〜 CSTR出口を演習7の共沸系精留塔につないでみる 〜
演習8のCSTRからは、生成した酢酸エチルと水に加え、未反応の酢酸とエタノールが混じった4成分の液が出てきます。実プラントでは、この出口液をそのまま次の分離工程(多くは蒸留塔)に送ります。この演習では、演習8のCSTR出口組成を演習7で作った共沸系精留塔(水-エタノール系)のフィードとして流用し、「反応→分離」という一連の流れをCOCOの中でつなげてみます。ただし、単純につなぐだけでは狙った分離ができないという壁にぶつかるはずです。その理由を数値で確かめることが、この演習の核心です。
演習8-1の基準ケース(フィード10 mol/s、転化率59.05%)の出口組成を振り返ってみましょう。ここに、4成分それぞれの1 atmでの沸点も並べて確認します。
| 成分 | 出口流量 [mol/s] | モル分率 | 沸点(1 atm) |
|---|---|---|---|
| 酢酸 | 約 1.638 | 約 16.4% | 118.1°C |
| エタノール | 約 2.638 | 約 26.4% | 78.4°C |
| 酢酸エチル | 約 2.362 | 約 23.6% | 77.1°C |
| 水 | 約 3.362 | 約 33.6% | 100.0°C |
演習8のCSTRはフィード10 mol/sで計算しましたが、演習7の共沸系精留塔はフィード1000 mol/s(塔底流量スペック0.5 kmol/s)で設計されています。蒸留塔のような定常分離操作は流量に対してほぼ線形にスケールしますが、CSTRのような反応器は「反応器体積」と「絶対濃度」に転化率が依存するため、装置をまたぐときは単純に数値をそのままコピーできません。ここでは、CSTR出口のモル分率はそのままに、流量だけを100倍して演習7の塔のスケールに合わせます。
| 成分 | モル分率(不変) | スケール後の流量 [mol/s](×100) |
|---|---|---|
| 酢酸 | 16.4% | 163.8 |
| エタノール | 26.4% | 263.8 |
| 酢酸エチル | 23.6% | 236.2 |
| 水 | 33.6% | 336.2 |
合計はおよそ1000 mol/sとなり、演習7の塔のフィード規模とそろいます。
計算結果を、下の表に書き込んでみましょう。
| 成分 | フィード(モル分率) | 塔頂 D(モル分率) | 塔底 W(モル分率) |
|---|---|---|---|
| 酢酸 | 0.164 | 記入欄 | 記入欄 |
| エタノール | 0.264 | 記入欄 | 記入欄 |
| 酢酸エチル | 0.236 | 記入欄 | 記入欄 |
| 水 | 0.336 | 記入欄 | 記入欄 |
| Stream | F | D | W | Unit |
|---|---|---|---|---|
| Pressure | 101325 | 101325 | 101325 | Pa |
| Temperature | 82.5409 | 71.271 | 92.7939 | °C |
| Flow rate | 1000 | 500 | 500 | mol/s |
| Mass frac Ethanol | 0.248934 | 0.29417 | 0.170024 | — |
| Mass frac Water | 0.123896 | 0.0385888 | 0.272709 | — |
| Mass frac Acetic acid | 0.20158 | 4.45234e-07 | 0.553222 | — |
| Mass frac Ethyl acetate | 0.425589 | 0.667241 | 0.00404542 | — |
ChemSepの画面はデフォルトで質量分率(Mass frac)表示のため、フィードの質量分率が「スケールをそろえる」表のモル分率と一見異なる数値に見えますが、分子量換算で一致しています(例:F の Mass frac Ethyl acetate 0.4256 は、モル分率0.236に対応)。
同じ結果をモル分率に換算すると、下のようになります。
| 成分 | フィード(モル分率) | 塔頂 D(モル分率) | 塔底 W(モル分率) |
|---|---|---|---|
| 酢酸 | 0.164 | ≈ 0(4×10⁻⁷程度) | 約 0.328 |
| エタノール | 0.264 | 約 0.397 | 約 0.131 |
| 酢酸エチル | 0.236 | 約 0.470 | 約 0.002 |
| 水 | 0.336 | 約 0.133 | 約 0.539 |
図 演習8-3のCOCOでの実行結果(12段の塔、フィード段9、還流比3、塔底流量スペック500 mol/s)
実際に計算すると、塔頂(D)には酢酸がほぼ検出されない(モル分率で4×10⁻⁷程度)一方、塔頂の主成分はエタノールではなく酢酸エチル(約47.0 mol%)になりました。エタノールは約39.7 mol%、水も約13.3 mol%まで一緒に留出しており、「エタノールだけが濃縮される」という演習7のときのようなきれいな結果にはなっていません。塔底(W)には酢酸(約32.8 mol%)と水(約53.9 mol%)が主体で残り、酢酸エチルはほぼゼロ(約0.2 mol%)まで下がっています。
つまりこの塔は、「酢酸を塔底に締め出す」という意味では機能していますが(酢酸エチル・水・エタノールを塔頂側に押し出せている)、塔頂内部で酢酸エチルとエタノールをさらに分けることには全く成功していません。これは、エタノールと酢酸エチルの沸点差(1.3°C程度)が非常に小さく、両者の相対揮発度が1に近いためです。相対揮発度が1に近い成分どうしは、段数をいくら増やしても、還流比をいくら上げても、単純な蒸留だけでは実用的な純度まで分離するのが難しくなります(演習7で学んだ「共沸点では分離できない」のと似た、しかし少し違うタイプの限界です)。
実際の工業プロセスでは、このような沸点の近い成分の分離に、共沸剤や抽出剤を加えて相対揮発度を人為的に大きくする抽出蒸留や、水を選択的に吸着させるモレキュラーシーブ(吸着分離)といった、単純蒸留以外の技術が使われます。「反応でできた混合物を、蒸留だけで全部きれいに分けられるとは限らない」という感覚を持てたら、この演習は成功です。
この4成分系を、実際のプラントとして分離するとしたら、どのような順序で装置を組み合わせるべきでしょうか。COCOでの計算は必須ではありませんが、次の点をヒントに、自分なりの分離フローを図に描いてみましょう。