山本真希 オルガン・リサイタル オルガン名曲集〜スペインとJ.S.バッハの珠玉作品〜
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2022年3月12日(土) 14:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
オルガン:山本真希
 
J.ヒメネス:第6旋法のバッターリャ
P.ブルーナ:第6旋法のティエント「ウト・レ・ミ・ファ・ソル・ラ」
      第2旋法の過ったティエント
      聖母の連祷による第2旋法のティエント
J.リドン:ミサのための4つの作品より、V.エレヴァシオン、W.アレグロ
     6つの作品またはソナタより、T.ラルゴ-インテント

(休憩20分)

J.S.バッハ:幻想曲とフーガ ト短調 BWV542
馬場法子:J.S.バッハ「カノン風変奏曲」の為の4つの間奏曲より
       間奏曲 U 上へ上へ
       間奏曲 V バロッコ
       間奏曲 W テルツ
J.S.バッハ/M.レーガー:半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903

(アンコール)
J.S.バッハ:おお人よ、汝の大いなる罪を嘆け BWV622
 

 本来なら2年前に開催されるはずだったコンサートがついに実現しました。初代・吉田 恵さん、2代目・和田純子さんに引き続いて、2006年4月から14年の長きに渡り、りゅーとぴあの3代目専属オルガニストを努めた山本真希さんのリサイタルです。

 私は、2006年4月15日の、3代目専属オルガニストのお披露目公演として開催された「新専属オルガニスト就任記念コンサート」を聴いて以来の山本さんファンです。

 山本さんは、以後27回(第27回はコロナ禍で中止)も回を重ねたリサイタシリーズのほか、夏のオルガン・サマー・デイズや冬のクリスマスコンサートなど、多彩な活動をされ、CD録音もされています。音響にこだわり、オルガン周囲の客席を取り払っての録音も行わました。
 オーケストラとの共演もあり、東京交響楽団と第79回新潟定期演奏会で共演したサン=サーンスの交響曲第3番はCD化されました。
 りゅーとぴあ以外でも県内各地で演奏会を開催され、新潟にオルガン文化を啓蒙した功績は計り知れません。至近距離で聴いた教会でのコンサートも懐かしい思い出になっています。

 東京に拠点を持ち、全国を舞台にして活躍している現専属オルガニストも素晴らしいですが、新潟の地に住み、新潟に根差した音楽活動を真摯に続けられた山本さんには感謝でいっぱいであり、新潟の音楽文化に対しての貢献は賞賛すべきだと思います。一部で新潟市の名誉市民に値するとの声もありますが、まさにその通りだと思います。

 りゅーとぴあのオルガンを守り続け、オーバーホールにも立ち会われました。りゅーとぴあのオルガンのすべてを知り、山本さんの音楽家としての経歴の多くを、りゅーとぴあのオルガンと共に歩んでこられました。
 演奏の素晴らしさ、その上品さが溢れる美貌もさることながら、人柄がにじみ出るような柔らかな語り口に魅了され、新潟の音楽ファンを虜にしました。
 その山本さんが退任されるとのニュースを耳にしたとき、悲しみにくれた音楽ファンも多かったものと思います。もちろん私もその一人です。

 このコンサートは、本来であれば、2020年3月15日にラストリサイタルとして開催されるはずでした。リサイタル終了後にはお別れ会も企画されていましたが、新型コロナ感染によって5月30日に延期されました。退任後とはなりましたが、延期された演奏会を楽しみにしていました。
 しかし、新型コロナ感染は収まることはなく、この延期公演までもが中止になってしまい、新潟の音楽ファンは悲しみにうちひしがれました。

 あれから2年、新型コロナ感染は変異株の出現もあって、感染の波を繰り返して現在に至ります。現在もオミクロン株による感染第6波のさなかにあり、感染との戦いは続いていますが、ウイズコロナの中で、このコンサートがついに実現しました。チケット発売開始ともに購入し、今の日を楽しみに待ちました。

 3月も半ばとなり、新潟も漸く春の訪れを感じられるようになりました。今日は気持ち良く晴れ渡り、気温も上がって、心地よい土曜日になりました。
 今日は、午前中は仕事でしたので、仕事を終えるとともに、大急ぎでりゅーとぴあへと向かいました。駐車場に車をとめ、まだつぼみが膨らまない桜の木々を眺めながら、りゅーとぴあ入りしました。
 中に入りますと既に開場されており、チラシ集めをした後に入場し、この原稿を書き始めました。客の入りは、まずまずで、私の席がある正面のCブロックは、ほぼ埋まっていました。

 開演時間となり、山本さんが譜メクリストとともに入場。山本さんは従来とは違った少し華やかな衣装で登場し、心の中で、「お、お〜」と叫びました。
 前半は、スペインのオルガン曲が続けて演奏されました。1曲目の演奏を聴いて、「山本さんの音だあ」と、感慨に耽りました。
 拍手する間もなく、淡々と演奏が進められ、今どの曲が演奏されているのか、途中からわからなくなってしまいました。華やかさの中にも落ち着きのあるオルガンの響きは、山本さんならではと感じました。
 ゆったりとした時間が流れ、まどろみの中に前半の演奏が終わりました。これまで拍手のタイミングを失った分だけ、盛大な拍手が贈られました。

 休憩時間には、受付を出て、インフォで某コンサートのチケットを買い、自販機のドリンクで喉を潤しました。音楽仲間と遭遇し、ひとしきり音楽談義をしました。

 後半は、山本さんは衣装替えして、上が白、下が黒の、いつものシックな衣装で登場しました。後半のプログラムは、バッハの2曲の間に、新潟出身の馬場さんが作曲した間奏曲をはさむという構成です。

 最初は「幻想曲とフーガ ト短調」です。やはりバッハは聴き応えがありますね。荘厳な幻想曲につづく畳み掛けるようなフーガの素晴らしさ。新潟を離れている間に、さらに円熟味を増した山本さんの魅力が溢れ出ました。

 そして、りゅーとぴあのオルガンをイメージして作曲された馬場さんの間奏曲です。ちょっと素っ気なく感じたというのが正直な気持ちでしたが、これまで聴いたことのないオルガンの音に新鮮さを感じ、いかにも現代音楽というような斬新な響きは、バッハの間の口直しにぴったりに思いました。演奏後に、2階正面の客席で聴いていた馬場さんに照明が当てられ、拍手が贈られました。

 最後にレーガー編曲によるバッハのクラヴィーア曲「半音階的幻想曲とフーガ ニ短調」を演奏をし、安定感のある山本さんの演奏に、大きな感動をいただきました。

 拍手に応えてアンコールにバッハの小品を優しくしっとりと演奏し、上質のデザートの如く、感動に高鳴った心を鎮めてくれました。
 山本さんはオルガンに別れを告げるかのように一礼し、観客の感動を誘いました。山本さんの声を聞きたかったですが、挨拶もなくそのまま終演となったのは、ファンとしてはちょっと残念でした。

 やはり、山本さんの演奏は素晴らしく、山本さんが去った寂しさを改めて感じました。安定感のある落ち着いた演奏は山本さんならではであり、安心して演奏に身を委ねることができました。

 現専属オルガニストも華やかで素晴らしいのですが、それぞれに違った魅力があります。山本さんには名誉オルガニストとして、これからも定期的に来演してくれるといいなあ、などと夢想しながらホールを後にしました。

 外に出ますと、快晴の空が気持ち良く、心も晴れるようでした。公園の舗道で偶然にも大変お世話になっている某先生に出会い、お話することができて良かったです。
 
 
 
(客席:2階C8-11、¥2000)