「なぜ分離できるのか」を、数値とCOCOシミュレーターの両方で確かめる
COCO(COFE)を使って、水とエタノールの混合液を1回だけ加熱・蒸発させる「フラッシュ蒸留」を計算します。フィードはエタノール20 mol%の液体ですが、発生した蒸気側は約51 mol%まで濃縮されます。この「同じ温度・同じ圧力なのに、蒸気の方が成分の濃さが違う」という事実こそが、蒸留という分離操作の正体です。
フィード20% → 蒸気側は約51%まで濃縮される。これを自分の手でCOCOに計算させて確認する。
| 項目 | フィード F | 蒸気 V | 液 L |
|---|---|---|---|
| 流量 [mol/s] | 27.8 | 約 2.75 | 約 25.0 |
| エタノール モル分率 | 0.200 | 0.509 | 0.166 |
| 水 モル分率 | 0.800 | 0.491 | 0.834 |
| 温度 [K] | 298.15(供給時) | 357.25(参考値) | 357.25(参考値) |
| 圧力 [Pa] | 101325 | 101325 | 101325 |
COCOでは流量はmol/s、温度はK、圧力はPaで入力します(参考:27.8 mol/s ≈ 100 kmol/h、298.15 K = 25°C、101325 Pa = 1 atm)。蒸気側の357.25 Kは計算結果の目安値で、実際にCOCOが解いた値とは小数点以下で多少ずれることがあります。単位をkmol/hや°Cなど使い慣れた単位に変更したい場合はCOCOの単位設定を変更するを参照してください。
エタノールのモル分率をバーの長さで比較。蒸気側だけが元のフィードより明らかに濃くなっていることに注目。
K値:K(エタノール) = 0.509 ÷ 0.166 ≈ 3.07 K(水) = 0.491 ÷ 0.834 ≈ 0.59
相対揮発度 α(エタノール/水) ≈ 5.2 → エタノールは水よりずっと蒸気に移りやすい
水とエタノールは、約89 mol%エタノール・351.35 K(78.2°C、1 atm)で共沸混合物を作る非理想系です。理想溶液(ラウールの法則だけ)ではこの挙動は再現できないため、「なぜ分離できるのか」を説明する教材として最適です。フィード組成20 mol%はビールやワインの粗留に近い値で生徒にもイメージしやすく、357.25 K付近は水の沸点373.15 K(100°C)とエタノールの沸点351.15 K(78°C)のちょうど中間にあたるため、「両方が沸いている状態=気液平衡」というフラッシュ蒸留の本質を説明しやすい条件です。
File > New で新規フローシートを作成する。Thermodynamic model setをIdeal(理想溶液系)のままにすると共沸挙動が再現されず、「なぜ分離できるのか」の面白さが消えてしまいます。必ずNRTLを選択してください。二成分パラメータ(エタノール-水)は標準搭載されているため、追加の取得作業は不要です。
Insertメニュー(またはツールバーのユニット操作挿入ボタン)からUnit Operationを選ぶ。Select Unit Operationウィンドウが開く。InsertメニューからStreamを選ぶ(またはストリーム挿入ボタンをクリック、もしくはCtrl+I)。マウスカーソルが+(クロスヘア)に変わることを確認する。クリックした位置がFlashのアイコンぴったりの上でないと、接続点はハイライトされず、ただの浮いた線になる。対処法:(1) 先にFlashのアイコンにゆっくりマウスを近づけ、ハイライトが表示される位置を確認してからクリックする。(2) それでも見つけにくい場合はズームインしてアイコンを大きく表示する。(3) 一度浮いた線ができてしまった場合は、その端点をドラッグしてFlashのアイコンの上まで持っていき、ハイライトが出たところで放すと後から接続できる。
この教材の357.25 K(84.1°C)という数値は文献値に基づく目安であり、COCO内部のNRTLパラメータとは小数点以下で一致しません。Temperatureを357.25 Kのように直接指定すると、実際の(液相の)沸点よりわずかに低い(=まだ全量液体で気相が存在しない)条件になってしまうことがあり、その場合Vaporストリームは気相が存在しないため便宜的にフィードと同じ組成(0.2)を表示してしまいます。Vapor Fraction(気化率)とPressureを指定し、温度はCOCOに解かせる方式なら、パラメータの違いに関わらず必ず気液二相の分離結果が得られます。計算後の温度はおおよそ357 K付近になるはずなので、大きくずれる場合は入力ミスを疑ってください。
Flowsheet > Solve。Plot > TX Plotを選択する(Binary Plotのショートカット版で、組成に対する温度-組成図を自動で描いてくれる)。
図:COCOでの出力結果
生徒に確認させるポイント:
今回のフラッシュ計算(x≈0.166、y≈0.509、T≈357.25 K は目安値)を線図上に照らし合わせ、「1回のフラッシュはこの線図上の水平線(タイライン)1本に対応している」ことを説明すると、蒸留塔(タイラインの積み重ね)への橋渡しになる。
→ 一部が蒸発し、気体と液体が共存する状態になる。
→ 予想させてから計算結果0.509を見せる。
→ エタノールの方が沸点が低い=蒸気圧が高い=K値が水よりずっと大きい(3.07対0.59)ため、蒸気に移りやすい。
→ さらに濃縮される。これが多段蒸留(蒸留塔)の考え方につながる。
上記のK値・組成の関係は、水-エタノール系の気液平衡データ(101325 PaにおけるT-x-yデータ、NRTLモデルで再現される標準的な挙動)に基づく代表値です。COCOの計算結果は使用するNRTLパラメータのデータベースバージョンにより小数点以下1桁程度前後する場合がありますが、「フィード20% → 蒸気50%前後まで濃縮」という定性的な結論は変わりません。実機での数値確認を行う際は、この資料の数値を「予想値」として提示し、COCOでの計算結果と照合させる形にすると探究的な授業になります。