体は大丈夫かと心配になるほどに活発な演奏活動をしている辻井さんですが、昨年11月にハンブルグ・フィルとともに新潟に来演したばかりですが、再び新潟に来てくれました。単独のリサイタルとしては2018年3月のデビュー10周年記念リサイタル以来2年ぶりになります。
今回の日本ツアーは“バラード”と題され、プログラム前半がシューベルトとスクリャービン、後半がショパンのバラード全曲です。前半演奏されるシューベルトの即興曲とスクリャービンのソナタは今回が初披露とのことです。
コンサートツアーは1月8日に始まり、3月1日まで全14公演開催され、新潟は12公演目に当たります。パリのシャンゼリゼ劇場で同じプログラムでの演奏会が予定されているとのことで、熱のこもった演奏が期待できそうです。
今日は気温は低くないものの、天気予報通りに昼前から小雨が降り出しました。某所で昼食を摂り、小雨がぱらつく中に、速足でホールに向かいました。
ホールに着きますとちょうど開場時間となり、某コンサートのチケットを買った後、私も入場しました。ロビーではたくさんのCDやDVDが販売されていて賑わっていました。
早めに着席してこの原稿を書き始めましたが、開演時間が近付くにつれて席はどんどんと埋まっていきました。チケットは早々に完売しただけあって、満席の客席は壮観です。
開演時間となり、手を引かれた辻井さんが登場。場内が暗転し、無音の数秒の後、演奏が開始されました。1曲目はシューベルトの「4つの即興曲」です。
富士山麓に湧くクリスタルのようにクリアな泉の如く、清廉な音の流れが、淀みなく、絶え間なく流れ出ます。ときに胸に秘めたマグマに熱せられて、熱水となって吹き上がり、聴く者の心を熱く燃え上がらせました。4曲の対比も鮮やかに、心に迫る音楽で、一気に辻井ワールドに誘われました。
ただし、キーンという音が耳に響き、私だけ耳鳴りがしているのかと思っていたのですが、隣席の人がレセさんに補聴器の音がするとクレーム入れてましたので、私の耳は大丈夫のようでした。
一旦退場した辻井さんが登場して、椅子に座るや否やスクリャービンのソナタの演奏が始まりました。神秘的な響きとともに、ちょっとジャジーな部分もあり、情熱的に、熱く燃え上がる演奏で前半を締めてくれました。
休憩後の後半は、コンサート名にもなったショパンの「バラード」です。4曲続けて演奏されましたが、いずれも速めの演奏で、辻井ワールド炸裂です。ショパンの音楽を辻井さんが噛み砕き、反芻し、新たな音楽へと昇華させ、情熱が爆発するような、鮮烈な音世界で酔わせました。
スピードアップしても音はあくまでもクリアであり、軽業師の如く超絶的なテクニックで圧倒し、辻井さんが繰り出す機関銃の連射に逃れるすべもなく、ひれ伏しました。
満席の客席にもかかわらず、通常のコンサートに比して咳をする人も少なく、曲間はほとんど無音でした。辻井さんのピアノの一音たりとも聴き逃すまいという空気感がホールに満ちていて、聴く方も気合が入っていたように思います。演奏も良かったですが、聴衆もお見事でした。
大きな拍手に応えて前後左右の客席に礼をし、アンコールに「ノクターン第8番」が演奏され、憂いを帯びた美しく透き通るような響きでうっとりとさせました。
その後に辻井さんの挨拶があり、アンコール2曲目は、昨年11月に天皇陛下のご即位の奉祝曲として嵐とともに演奏した菅野よう子作曲「Ray
of Water」のメインテーマのピアノソロバージョンが辻井さんによる曲目紹介の後にしっとりと演奏されました。なかなか感動的な曲ですね。
拍手に応えて、アンコール3曲目は「革命」。昨秋のハンブルグ・フィルのソリストアンコールでも演奏しましたが、猛スピードで突進し、強烈なパワーで圧倒。もう参ったというしかありません。コンサートの最後を、熱狂と興奮で締めくくりました。辻井さんがピアノの蓋を閉めて退場し、感動のコンサートは終演となりました。
何だかんだ言っても、辻井さんは凄いですね。今なお聴く度に成長し、驚きを感じるばかりです。次は9月17日にロイヤル・リバプール・フィルとともに新潟に来演し、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏します。チラシが配布されたほか、辻井さん自らも挨拶の時に話されていました。これも楽しみですね。
(客席:2階C7-38、S席:\7800) |