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滑稽笑話

滑稽笑話

滑稽笑話

滑稽笑話』(大笑子著)を抜粋してテキストにしました。

明治期の滑稽文なので大部分は現代の風俗にマッチしていませんが、そのなかでも何とか通用しそうなものを選んでみました。

当初は原文に忠実な表記を目指しましたが、能わず、大部分は現代語の表記に変更しています。

(2011年1月 金森国臣)


猫-滑稽笑話

私は米屋の佐吉です。当年十四になります。妙なことで猫が大きらいになりました。

この十日ばかり前でしたが、家の二階へあがって見ると、水戸の親類からというて、ホシアワビ、キンコ、スルメなどが沢山きていました。

皆さんも御承知でしょうが。スルメを火にあぶって、ボリボリ噛むくらい、うまいものがありませんからネ。

そこで知れないように、四五枚ごまかしてからに、ふところへ入れたんです。

すると主人に呼びたてられまして、大いそぎに往って見ると、得意さきからバラ銭で、お払いがあったのです。

そこで私等三人にこれを数えて円助ずつの一包にしろと言うのです。

ナァニ、訳のないこってすから、数えては包み、包んでは数えていました。

すると家の飼い猫タマというのが、私のほとりへきてからに、いやにからみつくのです。

私は何んにも忘れてしまって、別に気がつきませんでしたから、変な猫だ位に思ってますと、奴さん退くどころか、ますます進撃してからに、袖口に頭を突っこみ、ふところを嗅ぎまわるというので、はじめてスル的に気がついたのです。

サァ大変だ。知れては大がりを喰はされる。みんなには笑われる。困ったことが出来たと、そっとタマの頭をどやして見ても、かえってヤケになって、ニャアと言うてからみつくのです。

あたまをおしやっても、尾をつねっても、フンフン鼻をならして、しがみつくのです。

イヤハヤ困ったの、困らぬのとて、この時くらいまごついたことはありませんでした。

すると内儀さんです。タマのからみついて離れぬを見、ハヤブサのような目つきで、チラリと私のふところへ目をつけました。

私もこの時は、アァしまったと、おぼえず嘆声をもらしましたよ。

それからしばし私の挙動を見ていましたが、偵察が届いたと見え、たちまち霹靂の如く、佐吉ッという声がひびきました。

そうなっては小僧のかなしさ、イヤハヤ言語道断で、たちまち懐の取り調べにあい、スルメの奴目億面もなく、ありのままでそのところへ出る。

朋輩は笑う。内儀さんは怒鳴る。主人は渋面をつくって、仁王さまがシオカラをなめたような顔をする。

イヤハヤ、小僧もこうなっては、真に木っ端みじんです、そこでそれからというもの、猫のこえをきいても、ゾット身ぶるいがするのでござります。

ヘイ左様なら

何が第一番好きだ

酒屋の若後家、ある時手代や小僧を一室のうちへ呼びあつめ、明日は旦那の一周忌にあたるから、何か皆の一番好きなものを言うて見てくれ、いつもよくはたらいてくれるから、御馳走をしてやると言うた。

何がさて、食い意地のはってる奉公人のことであるから、私は汁粉、私は餅、私は酒と、各々好きなものを云うてるのに、粂吉と云う今年十八になるもの一人のみ、何んにも言わずに黙っている。

 「粂吉、お前の第一番好きなものは何だネ、言っておきかせ」と言えば
 「ヘイ」と言うてモヂモヂしている。

外の連中は、粂公遠慮するなよ、お前の好きなものは、何んでも言って見るがえいよと云えば、

 「第二番に好きなものは餅だ」と言うた

皆が、第二番じゃあない、第一番だよと言うに

 「それは言われぬ」

煮干二銭

伊勢屋の旦那、大晦日の晩に小僧を呼び

 「これこれ、福松や」
 「ヘイ、何か御用でございますか」
 「明日はお正月だな」
 「左様で」
 「それではいつもとは違うから、煮干二銭だけ買うてきてくれ、おかしらつきを、三尾ずつつけたら沢山だろう」
 「そりゃ贅沢に過ぎます、田作一銭で沢山です」
 「それではあんまり見っともないよ」

鉄槌がおいてあります

近所で、しみったれと評判の老爺

ある晩外出するとて、手さぐりで入口まで出てきて、いくらマッチをさがしても見あたらぬので、中腹を立て

 「善吉善吉、マッチを何処へやった、まだ二三本あったに」
 「マッチですか、マッチは此方にあります」
 「なぜ其方へ持って往くんだ」
 「一本でもついへになりますから」
 「だって暗くて草履が見えんよ」
 「その代わり鉄槌がおいてあります」
 「鉄槌が何の役にたつ」
 「アハハハハ、旦那もお年をめしましたな」
 「年をとったのは何がおかしい」
 「イエお若いときは、爪で火をおともしなすったというじゃぁありませんか」
 「それがどうした」
 「その鉄槌で、イヤという程頭をたたき、目から出た火で草履を見るのです」
 「ウムウム、うまく考えたナ、なるほどなるほど」

手前でござります

手前でござります-滑稽笑話

旦那「誰のいたずらだろう。塗り立ての土蔵の壁へ役者の似顔なんか書いて」

皆々「ヘイ、だれがいたずらいたしましたろう。あんまり気がつきませんことで」

旦那「しかし感心だよ。高麗藏は高麗藏に見ゆるし、梅幸は梅幸に見ゆるからナ」

利吉「エヘヘヘヘ、実は手前の書きましたんデ」

ころんでも唯起きぬ

ある日長松という伊勢屋の小僧が、ころんで泥まぶれとなってかえってきた。

すると亭主は叱りつけ

 「何んというざまだ。そして何をつかんできた」
 「ヘイ何もつかみません」
 「それだから馬鹿というんだ。あきうどというものは、ころんでも唯起きてはならぬ。何かつかんでおきるものだ」

と叱りつけた。

二三日過ぐると、またころんだと見えて、泥だらけになって帰ってきた。

亭主これを見て

 「よくころぶ奴だ。その手につかんでるのは何んだ」
 「馬の糞でござります」
 「ナニッ、馬のくそと。一体何にするんだ」
 「ヘイ、肥料にしますんで。このあいだ旦那さまが、あきうどというものは、ころんでもただおきてならんと言われました故、それで馬の糞をつかんで立ちましたので」

と答えた。

仙さんに遇った

 「おいら、昨夕仙さんにあったゼ。六さん」
 「馬鹿を言いねぇ。死んだものにどうして遇われる」
 「そうそう、死んだっけネ。それでは夢か知らん」

人違い

 「朝ネ。お使いに行く途中でネ。そら此のさきの呉服屋の小町娘にあったゼ」
 「そりゃ羨ましいナ。此頃はさっぱり姿を見せねぇゼ」
 「それでネ。今川橋の向う横町へ曲ったうしろ姿を見たからネ。夢中になってかけてヨ。ようようかけぬけて見ておどろいた」
 「どうして」
 「此の横町のヒョロヒョロめ。いやに元禄ぶって行きやがるから、ツイ人違いしたのよ」
 「何んのこった。馬鹿馬鹿しい」

高麗蔵に似ている

昨日の日暮に久松町を通ったらネ
十五六になる別品が四五人いてよ
オヤ、高麗蔵に似て居ることというんだろう
おいら急にいのちも何も入らなくなったよ
そこで意気揚々とあるくと、あとからも人がくるのサ
不意と見たらどうだ、本物の高麗蔵なんだ
人は自惚たくないものだネ

かけひきだ

浪花星の番頭は、敏男という小僧を呼び出し、

 「敏どんや、お前はどうも悪い癖だ、なぜそう嘘を言います」
 「イエ、嘘は決して申しません、ハイ」
 「ナニ嘘でないことがあるもんか、みんなこしらえたことだ」
 「イエ、私は嘘は申しませんです、これは私のかけひきでござります」

銀の大黒さま

ある人途中にて銀の大黒を拾い、大いによろこび、家へかえると直ぐさま神棚にあげて神酒を備へた。

すると前からあった大黒さまが、大層に腹を立て、あとから来た大黒さまを、同じ神棚のうちへは置くまいと言うに、銀の大黒もきかね気を出し、

銀の大黒「なんだ、已に下りろと言うのか、フフン、已はただの大黒ではないぞ、はばかりながら銀の大黒様だ。お前等にあげさげされるような、安っぽい大黒とは、大黒がちがうぞ。

元の大黒「イヤ、銀でも古金でも、この棚は己がもんだ。うぬなどをおいてたまるもんかと、槌をふりあげて銀の大黒のあたまをコツンとなぐった。

銀の大黒「モウ勘弁がならん。片端からなぐり倒すぞと、片肌ぬげば是れはしたり、下はただの銅であった。

欲ばり

八「熊公、手前無暗と金ばかり欲しがるが、いのちを売っても金がほしいか

熊「欲しいどころではねへ、大金にありつくことなら、こんないのちのひとつやふたつ、殺されても惜しくねへ、ウム本望だよと言うてることを、ある大金もちの旦那がきき込まれ

おもしろいことを言ってる奴もあるものだ、そんなら一万円やるから、おれにいのちをくれ、思う存分にして殺してやるからと言えば、熊公しばらくかんがへ

熊「エヘヽヽヽヽヽ、時に旦那、物は相談でげすが、お前さんも一万円と言う大金を出しなさるもつまらねへし、私もあった方が心もちがよいようだから、どうでしょう、私をマァ半殺しにして、それで五千円おくんなすっては

居候

居候膳にむかひて、一杯喰ひしまいてかへければ、

 内儀「お湯かへときく、
 居候「おゆでもおめしでも、

望遠鏡

ある華族の殿様、お二階から遠めがねにてあちらこちらを見ておらるる。して三太夫を召され、あれなる五重の塔は、いづくじゃ

 三太夫「ハハッ、浅草の観音のでござります
 殿「こちらに見ゆる鳥居は
 三「みめぐりのいなりでござります
 殿「船のゆききして居るところは
 三「竹屋のわたしでござります
 殿「なかなかよいけしきじゃのと、

一心にわたし場を見ておらるると、うつくしい十七八のむすめと、二十あまりの業平とも言い相な若ものと、堤上でぴたりと行きあい、顔と顔をよりあわせ、何やらひそひそばなしをする体である。

すると殿さまはたまりかね、遠めがねに耳をおしつけ、三太夫、しづかにしづかに、と仰せられた。

糠やの若もの

丑の時まいりして、神木に灸をすえて居る男がおる。宮守これを見つけ、なぜ釘をうたぬぞときいた。

男「イヤ、わたくしののろいます男は、糠やでござりますからとこたえた。

四十七人

赤穂の義士四十七人が冥土におもむき、閻魔大王の前にならび、それがし共は、かるた大明神になりたき心願でござります。よろしくおねがい申しあげます。

大王「それはよろしい。だがかるたと言うのは、四十八枚なければならぬが、一枚はどうする。

大石「さきだってわたくし共の主人、あさのたくみが参りて居ります。


無邪気にして天真爛漫なるいたづらは、同じいたづらでも、興味あるものなり、世の丁稚と云い小僧といふもの共のいたづらを見るに、露骨にしておもしろき節多し、況してわづかなる油断より、莫大もなき失策をやらかして丁稚小僧の沽券を下げるなどは、随分とおもしろきことならずや、されど是れ等の丁稚小僧は、実に大日本帝国大商人の卵子であるから、是等の失策を以て、彼等の価値を定むる勿れ、のみならず、前車のくつがへれるを見て、後車の戒しめとなし.此の書に掲出せるが如き行為をせざらんことを、願ふになん

明治四十年一月

著者識


『滑稽笑話』の書誌情報

  • タイトル:滑稽笑話
  • タイトルよみ:コッケイ ワライバナシ コゾウ シッサク
  • 責任表示:大笑子著
  • 出版事項:東京:文陽堂,明40.1
  • 形態:235p;15cm
  • 著者標目:大笑子
  • 著者標目よみ:タイショウシ
  • 全国書誌番号:41007015
  • 西暦年:1907

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