東京交響楽団 特別演奏会 Live from MUZA!
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2021年5月27日(木)18:30 ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
ピアノ:児玉麻里
ヴァイオリン:グレブ・ニキティン
コンサートマスター:水谷 晃
 

ベルク:室内協奏曲−ピアノ、ヴァイオリンと13管楽器のための

(休憩20分)

マーラー:交響曲第1番 ニ長調 「巨人」
 


 音楽監督ジョナサン・ノット指揮による特別演奏会の第2回になります。前回の記事にも書きましたように、ノット氏の5月の来日に合わせ、予定の公演のほかに、昨年演奏できなかったプログラムなどを含めた特別演奏会が2回組まれました。

 しかし、ノット氏の来日が遅れたため、当初から予定されていた演奏会の指揮はキャンセルされ、2回の特別演奏会のみ指揮することになりました。
 その特別演奏会も準備の都合もあってか、プログラムは大きく変更されました。当初の予定は、前半がリゲティの「ラミフィケーション(弦楽合奏版)」とベルクの「室内協奏曲−ピアノ、ヴァイオリンと13管楽器のための」で、後半はブルックナーの交響曲第6番でしたが、前半のべルクの「室内協奏曲」はそのままですが、リゲティはプログラムから外され、後半はマーラーの交響曲第1番に変更されました。
 結果として、メインプログラムが、前回がマーラーの交響曲第4番、今回は交響曲第1番と、ノット氏が得意とするマーラー特集となりました。

 今回のメインとなるマーラーの交響曲第1番は、5月9日の東京交響楽団第119回新潟定期演奏会で、ノット氏の代役を務めた高関健さんの指揮により、超絶的な名演を聴いたばかりです。同じ曲を今度はノット氏の指揮でどのように演奏してくれるか興味深く、大変楽しみにしていました。

 木曜日の18:30の開演でしたが、仕事のためオンタイムで聴くことはできませんでしたので、タイムシフトで視聴させていただきました。
 PCでニコニコ動画のサイトに接続しますと、画面にはステージが映し出されており、指揮台の左にヴァイオリンの独奏者席、右にピアノが指揮台に向けて設置されていました。ピアノが調律され、しばらくして開演のチャイムが鳴り、その後に拍手の中団員が入場しました。ステージ中央に13人の管楽器の皆さんが座って音出しを始めましたが、弦・打楽器はいません。

 黒マスクで、黒地に赤と黄色の模様のドレスのピアノの児玉さん、白マスクのヴァイオリンのニキティンさんとノットさんが登場。3人がマスクを外して演奏開始です。ピアノには黒マスクの譜メクリストが付きました。

 13の管楽器群が不安げな音楽を奏で、ピアノが加わり、意味深長で理解しがたい音楽が続きました。管楽器が入れ代わり立ち代わり混沌とした音楽を演奏し、ピアノとともに複雑な音楽が流れました。
 第2楽章はニキティンさんのヴァイオリンの深遠な響きとオケが融合して重なり、否が応でも緊張感が高まりました。メロディというものは存在せず、まさに現代音楽ですが、この部分については幽玄な音の響きに聴き入りました。
 荒々しいピアノが静寂を壊し、第3楽章はピアノとヴァイオリンがせめぎ合い、そこに管楽器群が加わり、混沌とした音楽が延々と続いて疲労感が高まり、訳の分からないまま演奏が終わりました。終演とともに3人はマスクを着けてカーテンコールに応じていました。

 休憩時間にステージが整えられ、後半はマーラーです。オケはヴァイオリンが左右に分かれる対向配置で、コントラバスとチェロが左、ヴィオラが右です。弦5部は私の目視で14-14-12-12-8の14型で、先日の新潟定期と同じ編成です。最奥にティンパニが2組のほか打楽器群。右にハープが設置されました。ステージいっぱいのオケは壮観です。

 拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待つ新潟方式です。最後に水谷さんが登場してチューニング。今日の次席は田尻さんで、広岡さんは2列目です。マスク姿のノットさんが登場し、マスクを外して演奏開始です。指揮台前には譜面台はなく、暗譜での指揮です。

 1度演奏を仕掛けてやり直し。弱音のヴァイオリンに載せて管楽器が音を奏で、舞台袖からのバンダが鳴り響き、カッコウが鳴き、マーラーの世界へと誘われました。
 非常にゆっくりとした演奏で、ゆったりとメロディを歌わせました。しかし、ゆっくり過ぎに思われ、演奏する方は大変だったと思います。象がゆっくりと歩むようで、緊張感の維持も大変に思うほどでしたが、決め所はバッチリと決めて、緩急のアクセントが良い効果をあげていました。
 第2楽章も同様。例の“ラーメン、タンタンメン”のメロディを力強く奏で、ベルアップしての演奏も視覚効果抜群で感激したのですが、中間部の緩徐部はゆっくり過ぎに感じました。生で聴いたたら別なんでしょうけど。ゆったりと美しく牧歌的なのは良いのですが、私の波長とは合わずに、ムズムズしながら聴いていました。でも、最後はバッチリ。
 第3楽章は、冒頭のティンパニに載せてのコントラバスの演奏は、先日の新潟定期ではコントラバス全員での演奏でしたが、今回はコントラバス1本でした。ファゴット、テューバとメロディが繋がれ、ゆったりとした音楽が続きました。管楽器の美しさはさすが東響という感じで、いい味を出していましたが、やっぱりゆっくりすぎでした。
 そしてアタッカで第4楽章へ。シンバルの一撃と2組のティンパニの連打で猛嵐が襲来。この聴かせどころは良かったのですが、その後の中間部はやっぱりゆっくり。これでもかというくらいに思いっきり歌わせるのは良いのですが、感情移入しすぎで、逆に緊張の糸が途切れそうでした。
 しかし、これまでの楽章が回帰される部分の弱音の美しさは格別であり、ヴィオラが静けさを掻き消し、次第に音量を上げていき、ホルン軍団が起立して勝利のファンファーレを奏でますと、精神は高揚し、感動が胸に込み上げてきました。もうトリップ状態。興奮と感動の中に終演となりました。

 ホールは大きな感動に包まれ、カーテンコールではノット氏が「I'm Home! ただいま」と書かれた布を掲げてさらに興奮を誘いました。
 水谷さんが一礼して団員は去りましたが、スタンディングオベーションが続き、ノットさん再登場。今度は「Thank you! ありがとう」という布を掲げてくれました。ノットさんの満面の笑顔。そして拍手で讃える聴衆。今日の演奏の素晴らしさを物語っていたものと思います。

 ゆっくり過ぎだのと、いろいろ不平を書きましたが、さすがにフィナーレでの盛り上がりは感動的であり、カーテンコールでのサプライズも含めて、素晴らしいコンサートでした。ノット氏の東響への熱い思いも感じられ、こちらの胸も熱くなりました。コロナ禍での特殊な環境も含めて、記録に残るコンサートになったと思います。

 ただし、新潟定期での高関さんの演奏も決して負けてはおらず、個人的にはこれ以上だったのではないかと思っています。
 曲の持つ魔力があり、気分が落ち込んだときにフィナーレを聴きますと元気がもらえます。これだからマーラー好きは止められません。そういえば、最近9番聴いてないなあ・・・

(客席:PC前、無料)