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                  専太は東のまどへくるたび、そのこやをながめるのがすきであった。三尺はば、一間長さの、むしろでかこったこやだ。中にはばあさんが一人すんでいた。 
                 けさは、こやの外で、かけたしちりんで、ばあさんが火をおこしている。ヤツデの葉であおいでぃる。いっしょにみていた専太の兄さんが、 
                「てんぐさだな」 
                 と、いった。専太はそれをきいて、しちりんをあをぐばあさんをみていると、火はあのばあさんがはじめて、ああしてこしらえるもののように見えた。 
                「兄さん、火ってのは、マサツでおきるんだね」 
                「そうだとも」 
                 兄さんは学校どうぐをそろえて、さっさとしたくをした。専太は、火はマサツでおきると、きかしてくれる兄さんみたいに、早く学校へいきたかった。うらやましかった。 
                「兄さん とちゅうまで送ってゆくよ」 
                「角正のかどまでだよ」 
                 角正と太い字のかんばんをかけたショウユウやの角からは、兄さんの友だちが、ぐんとおおぜいみちづれになる。 
                「うん」 
                 専太は、しかたなし、元気に返事をする。あかあさんは笑いながら、専太にも、おむすびを一つノリにつつんで下すった。 
                 専太は兄さんのこしのバンドに、右手でつかまって出かけた。兄さんはズンズン歩いた。専太はひきずられそうだった。ショウユウやのかどまですぐ来た。やくそくだから、専太は手をはなした。兄さんは待っていた友だちと話しだし、専太をちょっとみたきり、行ってしまった。 
                 専太は、兄さんたちの一群が、日ざしをせおって、遠くなるのをみて立っていた。学校への道は、そこから広くて、まっすぐなので、一群は豆つぶになるまでみえていた。しまいには、ほんとにポッチリの点々で動いて行った。 
                「いい目だなァ」 
                 専太は父さんにほめられたように、じぶんの目をほめてから、くるりと後をむいて、帰りだした。茶色の石ころをみつけて、ケリケリ歩いた。 
                「あれッ」 
                 石ころが草むらに入ったのをそのままにして立ちどまった。空屋敷の所だ。ばあさんのこやの南むきのむしろがめくれている。やねから、まっ白に、まっ黒のブチのねこの子がのぞいている。専太は、神様が、そこへおいでと、ゆびさしてくださるように思った。かけださずにいられなかった。ペンペン草と、赤マンマやドクダミが足にからまった。 
                 ばあさんは、にた小魚をつまんで、ねこにさしのべていた。こねこはやねからからおりたいのだが、おりられなくって、すこしずつ、わきの丸太の柱をずりおちてきた。専太は手をのばして、こねこをばあさんのゆびのところへ持って行った。 
                 こねこは、ももいろの口で、ペチャペチャと小魚をうまそうにたべた。 
                「もっとかい」 
                 ばあさんはもう一つ、貝でできたなべから、小魚をつまんで、こねこにたべさした。専太は気がついて、ハンカチのノリムスビを、ほどいた。わってこねこの口へごはんつぶと、タマゴヤキの片はしをはこんだ。こねこは四度目にもうのこした。 
                「もう、おなかが、くちくなりました」 
                 ばあさんが、こねこのかわりにいった。専太はノリムスビを半分、おばあさんの手へのせた。ばあさんはムスビの半分をじいっとみて、 
                「ひさしぶり」 
                 と、ニコリとした。専太ものこりを、ばあさんのまねをして、少しずつ、ゆっくり 
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