共沸点(約89 mol%=約95.4 wt%)の壁に、普通の精留塔だけでどこまで迫れるかを確かめる
演習1では水-エタノール系を1回だけフラッシュ蒸留し、蒸気側は約51 mol%までしか濃縮できませんでした。演習6ではメタノール-水系(共沸点を持たない系)を12段の精留塔にかけ、98.4 wt%まで濃縮できることを確認しました。今回は同じ「精留塔」というアプローチを、共沸点を持つ水-エタノール系に対して使うとどうなるかを確かめます。
結論から言うと、12段・還流比3の精留塔で塔頂は80.0 mol%(91.1 wt%)まで濃縮でき、塔底はほぼ純水(エタノールのモル分率約0.0001)まで分離できました。しかし、塔頂側は3-1で紹介した共沸点(約89 mol%、重量%に換算すると約95.4 wt%)にはまだ届いていません。段数や還流比をさらに増やせばこの80.0%はもっと上げられますが、共沸点そのものは普通の精留塔ではどれだけ頑張っても超えられない理論上の壁である、という点がこの演習の核心です。
水-エタノール系(40 mol%フィード)を12段の精留塔に通すと、塔頂は80.0 mol%(91.1 wt%)まで濃縮され、塔底はほぼ純水(エタノールのモル分率約0.0001)まで分離される。塔頂側は共沸点89 mol%(約95.4 wt%)に近づいてはいるが、まだ届いていない。市販の消毒用エタノールなどが「95%」止まりである理由が、この共沸点にあることも合わせて確認する。
| 項目 | フィード F | 留出 D(塔頂) | 缶出 W(塔底) |
|---|---|---|---|
| 流量 [mol/s] | 1000 | 500 | 500 |
| エタノール モル分率 | 0.400 | 0.800 | 約 0.0001 |
| 水 モル分率 | 0.600 | 0.200 | 約 0.9999 |
| 重量分率 | 63.0 wt% | 91.1 wt% | 0.026 wt% |
| 温度 | 82.54°C(供給時) | 78.57°C | 99.95°C |
| 圧力 [Pa] | 101325 | 101325 | 101325 |
フィードは101325 Pa・1000 mol/s・エタノール40 mol%/水60 mol%(重量分率では63.0 wt%/37.0 wt%)で供給し、温度はバブルポイント条件相当の82.54°Cでした。留出(D)・缶出(W)はSolve後のストリーム一覧表に表示された実測値(D:500 mol/s、Mass frac Ethanol 0.910892、78.5722°C/W:500 mol/s、Mass frac Ethanol 0.000255184、99.9542°C)を、モル分率に換算したものです。塔底のエタノールはほぼ検出されない量(重量分率で0.026 wt%)まで下がっています。
エタノールのモル分率をバーの長さで比較。留出(塔頂)のバーに、共沸点(89 mol%)の位置を黒い線で示した。80.0%まで濃縮されてはいるが、共沸点にはまだ届いていないことに注目。塔底はほぼ0%(実質エタノールを含まない)まで下がっている。
演習1で扱ったとおり、水-エタノール系は約89 mol%(約95.4 wt%)エタノール・351.35 K(78.2°C、1 atm)で共沸混合物を作ります。共沸点では気相と液相の組成が完全に一致するため、そこでは蒸留による濃縮が原理的に止まります。演習6のメタノール-水系のように共沸点を持たない系であれば、段数と還流比を増やすだけでいくらでも純度を上げられましたが、水-エタノール系では段数や還流比をどれだけ増やしても、89 mol%を超えることはできません。
今回の12段・還流比3という条件では塔頂80.0 mol%(91.1 wt%)止まりでした。段数や還流比を増やせばこの数値はもっと共沸点に近づきますが、決して追い越すことはできない、という理論的な限界を体感するのがこの演習の狙いです。
薬局などで売られている消毒用エタノールが「約95%」であることが多いのは、まさにこの共沸点(約95.4 wt%)が理由です。普通の蒸留だけではこれ以上濃縮できないため、無水エタノール(99.5%以上)を作るには、共沸剤を加える共沸蒸留や、モレキュラーシーブ・膜分離(PV法)といった別の技術が必要になります。
File > New で新規フローシートを作成する。InsertメニューからUnit Operationを選び、蒸留塔(Column/ChemSep Column)に該当する項目を選択してフローシート上に配置する。演習6ではストリームの流量がkg/hで表示されましたが、今回はmol/sで表示されています。ChemSepの表示単位は環境や設定によって変わるので、毎回どの単位で表示されているかを確認する習慣をつけましょう。
演習6では塔底側の指定を「Fraction of combined feeds recovered」(フィード全体のうち何割を塔底に回収するか、という割合指定)のデフォルト値のまま使いました。今回は同じ「フィードの半分を塔底に出す」という結果になるよう、Bottom product flow rate(塔底の流量そのもの)を0.5 kmol/s と直接指定しています。どちらも「フィード1000 mol/sのうち500 mol/sを塔底に」という同じ意味になりますが、指定の仕方が異なる点に注意してください。
図:COCOでの実行結果
→ 80.0 mol%(91.1 wt%)。演習6と同じ12段・還流比3という条件でも、共沸点を持つ水-エタノール系ではここまでしか濃縮できない。共沸点を持たないメタノール-水系(演習6)との差がはっきり表れている。
→ 超えられない。共沸点(約89 mol%=約95.4 wt%)は、段数や還流比をどれだけ増やしても普通の蒸留では理論的に超えられない壁。演習6のメタノール-水系(共沸点なし)との決定的な違いがここにある。
→ 活量係数モデル(Wilson)が、この共沸系の挙動をうまく再現できず、反復計算が発散したため。Van Laarに変更し、BIP estimationで二成分パラメータを読み込ませたことで安定した。モデル選びが結果を左右することを実感させるポイント。
→ まさにこの共沸点が理由。通常の蒸留だけでは約95.4 wt%より濃縮できないため。無水エタノールを作るには、共沸蒸留(ベンゼンやシクロヘキサンなどの共沸剤を加える)やモレキュラーシーブでの脱水、膜分離(パーベーパレーション)といった特別な技術が必要になる。
フィードの流量・組成・圧力はChemSepの画面に実際に入力した値(1000 mol/s、101325 Pa、モル分率Ethanol 0.40/Water 0.60)そのものです。留出・缶出の数値もSolve後に画面に表示された実測値です。生徒には「共沸点(約89 mol%=約95.4 wt%)には近づけても超えられない」という定性的な結論を中心に説明するとよいでしょう。