今日は人気ピアニストの辻伸行さんとヴァイオリンの三浦文彰さんをソリストに迎えて、オール・チャイコフスキー・プログラムのコンサートです。
本来は「サントゥ=マテイアス・ロウヴァリ指揮フィルハーモニア管弦楽団 ピアノ:辻井伸行 ヴァイオリン:三浦文彰」として開催されるはずでしたが、新型コロナウイルスのオミクロン株感染拡大による入国制限等により来日が困難となったため、公演は中止されることになりました。その代替公演として企画されたのがこのコンサートです。
コンサートの売りである2枚看板のソリストはそのままに、オケは梅田俊明指揮東京フィルハーモニー交響楽団に変更されました。本日の新潟公演のほか、19日によこすか劇術劇場、21日に兵庫県立芸術文化センターで、同じ内容で公演が行われます。
曲目は、1曲目がチャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」が「スラブ行進曲」に変更になりましたが、メインのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲とピアノ協奏曲第1番には変更がありません。「圧巻のチャイコフスキー」というキャッチコピーが否が応でも目立ち、熱い演奏が期待されました。
さて、辻井伸行さんは、単独のリサイタルやオーケストラとの共演で、新潟には度々来演しておられます。単独のリサイタルとしては、2008年3月のリサイタルが最初でしたが、当時はまだ今ほどの人気ではなく、会場は新潟市音楽文化会館でした。
その後何度か聴かせていただきましたが、一番最近は、2020年2月の、新型コロナ感染が拡大する直前に開催された「辻井伸行
日本ツアー2020 “バラード”」ですので、2年ぶりになります。ちなみに、昨年2月に長岡でリサイタルがあったのですが、聴きに行けませんでした。
また、オーケストラとの共演は、2004年10月の東京交響楽団第28回新潟定期演奏会(指揮:大友直人)で聴いたモーツァルトのピアノ協奏曲第20番が最初であり、当時はまだ16歳でした。
以後時間が空いて、2017年10月のロンドン・フィル(指揮:ユロフスキ)とのチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、2018年11月のアイスランド交響楽団(指揮:アシュケナージ)とのショパンのピアノ協奏曲第2番、2019年11月のハンブルク・フィル(指揮:ケント・ナガノ)とのベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を聴く機会がありました。オケとの共演は2年半ぶりになります。
なお、2020年9月にも、新潟でロイヤル・リバプール・フィル(指揮:ペトレンコ)とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏するはずだったのですが、新型コロナ禍で来日できず中止になってしまいました。
一方、三浦文彰さんは、昨年の2021年2月に長岡でリサイタルを開催され、2018年7月には、やはり長岡で辻井さんとのデュオリサイタルも開催されいますが、残念ながら私は聴くことができず、今回が初めてになります。
また、東京フィルハーモニー交響楽団は、東京交響楽団に遠慮してか新潟市では演奏会がありませんが、長岡市では毎年演奏会を開催しており、これまで何度か聴かせていただいています。直近は、2021年11月に演奏会があったのですが聴きに行けず、2019年9月の演奏会以来、2年半ぶりとなります。
そして、梅田俊明さんの指揮を聴くのは、2009年6月の加茂市でのNH交響楽団演奏会以来ですので、久しぶりになります。
と、いつものことながら、前置きが長くなってしまいましたが、オケがフィルハーモニア管弦楽団から東京フィルに変わりましたが、人気公演になることが必至であり、演目に新鮮味はありませんが、チケット発売早々に、後先も考えずにネット購入してしまいました。
今日は木曜日。平日のコンサートは行くのが大変なのですが、早めに仕事を切り上げて、18時前に職場を出発。いつもは使わない高速道路を使用して、大急ぎで車を進めました。
駐車場に車をとめ、公園を抜けてりゅーとぴあに入りますと、既に多くの客で賑わっており、入場が進んでいましたので、私も急いで入場しました。
受付でプログラムと共に演奏曲目変更についての紙が渡されました。1曲目の「スラブ行進曲」が、「エフゲニー・オネーギン」より「ポロネーズ」と「ワルツ」に変更するとのことでした。
諸般の事情によりとのことですが、どうしたんでしょうね。「スラブ行進曲」がロシアの勝利を讃える曲なので、昨今の社会情勢を考えて、変更したということかもしれませんね。
さて、辻井さんがらみの公演はいつもチケットは即完売なので、今回もチケット完売かと思いましたが、当日券の販売がありました。それでも客席は、P席の後方などで若干の空席があるものの、ほぼ埋まっており、なかなかの集客です。
客層は東響定期とは随分と異なり、日頃りゅーとぴあに来ない人や若い人たちも多いようでした。女性が圧倒的に多く、開演前の女子トイレは長蛇の列ができていました。でも盛況で何よりです。
開演時間となり、主催者であるTeNYの某女子アナによって、クラシックコンサートの雰囲気に似合わない明るく元気な開演のアナウンスがあり、その後拍手の中に団員が入場し、最後にコンマスが登場してチューニングとなりました。オケのサイズは少し小型の12型で、弦5部は、12-10-7-6-5です。
梅田さんが登場して、曲目変更された「エフゲニー・オネーギン」からの2曲が演奏されました。もともと明るく華やかな曲ですが、梅田さんは早めに演奏を進め、2曲とも飛び跳ねるように躍動感を感じさせました。「ポロネーズ」は聴く機会が多いですが、「ワルツ」は聴く機会がなく、大いに楽しませていただきました。
ぐいぐいと煽る梅田さんの指揮に見事に応える東京フィル。日頃聴く東響とは若干違った音色ですが、オケの素晴らしさも感じさせてくれました。
ステージが整えられ、2曲目はヴァイオリン協奏曲です。この曲は、先月末に長岡でNHK交響楽団と南紫音さんとの演奏を聴いたばかりで、またかという感じですが、名曲は何度聴いても良いものです。
音量豊かに朗々とホールに響く三浦さんのヴァイオリン。音に艶があり、その美しさはさすがと思わせました。終始早めに突き進み、エネルギー感に溢れていました。第1楽章終盤の長大なカデンツァもお見事でした。
第2楽章をゆったりと歌わせ、怒涛の第3楽章へ。ぐいぐいとスピードアップして、熱く燃え上がり、ブレーキをかけることなく突き進み、興奮と感動のフィナーレを迎えました。
先日の南紫音さんも良かったですが、りゅーとぴあの芳醇な響きに包まれながら、スピード違反覚悟で突き進む東京フィルとともに、せめぎ合って走り抜けた三浦さんはお見事でした。
スピード全開に畳みかけるようにリズムを刻むオケから生まれる高揚感は、生演奏ならではの喜びです。ブラボーを叫べないのは残念ですが、ホールを埋めた聴衆は、大きな拍手で感動の演奏を讃えました。ソリストアンコールを期待して、拍手を続けましたが、そのまま休憩に入りました。
休憩時間の女子トイレは長蛇の列。その列を横目に、私は早々に用を済ませ、客席でこの原稿を書いていました。
再び空気を読まない明るく賑やかな開演のアナウンスがあり、休憩後の後半は、ピアノ協奏曲第1番です。前記しましたように 、前半のヴァイオリン協奏曲は先月末に聴いたばかりでしたが、このピアノ協奏曲第1番も今週末の東響新潟定期で聴く予定になっており、続くときは続くものですね。
曲目まで確認せずに衝動的にチケットを買ってしまう私が悪いのですが、短期間に同じ曲を聴くことになるとは、偶然とはいえ、なんというめぐり合わせなんでしょう。と、嘆かずにはいられません。
梅田さんに導かれて辻井さんが登場し演奏開始です。この演奏も、前半同様にスピード感とエネルギー感に溢れていました。生き生きと躍動感が溢れるオケと共に、神が乗り移ったかの如くパワフルに演奏を進める辻井さん。音楽の感傷に浸る暇も与えずに、エンジン全開で、猛スピードで走り抜けました。
強奏部でのパワーに圧倒されましたが、弱音部でのクリスタルのように輝く音の美しさも格別でした。第1楽章を聴いただけでお腹がいっぱいになるほどの満足感でした。
ゆったりと穏やかな第2楽章から、リミッターを外してフルスピードで駆け抜ける第3楽章。ホールを埋めた誰もが興奮せずにはいられず、ホールは熱く煮えたぎった感動のるつぼと化しました。
昨年11月に、この第3楽章だけ演奏されたコンサートがありましたが、やはり第1楽章から順に聴いてこその感動ですね。
この曲の辻井さんの演奏を聴くのは、2017年10月のロンドン・フィルとの共演以来2回目となりますが、前回以上にスリリングな演奏で、否が応でも興奮させられました。これまで以上にパワーアップした辻井さんにノックアウトされ、ひれ伏すしかありません。
このような熱い演奏を引き出した梅田さんの音楽作りの素晴らしさ。見事なアンサンブルで具現化した東京フィルの素晴らしさ。
前半も後半も、独奏者、指揮者、そしてオーケストラが三位一体となり、溢れんばかりのエネルギーを芸術へと昇華させ、一期一会の感動の音楽を創り上げました。
アンコールは辻井さんが1曲くらい演奏してくれるかと思いましたが、予想外のプレゼントがありました。前半に見事な演奏を聴かせてくれた三浦さんが辻井さんをエスコートして登場し、三浦さんの代名詞ともいえるNHK大河ドラマのテーマ曲である「真田丸〜メインテーマ」を演奏してくれました。
三浦さんと辻井さんは、2016年に初めて共演して以来、デュオコンサートを開催していますが、そのとき必ずこの曲を演奏しているそうです。今回は2人揃って出演するコンサートですので、アンコールにこの曲を選択したのでしょう。前半にソリストアンコールがなかった理由もわかりました。
ドラマのテーマ曲だけで終わらせるにはもったいない曲であり、このような聴きごたえある曲を最後に聴かせてもらってありがたかったです。
高鳴る胸とともに、薄明かりがともる公園の通路を駐車場へと急ぎました。いい演奏を聴けた満足感を抱きながら、帰路につきました。
(客席:2階C7-11、¥12000) |