10年間待ち焦がれ、漸く実現したアイスランド交響楽団の来日公演です。実はアイスランド交響楽団は10年前の2008年秋に来日が予定され、新潟でも11月2日に小出郷文化会館で公演が予定されていました。
ペトリ・サカリの指揮で、東京ではシベリウスの交響曲全曲演奏会が注目されていました。小出郷文化会館では、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(Vn:ジョセフ・リン)、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(Pf:アリス=紗良・オット)、シベリウスの交響曲第5番という内容豊富な豪華なプログラムが用意されていて、私も発売開始とともにチケットを購入し、来日記念CD(シベリウス交響曲全集)も買って楽しみにしていました。
しかし、世界的な金融危機の影響を受けたアイスランドは、銀行を事実上国有化し、アイスランド交響楽団の銀行口座も凍結され、費用を引き出せなくなったため、来日困難となって公演は中止されました。
あれから10年、ついに待望の来日公演が実現しました。今回の指揮者は、ロシア出身ながらも妻がアイスランド出身ということで、アイスランド国籍を持ち、同楽団の桂冠指揮者を務めるウラディーミル・アシュケナージです。そして共演者が人気ピアニストの辻井伸行さんというのも注目されます。長岡公演は、11月3日に始まった日本ツアー全12公演の最終公演となります。
今回の日本ツアーは、2番にこだわり、Aプロが、シベリウス: カレリア組曲、ショパン: ピアノ協奏曲第2番、シベリウス:交響曲第2番、Bプロが、セグルビョルンソン:
氷河のノクターン、ラフマニノフ: ピアノ協奏曲第2番、ラフマニノフ:交響曲第2番となっています。個人的にはBプロに魅力を感じますが、Aプロも楽しめそうです。
それにしましても、人口33.8万人で、新潟市の半分にも満たない島国で、北欧を代表する優れたオーケストラがあるというのは驚きです。
アイスランド交響楽団を聴くのはもちろん初めてですが、アシュケナージの指揮を聴くのは2001年7月のフィルハーモニア管弦楽団との共演以来17年ぶりです。
辻井さんは今年の3月のリサイタルを聴いたばかりですので、8か月ぶりということになります。また、7月には長岡で演奏していますので、長岡に限れば4か月ぶりになります。活発な演奏活動には敬服します。
さて、今日はたくさんの公演がこれでもかと重なった特異日となりました。新潟交響楽団、北区フィル、飯田万里子&笠原恒則さん、横田聡子&坂井加納さんなど、聴きたい公演がいくつも重なってしまい、苦渋の選択を迫られました。
悩んだ末にこの公演を選びましたが、気持ちが変わることも想定して、安い席にしておきました。新潟市内ならハシゴもできたのですが、長岡となりますと困難です。結局澤クヮルテットと組み合わせて長岡遠征を最終決断しました。どの公演も賑わいますように・・・。
前置きが長くなってしまいましたが、リリックホールから今年新装なった長岡市立劇場へ移動しました。9月の反田さんのリサイタル以来になります。
長生橋を渡って長岡市立劇場へ。多少の渋滞はありましたが、順調に到着しました。ちょうど開場が始まり、列に並んで私も入場しました。
辻井さん人気で満席かと思っていましたが、S席エリア後方の一角が数十席ブロックごとに空席となっていました。もったいない話です。チケットの売り方に問題がありそうですね。
開演時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待つ東響新潟定期方式ですが、コンミスは最初に入場していました。コンサートマスターは女性であるほか、弦は女性奏者が多かったです。
小柄なアシュケナージさんが登場して「カレリア組曲」で開演しました。ちょっと雑に感じないでもありませんでしたが、良い音を出していました。大太鼓の低音が特に良かったです。おなじみの曲を軽やかに演奏し、前菜とするには濃厚な良い演奏でした。
続いてピアノがセッティングされて、ショパンのピアノ協奏曲第2番です。アシュケナージさんに先導されて辻井さんが入場して開演です。長いオケの序奏の間、体を前後に揺らして集中しているようでした。
ピアノが入るとともに、輝きのある音色に驚きました。クリスタルのように輝く透き通った音。辻井ワールドの始まりです。個人的にはそれほど好きな曲でもないのですが、どんどん演奏に引き込まれました。
第2楽章は感動の涙を誘い、うっとりと聴き入るばかり。そして軽やかにフィナーレへと駆け抜けて、感動のエンディングを迎えました。
81歳の老練の指揮者のサポートを得て、若き天才の創り出す音楽が淀みなく流れ出ました。世代を超えた芸術家による音楽の饗宴。贅沢な時間を過ごせました。
アンコールは「別れの曲」。アシュケナージさんも指揮台に腰掛けて聴いていました。心に染みるいい演奏でした。何度聴いても、辻井さんの音楽は胸に染みますね。
後半はシベリウスの交響曲第2番です。オケの編成は若干大きくなり、コンサートマスターは男性に交代しました。
これはアイスランド交響楽団の良さが良く出ていたのではないでしょうか。管も弦も素晴らしく、特に弦楽アンサンブルの美しさは特筆できましょう。第1楽章の弦の序奏から引き込まれました。
さすが本場もの。意味はないかもしれませんが、国こそ違えど、北欧のオケが演奏する北欧の曲は味わいが格別です。演奏技術という点では日本のオケも負けていませんが、はるばる極北の地から来てくれたと思いますと味わいが違いますね。気分の問題でしょうが、気分というのも大事です。
短い第3楽章からアタッカで第4楽章へ。大きなうねりに乗って、歓喜のファンファーレが奏でられ、感動と興奮のフィナーレを迎えました。
アンコールは「悲しきワルツ」。弦楽アンサンブルの素晴らしさが存分に発揮されました。しみじみとした中に、青白く燃え上がる感動を生み出し終演となりました。
客席から花が贈られ、最後はアシュケナージさんに促されて全員揃っての礼。これで日本ツアーも終わりです。日本全国を巡った団員の皆さん、アシュケナージさん、辻井さん。ご苦労様でした。今夜はゆっくりとお休みください。
附:会場で、2019年11月1日(金)18時30分から、りゅーとぴあで開催されるケント・ナガノ指揮ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートのチラシが配布されました。共演は辻井伸行さんで、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」、ブラームスの交響曲第1番ほかが演奏されます。主催は今日と同じTeNY。楽しみですね。
(客席:29-36、A席:¥12000) |