東京交響楽団第127回新潟定期演奏会
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2022年7月17日(日) 17:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:ジョナサン・ノット
ソプラノ:ユリア・クライター
コンサートマスター:水谷 晃
 
ラヴェル:海原の小舟(管弦楽版) ー鏡より

ベルク:7つの初期の歌
 T.夜
 U.葦の歌
 V.ナイチンゲール
 W.夢の冠を載せられ
 X.部屋で
 Y.愛の賛歌
 Z.夏の日

(休憩20分)

マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
 T.葬送行進曲:正確な速さで、厳粛に、葬列のように
 U.夏のような荒々しい動きをもって。最大の激烈さをもって
 V.スケルツォ:力強く、速すぎずに
 W.アダージェット:非常に遅く
 X.ロンド-フィナーレ:アレグロ、楽しげに

 

 今シーズンの東響新潟定期演奏会は、日程とプログラム調整がうまくできなかったようで、5月、6月、7月と、3カ月連続の開催となりました。
 前回の第126回新潟定期は6月26日でしたので、わずか3週間で今回の第127回新潟定期となりました。東京から新潟に遠征される東響の皆さんも大変でしょうが、聴きに行く方も大変であり、定期会員は別にしても、集客に影響するのではないかと勝手に心配していました。

 今回は音楽監督のノットの指揮で、昨夜のサントリーホールでの第701回定期演奏会と同じプログラムです。昨夜の定期はチケット完売となりましたが、新潟では席に余裕があるようです。
 ノットは、2020年以降はコロナ禍で新潟には来演できず、新潟定期への出演は、2019年5月の第113回新潟定期以来となります。
 なお、2020年度は新潟定期演奏会はすべてキャンセルされ、定期演奏会に代わって新潟特別演奏会が6回開催されました。
 ノットは、2020年7月に開催された新潟特別演奏会2020盛夏に出演しているのですが、このときはなんとビデオ映像による指揮で、指揮台に置かれたモニターに映し出されたノットの指揮を見ながらの演奏でした。こんな前代未聞の演奏会はこのときだけであり、これからも語り継がれるものと思います。
 また、2021年度は、5月の第119回新潟定期で指揮する予定でしたが、コロナ禍で来日が間に合わず、指揮は高関健さんに変更になりました。
 ということで、ノットは3年振りの新潟での指揮となりますので、期待が高まりました。また、前半のベルクの「7つの初期の歌」に出演するソプラノのユリア・クライターは、今回が初めてであり、どんな歌声を聴かせてくれるか楽しみでした。

 さて、今回のメインプログラムは、マーラーの交響曲第5番です。ノットと東響とのマーラーチクルスは、音楽監督に就任した2014年4月の交響曲第9番に始まりましたが、私が大好きな第9番ということで、川崎まで聴きに行ったことも記憶に新しいところです。
 その後、2014年12月に第8番、2015年9月に第3番、2017年7月に第2番、2018年4月に第10番(アダージョ)、2019年11月に第7番、2021年5月に第4番と第1番、と順次演奏が行われ、今回の第5番となりました。残るは第6番と「大地の歌」ということになります。
 そのほかに、本年5月14日の東京オペラシティシリーズ第127回と15日の川崎での名曲全集第177回では、交響曲第1番の「花の章」がアンコールとして演奏されています。

 なお、コロナ禍がなければ、2020年7月に予定されていた新潟定期で、ノットの指揮により第5番が演奏されるはずだったのですが、ノットの来日ができず、新潟定期はキャンセルされましたので、幻の演奏会となってしまいました。
 さらに、前記しましたように、2021年5月9日の新潟定期で、ノットの指揮により第1番が演奏されるはずでしたが、ノットの来日が間に合わず、急遽指揮者が高関健さんに変更になりました。急だったため、このときのチラシはノットのままでした。
 ノットは新潟定期には間に合わなかったものの遅れて来日し、5月22日にオペラシティでの特別演奏会で第4番、5月27日の川崎での特別演奏会で第1番を演奏し、第1番のライブ録音はCD化されて、今年の5月25日にリリースされています。
 
 このような新型コロナ禍による紆余曲折があり、ノットの新潟定期でのマーラー演奏は、今回漸く実現することができました。
 また、マーラーの交響曲第5番に関しましては、東響新潟定期では、2004年4月の第26回新潟定期(指揮:飯盛範親)、2011年5月の第65回新潟定期(指揮:アントン・レック)以来であり、11年ぶり3回目となります。

 ちなみに、東京交響楽団新潟定期演奏会の23年、127回の長い歴史の中で、マーラーの交響曲は、第1番が2回(第6回第119回)、第2番が2回(第23回第49回)、第4番が1回(第22回)、第5番が2回(第26回第65回)、第8回が1回(第14回)、第9回が1回(第32回)、大地の歌が2回(第11回第71回)演奏されていますが、第3番と第7番、そして未完の第10番はまだです。今後に期待したいと思います。

 前置きが長くなってしまいましたが、今年の新潟はマーラーの交響曲第5番の当たり年であり、すでに4月29日の東京都交響楽団スペシャルコンサート(指揮:大野和士)で演奏されています。さらに9月18日には東京フィルハーモニー交響楽団長岡特別演奏会(指揮:バッティストーニ)で演奏されます。
 コンサートが少ない新潟にあって、短期間の中で、同じ曲が3回も続くというのはどうかなあとは思いますが、マーラー好きの私ですので、大いに楽しませていただきたいと思います。


 ジャズストリートを途中で抜け出し、新潟市音楽文化会館からりゅーとぴあへと急ぎ、直ぐに入場して開演を待ちました。
 いつものノットさんのときと同様に、ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置で、コントラバスとチェロが左、ヴィオラが右です。コントラバスが左に8台並び、右にハープが2台並んでいるのが目立ちました。
 オケの編成は前回同様に16型の大編成(実際は第1ヴァイオリンは15人)で、ステージいっぱいに並べられた椅子が壮観でした。
 ステージ上には各所に何本ものマイクが立てられ、天井のマイクも低めに設置されていましたが、本格的な録音がされるのでしょうか。

 拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ち、最後にコンマスの水谷さんが登場して一段と大きな拍手が贈られました。今日の次席はコンマスの小林さんのようで、いつもの田尻さん、廣岡さんは第2プルトにおられました。ニキティンさんこそおられませんが、強力な布陣です。ステージに溢れんばかりのオーケストラは、視覚的にも良いですね。

 にこにこしながらノットさんが登場し、1曲目はラヴェルのピアノ曲集「鏡」の中の1曲「海原の小舟」の管弦楽版です。
 波に浮かぶ小舟を頭に思い浮かべながら、大編成のオケから繰り出される色彩感あふれる音楽世界を楽しみましたが、短い曲でしたので、少しあっけなく感じて終わりました。

 ステージが転換されて、オケのサイズは小さくなって12型となりました。ハープは1台となり、代わりにチェレスタがスタンバイしました。
 ソプラノのユリア・クライターさんとノットさんが登場して、ベルクの「七つの初期の歌」です。ベルクの歌曲といいますと、私のような素人は聴く前から馴染みにくさを感じてしまいますが、その先入観は全くの杞憂であり、ロマン派的な聴きやすい歌曲でした。
 クライターさんの清廉な歌声とオーケストラの柔らかな音楽。歌曲にはホールが響きすぎかも知れませんでしたが、穏やかに、心に染み入るような感動をいただきました。
 静けさの中に響いたチェレスタの煌きにハッとしたりもありました。東響の奏でる透明感のある音楽と切々とした歌声とともに、青白い静かな感動の中に曲を閉じました。
 このプログラムを選んだノットさんの真意はわかりませんが、マーラーの歌曲的な空気感もあり、後半の交響曲第5番へつなぐ音楽としては意味あるものと感じました。

 休憩時間に再びステージが整えられて、最初と同様の大編成のオケとなりました。拍手の中に団員が入場し、最後に水谷さんが登場してチューニングとなりました。

 ノットさんが登場して、いよいよマーラーの5番です。指揮台前の譜面台は片付けられていて、ノットさんは暗譜での指揮です。
 演奏の印象を決めてしまう聴かせどころの最初のトランペットがしっかりと決まり、その後も安定感があり、安心して曲に没頭できました。
 ゆっくり目のスピードで、1歩1歩足元を踏みしめるように葬送行進曲が進みました。単にゆっくりなだけではなく、大きくアクセントを取り、大きなうねりを作って聴く者の心を揺さぶりました。
 静けさの中に、アタッカで第2楽章に突入。最初の強奏と猛烈なスピード感にハッとして、良い演奏効果となりました。急-緩-急と曲が進みますが、大きくテンポを揺り動かして、劇的な効果を生んでいました。この第2楽章は非常に聴き応えがあり、今日の演奏の素晴らしさを象徴していたように感じました。
 ひと休みして第3楽章。この楽章は見事なパフォーマンスで魅了したホルンの素晴らしさを賞賛すべきでしょう。長大なホルンのソロも見事で、ホルンセクションのアンサンブルも完璧でした。他のセクションも安定感を増し、この楽章を盛り上げていました。
 休みを置いて、第4楽章アダージェットへ。ハープと弦楽だけで奏でられる極上の音楽に酔いしれました。最強メンバーで臨んだ東響弦楽陣の素晴らしさと景山さんの落ち着いた音色のハープ。ノットさんが創り出した音楽は、この世のものとは思えず、夢か幻か、天国にいるかのような感覚に包まれました。ホールを埋めた聴衆に癒しを安らぎを与えてくれました。
 アタッカで第4楽章へ。天上の世界から再び地上へと舞い降りて、勝利のファンファーレへ向かって、壮大な音楽が奏でられました。ホールを振動させる大編成のオケの圧倒的迫力を前に、言葉を失ってしまいました。

 音が消えるとともに、大きな拍手が沸きあがり、ブラボーは叫べませんが、大きな拍手で演奏を讃えました。ノットさんはトランペットを真っ先に立たせ、そしてホルンも立たせて大きな拍手が贈られました。

 コンマス2人に率いられた弦楽の濃厚なアンサンブルの素晴らしさ。トランペット、ホルンをはじめとして、抜群のパフォーマンスで魅了した管楽器。時折みせるベルアップ奏法が素晴らしい演奏効果を上げていました。そして、打楽器陣も寸分の狂いもなく、バシッと決めてくれました。
 各パートとも持てる力を遺憾なく発揮し、ノットさんのアグレッシブな指揮に見事に応え、一期一会の渾身の演奏を創り出してくれました。

 これまでに聴いたこの曲の最良の演奏に間違いはありません。音楽の神がりゅーとぴあに舞い降りて、奇跡の演奏をプレゼントしてくれたものと思います。
 先日聴いたばかりの都響の演奏ははるかにかすみ、9月に予定されている東京フィルはもう聴きに行かなくても良いように思えました。
 幾度もカーテンコールが繰り返され、団員が去った後も拍手は続き、ノットさんが出てきて拍手に応えてくれました。

 まだ7月ですが、当然今年のベスト10候補の筆頭に上げられましょう。大きな感動をいただいて、新潟に東響新潟定期がある喜びを噛み締めながら、ホールを後にしました。

  

(客席:2階C*-*、S席:定期会員¥6300)