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                  麦かり畑では、みんなのどがかわいていた。 
                「水を汲んどいでよ、チョンミー」 
                 チョンミーは、麦からで麦笛をつくっていた。耳がチョンと立っているからチョンミーだ。水は学校の横の湧清水が村中でいっとう冷たい。チョンミーは湧清水の方角をみた。 
                「チョンミー、ヤカンをまたかついどいでよ」 
                 ヤカンはチョンミーの体の三分の一はあったし、太さはチョンミーの胴より太い。チョンミーは、麦笛をブヒューと吹いてためし、チョンと立った耳にはさんで、 
                「うん」 
                 と大ヤカンのつるにくびをくぐした。大ヤカンは、チョンミーの背中で、ゴロゴロして、ガチャガチャなった。 
                「大人しくしなヤカン。ヤカンをおぶってやるのは、チョンミーだけだぜ」 
                 チョンミーがヤカンをふりかえろうとすると、ヤカンは、チョンミーの背中の端へ、グッとかしいだ。畑中の人は大笑して、うでで汗をぬぐって、また麦のくきに手をかけた。 
                 チョンミーは、背中のヤカンが、ゴロゴロガチャガチャむずかるのを、すかそうと、麦笛を、ピッピー、ピッピー吹きながら、テコテコ畑あぜを歩いて行った。 
                「アレッ」 
                 チョンミーはしゃがんだ。キリの虫食葉が、土の上で、風のないのに、ピョコピョコ踊っている。チョンミーの顔よりもちっと大きいキリの虫食葉だ。しっとりとしめっている。だいぶ前から土に落ちて、朝つゆや夜つゆに何度もあったのだろう。しめってしっとり布みたいな葉が、モコモコとイボをだしたり、へこんだりしている。 
                (おばけ) 
                 チョンミーは、しゃがんだまま少し退った。 
                 虫食葉は、いっそうデコボコに踊った。 
                (どんな、お化け奴がいやがるんだろ) 
                 チョンミーはみたくなった。人さし指が、手のうちで一番勇気があるとみえて、ニョッキとキリの葉へのびた。だが、人さし指も、近づいてみて急にこわくなったか、二番目のふしのところから、ヒョウとまがり、一番目のふしは頭をかくす様にヒョイと内がわへすっこんだ。 
                 葉っぱはなお、どうだいどうだいとモゴモゴ踊りをやる。(大サバクを大風がすぎて行ったら、こんなかも知れない)チョンミーはヤカンのつるをくぐしたくびをかしげた。 
                (雲の中をシャチという魚がおよいでいる時は、こうだらうか) 
                 知っているだけを思い出して、チョンミーは、キリの葉踊りを、解決したいのだが、チョンミーの知っていることは、たいていすばらしいことだけなので、目の前のモゴモゴ葉っぱは、考えれば考えるほど、ふしぎになってしまう。チョンミーは、くびをふった。ヤカンもいっしょにくびをふった。 
                 (たったいま、みんな麦をかっている畑から出かけてきたんだもの、お化けにあうはずがない) 
                 しかしモゴモゴ踊りはお化けでなくて、なんだろう。チョンミーは、龍を退治したジークフリードになった。ジークフリードは、紙芝居でみたのだ。 
                (ジークフリードのヤリがない、ヤリが) 
                 チョンミーは、みまわして、立上り、二三歩はなれたところにある梅の若木から、チョンミーの手のとどくあたりの小枝を、ジークフリードのヤリにもらった。手に青い汁をつけて、小枝の皮をひくと、すじがまっすぐに走っていて、さもつきささりそうなヤリができた。 
                 チョンミーは、それをもって、モゴモゴ葉っぱのそばへしゃがんだ。ヤリのせいで、だいぶジークフリードの元気がついていた。ヤリをなんどもしごいた。ヤリを四度目にしごいた時、葉っぱの端から、チョロリとしたものがみえた。ミミズより細い。灰色の生きた糸だ。チョンミーのヤリは、ふるえながら、かまえられた。そろそろと葉っぱへ近よる。 
                (龍の奴、出て来い) 
                 一気にヤリは葉っぱをつきとおした。モゴモゴモゴモゴ、龍はあわててさわぎ、地へもぐったのか、葉っぱはぺったりひくく平になった。 
                (もぐったら、ジークフリードは地の下をヤリでかきまわすんだぞ) 
                 にげたと思うと、チョンミーは強くなった。葉っぱの端をヤリでひっかけてパッとはいだ。 
                「おっ」 
                 毒龍のしっぽをみたのではない。 
                「ああ、おまえ達、こんちわ」 
                 よくいてくれた十二の可愛い湖。六匹のハツカネズミの子の目。キョトンとそろって、チョンミーをのぞいている。まだ毛の生えないももいろの体、すきとおるほどきれいなチョンと立った耳、つまんだ様な口つき。 
                「いつ生れたの、ここが巣かい」 
                 ジークフリードのヤリは、この可愛い連中に大丈夫な橋にみえたのだろう。ヒエ種のヒコバエ程のネズミの手をチョロリとかけて、ゆすぶってみてから、中でもわんぱく小僧らしい一匹が、スルスルとチョンミーの手まで上ってきた。チョンミーはおどろかさない様にじっとしていた。ももいろのたべちまいたそうな体が、息をしていて、ケシつぶ位の目をかしこそうに動かすのが、たまらなくかわいくってならない。キューキュー、小ネズミはないた。おもしろいかい兄弟、と、橋を渡った選手にきいている様子だ。はじめて来た高いところだという風に、チョンミーのこぶしの上でみまわしていた選手は、チ、チといっていそいでかえって行った。生きた糸のしっぽだ。(日にあてすぎると死ぬといけない) 
                 チョンミーは、ほりかえされたモグラが弱るさまを思った。そうっと元通り葉っぱをかぶせて、葉っぱのテントをほんの少しもたげてのぞいた。チ、チ、チ、チ、選手がもぐりこみながら、兄弟と大話だ。いま昇った塔はね、お母さんのおなか位ほうっとあったかかった。お乳をのんでいるとき、トックトックと耳にきこえてくるあれね、お母ちゃんは血のお時計だときかしたろ、いま昇った塔でも、あれがきこえていたみたいだった様だよ。とってもなつかしい塔さ、塔が、われわれをかわいがっているのがよくつたわってわかったよ、こんどみんないこうね、あの塔は、チョンミーっていう名らしいよ、と話しているのではないだろうか。チョンミーは、まじまじと六匹がうごくのをみていた。耳をはさまれてないたり、そのしかえしに、相手のしっぽをかじろうとして、つかまらず、自分のしっぽをくわえてしまったりしていた。 
                 チョンミーは、残り惜しそうに、この見あきない舞台へキリの葉の幕をおろした。あんまりみていると、子ネズミ共がとられそうで、こわがるとわるいし、自分は水汲みがおくれてしまう。めじるしはキリの木だと、チョンミーは立上った。背中のヤカンは、「ね、チョンミー、とってもいいものみたね、みたね」と、ガチャガチャしゃべった。そうだよ、だまってな、とチョンミーは走った。道草をしただけ、おくれた時間をとりもどさなきゃならない。ヤカンのつるをのどのところでおさえて、これより速くかけられない位速く走った。 
                 走りながら、ゆかいでならなかった。 
                (あの十二の小さい湖は、チョンミーより、誰も知らない) 
                 ケシつぶの湖に最初にうつった人間は、チョンミーだ。チョンミーは人間の代表になった気がした。 
                (人って、どんなにハツカネズミの子を大すきか、どんなにかわいがる方法をたんと知っているか、人のかしこさをみせてやらなきゃ) 
                 チョンミーは気負っていた。六里はなれた村のクマとり吉さんが、大した元気もので、クマの穴からクマの子を連れてきて育てている。クマの子は吉さんになついて、よっぽど大きくなってきても、吉さんのいうことならなんでもよくわかってきくそうだ。チョンミーは、十二の湖は、自分のクマの子だと嬉しかった。 
                (ハツカネズミの子に、スウェーデン体操を教えてやろう) 
                 チョンミーは先達て、おせっくの運動会で、舌をまいて感心したスウェーデン体操が、とっても気に入っていた。 
                (サドルをキチッと指一本ずつの間かくにならべて、ハツカネズミの子に順々飛ばせよう。サドルはひっかかってもひしゃげないグミの小枝でつくるのさ、ハツカネズミの子が、一匹もしくじらない様に上手になったら、村長さんの家から、パーティーベビーの映写機をかりてきて、ニュースをとるんだ) 
                 チョンミーの希望は、テン火の中のおまんじゅうみたいにみるみる大きくふくらんだ。 
                 湧清水につくと、ヤカンは、チョンミーのくびから外されながら、ガチャガチャとおしゃべりした。「ハツカネズミの子をみたよ、キリの―」といいかけそうなので、チョンミーは、いそいで清水のトウトウ流れる口にあてた。ヤカンのおしゃべりをきいても、きこえないふりをしている湧清水に、チョンミーは、 
                (間もなく、君にはみせるよ、水浴びにつれてくるからね) 
                 いっぱいになったヤカンは、やっと両手でもちあがった。かえりはうまくしょわねばならない。チョンミーはそでなしシャツをぬいだ。半ヅボンもぬいだ。半ヅボンのひもで、シャツもまるめて、頭の上へしばった。パンツ一つで、ヤカンをしょった。 
                 湧清水の入ったヤカンは、わりに大人しかった。時々、平均がとれないと、平均がとれてないよと、湧清水がチョンミーの体をぬらして報せた。 
                 キリの木へ近くなると、チョンミーはもう一度、スウェーデン体操の弟子達を訪問したくってむずむずした。だがやめた。はだかで、頭へシャツとヅボンを丸めたのをくくしつけたチョンミーは、あの十二の湖に、お化けみたいにうつるといけない。スウェーデン体操の先生で、人間の代表であるチョンミーは、キリの虫食葉をもち上げるのをがまんした。 
                 ほんの少しばかり、ヤカンの口から、キリの虫食葉のそばの草むらへ、水をこぼして、 
                「のどがかわいたら、このつゆをお吸いよ」 
                 といいおいて、思切ってそこをすぎた。大またで歩きながら、チョンミーは、ハツカネズミの子達に、作ってやるスウェーデン体操の機械のことでむちゅうだった。クルリとまわる鉄棒は、荷札についている針金をのばして、エンドウ豆をうでたおやつ時、皮のはじけていないのを二つぶとっておいて作るとしよう。飛箱はマッチのあき箱の上に、ガマの穂わたをおいて、フキの葉でまき、すげ糸で両はしをくくろう。それから、あの丸い中に運動するものが入って、手をかけてグルグルまわるあれもつくらねばならない。よくしなう枝は、なんの枝だろうと、チョンミーはすっかり熱心な先生だった。 
                 麦畑では、つまさきみて、水を背負ってくるチョンミーがみえると、 
                「よう、きたきた、早く早くウ」 
                 と待ちかねてよんだ。チョンミーは、口に人さし指をあてた。すぐみんなに知らせたくってならなかったが、それよりも、あの十二の湖生徒が、スウェーデン体操がうんときれいにできる様になった時、不意につれてきて、びっくりさしてやろう。むき目玉の小父さんなんか、目だまをこぼしてしまはないかしら。まず秘密にしておくことだ。 
                (秘密秘密、ないしょのないしょの、ないしょ) 
                 口に指をあてがって来るチョンミーを、畑の人々は、 
                「チョンミー、途中で一ペいごちそうになってきたな」 
                 とからかった。チョンミーは、 
                「背中はのんだが、口は水をのまないよ」 
                 とヤカンをおろした。キリの木のところから、耳にはさまれたっきりの麦笛が、不平そうにポトリとおちた。みんなはよってきて、水を冷たい冷たいとのんだ。 
                 チョンミーは秘密を明かすまいと、口で麦笛をピッピーとふいた。ヤカンがたちまち空になると、チョンミーは、 
                「背中の水がかわいたら、すぐもう一度汲んでくるよ」 
                 とみんなに約束した。一服休みをしたみんなは、チョンミーのぐるりで、 
                「ぬれているうちに、もう一度ぬれろよ」 
                 と水を早くまたのみたがった。 
                「すぐかわくよ、ほんのすぐだよ」 
                 チョンミーは、はだかで十二の湖にあいたくなかった。大人達はしかたなげに畑の話をはじめた。 
                「ねずみの多い年だね、ねずみ退治をしなくちゃね、みつけ次第、川へ流しちまうか」 
                「いや、流せば、もし途中の草へでもしがみつくと、またはい上る。燃やしちまうんだね」 
                「一匹ずつころすのって、いやだからね、ふちへ上れない大川の真中へ流すか、大火の中へもやしちまうのがいいね、親ねずみだとやっかいだから、子ねずみが巣にいるうちに、まとめて、やっつけちまうがいいだ」 
                 チョンミーの麦笛はやんだ。 
                (たいへんだ。スウェーデン体操の弟子達を、エジプトへ逃げさせなければならない) 
                 チョンミーの、エジプトというのは、殺す手からみつからない遠方ということであった。 
                (エジプトへ、どうして逃がそうか) 
                 昔、ヘロデ王が、ベテヘレム中の男の子をみんな殺そうとした時は、エス様はお父様ヨセフと、お母様マリヤに連られて南の安全なところへゆかれたと、日曜日に町からくる白リボンの姉ちゃん先生はきかした。 
                (スウェーデン体操の弟子達のお父さんネズミ、お母さんネズミは、あの六匹の子をつれてにげられるだろうか) 
                 それは無理だ。チョンミーは、かしこそうな白リボンの姉ちゃんを、も一度思い出してみた。ヘロデ王より、もっともっと大昔、パロ王の時、やはり国中の男の子がみんな殺されることになったら、モーセは、かわいい籠に入れられて、ナイル河へ流され、水浴びにきたパロ王の王女にひろわれて、大事に育てられた。 
                (イ草で籠をあんで、ドロで籠の目をふさいで、あの十二の湖を入れて、流そうか) 
                 チョンミーが、麦笛をこわして、籠をあんでみた。まだちっともくんれんのついていない弟子達は、さわいで舟をひっくりかえしたらたいへんだ。そこまで考えたらどなられた。 
                「おい、チョンミー、背中の皮は、はじけるほど干いているぞ] 
                 麦がネズミにあらされたとおこっていたみんなは、ネズミ退治の相談でのどが干いたのだ。 
                 チョンミーは、びっくりしてトンと立った。まるで自分もネズミで、つままれそうにどなられたみたいだ。ヤカンのつるをかぶって歩き出した。みんなは水が来るまでもう一かりしようとこしをあげた。 
                 チョンミーは、うつむいて歩いて行った。キリの木の下の、虫食葉のキリの葉がみえ出すと、畑の方をふりむいた。せっせと手もとをみているのが四人、こっちをみていそうなのが二人。チョンミーは二人が麦の株へ手をかけてかがむのをみないふりで、待った。一人が麦の穂へ頭をかくすや、いなや、チョンミーはとび上って、キリの木から葉をちぎった。 
                 虫食葉がモゴモゴしている上へ、ちぎった葉を、なにげなく落すふりでかぶせた。少しずれたので足でなおした。そこにもちっと長くいたいが、居ることは危い。畑の連中に、スウェーデン体操の弟子のありかをさとられてはならない。 
                (さらわれるなよ) 
                 チョンミーは、真すぐをみて通りすぎた。 
                 ブックタヤカンを、やさしい水でいっぱいにして畑へかえると、みんなは、 
                「チョンミー、うまいな、チョンミー、りこうものだな、チョンミー、むぎまんじゅう作ろうな」 
                 とほめて、ゴクゴクのんだ。チョンミーは、水をのむみんなをながめて、 
                (こんなに親切なみんなが、何故、あれほどかわいい十二の湖に、鬼になるのか) 
                 かなしかった。チョンミーがしょげているので、 
                「つかれたか、チョンミー、ハッカの葉っぱを探してかめよ」 
                 チョンミーは涙がこぼれそうで、目をパチパチして、雲をみた。雲は白バラの様だ。 
                (このいい人達を、十二の湖に、アクマにみさせてはならない) 
                 チョンミーは、むずかしい顔になった。是非無事に、スウェーデン体操の弟子達をにがしてしまわなければならない。誰にも相談できないのが無性にさびしい。 
                (白リボンの姉ちゃん先生なら) 
                 あの人なら、わかってくれそうだ。それに、あの人は、エス様やモーセが赤ちゃんでちっとも知らないのに、殺されちまうこわい国からのがれさせた親達の智恵をしっている。 
                 チョンミーは指を折って数えた。 
                「明日、明後日」 
                 と声に出して、七本目の指にあごをあてた。 
                 二日間、チョンミーは、キリの木の下の、キリの虫食葉の下を、まもるのに懸命だった。モゴモゴ動くのがみえない様に、わらしべくずをこんもり持っていってのせた。わらしべくずが、あったかすぎたり、息がこもったりしない様に、キリの木側へ格子窓をつけた。わらしべのもりが目立ない様に、地蔦をひっぱってきてのせた。その作業をするのは、麦畑の水汲みの往復で、しかも畑のみんなに気ずかれない様に気をくばるのが一仕事だった。たまらなくみたい虫食葉の下は、ひとのぞきもしなかった。 
                 日曜のおひるごはんの前、ボタンの花びら色のお洋服の姉ちゃん先生が、町の方へ帰りかけると、チョンミーはアカシヤ道の野中を、シカの子の足で追かけて行った。ポンと後からとびつくと、姉ちゃん先生はクルリとまわり燈ろうの様にこっちをむいた。 
                 チョンミーはみんな話した。姉ちゃん先生はよくわかってくれた。そして解決した。 
                 「今日午後、島へヨットでゆくから、十二の湖を島へ連れてゆきましょう。島は木や草だけで人がいないから大丈夫」 
                 チョンミーはゆっくり肯いた。何故速く肯かなかったかといえば、スウェーデン体操は、誰が教えるだろうと思ったからだ。大事の弟子をそっくり一度になくするのは辛い。でも弟子が殺されるよりいい。チョンミーのはなが少しなった。 
                「ね、先生、先生がきかして下すったでしょ、草でも土でも私共でもみんな細い原子からできていて、その原子をわる力はとても強いんだって」 
                「え? ええ」 
                 今日も白リボンの先生は、不意に、不意なことを問われて、目を大きくした。 
                「ええ、そうなのよ、そうよ」 
                「それでね、先生、原子力はハツカネズミをウサギに出来ないかしら」 
                 先生の瞳はまた大きくなってチョンミーの熱心な顔がはっきりうつった。白リボンの先生には、チョンミーの心持がレントゲンでみる様によくわかった。チョンミーは、ハツカネズミの子にスウェーデン体操を、とてもおもしろく仕込もうとした。きれいな、お行儀の喜ばれるハツカネズミを教育するつもりだった。しかし、この計画も、ハツカネズミだから殺されそうでできない。原子力は、ハツカネズミの子を、ウサギの子にできないかしら。 
                 先生はいとおしそうに、チョンミーの耳をつまんだ。大きくなった目はうるんでいた。 
                「いまに、できるかも知れなくってよ、チョンミー、原子力で、ハツカネズミの子をウサギにする勉強を進めましょうね、ハツカネズミの子をウサギにね」 
                 白リボン先生は、詩を読む様にくりかえした。 
                 チョンミーは、チョンと立った耳で、その原子力の将来の詩を、うっとりときいた。アカシヤの原子も、アカシヤの葉の間からみえる空の原子も、真昼にみちた光の原子も、光を流す水の原子も、そこら中の原子が、きき耳を立て出した様に、あたりはつやつやみえてきた。 
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