東京交響楽団第124回新潟定期演奏会
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2022年3月20日(日) 17:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:三ツ橋敬子
ピアノ:上原彩子
コンサートマスター:小林壱成
 
カリンニコフ:劇付随音楽「皇帝ボリス」序曲

ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲

(休憩20分)

グリンカ:歌劇「皇帝にささげし命」序曲

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 op.23

(ソリストアンコール)
チャイコフスキー:「四季」作品37 より 「3月 ひばりの歌」
 

 今シーズン最後の東京交響楽団新潟定期演奏会です。今回は、2002年の第12回チャイコフスキー国際コンクールで優勝した上原彩子さんが、優勝後20周年の節目に、三ツ橋敬子さんの指揮で、コンクールの本選で演奏したラフマニノフと、コンクール名になっているチャイコフスキーのピアノ協奏曲の2曲を演奏するというのが注目されます。

 上原さんが東響新潟定期に登場するのは、2011年2月の第63回(指揮:大友直人)以来11年ぶりです。また、三ツ橋さんは、新潟定期初登場です。

 ちなみに、上原さんの演奏は、2010年11月の長岡での東京フィル長岡特別演奏会(指揮:船橋洋介)でベートーヴェンの「皇帝」を聴きましたが、そのときは第3子の出産直前で、身重の大きなお腹での演奏でした。
 そして、3ヵ月後の2011年2月の東響新潟定期(指揮:大友直人)では、ラヴェルのピアノ協奏曲を演奏していますが、出産直後にも関わらず、堂々とした演奏ぶりで、母の強さを感じさせたことを覚えています。

 また、三ツ橋敬子さんは、以前に聴いたことがあったように思いましたが、東響新潟定期への来演歴はなく、調べてみましたら、2011年5月のLFJ新潟で、仙台フィルを指揮し、2014年4月のLFJ新潟で、オーケストラアンサンブル金沢を指揮した演奏を聴いていました。

 新潟定期は、前日に東京か川崎での演奏会があり、同じ演目を持ってくることが基本なのですが、今回は新潟独自のプログラムのようです。
 東響の皆さんは、昨日と明日は、新国立劇場での「椿姫」のオケピットに入っておられ、その間を縫っての新潟定期です。これが仕事とはいえ、ご苦労なことと思います。さすがプロですね。


 明日は春分の日とはいえ、新潟の天候は不安定です。昨日は冷たい雨が降って、あいにくの天候でしたが、今日は雲は多いものの午前中は晴れ間も見えて、まあまあの天候となりました。昼過ぎからは厚い雲に覆われるようになりましたが、雨にはならないで良かったです。

 今日は12時から新潟定期の日に恒例の東響ロビーコンサートがあり、14時半からは、りゅーとぴあ友の会の有料会員向けの公開リハーサルがあったのですが、疲れがたまっていて、明日の祝日も仕事が入っていますので、無理せず休養をとることにし、本公演一本に絞ることにしました。

 ゆっくりと休息を取り、少し早めに家を出て、白山公園を散策しました。紅梅、白梅が咲き、春を感じさせましたが、桜のつぼみはまだ固く、本格的な春はもう少し先のようです。
 歩いているうちに肌寒さを感じ、急ぎ足でりゅーとぴあ入りしました。ロビーでこの原稿を書きながら時間調整し、頃合いをみて入場しましたが、ポピュラーな曲目ということもあってか、いつもより客の入りは良いようでした。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待つ元祖新潟方式です。最後に今日のコンマスの小林さんが登場し、一礼してチューニングとなりました。
 オケのサイズは、先日の東京フィルと同様の12型で、弦5部は、12-10-8-7-6でした。小柄な指揮者に合わせて、指揮台はかなり高くなっていました。

 三ツ橋さんが登場して、カリンニコフの「皇帝ボリス」序曲で開演しました。重厚な弦楽の序奏に、柔らかな管とハープが加わり、美しいメロディーを奏で、演奏が進みました。
 親しみやすいメロディが耳に心地良く、弦楽の美しさが際立って感じられました。最後は賑やかに勝利の音楽を奏で、盛大に盛り上げて曲を閉じました。
 おそらく初めて聴く曲でしたが、魅力的な曲であり、これを聴けただけでも今日来た甲斐があったと思うほどでした。三ツ橋さんの力量が示された良い演奏でした。

 ステージにピアノが設置され、ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」です。上原さんはライトブルーのドレスで登場。しばしの沈黙の後、うなずいて指揮者に合図を送り、演奏開始です。
 アクセントを大きく取った切れ味の良い音楽が流れ出ました。各変奏の対比も鮮やかに、クリアでパワフルなピアノと、負けじと対峙するオーケストラが、絡み合い、せめぎ合い、大きなうねりを創り出しました。
 聴かせどころの第18変奏の甘美なメロディは、しっとりと優しく歌い、うっとりと聴き入りました。「怒りの日」の激しさとの対比がこの曲の魅力です。
 総じて、メリハリを付けて軽快に走り抜ける音楽は小気味良く、スカッと爽やかとでも言いましょうか。最後はゴージャスなラフマニノフサウンドがホールに鳴り響き、感動のフィナーレを迎えました。

 ステージにピアノが設置されたままで、休憩後の後半最初は、グリンカの「皇帝にささげし命」序曲です。初めて聴く曲でしたが、耳に心地良い、親しみやすいメロディが次々と現れ、哀愁漂う美しい旋律に酔いしれました。
 前半に聴いたカリンニコフの曲とともに、新たに魅力ある曲を知ることができて良かったです。三ツ橋さんの創り出す音楽世界に身を委ね、至福の時間を過ごしました。

 ピアノの蓋が上げられて、最後はチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番です。上原さんは鮮やかなピンクのドレスで登場し、美しさに目を見張りました。
 前半同様にパワフルなピアノ。さすが上原さんです。豪快さと繊細さを併せ持ち、第1楽章終盤の聴かせどころのカデンツァもお見事でした。ただしオケは総じてゆっくり目で、ピアノとかみ合わない面もありました。
 第2楽章はゆったりと、しっとりと歌い上げ、感動を誘い、ギアチェンジして、パワー全開に怒涛の第3楽章へと突入しました。
 エネルギー感にあふれ、切れのあるピアノの素晴らしさに対して、受けて立つオケはゆっくり目で、熱いピアノをオブラートで覆うように感じました。もう少しスピーディに、メリハリを付けてくれたら感動は倍増されたはずです。
 フィナーレになって、ようやくオケのエンジンが全開になってスピードアップし、興奮と感動の音楽を創り上げてくれました。
 先日の辻井さんと東京フィルの演奏に比較して、オケはゆったり歌わせ過ぎて、エネルギー感に欠けて切れが悪く、美しくも生ぬるさを感じました。
 情熱とパワーに溢れるピアノに圧倒されて、オケはかみ合わず、不完全燃焼さを感じましたが、最後の最後で漸く帳尻合わせのように盛り上げてくれて良かったです。終わり良ければすべて良しということで、大きな満足感をいただきました。

 アンコールにチャイコフスキーの「四季」から「3月 ひばりの歌」をしっとりと演奏し、上質のデザートでコンチェルトの興奮を鎮めてくれました。重量級のプログラムを弾ききった上原さんには大きな拍手を贈りたいと思います。

 チャイコフスキーのピアノ協奏曲は17日に聴いたばかりですので、その印象が強く残っており、どうしても比較してしまいます。
 ピアノに関してはどちらも凄かったですが、オケパートに関しましては、残念ながら、我らが東響も、梅田さんが指揮した東京フィルにはかなわなかったというのが正直な感想です。三ツ橋さんと梅田さんの曲作りの違いであり、好みの問題もありましょう。
 でも、良い演奏だったことには違いなく、あくまで比較しての話しで、これ単独で考えれば、何の文句もない素晴らしい演奏だったと思います。

 良い音楽を聴いた喜びを胸に、ちょっと肌寒い公園を抜けて、家路に着きました。
 
 
 
(客席:2階C*-*、S席:定期会員、¥6500)