1段の気液平衡(フラッシュ)から、12段の精留塔へ ― 純度を「作り込む」感覚をCOCOで確かめる
演習1では「1回だけ加熱・蒸発させる」フラッシュ蒸留を扱い、フィード20 mol%が蒸気側で約51 mol%まで濃縮されることを確認しました。今回はその発展として、12段の平衡段を積み重ねた精留塔(COCOのColumn(ChemSep)ユニット)を使い、メタノール50 wt%のフィードから塔頂98.4 wt%・塔底はほぼ純水(0.14 wt%)という分離を作り込みます。
フィード(メタノール約36 mol%)を12段の塔に通すと、還流比3・フィード全体のうち63%を塔底側に回収する条件で、塔頂は約97.2 mol%(98.4 wt%)まで濃縮され、塔底はメタノールが約0.08 mol%(0.14 wt%)まで下がる。段数を積み重ね、塔底への回収割合を調整することで、フラッシュ1回では届かなかった高純度に到達できることを確認する。
| 項目 | フィード F | 留出 D(塔頂) | 缶出 W(塔底) |
|---|---|---|---|
| 流量 [mol/s] | 約 0.181 | 約 0.0669 | 約 0.1138 |
| 流量 [kg/h] | 15.0 | 7.61 | 7.39 |
| メタノール モル分率 | 0.360 | 0.972 | 約 0.0008 |
| 水 モル分率 | 0.640 | 0.028 | 約 0.9992 |
| 重量分率 | 50.0 wt% | 98.4 wt% | 0.14 wt% |
| 温度 | 86.77°C(供給時) | 66.90°C | 100.37°C |
| 圧力 [Pa] | 101325 | 101325 | 101325 |
フィードの流量・組成・圧力はChemSepのFeedストリーム編集画面(Stream > Connections > Overall)に実際に入力した値(流量15 kg/h、圧力101325 Pa、モル分率Methanol 0.36/Water 0.64)です。温度はバブルポイント条件相当の86.77°Cでした。留出(D)・缶出(W)はSolve後のストリーム一覧表に表示された実測値(D:7.61444 kg/h、Mass frac Methanol 0.983864、66.9046°C/W:7.38556 kg/h、Mass frac Methanol 0.00137408、100.365°C)を、モル分率・mol/sに換算したものです。
メタノールのモル分率をバーの長さで比較。フラッシュ1回(演習1)では蒸気側が約51%止まりだったのに対し、12段の精留塔では97.2%まで濃縮が進み、塔底側はほぼ0%(実質メタノールをほとんど含まない)まで下がることに注目。
演習1で扱った水-エタノール系は約89 mol%エタノールで共沸点を持ち、普通の蒸留ではそれ以上濃縮できませんでした。一方、メタノール-水系は常圧で共沸点を作らない非共沸系です。そのため理論上は段数と還流比を増やせばいくらでも純度を上げられます。今回の12段・還流比3という条件は、「共沸の壁がない系では、段数を積み重ねることで狙った純度まで作り込める」という精留塔の基本を体感させるのに適した設定です。
フィード濃度50 wt%は、化学工業での粗メタノール精製や実験室スケールの回収工程に近い値で、塔頂98.4 wt%・塔底はほぼ純水という結果も、教材として「共沸の壁がなければどこまで分離が進むか」を実感させる現実的な数値です。
File > New で新規フローシートを作成する。Insertメニュー(またはユニット操作挿入ボタン)からUnit Operationを選ぶ。COCOのバージョンによってUnit Operation一覧でのカテゴリ表記が異なることがあります。お手元の環境で実際に選んだカテゴリ名・項目名に読み替えてご利用ください。
演習1のFlashユニットではCOCOのFlowsheet Configuration(Settings)でフローシート全体の活量係数モデルとしてNRTLを設定しましたが、今回のChemSepカラムユニットでは自分自身の設定画面(Properties > Thermodynamics)の中で個別に指定し、活量係数モデルにはWilsonを使います。フローシート全体のProperty packとは別枠になっている点、モデルの種類が異なる点の両方に注意してください。
ChemSepの画面構成はバージョンによって多少異なることがあります。お手元の環境で実際の画面に読み替えてご利用ください。
Insert > Stream(Ctrl+I)を使い、フィードストリーム(F)をカラムのフィード段(6段目)に接続する。塔底側のストリームはデフォルトでWという名前になります(Bottomsの意味ですが、表示上はWです)。以降の説明でも塔底ストリームはWと表記します。
演習1のFlashユニットでは温度をK、流量をmol/sで入力しましたが、ChemSepのストリーム編集画面ではデフォルトで温度は°C、流量はkg/hで表示・入力する点が異なります。同じCOCO上でもユニットによって既定の単位系が違うので、入力のたびに単位欄を確認する習慣をつけてください。
この演習で生徒が実際に触る数値は、フィード条件(流量・組成・圧力)・理論段数・フィード段・還流比・塔底への回収割合(Fraction of combined feeds recovered)の5つです。この5つを入れて計算を回すと、留出(D)は98.4 wt%、缶出(W)は0.14 wt%という高い純度の分離が得られます。
これは組成の目標値ではなく、フィード全体(モルベース)のうち何割を塔底側に回収するかという分割比の指定です。今回の0.63という値は、フィードの63%を塔底(W)へ、残り37%を塔頂(D)へ向かわせる設定です。塔頂から取り出す量を絞り込むことで、その中身(純度)を濃くしています。塔頂・塔底の実際の純度(wt%)は、この分割比・段数・還流比・フィード組成から結果として決まる値であり、直接指定しているわけではありません。
実行前にF・D・Wを横に並べた表を用意しておくと、Solveした瞬間にD・WのN/Aが実際の数値に置き換わり、フィードに対して留出・缶出がどう変化したかを一目で比較できます。フラッシュ蒸留(3-1)のフィード・蒸気・液の対比と同じ考え方です。
図:COCOでの実行結果
→ 平衡段を1段でなく12段積み重ね、さらに還流で液を塔内に戻しているため。1段ごとに少しずつ濃縮が進み、それが積み重なる。
→ メタノール-水系は常圧で共沸点を作らないため、理論上は段数と還流比を増やせばさらに高純度(例えば99%以上)にも近づけられる。
→ 一般に還流比を上げるほど分離性能は上がる(同じ段数でより高純度、または同じ純度をより少ない段数で達成できる)が、還流に使う熱量(凝縮器・再沸器の負荷)は増える。
→ フィード組成に対して最適な段からずれるため、同じ段数・還流比でも到達できる純度が下がることがある。実際にCOCOでフィード段を変えて比較させると効果的。
→ 塔頂から取り出す留出の量がさらに絞られ、その中身は塔の一番上の「最も濃い部分」だけになるため純度はさらに上がる方向に働く。ただしその代わりに、缶出側にわずかに残るメタノールの量は増える傾向になる。純度を上げようとすると、取り出せる量や回収率とのトレードオフが生じることを実感させるポイント。
フィードの流量・組成・圧力はChemSepの画面に実際に入力した値(15 kg/h、101325 Pa、モル分率Methanol 0.36/Water 0.64)そのものです。留出・缶出の数値もSolve後に画面に表示された実測値です。生徒には「50 wt% → 塔頂98.4 wt% / 塔底ほぼ0 wt%」という定性的な結論を中心に説明するとよいでしょう。