🧪 3-1. 水-エタノールのフラッシュ蒸留演習

「なぜ分離できるのか」を、数値とCOCOシミュレーターの両方で確かめる

この演習について

COCO(COFE)を使って、水とエタノールの混合液を1回だけ加熱・蒸発させる「フラッシュ蒸留」を計算します。フィードはエタノール20 mol%の液体ですが、発生した蒸気側は約51 mol%まで濃縮されます。この「同じ温度・同じ圧力なのに、蒸気の方が成分の濃さが違う」という事実こそが、蒸留という分離操作の正体です。

✅ この演習で確認すること

フィード20% → 蒸気側は約51%まで濃縮される。これを自分の手でCOCOに計算させて確認する。

結果の数値(先に答えを見ておく)

項目 フィード F 蒸気 V 液 L
流量 [mol/s] 27.8 約 2.75 約 25.0
エタノール モル分率 0.200 0.509 0.166
水 モル分率 0.800 0.491 0.834
温度 [K] 298.15(供給時) 357.25(参考値) 357.25(参考値)
圧力 [Pa] 101325 101325 101325

COCOでは流量はmol/s、温度はK、圧力はPaで入力します(参考:27.8 mol/s ≈ 100 kmol/h、298.15 K = 25°C、101325 Pa = 1 atm)。蒸気側の357.25 Kは計算結果の目安値で、実際にCOCOが解いた値とは小数点以下で多少ずれることがあります。単位をkmol/hや°Cなど使い慣れた単位に変更したい場合はCOCOの単位設定を変更するを参照してください。

フィード
20.0%
蒸気側
50.9%
液側
16.6%

エタノールのモル分率をバーの長さで比較。蒸気側だけが元のフィードより明らかに濃くなっていることに注目。

💡 数値の意味

K値:K(エタノール) = 0.509 ÷ 0.166 ≈ 3.07  K(水) = 0.491 ÷ 0.834 ≈ 0.59

相対揮発度 α(エタノール/水) ≈ 5.2 → エタノールは水よりずっと蒸気に移りやすい

なぜこの系・この数値を選ぶか

水とエタノールは、約89 mol%エタノール・351.35 K(78.2°C、1 atm)で共沸混合物を作る非理想系です。理想溶液(ラウールの法則だけ)ではこの挙動は再現できないため、「なぜ分離できるのか」を説明する教材として最適です。フィード組成20 mol%はビールやワインの粗留に近い値で生徒にもイメージしやすく、357.25 K付近は水の沸点373.15 K(100°C)とエタノールの沸点351.15 K(78°C)のちょうど中間にあたるため、「両方が沸いている状態=気液平衡」というフラッシュ蒸留の本質を説明しやすい条件です。

COCO(COFE)操作手順

Step 1: 新規フローシートを開く

  1. COFEを起動する。
  2. File > New で新規フローシートを作成する。

Step 2: 熱力学モデルを設定する(最重要)

  1. COFEウィンドウ左側にあるSettingsボタンをクリックする。Flowsheet Configurationウィンドウが開く。
  2. 「Property packs」タブが選択されていることを確認し、Addをクリックする。Select Thermo Pack or Prop...ウィンドウが開く。
  3. TEAを選択してSelectをクリックする。
  4. Property pack from TEA Property Pack...ウィンドウが開くのでNewをクリックする。
  5. Property pack definitionウィンドウが開く。名前(例:EtOH-Water)を入力し、Thermodynamic model setのドロップダウンからNRTLを選択する。
  6. Addをクリックして化合物を追加する。WaterEthanolを検索して追加する。
  7. ウィンドウを閉じてフローシートに戻る。

⚠️ 注意

Thermodynamic model setをIdeal(理想溶液系)のままにすると共沸挙動が再現されず、「なぜ分離できるのか」の面白さが消えてしまいます。必ずNRTLを選択してください。二成分パラメータ(エタノール-水)は標準搭載されているため、追加の取得作業は不要です。

Step 3: Flashユニットを配置する

  1. Insertメニュー(またはツールバーのユニット操作挿入ボタン)からUnit Operationを選ぶ。Select Unit Operationウィンドウが開く。
  2. Separators > Flashを選択する。フローシート上をクリックしてFlash(二相分離器)を配置する。

Step 4: ストリームを接続する

  1. InsertメニューからStreamを選ぶ(またはストリーム挿入ボタンをクリック、もしくはCtrl+I)。マウスカーソルが+(クロスヘア)に変わることを確認する。
  2. フローシート上の何もない場所をクリックして始点を決める。
  3. マウスをFlashのアイコンの上まで動かす。アイコンに重なると、一番近い接続点(インレット)が小さくハイライト表示される。このハイライトが出ている状態でクリックすると、そこにストリームが接続される。ハイライトが出る前にクリックしてしまうと、ただの線が引かれるだけで接続されない。
  4. 再度ストリーム挿入ボタンをクリックし、Flashのアイコン上部(vapor outlet側)にカーソルを重ねてハイライトが出た位置でクリックする。「vapor outletにするか」を聞かれるので「はい」を選ぶ。
  5. 同様の操作でFlash下部(liquid outlet側)から液ストリームを接続する。

⚠️ 線は引けるが接続されないとき

クリックした位置がFlashのアイコンぴったりの上でないと、接続点はハイライトされず、ただの浮いた線になる。対処法:(1) 先にFlashのアイコンにゆっくりマウスを近づけ、ハイライトが表示される位置を確認してからクリックする。(2) それでも見つけにくい場合はズームインしてアイコンを大きく表示する。(3) 一度浮いた線ができてしまった場合は、その端点をドラッグしてFlashのアイコンの上まで持っていき、ハイライトが出たところで放すと後から接続できる。

Step 5: フィードストリームの条件を入力する

  1. フィードストリームを右クリックし、Edit/viewを選ぶ(ダブルクリックでも開く)。
  2. 条件を入力する:Temperature = 298.15 K、Pressure = 101325 Pa、Total Flow = 27.8 mol/s、Composition(mole fraction)はEthanol 0.20、Water 0.80。COCOの入力欄は流量がmol/s、温度がK、圧力がPa単位である点に注意(単位の変更方法はこちら)。

Step 6: Flashの運転条件を指定する

  1. Flashユニットを右クリックし、Edit/viewを選ぶ(ダブルクリックでも開く)。ユニット操作のプロパティウィンドウが開き、Editページにパラメータの一覧が表示される。
  2. パラメータ一覧の中からPressureをクリックして101325 Paを入力する。同様にVapor Fractionをクリックして0.10を入力する(Temperatureは空欄のままにしておく)。灰色表示のパラメータは計算結果であり編集できない点に注意。

⚠️ なぜ温度を直接指定しないのか

この教材の357.25 K(84.1°C)という数値は文献値に基づく目安であり、COCO内部のNRTLパラメータとは小数点以下で一致しません。Temperatureを357.25 Kのように直接指定すると、実際の(液相の)沸点よりわずかに低い(=まだ全量液体で気相が存在しない)条件になってしまうことがあり、その場合Vaporストリームは気相が存在しないため便宜的にフィードと同じ組成(0.2)を表示してしまいます。Vapor Fraction(気化率)とPressureを指定し、温度はCOCOに解かせる方式なら、パラメータの違いに関わらず必ず気液二相の分離結果が得られます。計算後の温度はおおよそ357 K付近になるはずなので、大きくずれる場合は入力ミスを疑ってください。

Step 7: 計算を実行する

  1. ツールバーの▶(Solve/Run)をクリック、またはFlowsheet > Solve
  2. 収束すると各ストリームのアイコンが緑(Converged)になる。

Step 8: 結果を確認する

  1. Vaporストリームをダブルクリックし、Compositionタブでエタノールが約0.51になっていることを確認する(Temperatureはおおよそ357 K付近になっているはず)。
  2. Liquidストリームをダブルクリックし、エタノールが約0.17になっていることを確認する。
  3. フィード0.20 → 蒸気0.509(約2.5倍に濃縮)、液0.166(濃度が下がる)という対比を確認する。

発展:T-x-y線図で共沸まで見せる

  1. プロットの基準となるストリームが1本以上フローシート上に必要(Feedストリームをそのまま使ってよい)。
  2. メニューのPlot > TX Plotを選択する(Binary Plotのショートカット版で、組成に対する温度-組成図を自動で描いてくれる)。
  3. 系列(Series)の設定ウィンドウで、参照するStreamにFeedを選ぶ。
  4. OKをクリックすると、横軸に組成(mole fraction)、縦軸に温度(K)をとった液相の沸点曲線気相の露点曲線、すなわちT-x-y線図が自動で描画される。

図:COCOでの出力結果

生徒に確認させるポイント:

今回のフラッシュ計算(x≈0.166、y≈0.509、T≈357.25 K は目安値)を線図上に照らし合わせ、「1回のフラッシュはこの線図上の水平線(タイライン)1本に対応している」ことを説明すると、蒸留塔(タイラインの積み重ね)への橋渡しになる。

授業でのトーク例

Q1. フィードはエタノール20%の液体です。これを357.25 K(84.1°C)・101325 Pa(1気圧)で加熱すると何が起きる?

→ 一部が蒸発し、気体と液体が共存する状態になる。

Q2. 蒸発した蒸気を集めたら、エタノール濃度は何%になると思う?

→ 予想させてから計算結果0.509を見せる。

Q3. なぜ蒸気の方がエタノールが多いのか?

→ エタノールの方が沸点が低い=蒸気圧が高い=K値が水よりずっと大きい(3.07対0.59)ため、蒸気に移りやすい。

Q4. この蒸気をもう一度同じように冷やして再加熱したら?

→ さらに濃縮される。これが多段蒸留(蒸留塔)の考え方につながる。

補足

上記のK値・組成の関係は、水-エタノール系の気液平衡データ(101325 PaにおけるT-x-yデータ、NRTLモデルで再現される標準的な挙動)に基づく代表値です。COCOの計算結果は使用するNRTLパラメータのデータベースバージョンにより小数点以下1桁程度前後する場合がありますが、「フィード20% → 蒸気50%前後まで濃縮」という定性的な結論は変わりません。実機での数値確認を行う際は、この資料の数値を「予想値」として提示し、COCOでの計算結果と照合させる形にすると探究的な授業になります。