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一語千笑

一語千笑

一語千笑』(福徳円満堂主人編)を抜粋してテキストにしました。

漢文調で、どうも面白くないなと思っていたら、漢籍を和訳した滑稽本でした。せっかくなので少しは笑えそうな滑稽文をご紹介します。

なるべく原文に忠実に表記しようと努力しましたが、漢語表現が多くてかなわず、大部分は現代語表記に変えています。

「序」は読んでも無意味なので省いています。

(2011年1月 金森国臣)


昼寝

学校の先生が、ある日昼寝をして目の覚めた時、多くの生徒をあざむいて

 「わしは今のさき夢に周公(支那古代の聖人)を見たのである」と言った。

翌日、生徒が先生に見習って午睡をした。ところが先生は文鎮を以て生徒を殴き起して

 「その方は生徒の分際として、午睡をするナンテ生意気千万ダ」と叱り付けた。

スルト生徒は

 「イヤ私もまた周公を見に行ったのです」と答えた。

先生は益々腹を立てて

 「それなれば周公が如何な事を謂ったか語って見ろ」と詰め込んで来た。

そこで生徒は軽くうなずきながら

 「さよう、周公は昨日先生にお目にかかった事はないと申されました」

二子の僣上

ある人に二人の男の子があった。

二人とも公家や武士の真似をするから、先祖代々の財産を潰してしまいそうなと言うのでその父は役所へ説諭方を願って出た。

 「それでは一人は衣冠束帯で歌でも詠み、一人は袴を穿いて撃剣の稽古でもしているか」

と問うた。

 「そう云う真似をしてくれるなれば結構ですが、ソンナ真似ではないのです」

と答えた。

 「それならば如何なことをするのである」
 「公家の真似をするものは、質を置く事を恥とも思っていないし、武士の真似をするものは、借金をしても一向返えさないので因ります」

金森註:高貴の身分の人が着用する服を身分の低い者が着る時、これを僣上(せんじょう)と言う。

好酒家

酒好きの男があって、夢に上等の酒を手に入れた。

早速熱燗にして飲もうと思って、その準備に取り掛った所、たちまち夢が覚めた。

そこで大いに後悔をして、

 「残念な事をした。夢の覚めぬ間に、早く冷にて飲んでおいたなればよかったのに」

易者

易者が道の二股になっている所へ来て、百姓に道を問うた。

 「君は易者でありながら、ニ股道のところへ来て、何れへ行くべきかの判断をする事が出来ぬようで、どうして人の為に判断する事が出来るのか」

 「イヤ僕が卦を起した所、その判断に百姓に問えとあった」

今日は紙があった

ある人が田舎出の下男を雇うた。

この男は雪隠に行って手を洗わない。

下女がその不潔をにくんで、主人に訴えたので主人は早速逐い出してしまった。

次に傭い入れた所の下男は、雪隠に行った時には、必ず数回手を洗うので主人は大喜びであったが、

一日雪隠から出て手を洗わないから、どういうもんであるかと聞いたら、下男は

「今日はたまたま紙がありましたから洗うに及びません」と平気で答えた。

酒の糟

酒好きの人があったが、貧乏で酒を買うことが出来ぬので、外へ出る毎に糟餅二枚を食って、少しの酔いを買うのを例としておった。

一日友人に出遇うた所、友人から朝酒を飲んだかと問われた。

 「イヤ酒は飲まぬ糟餅を食った」と答えた。

帰ってからこの事を女房に噺すと、女房は

 「何故お前さんは酒を飲んだと言って、外聞を飾りませんか」

と小言を聞いたので、実に道理と承知した。

次の日再び友人に出遇うた。以前のように問われたから、今度は

 「酒を飲んだ」と答えた。

更に熱燗にて飲んだか、冷にて飲んだか聞かれたから

 「焼いて飲んだ」

と答えたので、友人は笑って矢張り糟餅だナと言った。帰ってまた女房に噺すと、女房は

 「焼いて飲むという馬鹿があるものか、なぜ熱燗で飲んだと言わんのですか」といった。

三日目もまた友人に出遇うた。今度は問われぬ前に、

 「今日は熱燗で飲んだ」

といった所、友人がいくつ食ったかというから、指を二本出して、二個食ったといった。

猫である

ある宴会の席上、床に虎の軸を掛けてあった。

一人の男が見て

 「これは虎ではない猫だ」と笑った

スルトその傍の男がしきりに目配せをするから、何事であるかと聞いたら、その虎は向い側に座って居る人の画いたものとのことである。

それからにわかに居直って

 「ヨクヨク見ると全く虎ですネ」

酒を嘗む

父子とも天性極めて吝嗇な男があった。

ある日父子が一所に旅立つ事となって、毎日一厘だけの酒を買う事とした。しかしその酒がすぐに無くなっては大変であると心配して、これから後は箸の尖端につけて嘗める事に約束を定めた。

間もなくその子が二度続けて嘗めたので、父が「お前は無益飲みヂャ」と叱り付けた。

柳を植ゆ

ある人が柳を挿して、小供に番させてあった。植えてから十日にもなったけれども、一本も枯れない。ある人は嬉さの余り、子供に向かって、

 「お前はどうした方法で、一本も枯らさないのか」
 子供「私は毎晩抜いて来て家へ仕舞いますから一本も失くなりませぬ」

猿の様だ

ある処の下女が密かに

 「家の旦那の顔は丸で猿の様だ」

と独り言をした。旦那が物陰からこの言を聞いて

 「貴様等は巳の顔を指して猿であると言うが、失礼にも程がある」

と怒鳴った。スルト下女は

 「イヤ旦那の顔が猿に似ていると言うのではありません。猿の顔が旦那に似ていると言うのです」

と遁辞を設けて謝罪した。

吝嗇家

吝嗇な男が家内安全の祈祷をしたいと思い立って、山伏を雇うて来た。山伏は祭壇を設けて、遠方の神様の名を呼んで勧請を始めた。主人はこの事を聞いて

 「何故に遠方の神様を頼むか」

と不審した。山伏が答て言うのには

 「近傍の神様は皆君の性質を知って居るから、如何様に頼んでも来て呉れぬので、致し方なしに遠方の神様を頼んで居るのぢゃ」

宿賃を忘れて去った

金満家がある旅宿へ泊り込んだ。宿の親爺が荷物の沢山なのを見て、女房と相談をして言うには

 「茗荷を食うたなれば物忘れをすると言うから、今夜の客人に茗荷を食わして、アノ荷物を忘れて行かしたなれば、家の一族は事なく生活が出来るのであろう」

と飯の菜にも、酒の肴にもみな茗荷を用いた。翌朝客が発った後で主人は二階へ登って、必ず何か荷物を忘れてあるであろうと思って、押し入れの隈までも捜したが、何も見当たらないので、女房はブツブツ小言を言い出した。そこで主人の言うには

 「忘れる事は忘れて行ったが、行季を忘れずに、昨夜からの勘定を忘れて行った」

火事は近いが宜い

火の見の半鐘が鳴るので、飛び出して見た所、丁度火事の方角が親戚の方にあたって居るから、一生懸命に駆け出した。しかし路が遠いので、息は切れるし、汗は出るし、脚は疲れるし、モー一歩も進めぬ様になったからして、嘆息して言うのには

 「アゝ火事は近いが宜い」

一切れでも宜い

ある人が画家に枕屏風へ、鯨の絵を画いて呉れと頼んだ処、画家が

 「鯨と言うものは、極めて大きな魚であるから、三尺位の屏風へ画いた処が、とても面白き趣向が取れない」

とことわった。スルトある人は

 「それならどうぞ一切れでも、二切れでも宜しいから画いてくれ」

と言った。

吝嗇坊

巨万の富を持ちながら、極めて欲が深いので、僅かに一厘の金でも吝んで使わぬと言う男があった。死んでから冥途へ行った時に、閻魔王が

 「この男はただ自分の利益ばかり計って、少しも人をあわれまなんだ。デ悪事を働いたと言う訳ではないが、余り社会のために善事をなしたとも言えない。善悪いずれの方かと天秤に掛ければ、無論悪の方へ傾いて居るから、この男は闇黒地獄へ落したら宜かろう」

と宣告した。件の男が宣告の通り出て行くので、閻魔王が密かに後から見ると、何か閃々と光って居るので、若しや陰徳のあった人ではあるまいかと思って、部下の青鬼に検分をなさしめた所、指の爪に火を点して居った。

牛を画けば宜い

馬を画く事の好きな小供があって、毎夜夜更けまで頻りと馬を画く稽古をするので、

父親「油代が要るからよすが宜かろう」
小供「燈火がなければ馬を画く事が出来ない」
父親「暗がりで牛を画けば宜い」

小便の伽

赤と班との二疋の犬が縁の下に臥て居った時に、夫人がしきりに

 「ブチ来いブチ来い」

と呼ぶけれども、班は起きて行こうともしない。赤が勧めて

 「行きなさい。何か珍味を呉るであろう」

間もなく班が不平面をして帰って来て言うには

 「また無駄骨折をして、赤ン坊の小便のお伽をさせられワイ」

五十八銭

四五人の大名が一所に登城をして、将軍へ御目通りをした時に将軍から国々の米価を聞かれた。誰も答をするものがない。其中一人の大名が

 「近日の相場は銀五十八銭である」

と答へたので、将軍からその心掛を誉められた。邸へ帰って家来共より褒められた時に

大名「我等も実は知らなんだが、咋日看楼に居って通行人の噺を聞いて居ったから、その場を繕う事が出来たのだ。時に所謂五十八銭と言うは百石の代代価であろうか又は千石の代価であろうか」


一 本書は、笑府、册笑府、譯準笑語、開口新語の四書中、猥褻なるものと、読んで面白からざるものとを除き、其最も趣味あるもののみを撰擇し、之を和譯したるものなり。

一 和譯の方法は、原文に拘泥せず、成るべく當世流の文句に更め、之を言文一致体に書きしものなり

明治四十四年七月

譯者しるす


『一語千笑』の書誌情報

  • タイトル:一語千笑
  • タイトルよみ:イチゴ センショウ コッケイ
  • 責任表示:福徳円満堂主人編
  • 出版事項:東京:黄人社,明45.7
  • 形態:212p;13cm
  • 著者標目:福徳円満堂主人
  • 著者標目よみ:フクトク エンマンドウ シュジン
  • 全国書誌番号:41021552
  • 西暦年:1912

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