東京交響楽団新潟特別演奏会 2020盛夏
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2020年7月26日(日) 17:00  新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮: ジョナサン・ノット (映像)
コンサートマスター:グレブ・ニキティン
 


ストラヴィンスキー:交響曲 ハ調  (指揮者なし)

(休憩20分)

ベートーヴェン:交響曲第3番 変ホ長調op.55 「英雄」

 新型コロナウイルス感染は、衰えることなく全国へと蔓延しています。特に東京の感染拡大は深刻ですが、イベント開催が緩和され、客席を半分以下に減らしてのコンサートも可能となっています。

 各オーケストラとも、ステージ上での安全対策を科学的に検証し、観客・出演者双方の感染予防対策を十分に講じた上で、休止していたオーケストラ公演は順次再開されました。
 東京交響楽団も6月23日の無観客でのライブ配信公演から始めて、6月26日のサントリーホールでの定期演奏会からは観客を入れての演奏会を行っています。

 今回の演奏会は、本来であれば東京交響楽団第120回定期演奏会であり、ジョナサン・ノットの指揮により、マーラーの交響曲第5番ほかが演奏されるはずでした。年に1回の音楽監督・ノットの来演であり、今シーズンの中でも注目される公演で、大変楽しみしていたのですが、新型コロナ禍に消えてしまいました。

 新潟定期演奏会は、昨シーズン最後の3月29日の第118回は中止され、今シーズン最初の5月31日の第119回は来年1月26日に延期となりました。
 しかし、新型コロナの感染状況を鑑みて、客席数の削減も必要なことから、今シーズンの新潟定期演奏会はすべて白紙に戻され、定期会員券は払い戻されることになりました。
 今年度は定期演奏会としてではなく、新潟特別演奏会として開催され、社会的距離を確保した座席配置でのチケットが1回券として発売されることになりました。
 今日の公演については、定期会員のための無料招待公演として開催されることになり、間引かれた客席を再配分したチケットが各会員に送付されました。定期会員外のチケットは払い戻しされ、一般客は当日券の70席分だけ販売されたようです。

 そのようないきさつで開催されたのが今日の「東京交響楽団新潟特別演奏会 2020盛夏」です。演目は大きく変更され、前半は指揮者なしでの演奏、後半は事前収録したモニター上のノットの指揮による演奏です。
 同じ形態での演奏は、7月18日の「東京オペラシティシリーズ第116回」で既に行われ、私もネット視聴させていただきましたが、見事な演奏に感嘆しました。
 今回と同じプログラムは、7月23日の「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2020」と昨日の「第682回定期演奏会」で演奏されています。昨日のサントリー定期は客席数を減らすために2回公演となりましたので、このプログラムとしては4回目の演奏となります。

 新型コロナ感染の爆発が続く東京。「GOTO トラベルキャンペーン」から除外され、小池都知事から4連休の外出自粛要請が出されている中での新潟での演奏会です。東響としても、東京・川崎以外では初の演奏会であり、その緊張感は計り知れません。
 23日はミューザ川崎、24日、25日(14時、19時の2公演)はサントリーホールと、3日連続で4公演こなした後での新潟遠征であり、東響の皆さんは心身ともにお疲れなことと思います。ご苦労様です。
 
 4連休の最終日。相変わらず梅雨空が続いて湿度も高く、気分も優れない日曜日です。雨が降らないだけよしとしまょう。
 早めに家を出て、16時過ぎにりゅーとぴあに到着しましたが、既にたくさんの人がロビーにおられました。昨年12月以来、久しぶりの東京交響楽団を楽しみにしておられたものと思います。

 体温チェックを無事通過し、開場とともに入場しました。ホワイエで定期会員券の返金処理を行い、席に着きました。与えられた席は、Bブロックのステージ寄りの端の方です。第1回からの定期会員の私は、これまでずっとCブロック右寄りの同じ席で聴き続けてきましたので、今回全く別の場所に振り分けられ、新鮮な気分です。オケが眼前にあって、眺めがいい場所ですね。

 席に座ってこの原稿を書き始めていますと、ステージで音出しが始まり、気分が盛り上がってきました。オケを生で聴くのは、2月24日以来ですので、5ヵ月振りになります。
 開演時間が近づくにつれ、席は埋まってきました。客席は1席おきに使用され、各ブロックに均等に席が割り振られましたので、虫食い状態といいますか、モザイク模様のようでした。両隣に客がいませんので、楽でいいですね。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場。最後にコンマスのニキティンさんが入場して大きな拍手が贈られました。いわゆる2管編成で、弦5部は、8-8-6-4-3 で、ヴァイオリンが左右に別れる対向配置です。次席が田尻さん、廣岡さんが2列目で、少数ながらも強力な布陣です。管楽器以外は、お揃いのグレーのマスクを着けています。

 前半はストラヴィンスキーの「ハ調の交響曲」です。ニキティンさんの合図で演奏が始まりました。4楽章からなる交響曲ですが、指揮者なしでも何の問題もなく、抜群のアンサンブルで演奏が進みました。いつもと別の席でしたが、各奏者が間近によく見えて、音響的にも良かったです。
 指揮者なしではありますが、実際はニキティンさんが終始弓で指示を送っており、ニキティンさんの弾き振りというのが正しいでしょう。拍手に応え、ニキティンさんが各奏者を起立させて讃え、最後はニキティンさんが団員から何度も讃えられていました。

 休憩時間にステージ中央に、4台のモニターが設置されました。3台はオケに向けて、1台は客席の正面に向けられていました。
 ホワイエに出ますと、外は土砂降りの雨。稲妻も光り、大荒れの天候です。雨が上がることを祈りながら後半に入りました。

 後半はベートーヴェンの「英雄」です。拍手の中に団員が入場。最後にニキティンさんが登場してチューニング。ここでモニターにノットの姿が映し出され、ノットの合図で全員起立して拍手が贈られました。
 以後、ノットの指揮に合わせて演奏が進められました。生き生きとした躍動感ある演奏は、映像に合わせての演奏とは思えず、その場にノットがいるかのようでした。
 ノットはステージ上で行われている演奏は聴いていないわけであり、ひたすら自分が思い描く音楽を思い浮かべながら指揮しているはずです。
 自分が思ったとおりに東響が演奏してくれていることを信じて指揮をしており、両者の信頼関係の強さが如実に示されていました。
 弦は最低限に削られて、オケとしては小編成ではありましたが、それが逆に機動力を生み、生命感あふれるパワーを生み出していました。
 弦も管もティンパニも、見事な演奏でした。自分の役割を最高のパフォーマンスで成し遂げ、厳しい状況を力に代えて、一期一会の会心の演奏を聴かせてくれました。これぞプロフェッショナル、これぞ東京交響楽団です。

 演奏が終わり、一瞬の間をおいて、盛大な拍手が沸き起こりました。当然ブラボーが飛び交うところなのですが、ブラボーは禁止です。
 ニキティンさんが各パートごとに起立させて演奏を讃え、最後はニキティンさんに賞賛が贈られました。最後はモニターに手を振るノットの姿が映し出され、全員で礼をして終演となりました。

 二度とないのか、今後こういうやり方が行われるようになるのかは知りませんが、前代未聞の試みは成功裏に終了しました。
 指揮者なしでも十分に演奏できるプロ集団をニキティンさんがまとめ上げ、影の指揮者として素晴らしい音楽を作り上げてくれました。またとない機会に立ち会えて良かったです。

 明るい気持ちで外に出ますと、雨雲は去ったようで、傘もいらない小雨になっていました。東響のパワー溢れる演奏が、雨雲を蹴散らしけくれたのでしょう。

 テレビカメラが何台もありましたが、そのうち放送されるのでしょうか。どうなんでしょうね。
 
 

(客席:2階D2-19 、定期会員招待)