🧪 演習8-3: 反応後の分離をシミュレートする

〜 CSTR出口を演習7の共沸系精留塔につないでみる 〜

この演習のねらい

演習8のCSTRからは、生成した酢酸エチルと水に加え、未反応の酢酸とエタノールが混じった4成分の液が出てきます。実プラントでは、この出口液をそのまま次の分離工程(多くは蒸留塔)に送ります。この演習では、演習8のCSTR出口組成を演習7で作った共沸系精留塔(水-エタノール系)のフィードとして流用し、「反応→分離」という一連の流れをCOCOの中でつなげてみます。ただし、単純につなぐだけでは狙った分離ができないという壁にぶつかるはずです。その理由を数値で確かめることが、この演習の核心です。

反応器出口の多成分組成を、そのまま蒸留塔のフィードとして扱う手順を身につける
装置間で流量の桁(スケール)をそろえる考え方を理解する
沸点が近い成分同士は単純蒸留だけでは分離できないことを、数値で実感する
「反応→分離」という実プラントの基本構成を、一連のシミュレーションとして体験する

出発点:CSTR出口はどんな液か

演習8-1の基準ケース(フィード10 mol/s、転化率59.05%)の出口組成を振り返ってみましょう。ここに、4成分それぞれの1 atmでの沸点も並べて確認します。

成分出口流量 [mol/s]モル分率沸点(1 atm)
酢酸約 1.638約 16.4%118.1°C
エタノール約 2.638約 26.4%78.4°C
酢酸エチル約 2.362約 23.6%77.1°C
約 3.362約 33.6%100.0°C
この演習の仕掛け:沸点だけを見ると「酢酸エチル(77.1°C)が一番低いから、これだけが真っ先に塔頂に出るはず」と考えたくなりますが、エタノール(78.4°C)との差はわずか1.3°Cしかありません。しかも演習7で見た通り、エタノールと水は78.2°C付近に共沸点を持ちます。つまりこの液は「酢酸エチル・エタノール・水」の3成分が非常に近い温度帯にひしめいた、一筋縄ではいかない混合物です。演習7の水-エタノール2成分系のときと同じ感覚で塔を設計すると、狙った分離ができないはずです。まずは予想を立ててから、実際にCOCOで確かめてみましょう。

スケールをそろえる

演習8のCSTRはフィード10 mol/sで計算しましたが、演習7の共沸系精留塔はフィード1000 mol/s(塔底流量スペック0.5 kmol/s)で設計されています。蒸留塔のような定常分離操作は流量に対してほぼ線形にスケールしますが、CSTRのような反応器は「反応器体積」と「絶対濃度」に転化率が依存するため、装置をまたぐときは単純に数値をそのままコピーできません。ここでは、CSTR出口のモル分率はそのままに、流量だけを100倍して演習7の塔のスケールに合わせます。

成分モル分率(不変)スケール後の流量 [mol/s](×100)
酢酸16.4%163.8
エタノール26.4%263.8
酢酸エチル23.6%236.2
33.6%336.2

合計はおよそ1000 mol/sとなり、演習7の塔のフィード規模とそろいます。

操作手順

Step 1: 演習7のflowsheetを複製する

  1. 演習7(COCO_azeotrope.html)で作成したCOCOファイルを別名で保存し、この演習用のコピーとして開く(塔の段数・還流比などの設定を土台として流用するため)。

Step 2: 物性パッケージ(TEA)に化合物を追加する

  1. Settings(Flowsheet configuration)を開き、Property packsで使っている物性パッケージを編集する。
  2. CompoundsにAcetic acidEthyl acetateを追加し、Water・Ethanolと合わせて4成分にする。
熱力学モデルの見直しが必要:演習7ではEthanol-WaterのペアについてVan Laarの二成分パラメータ(Aij=1.66480, Aji=0.940100)を使いましたが、これは2成分専用に用意された値です。Acetic acidとEthyl acetateを加えると、新しく生まれる成分ペア(例:Acetic acid–Water、Acetic acid–Ethyl acetateなど)のBIPがVan LaarではN/Aのままになります。演習8のCSTRで物性パッケージを組んだときと同じ理由で、ここでもModel setを「UNIFAC VLE」に切り替えるのが簡単です。BIP表を手動で埋める必要がなく、4成分どの組み合わせでも活量係数を計算してくれます。

Step 3: フィードストリームを差し替える

  1. 塔のフィードストリームをダブルクリックして開く。
  2. Total Flow = 1000 mol/s、圧力は演習7と同じ101325 Paのまま。
  3. Composition(mole fraction)を、上の「スケールをそろえる」表の値(Acetic acid 0.164、Ethanol 0.264、Ethyl acetate 0.236、Water 0.336)に置き換える。
  4. 温度は空欄(Bubble point任せ)にするか、演習7にならって既定値のままにしておく。

Step 4: 塔の設定を確認・調整する

  1. 段数・フィード段・還流比など、演習7で使ったColumn(ChemSep)の設定はいったんそのまま残しておく(12段、フィード段9、還流比3)。
  2. ただし塔底流量スペック「0.5 kmol/s」は、演習7の全流量1000 mol/sに対する割合(50%)で決めていた値です。今回もフィード全体は1000 mol/sなので数値自体は流用できますが、今回は4成分系のため「塔底に何を、何%残すか」という意味が演習7とは変わっている点に注意してください。まずはこの値のまま計算し、結果を見てから塔底スペックの意味を考え直すのも良い進め方です。

Step 5: 計算を実行する

  1. ツールバーの▶(Solve)をクリックする。
  2. 収束しない場合は、Step 2のUNIFAC VLEへの切り替えができているか、フィード組成の合計が1.0になっているかを確認する。

演習8-3-1:予想してから確かめる

計算前に予想しよう:塔頂(Distillate)にはどの成分が集まると思いますか? 演習7と同じように「エタノールだけが濃縮される」と予想しますか、それとも沸点の近い酢酸エチルも一緒に出てくると予想しますか? 理由も合わせてノートに書いてから、実際にCOCOを動かして確認しましょう。

計算結果を、下の表に書き込んでみましょう。

成分フィード(モル分率)塔頂 D(モル分率)塔底 W(モル分率)
酢酸0.164記入欄記入欄
エタノール0.264記入欄記入欄
酢酸エチル0.236記入欄記入欄
0.336記入欄記入欄
答え合わせ(実際にCOCOで計算した結果):下の表は、実際にこの条件でCOCOを解いたときのストリーム表(ChemSep画面表示、質量分率)と、それをモル分率に換算した値です。自分の計算結果と見比べてみましょう。
StreamFDWUnit
Pressure101325101325101325Pa
Temperature82.540971.27192.7939°C
Flow rate1000500500mol/s
Mass frac Ethanol0.2489340.294170.170024
Mass frac Water0.1238960.03858880.272709
Mass frac Acetic acid0.201584.45234e-070.553222
Mass frac Ethyl acetate0.4255890.6672410.00404542

ChemSepの画面はデフォルトで質量分率(Mass frac)表示のため、フィードの質量分率が「スケールをそろえる」表のモル分率と一見異なる数値に見えますが、分子量換算で一致しています(例:F の Mass frac Ethyl acetate 0.4256 は、モル分率0.236に対応)。

同じ結果をモル分率に換算すると、下のようになります。

成分フィード(モル分率)塔頂 D(モル分率)塔底 W(モル分率)
酢酸0.164≈ 0(4×10⁻⁷程度)約 0.328
エタノール0.264約 0.397約 0.131
酢酸エチル0.236約 0.470約 0.002
0.336約 0.133約 0.539
演習8-3のCOCOでのシミュレーション結果画面とストリーム表

図 演習8-3のCOCOでの実行結果(12段の塔、フィード段9、還流比3、塔底流量スペック500 mol/s)

考察:なぜきれいに分かれないのか

実際に計算すると、塔頂(D)には酢酸がほぼ検出されない(モル分率で4×10⁻⁷程度)一方、塔頂の主成分はエタノールではなく酢酸エチル(約47.0 mol%)になりました。エタノールは約39.7 mol%、水も約13.3 mol%まで一緒に留出しており、「エタノールだけが濃縮される」という演習7のときのようなきれいな結果にはなっていません。塔底(W)には酢酸(約32.8 mol%)と水(約53.9 mol%)が主体で残り、酢酸エチルはほぼゼロ(約0.2 mol%)まで下がっています。

つまりこの塔は、「酢酸を塔底に締め出す」という意味では機能していますが(酢酸エチル・水・エタノールを塔頂側に押し出せている)、塔頂内部で酢酸エチルとエタノールをさらに分けることには全く成功していません。これは、エタノールと酢酸エチルの沸点差(1.3°C程度)が非常に小さく、両者の相対揮発度が1に近いためです。相対揮発度が1に近い成分どうしは、段数をいくら増やしても、還流比をいくら上げても、単純な蒸留だけでは実用的な純度まで分離するのが難しくなります(演習7で学んだ「共沸点では分離できない」のと似た、しかし少し違うタイプの限界です)。

実際の工業プロセスでは、このような沸点の近い成分の分離に、共沸剤や抽出剤を加えて相対揮発度を人為的に大きくする抽出蒸留や、水を選択的に吸着させるモレキュラーシーブ(吸着分離)といった、単純蒸留以外の技術が使われます。「反応でできた混合物を、蒸留だけで全部きれいに分けられるとは限らない」という感覚を持てたら、この演習は成功です。

発展課題:分離の順序を設計する(思考課題)

この4成分系を、実際のプラントとして分離するとしたら、どのような順序で装置を組み合わせるべきでしょうか。COCOでの計算は必須ではありませんが、次の点をヒントに、自分なりの分離フローを図に描いてみましょう。