○本書は最初『日本非人名辞書』と題して材料を蒐集せしものなりしが、「非、人名」を非人、人名辞書と思ひて、車善七等の伝記ならんと解するもの多かるべしとの批難ありて、擬人名に改めたりしなり、非人名は論理学的の語にして、これに優る語なきに、擬人名と改めしが為めに、採録の予定たりし友禅、市松、慶安等の実在人名の語を省かざる可らざる事と成りしが、さりとて又長松、喜助、嘉平次等の類は実在人名なりしか否かの疑問ありて、其取捨に窮する語も多くあり、彼是煩悶の結果、終に友禅等を採る事として、擬人名を「擬、人名」と「擬人、名」との二つに分つものとすれば、語義に反する事もなかるべしと決定せし也
○本書は左記各項の語を採録せず
人名に似たるも、人名に擬せしものにあらざる語、例せば、臘日の嘉平、女の新造、豊年の満作、趺坐の丈六、年号の文治、正平、嘉吉、萬治、遊女の三八、五八.役者評判記の黒吉、酒量の船六、草の河原撫子等の類
禅寺の政春大吉、田畑の豊作、人三の化七等の如き読音も異り擬人名にもあらざる語
よたん坊、木葉坊、自紅坊、とりん坊、ずんべら坊等、嘲罵の義たる坊にして擬人名にあらざる語
伯楽、孟宗、韋駄天、泰山府君、杜氏、庖丁、外郎.尤潔郎等、異国人名より出でし語、又は外来語にして日本人名化せざる語
桂女、油女、山女、雪女、伊賀専女等、人類に擬せし語にて人名に擬せしものにあらざる語
飯依彦、愛媛等の如き上古の擬人名、又は今小町、今業平、蔭弁慶、内弁慶等、古人名に比較せし語
○本書は昨年十月十七日、予が病臥中の発意にて編纂に着手せしものなり、爾来数十種の古典新書に拠りて材料を蒐集せしものなれども、僅々五六ヶ月間の渉猟、加之、外出又は他用中の事業なれば、これを完全のものとは信ぜざるなり、故に多かるべき誤脱は巻末に記入せらるべし、又今後予が発見せし語は別に追補として報告せん、因つて其用として篇末に余白紙一二葉を附綴し置けり
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