東京交響楽団第113回新潟定期演奏会
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2019年5月26日(日) 17:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
 
指揮:ジョナサン・ノット
ヴァイオリン:ダニエル・ホープ
コンサートマスター:水谷 晃
 


ブリテン: ヴァイオリン協奏曲 op.15

 (ソリストアンコール)
  ヴェストホフ:リュートの模倣

(休憩20分)

ショスタコーヴィチ: 交響曲 第5番 ニ短調 op.47

 令和元年度最初の新潟定期演奏会です。新シーズンのスタートは、音楽監督のノットの登場です。前回の来演時(第110回定期)の、ラフマニノフの2番の驚異的名演は記憶に新しいです。今シーズンの新潟への来演は今回の1回のみですので、心して聴かねばなりません。

 今回のプログラムは、ダニエル・ホープをソリストに迎えてのブリテンのヴァイオリン協奏曲と、ショスタコーヴィチの交響曲第5番(タコ5)です。昨夜サントリーホールで開催された第670回定期演奏会と同じプログラムです。

 ブリテンのヴァイオリン協奏曲は1939年、タコ5は1937年の作曲ですので、ほぼ同時期の作品といえます。ブリテンのヴァイオリン協奏曲は、アメリカに逃れた反戦主義者のブリテンが、スペイン内戦で敗れた反ファシスト派への共感を込めて作曲したものだそうです。
 一方タコ5は、独裁政権であるソビエト共産党の政治的弾圧や確執の中で作曲され、曲の中に様々な思いが込められているといわれます。
 ともに第二次世界大戦直前の混沌とした時代に作られた曲であり、戦争や権力と音楽がどう関わってきたのかを考えさせます。この2曲をプログラムに選んだノットの真意は何なのか気になりますが、まあ、あれこれ考え込まず、ここは素直に曲を楽しむことにしましょう。


 5月とは思えない連日の猛暑で、体調もイマイチ。ロビーコンサートを聴いた後、一旦帰宅して休養し、再び出直しました。駐車場は満車で、少し離れたコインパーキングに車をとめて、りゅーとぴあ入りしました。

 ホール内に入りますと、ステージ上で、コントラバスとハープが音出ししていました。いつもに比して、雛壇が高く作られていて、ピアノも右側の雛壇上に設置されていました。オケの配置は、ヴァイオリンが左右に別れる対向配置で、コントラバス、チェロが左、ヴィオラが右です。

 開演時間となり、いつものように拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ち、拍手に応えます。最後にコンマスの水谷さんが登場して、いちだんと大きな拍手が贈られました。
 新潟ではこれが当たり前ですが、他所ではこうではなく、一昨日の大阪フィルの定期演奏会も拍手なしでした。新潟方式に慣れていますと、寂しさを感じてしまいます。

 オケの編成は小型で、コンマスの横の次席は田尻さん、2列目に廣岡さんという布陣で、前半はブリテンのヴァイオリン協奏曲です。共演はダニエル・ホープ。なぜかCDを持っており、親近感を勝手に抱いていました。

 この曲は初めて聴きましたが、なかなか魅力的な曲ですね。スペイン内戦の混乱、第二次大戦直前の不安な空気感を感じさせました。
 緊張感のある、ちょっと暗くて、深遠な音楽ですが、不協和音溢れる現代曲とは違って、耳に良くなじみ、澄み切った清廉な響きが心に優しく伝わってきました。
 初めて聴く曲ですので、演奏の優劣は評価できませんが、ホープの演奏はきっと良かったものと思います。第2楽章最後の部分のカデンツアなど、抜群の演奏テクニックで、聴きごたえは十分でした。
 静寂も音楽の一部であり、聴く方も緊張感を感じましたが、東響の皆さんの渾身の演奏もあって、青白い炎のように、一見冷静でありながらも、中では熱く燃えているような、感動的な音楽が作り出されました。

 大きな拍手に応えて、ソリストアンコールが演奏されました。これは息を呑むような超絶技巧の指さばきで、聴く者を圧倒しました。大したものです。

 休憩後はタコ5です。オケの編成は前半同様の対向配置ですが、編成は拡大され、第1ヴァイオリンが16人という、いわゆる16型のフル編成となり、ステージいっぱいのオケは、視覚的にも壮観です。

 低弦の重々しい響きで演奏開始。ちょっとグロテスクで、荒々しい印象の曲ですが、ノットの作り出す音楽には重厚な中にも透明感があり、単に力で押すような印象はありません。
 管楽器、特に木管楽器のパフォーマンスの素晴らしさが要所を引き締め、乱れのない弦楽アンサンブルは、対向配置の演奏効果が十分に感じられました。
 緩徐部での澄み切った響きは格別であり、大音量の強奏部でも音は飽和せず、透明感を維持していました。ノットの音作りもありましょうが、それに応える東響の演奏の素晴らしさを感じました。
 第3楽章からアタッカで第4楽章へ突入し、ギヤチェンジ。乱れることなく、フィナーレへと突き進みました。終末部でのティンパニと大太鼓の力いっぱいの連打はずしりと響き渡って感動的でした。

 前回のラフマニノフでの感動そのままに、音楽監督ノットと東響の蜜月ぶりが感じられる感動的演奏だったと思います。一昨日、大阪で大フィルを聴いて、オケの素晴らしさを感じましたが、我らが東響も負けていません。今シーズン最初、令和最初の定期演奏会を飾るにふさわしい、感動的な名演だったと思います。さすがです。
 今シーズンの新潟でのノットの指揮は今回だけであり、また来シーズンまで聴けないのが残念です。東京か川崎に聴きに行くしかないですが、それも大変です。

 外に出ますと、まだ暑さが残っていました。演奏の熱さに比べれば涼しいと言えましょうが。

 最愛のペットの死、出張疲れなど、いろいろありましたが、良い演奏に接し、快い気分で家路に着きました。

 

(客席:2階C*-*、S席:定期会員)