今日は今月でデビュー10周年を迎えた牛田智大さんのリサイタルです。りゅーとぴあ主催の牛田さんのリサイタルは、2020年5月に開催されるはずでしたが、新型コロナ感染の拡大により中止され、今回は2年ぶりのリベンジ公演となりました。
最近の新潟市でのピアノ演奏会はショパン続きであり、今回もオール・ショパン・プログラムということで演目に魅力は感じなかったのですが、牛田さん目当て、よく考えないままチケットをネット購入してしまいました。
さて、牛田さんのコンサートを聴くのは、2013年2月のリサイタルが最初でしたが、当時はまだ13歳でした。その後、2014年6月のウィーン・カンマー・オーケストラとの共演、さらに2015年10月のリサイタル、そして、2021年1月の東京交響楽団との共演と、何度か聴く機会がありました。
実は2018年1月のワルシャワ国立フィルとの演奏会もあったのですが、チケットを買っていたものの大雪で行けなかったことが悔やまれます。
このように、節々で牛田さんの演奏に接してきましたが、単独のリサイタルとしましては、2015年10月以来ですので、6年半ぶりになります。
この間に、2018年11月の第10回浜松国際ピアノコンクールで第2位入賞と聴衆賞を受賞し、大きく成長されました。昨秋のショパンコンクールでは残念ながら二次予選敗退となりましたが、「どうして?」という声も多かったようです。
22歳となり、前回のリサイタルからどのように成長されたのか、自分の耳で確かめるべく、コンサートに臨みました。
なお、牛田さんは、デビュー10周年記念のリサイタルとして、今回のオール・ショパン・プログラムで全国各地で演奏されており、14日の東京オペラシティ公演はチケットがすぐに完売となり、翌15日にサントリーホールで追加公演を開催したというのは驚きです。すごい人気ですね。
17日の静岡県富士市での公演に引き続いての新潟公演で、21日は鳥取県境港市、27日は秋田県湯沢市と、全国をまたにかけての公演が続きます。
今日は小雨が降って気温も上がらず、あいにくの土曜日となりました。スタジオAでは、同時刻に地元の音楽家によるコンサートがあり、そちらにも興味があったのですが、こちらのチケットを先に買ってしまいました。
りゅーとぴあに入りますと、ロビーは開場待ちの人たちで混雑していました。そのほとんどが女性で、私のようなジジイは肩身が狭く感じられました。
開場が始まってしばらく経っても、入場の行列が長く伸びていて、そのうち途切れるだろうと並ぶのをためらっていましたら、列はさらに長くなりました。ついに列は東ロビー手前まで達してしまい、切りがないので、観念して列に並んで入場しました。客の入りは良く、正面はほぼ満席でした。ほとんどは女性で、9割以上でしょうか。県外からの追っかけもおられるようです。さすが牛田さんですね。
開演時間となり、牛田さんが登場。スリムな美男子で、貴公子、王子様という表現がぴったりします。女性ファンが多いのも納得です。しばしの静寂の後、ノクターン第8番で開演しました。
情感豊かに、ゆったりと演奏が進み、甘く、切なく、ピアノの美音がホールに響き渡り、牛田さんの世界へと引き込まれました。
一旦ステージから下がり、バラード第4番、舟歌、英雄ポロネーズと演奏が進みましたが、いずれも印象は同様でした。勇壮なイメージの英雄ポロネーズも、スピードアップこそすれ、上品さを保ち、荒れることはありません。
休憩後の後半も同様。マズルカ4曲と幻想曲を続けて演奏し、幻想ポロネーズを演奏して予定のプログラムを〆ましたが、ゆったりと、これでもかというくらいに情感豊かに歌い、心を穏やかにさせ、癒しを与えてくれました。
オール・ショパン・プログラムでしたので、アンコールもショパンかと思ったのですが、リストのコンソレーションが演奏されて驚きました。ゆったりと歌うソフトな音楽にうっとりと聴き入りました。
ここで牛田さんの挨拶があり、さらに愛の夢、献呈、トロイメライとアンコールが続いて、コンサートは終演となりました。
アンコールも含めて、どの曲も同じ印象でした。柔らかく、ゆったりと、情感たっぷりに演奏し、全ての曲が牛田流の味付けがされていました。原曲のこれまでのイメージが一新させられ、新たな魅力を引き出していました。ショパンを聴いたというより、牛田さんを聴いたというべきでしょうか。
ここまでやられると賛否両論が生まれそうですが、大いに楽しませていただきました。刺激的な音は一切排除され、あくまでも美しく響くピアノ。これでもかとゆっくりと歌い上げるメロディ。甘く切なく、心に響き、シロップ漬けされたかのような甘くとろける音楽に酔いしれました。汚れきった私の精神も浄化されるようで、癒しの時間を過ごしました。
プログラムの曲目解説は牛田さん自身が書かれており、各曲に対しての深い解釈、思いが伝わってきました。アンコールでの挨拶で、東ヨーロッパでの社会情勢を考えると、今日のショパン・プログロムを演奏することに葛藤を感じたと話されていました。深い思いの中での演奏であり、それが聴衆の心にも響いてきたものと思います。
不穏な社会情勢に疲れ、傷ついた心に、優しく響く音楽のすばらしさ。牛田さんの魅力を存分に味わい、穏やかな気分でホールを後にしました。
(客席:2階C3-7、¥4000) |