この演習について
工場では、プロセスの途中で出てくる高温の流れ(例:反応後の熱いガスや蒸留塔から出てくる高温の液)を、そのまま冷却して捨てるのではなく、これから加熱したい別の流れの予熱に使うことがよくあります。これを熱回収(Heat Recovery)と呼び、燃料費の削減に直結する、プラント設計で非常に重視される考え方です。
COCOのHeat Exchanger(熱交換器)ユニットは、2本の流れの間で熱をやり取りする計算をしてくれます。3-5. 熱量計算を検証する演習のHeaterが1本の流れだけを扱ったのに対し、今回は高温側が冷える分だけ低温側が温まる、というエネルギー保存の関係を確認します。
✅ この演習で確認すること
高温側の水(80°C)と低温側の水(20°C)を同じ流量で熱交換させたとき、高温側が下がった温度の分だけ、低温側がちょうど同じだけ上がることをCOCOで確かめる。
手計算で先に予測してみよう
熱交換器全体では外部と熱のやり取りをしない(断熱)と仮定するため、高温側が失った熱量と低温側が得た熱量は等しくなります。
📐 エネルギー保存の関係
nhot × Cp × (Thot,in − Thot,out) = ncold × Cp × (Tcold,out − Tcold,in)
今回は高温側・低温側とも水で流量が同じ(nhot = ncold)なので、Cpも同じなら式は単純化され、高温側が下がった温度分だけ、低温側が同じだけ上がるという関係になります。高温側の出口温度を310.15 K(37°C)に指定した場合、低温側の出口温度が何Kになるか、先に計算してみよう。
結果の数値(答え合わせ用)
| 項目 |
高温側 入口 |
高温側 出口 |
低温側 入口 |
低温側 出口 |
| 流量 [mol/s] |
20.0 |
20.0 |
20.0 |
20.0 |
| 温度 [K] |
353.15(80°C) |
310.15(指定値) |
293.15(20°C) |
予測 → COCOで確認 |
| 圧力 [Pa] |
101325 |
101325 |
101325 |
101325 |
高温側は353.15−310.15 = 43.00 K下がる。流量とCpが同じなら、低温側は293.15+43.00 = 336.15 K(63°C)まで上がると予測できる。単位はmol/s・K・Paです。変更したい場合はCOCOの単位設定を変更するを参照してください。
COCO(COFE)操作手順
Step 1: 新規フローシートを開く
- COFEを起動し、
File > New で新規フローシートを作成する。
Step 2: 物性パッケージを設定する
- COFEウィンドウ左側のSettingsボタン → Flowsheet Configuration → 「Property packs」タブ → Add。Select Thermo Pack or Prop...ウィンドウが開く。
- 一覧からWaterを選択してSelectをクリックする。
💡 TEA/NRTLではなく専用パッケージを使う
今回は高温側・低温側とも水1成分だけを扱うため、COCOに標準搭載されている「Water」スタンドアロン物性パッケージ(IAPWS-97という水・水蒸気専用の工業規格に基づく)を使います。TEAのようにThermodynamic model setを選んだり成分を追加したりする操作は不要です。「Water」自体がすでに水専用のパッケージだからです。
Step 3: Heat Exchangerユニットを配置する
InsertメニューからUnit Operationを選ぶ。Select Unit Operationウィンドウが開く。
- 一覧からHeat Exchangerを選択する。フローシート上をクリックして配置する。Heat Exchangerは入口2本・出口2本を持つユニットで、入口1は出口1に、入口2は出口2にそれぞれ対応している。
Step 4: ストリームを接続する
InsertメニューからStreamを選ぶ(またはCtrl+I)。マウスカーソルが+に変わることを確認する。
- Heat Exchangerのアイコンにカーソルを重ねると、複数の接続点(入口1・入口2・出口1・出口2)がハイライトされる。高温側の入口(Inlet 1)にフィードを接続する。
- 同様に、低温側の入口(Inlet 2)に2本目のフィードを接続する。
- 出口1・出口2にもそれぞれ製品ストリームを接続する。入口1に対応する出口1が高温側の出口、入口2に対応する出口2が低温側の出口になる。
⚠️ どちらの入口がどちらの出口に対応するか注意
Heat Exchangerは「入口1↔出口1」「入口2↔出口2」という対応関係が固定されています。高温側のつもりで繋いだのに低温側の入口に接続していた、ということがないよう、接続時にどちらのポートに繋いでいるかをよく確認しましょう。
Step 5: 高温側・低温側フィードの条件を入力する
- 高温側フィード(Inlet 1)を右クリックしてEdit/viewを選ぶ。Temperature = 353.15 K、Pressure = 101325 Pa、Total Flow = 20.0 mol/s、Composition はWater 1.0を入力する。
- 低温側フィード(Inlet 2)も同様に設定する。Temperature = 293.15 K、その他の条件は高温側と同じでよい。
Step 6: Heat Exchangerの運転条件を指定する
- Heat Exchangerユニットを右クリックしてEdit/viewを選ぶ。ダイアログ上部のHeat exchangerタブをクリックする(General・Report・Heat exchanger・Solve options・Portsというタブが並んでいる)。
- TypeドロップダウンがTemperatureになっていることを確認する。
- Temperature欄に310.15(K)を入力する(高温側の出口温度として扱う)。
- co-current (parallel flow) / counter-currentのラジオボタンはどちらを選んでもよい(counter-currentを推奨。温度をこの方式で直接指定する場合、出口温度の計算結果自体はどちらを選んでも変わらないが、下部レポートに表示される必要な熱通過係数(UA相当値)の値は並流・向流で異なる)。
- Pressure dropは stream 1・stream 2 とも0 Paのままにしておく(圧力損失は今回考慮しない)。
⚠️ 表示が資料と異なる場合
実際の画面では、高温側・低温側どちらの出口温度を指定する項目なのかが名称からは分かりにくいことがあります。入力後にSolveした結果、意図と違う側の温度が固定されているようであれば、逆側のケース(低温側の出口温度を指定する)に読み替えてください。
Step 7: 計算を実行する
- ツールバーの▶(Solve/Run)をクリック、または
Flowsheet > Solve。
- 収束すると各ストリーム・ユニットのアイコンが緑になる。
Step 8: 結果を確認する
- 低温側の出口ストリームをダブルクリックし、Temperatureが約336.15 K(63°C)になっていることを確認する。
- 手計算での予測と一致しているか照らし合わせる。
図:COCOでの実行結果
発展:向流(Countercurrent)と並流(Cocurrent)を比較する
実際の工業用熱交換器は、ほとんどが向流(Countercurrent)で設計されています。COCOのHeat ExchangerユニットのHeat exchangerタブには、co-current(parallel flow) / counter-current を選ぶラジオボタンが常に表示されています。ここでは、Typeを Max. heat transfer(最大熱交換) に切り替えて、この違いを体感してみましょう。
✅ この発展課題で確認すること
並流では、低温側の出口温度は高温側の出口温度を絶対に超えられない(2つの温度が同じ値に近づいていくだけ)。ところが向流では、低温側の出口温度が高温側の出口温度を追い越す「温度交差」が起こる。この決定的な違いをCOCOで確認します。
💡 実験の前に:低温側の流量を変更します
高温側と低温側の流量が同じままだと、どちらの流れ方でもぴったり中間の 323.15 K(50°C)までしか変化せず、温度交差が起きません。向流の強みを確認するために、まずはフローシート上で 低温側フィード(Inlet 2)の Total Flow を 20.0 mol/s から 10.0 mol/s(半分)に変更 してください。
📐 なぜそうなるのか(考え方)
並流は高温側・低温側が同じ方向に流れるため、どれだけ伝熱面積を広げて最大まで熱交換(Max. heat transfer)させても、出口ではお互いに歩み寄った同じ温度(約 333 K)になるのが限界です。一方、向流は互いに逆方向に流れるため、低温側の出口が高温側の入口(353.15 K)に近づくことができます。「少ない水量を、倍の熱量を持つお湯で温める」状態にすることで、向流のときだけ低温側が出口で高温側を綺麗に追い越す現象(温度交差)を再現できます。
Step 1: Typeを「Max. heat transfer」に切り替える
- Heat Exchangerユニットを右クリックして Edit/view を選び、Heat exchanger タブを開く。
- Type ドロップダウンから Max. heat transfer を選ぶ。
Step 2: 並流(co-current)で計算し、結果を記録する
- co-current (parallel flow) のラジオボタンを選ぶ。
- ツールバーの ▶(Solve/Run)をクリックする。
- 高温側・出口(stream 1)と低温側・出口(stream 2)の温度を確認して下の表に記録する。両方の出口温度が同じ値(約 333.15 K)に近づき、追い越せないことが確認できます。
Step 3: 向流(counter-current)に切り替えて再計算する
- 再びユニットのEdit画面で、counter-current のラジオボタンに切り替える。
- 再度 Solve を実行する。
- 高温側・出口と低温側・出口の温度を確認して記録する。高温側が出口で約 323 K まで冷やされているのに対し、低温側は 約 353 K まで温まり、高温側の出口温度を追い越す(温度交差する) 様子が確認できます。
図:COCOでの実行結果
| 流れ方式 |
高温側 出口温度 [K] |
低温側 出口温度 [K] |
温度交差は起きたか |
| 並流(Cocurrent) |
記入する(目安:約333 K) |
記入する(目安:約333 K) |
記入する(起きない) |
| 向流(Countercurrent) |
記入する(目安:約323 K) |
記入する(目安:約353 K) |
記入する(起きる!) |
考察のヒント
- 並流では、どれだけ巨大な熱交換器(面積無限大)を使っても、低温側の出口温度が高温側の出口温度を超えることは原理的にありません。なぜそう言えるか、温度差が伝熱の駆動力になっていることから説明してみよう。
- 向流にすると「低温側の出口」が「高温側の入口(一番熱い部分)」と熱交換できるため、高温側の出口温度を追い越すことができます。工場の熱回収プラントで向流が圧倒的に採用される理由を、エネルギーの回収効率の面から考えてみよう。