまれた大事の絵を見た。
絵は、少年のキリスト。十二歳のキリストが、両親につれられて、エルサレムのお祭に行った時のこと。はじめての神殿の参詣は、キリスト少年に深い印象をあたえた。いつのまにか、両親にはぐれたキリスト少年は、神殿の中で、おおぜいの学者たちと、神について語りだして、むちゅうになっていた。その熱誠にあふれて、クリーム色の晴れ着の右手をあげた美しい少年キリストの絵。
サブロウは、この絵をずいぶん苦心して手にいれた。にいさんが、厚紙をうら打ちして、自分がこしらえたスギのガクぶちへおさめて、机の左ななめ上にかけてあったのだ。
ほしくてほしくてたまらなかったから、おそるおそる、にいさんのきげんのいいとき、ねだって見たのだが、
「ほかのものならやるが、これはにいさんも大すきなんだ。やれない」
と、はっきりことわられてしまった。がっかりした。
にいさんのヘヤへゆく度、その少年キリストをみあげて、うらやましかった。みれば、みるほどほしかった。あの若木のこずえのようなキリストの右うでが、自分が熱心に宿題を解いているエンピツの上方にのびていて、ひょいとみあげると、シリウス星にもまさる少年キリストのひとみをみるのだったら、サブロウはきっと、東の星をみつけたヒツジ飼いたちみたいに、次第に心が登んでゆく自信があった。
さもほしそうであったとみえ、にいさんはとうとう、
「サブロウに、この絵をもつ資格ができたら、ゆずるよ」
と言った。サブロウはワクワクうれしくて、
「資格って」
「古今東西の例にならって、たった三つにまけとこう」
「何々、三つ」
「ええと、何々を選ぼうか、親愛なる弟サブロウに、『神殿のキリスト』をゆずる試練は」
充分もったいぶって、数えあげた三つというのは、はげみと、隣人を愛する心と、あたえられたことの中に神の翼をみつけること(つまり、どんなつらいことでも、うれしがること)であった。それがどれでもひどくにいさん流だ。
はげみというのは、英文「イソップ」の中から、これはと思うのを十五、ふつうの勉強のあまりの時間で、二週間で訳すこと。
隣人を愛するというのは、お菜がフライであった時に限り、だまっておサラから全量の三分の一を、にいさんのサラにますこと。
神の翼をみつけるには、毎あさ、にいさんが五時に起きて、サブロウを五時半に起こすのを、絵をゆずるまで、サブロウが五時半に起きて、にいさんを六時に起こすこと。
サブロウは、この三ヵ条はずいぶんずるくて、かしこくないと思ったが、かくてこそ、少年キリストは、にいさんから自分へうつるのだと思ってがまんした。さすがにいさんも、
「もう少し、まけてやろうか」
ちょっときまりわるそうであったが、
「ううん、けっこうけっこう、コケッコー」
サブロウは、オンドリがときをつくるまねをして、いせいよく承知した。
サブロウは、イソップ十五を、九日で訳し終った。あとふたつにいさんのずるを、早く切りあげたいのもあったが、なにより、望みの絵が少しも早くほしかった。
五時半に起きろといわれたのを、五時に起きた。さすがねむくて、柱の角に突進してしまったりしながら、イソップの動物たちを追いかけた。英語がわかるらしい人に、手あたり次第きいてまわった。
けい引き用紙に清書した十五のものがたりを、夜にいさんの机へのせると、にいさんは、意外らしくサブロウの顔をみて、それから、声をだして十五そっくり読んだ。サブロウはその間も、『神殿キリスト』をみあげていた。
「よし、サブロウ、あげるよ」
にいさんはガクぶちをはずした。サブロウはガクぶちのかげのゴミを払うハタキを取りにゆこうとした。が、ガクぶちのかげにホコリはなかった。にいさんは、九日の間に一度、ガクをはずして、またかけたのだ。ガクの裏のハメ木をとって、カパリとおこすと、レモンのにおいがしそうなクリーム色のひだのあるきもののキリストは、サブロウの手の上にのった。あらためて、サブロウは、くい入るようにながめた。
にいさんはさっさとガクをかけた。おや、カラのガクをと、ついみあげると、イバラのカンムリをかぶった三十三才のキリストが見おろしていた。にいさんは、九日のうちに用意したのだ。サブロウは、そのキリストと、手のキリストをみくらべて、
「にいさん、にいさんのガクは、二十一才だけ、一度に成長したんですね」
兄弟はふたりとも、大満足であった。
少年キリストが手に入るとサブロウは、親友シミズ君に、あす学校でみせてあげられるのが待ち遠しかった。シミズ君は、イソップの訳にも、だいぶつくしてつくれたし、サブロウの話す少年キリストを、非常にみたがっていた。
「学級のガクに、しばらくかしてくれないか」
と、サブロウにたのむシミズ君は、みんなに選挙されて、五年級長をつづけてきたシミズ君だ。
「どうぞ」
サブロウも、それはすてきだと思った。すでにもう教室のかべにかかっているペスタロッチや、トルストイや、ベートベンも、自分たちのキリストが、こんな美しい少年の姿で現れたら、どんなに喜ばしいだろう。ガクの人たちが級会をひらいて歓迎するに違いない。さぞすばらしい集まりだろう。
よく朝、学校へむかうサブロウの足は、はずんでいた。しっとり朝しめりのある校庭にシミズ君をみつけると、
「早くシミズ君」
とさけんでしまった。きのうで、イソップが十五、訳し終ったことを知っているシミズ君も、いそいそとかけてきた。
「いいなァ、これァいい」
シミズ君のほっぺたもかがやいた。シミズ君はあす、この絵にちょうどいいガクぶちをもってきて、級のみんなを、アッといわせよう、それまでは、まだだれにもみせずにおこうと、サブロウの机の中にしまったのだ。そのよく朝、ガクぶちをもったシミズ君が、わざわざ遠まわりしてサブロウをさそいにきて、いっしょに学校へゆき、いよいよ級のみんなにもと、息をのんでサブロウの机をあけると、絵はなかった。
あまり残念で、先生にも申しあげ、いっしょにさがしていただいたが、どうしても、みつからなかったのだ。
それから二月たっている。サブロウはぬす人をメチャメチャにぶんなぐりたかった。あい手が知れないからしかたなし、がまんしていたが、思いだすたび、カッとしてにぎりこぶしをギュッとにぎりしめた。サブロウはゆめでみたその絵を、さめても、まざまざと思いえがいていた。夕日がもえているように赤かった。サブロウの右手は、夕やけのほうへさっとあがった。
おッ、夕ばえにすかしてみる手も、二分間みつめるねうちがある。指と指の合せ目が、きれいな血の色をすかして、ほんのポッチリのすきまから、のぞける空のきれいな色。
(二分間に血はぼくを成長させ、空は永遠へ進む。二分間に進化していないものは、ひとつもない。カギ鼻だって、しゃくれアゴだって、牛のシッポだって、店番のあくびだって、星々の動きに動かされて、永遠へ進む。シミズ君にもみせたい。二分間の『新しい発見の秘術』をきかせたい)
サブロウはシミズ君の家へ急いで行った。シミズ君は、さっそくにまず夕ばえに手をすかして、
「レントゲンを思いだすね。こんなにぼくの手、いい色だと思わなかった。あのね。実は、ぼくも、さっきから君の所へゆきたかったんだよ」
「そう、君も、なにか発見したのか」
「うん、その発見がね」
シミズ君は、まゆをよせた。
「なに」
「どろぼうさ」
「や、近ごろはやるね、新聞はどろぼうだらけだね、君みつけたのか」
「うーん」
シミズ君がこんなグズつくことは珍しい。
「どこで」
「それがね、けさ、本屋の前で、君を待っているうちになんだけど」
「ああ、ぼく、二分間をためして歩いていたところだね、早く行けばよかった」
「でもね、ぼくひとりでかえってよかったかも知れないんだよ」
シミズ君がこんな言い方をするのもおかしい。
「どんなどろぼうなのさ」
「それがね、どろぼうのほうで、みられていながら、知らないんだよ」
「ぬすむのに、むちゅうでか」
「いや、とっくに盗んじゃったものを、目の前でヒラヒラさしていてね」
「ふーん、君の知っている盗まれものか」
「忘れられないよ。それはねぇ」
「なにさ」
サブロウは少しきつくきいた。
「君も知っているよ」
「ぼくも」
「絵だよ。少年キリストの、あの」
「えッ、どこに、だれがもってたッ?」
サブロウがせけば、シミズ君はいっそう言いしぶりながら、つらそうに話しだす。
シミズ君が、本屋の前にいると、ヨチヨチ歩きの子どもをしかりしかりやってきたのが、なみはずれて感がにぶいので、スロモと級でバカにされているタキグチだ。タキグチは遠い山国の分教場から転校してきた。サブロウと席がならんでいる。サブロウはこのスロモのおかけで、どんなにかめいわくすることが多い。自分のわがままよりほかは、ちっともわからないタキグチだ。組わけ競争なぞになると、タキグチのいるサブロウの二組はきまって負けだ。
「タキグチのね、連れている弟が、なきながら持っている紙ダコがね、たしかあの油絵のかげに裏うちしてあった紙なんだ」
そこで、シミズ君は、スロモといっしょに、スロモの弟のかた手をひいてやって、
「君んちのほうへ遊びにいくよ」
と、スロモはあんまりこいとも言わないのに、ずんずんついてゆくと、町はずれもすぎて、山みちになり、雑木の林や、森ばかりの山へはいって行った。タキグチの家は、炭がまのそばにかんたんにたてたコヤであった。ひとまの家に、イロリにナベがななめにかしいでかかり、髪ぼうぼうのおかあさんが、まだ四人いる子どもを、どなり、ぐるりのクギには、よごれた着るものや、ナタや、タキグチの学校カバンが、らんざつにかけてあった。そのボロキレのかげにシミズ君の目は、あの美しい少年キリストが、少しいぶされた色で、はってあるのをチラと見た。
スロモは、シミズ君が、わさわざここまできた目的を達したことを、すぐには気がつかなかったらしい。
「景色がいいなァ、またこさしてね」
なにげなく言うつもりのシミズ君は、これだけのことばを、平気でいわれなくて、ずいぶんへたに言ったようだそうだ。
「行きにはね、あの絵を取りかえしたい一心だったから、岩みたいにだまりこんでしまうくせのタキグチを、どうしてくどこうかと、力んで行った」
サブロウはうなづいた。
「かえりは、それがすっかり逆になって、君に、あの絵を、タキグチへやってくれるように、たのみたくなったんだよ」
サブロウはだまった。シミズ君は、はずかしそうに、
「絵は君のものだ。君の意見に従おう」
ますますサブロウはだまった。スロモがだまると岩なら、このサブロウのだまりは岩山だった。サブロウの岩山だまり中には、火山がふきだす前のように、いろんな熔岩がもえたぎっていた。
さっきも夢に見た絵。自分があんなにほしかった絵。あの絵があれば、自分は少しずつだんだんと神の子になれそうに思われた絵。ボロキレの間にちらつく少年キリスト。そういう家族の中にいるスロモ。シミズ君が、行きと帰りで、絵のおき場所を、逆にしたくなった考え方。サブロウは、まばたきもせず思ってみて、こうきめた。
「ぼくも行ってみよう。シミズ君」
シミズ君は、夕ばえのような顔になった。ふたりは山みちをのぼって行った。サブロウは、なにせ久しぶりで、少年キリストの絵をみれることで、ドキドキしていた。
コヤのヤネがみえるナラの木のそばまでくると、ウワァと、けだものがほえるみたいな声がきこえた。耳を澄したふたりは、顔をみ合して、なおもコヤへ近づいてゆくと、そのウワァウワァは、ゆき次第おおきくなって、ぐるりとまわって、コヤの前へでると、タキグチはじめ、六人の兄弟がもつれ合って大けんか最中だ。
髪ぼうぼうのおかあさんが、それをどなって引きわけようとしている。
「どうしたんですか」
シミズ君が思わず声をかけた。鼻血をながしている子、ひっかききずの子、むらさきばれのできた子。おかあさんは引きはなしながら、こっちをむいて、
「にいちゃんの絵を、めちゃめちゃにしたんですよ。にいちゃんがね、学校からもらってきて大切に張っといた絵なんですよ。わたしなんかもね。むかむかする時や、くさくさするとき見ると、そりゃあ、すーといい気もちになる絵でしたよ。それをね、家ぢゅうみんなが大すきなんでね。にいちゃんがきょうどうしたのか、その絵をはがしにかかったんですよ」
ここまでおかあさんがいうと、もつれあいながらも、きいていたとみえてスロモが、しゃくりなきながら、
「あ、あ、あ、ん、返さなくちゃと思ったんだい。返したかったんだい」
サブロウはたまらなくなった。
「いいよ。タキグチ君、あげるよ」
あげたいと思ってきたんだよ、と言えたら、どんなによかったろうと、サブロウは残念だった。すると、スロモは、いっそうなきだした。
おかあさんはまた、
「にいちゃんが、はがしかけたもんだから、あとの子ども等は、おしがって、クチビルをつけてしゃぶったり、その上をなでたりしたがったのですが、みんな、もうにいちゃんに取りあげられると思ったもんで、おしまいのさよならに、だいぶん力をいれて、しゃぶったり、なでたりしたもんだから、かじったり、こすったり、破けてしまうことになったんですよ。これ」
サブロウと、シミズ君は、指さされた絵のほうを見た。絵は、ちぎれて、めくれていた。クリーム色のひだが、あげたみぎ肩のところで、濃くなっているあたりの一片は、炉のほうにとんできていた。サブロウはむねがいっぱいになって、息がはげしくなった。なんとも言えなかった。
「またこよう。またくるよ、タキグチ君」
シミズ君はサブロウの肩に手をまわして、そういうと、スロモは泣きながら、大きくうなづいた。
シミズ君は、細いみちを、サブロウを先にした。サブロウは、あらくなる息をかんで、まっすぐむこうをみて歩いた。二丁ばかりふたりともだまって歩いた。山みちがもうつきるちょっと手まえで、サブロウはふいに立ちどまった。アンズの芽ばえが足もとに出ているところだった。
「どうした」
シミズ君は、サブロウの横へきた。サブロウはじっとむこうの木の間を見でいる。シミズ君もみつめた。ようやくしげりだした木の葉は、上のほうだけふさふさして、下のほうはまばらに、まだ広いあきまを残している。その木と木の間の空間は、ひとりの少年がすらりと立っている姿ではないか。しかも、こっちへ向かって、右うでがあがっている。まじめなサブロウの目つきは、
「ね」
とシミズ君をみ、シミズ君は、静かに深くうなづいてほほえんだ。あの葉はもっとしげるだろう。そして枯れ落ちよう。だがふたりはこれから、方々に、少年キリストをみつけるだろう。
「スロモにも」
ふたりはかけもどった。はれあがった顔に涙だらけのスロモを両方からひっぱって、アンズの芽ばえまでつれてきて、むこうをさした。スロモも、ないて赤らんだ目を、しばらくすえて見つめた。花がさくように口をひらいて言った。
「あ、あれだ、絵の通り」
あの絵を知らないものには、みつかりにくい姿、三人はペガサスの泉にひたった。
ペガサスという羽の生えた天馬は、詩人たちのために、大地をけって、泉をふかせた。その冷たく青い泉にひたる詩人たちは、天のシトロンをのむ感激がわくのだ。
シミズ君は、スロモに、
「暗くならないうち、弟さんたちにもみせたまえ」
スロモは、びくっとして、うしろじさりに五、六歩ゆき、それから、ふりかえりがちに、曲り角からは、まっしぐらにかけだした。
サブロウは、アンズの芽ばえから前へ進むのを、やはり忘れたみたいなシミズ君とならんで、まだ木の間の絵をみつめながら思った。
(二分間、みつめることを教えたにいさんに、きょうこの思いがけない発見 ― 方々に少年キリストを発見できる力 ― の『発見』を知らせよう)
木の間の空間は少しずつくずれてゆく。少年たちのノウズイ(脳髄)に、少年キリストの像を、吸わせて移すように。
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