🧪 演習8: CSTR反応器(酢酸のエステル化反応)

〜 反応速度式と滞留時間から転化率をシミュレーションで検証する 〜

この演習のねらい

これまでの演習1〜7では蒸留・混合・伝熱など「分離・熱操作」を中心に扱ってきました。この演習では化学反応そのものをCOCOで再現します。反応器の基本であるCSTR(Continuously Stirred Tank Reactor:連続槽型反応器)の設定方法を学び、反応速度式・滞留時間・転化率の関係を数値で確認します。

CORN(反応パッケージ)とCSTRユニットの関係を理解する
可逆反応(正反応・逆反応)の速度式をCOCOに入力できるようになる
反応器体積(滞留時間)と転化率の関係を確認する
物質収支を手計算とシミュレーション結果で照合する

対象とする反応

酢酸とエタノールから酢酸エチルを合成するエステル化反応を扱います。可逆反応(平衡反応)であり、正反応・逆反応の両方の速度式を扱うことで、CSTRにおける平衡転化率の限界を学ぶ教材として適しています。すべて有機化合物(酢酸・エタノール・酢酸エチル・水)のみで構成されるため、COCO標準の化合物データベース(ChemSep1.pcd)でそのまま扱えます。

CH₃COOH(酢酸)+ C₂H₅OH(エタノール) ⇌ CH₃COOC₂H₅(酢酸エチル)+ H₂O(水)

反応速度式は次のように表されます(正反応・逆反応ともに2次)。

r = kf ・ CAcOH ・ CEtOH - kr ・ CEtAc ・ CH2O

kf:正反応速度定数/ kr:逆反応速度定数(いずれも温度依存、アレニウス式で表現可能)/ C:モル濃度 [mol/m³]

操作手順

全体の流れは、①物性パッケージ(TEA)の作成 → ②反応パッケージ(CORN)の作成 → ③CSTRユニットの配置 → ④原料ストリームの設定 → ⑤CSTR本体の設定 → ⑥計算実行、の6段階です。

ステップ1:物性パッケージ(TEA)の作成

  1. メニューの「Flowsheet」→「Configuration...」からFlowsheet configuration画面を開く
  2. 「Property Packages」タブを開き、「Add」をクリックする
  3. Property Package Managerの一覧から「TEA」を選択する
  4. パッケージ名を入力する(例:「Esterification」)
  5. Compoundsのリストに、酢酸(Acetic acid)・エタノール(Ethanol)・酢酸エチル(Ethyl acetate)・水(Water)の4化合物を「Add」ボタンから追加する
  6. 「Model set」で熱力学モデルを選択する
熱力学モデルの選定でつまずきやすい点:最初にNRTLやUNIQUACを選ぶと、「Interaction Parameters」タブで化合物ペアごとのBIP(相互作用パラメータ)が必要になります。今回の4化合物では「Import all」や「Defaults」(自動推定)を使っても、酢酸(Acetic acid)が関わる2ペア(Acetic acid–Ethyl acetate、Acetic acid–Water)だけがどうしてもN/Aのまま埋まりませんでした。これは、カルボン酸基(COOH)を含む化合物の相互作用パラメータがCOCO標準データベースに十分揃っていないためと考えられます。

この場合は、Model setを「UNIFAC VLE」に変更するのが簡単です。UNIFACはペアごとのBIP表を使わず、分子を構成する官能基(サブグループ)の組み合わせから活量係数をその場で予測する方式のため、Interaction Parametersの手動設定が不要になります(「Configure」→「Group Contributions」タブで、各化合物が正しくCH3・COOH・OHなどのサブグループに分解されているかだけ確認すればOK)。

ステップ2:反応パッケージ(CORN)の作成

  1. 同じFlowsheet configuration画面で「Reaction Packages」タブを開き、「Add」をクリックする
  2. 「Reaction package from CORN」画面が開く。既存のサンプル(HDAなど)を選ばず、「New」をクリックして新規テンプレートを作成する
  3. 名前を入力する(例:「Esterification」)
  4. Compoundsタブで、TEA側と同じ4化合物(Acetic acid、Ethanol、Ethyl acetate、Water)を「Add」ボタンから追加する(Filter欄で英語名を検索すると見つけやすい)
  5. Reactionsタブに移動し、「Create」をクリックして新規反応を作成する。反応ID(任意の名前、例:「esterification」)を入力する
  6. Stoichiometry(化学量論係数)の列に数値を入力する(反応物はマイナス、生成物はプラス)
    1. Acetic acid:-1
    2. Ethanol:-1
    3. Ethyl acetate:+1
    4. Water:+1
  7. 「Equilibrium Reaction」のチェックは外す(COCOの平衡定数指定モードではなく、正反応・逆反応それぞれの速度式を与える速度論的な扱いにするため)
  8. 「Heterogeneous」のチェックも外す(均一液相反応のため、単位はmol/m³/s)
  9. 「Phase」に Liquid を指定する

ステップ3:反応速度式の入力(Reaction Rate Wizard)

  1. 「Rate」欄の右にある小さなパズル形のアイコン(Reaction Rate Wizard)をクリックする
  2. 「Reaction basis」を「Activity」から「Molarity」に変更する(活量係数モデルを別途厳密に設定していない場合、Activity基準では計算が不安定になりやすいため)
  3. 右上の「Inhibition」表はすべて既定値(Constant: 0)のままでよい(今回は阻害項を使わない)
  4. 「Forward reaction」にチェックを入れ、正反応の速度定数kfを入力する
  5. 「Backward reaction」にもチェックを入れ、逆反応の速度定数krを入力する(可逆反応のため、正逆どちらも定義する)
  6. 温度依存性を再現したい場合のみ「Arrhenius energy」にチェックを入れ、活性化エネルギーとArrhenius reference temperatureを入力する。演習の第一段階(等温)では未チェックのままでよい
  7. 「OK」でウィザードを閉じ、Rate欄に数式(例:kf*C("Acetic acid")*C("Ethanol") - kr*C("Ethyl acetate")*C("Water")に相当する式)が自動生成されていることを確認する
単位に関する注意:COCOの反応速度はSI単位(mol/s/m³)で統一されています。文献の速度定数(例:L/(mol・min)など)をそのまま入力すると桁が大きくずれるため、必ずmol/m³/sベースに換算してから入力してください。COCOの単位設定についてもあわせて確認してください。
Reaction basisの設定ミスに要注意:Reaction Rate Wizardを一度閉じたあとに再度開くと、Reaction basisが「Molarity」から「Activity」に戻ってしまっていることがあります。Activityのままだと反応速度がモル分率オーダー(0〜1程度)の値をもとに計算されてしまい、実際のモル濃度(数千〜数万 mol/m³)を前提とした速度定数では反応がほとんど進まなくなります(体積を変えても転化率が変わらない、極端に転化率が低いなどの症状が出ます)。Rate欄の式がC("Acetic acid")のようにC(Concentration)で始まっているか、A("Acetic acid")のようにA(Activity)になっていないかを、計算のたびに必ず確認してください。
演習8-1で使用した速度定数の参考値:硫酸触媒下・34℃での酢酸とエタノールのエステル化反応に関する研究で報告された値(正反応速度定数 k₁ = 0.014 L/(mol・min)、平衡定数 K = k₁/k₂ = 5.51)をもとに、mol/m³/s基準に換算した以下の数値を演習8-1のRate constantとして実際に入力しています。
定数文献値mol/m³/s基準への換算値
kf(正反応)0.014 L/(mol・min)約 2.3×10⁻⁷ m³/(mol・s)
kr(逆反応)約 0.00254 L/(mol・min)約 4.2×10⁻⁸ m³/(mol・s)

※硫酸触媒存在下のデータのため、演習では触媒を化合物として明示的に扱っていません(触媒効果を暗黙的に織り込んだ参考値として使用)。出典:Yuniwati, M., Kusmartono, B., Yusuf, M., & Yoga, R.「Reaction Kinetics of Acetic Acid with Ethanol to Ethyl Acetate with Sulfuric Acid Catalyst」Engineering and Technology Journal (2023)。

ステップ4:CSTRユニットの配置と原料ストリームの設定

  1. メニューの「Insert」から「Select Unit Op...」を開き、「Reactors」フォルダの中の「CSTR」を選択して「Select」をクリックする
  2. フローシートのキャンバス上でクリックしてCSTRユニットを配置する
  3. 入口となるストリームをダブルクリックして開き、以下を入力する(演習8-1の基準ケースの例)
    1. pressure:101325 Pa(既定値のまま)
    2. temperature:298.15 K(25℃)
    3. mole fraction [Acetic acid]、[Ethanol]、[Ethyl acetate]、[Water]:4つの合計が1になるように入力(例:0.4/0.5/0/0.1)
    4. flow:全体のモル流量を入力(例:10 mol/s)

ステップ5:CSTR本体の設定

  1. CSTRユニットをダブルクリックして設定画面を開く
  2. 「Operation」タブで以下を設定する
    1. Pressure drop:0 Pa
    2. 「Isothermal」を選択し、温度を原料と同じ298.15 Kに設定する
    3. Enthalpy balance:Use EnthalpyF(既定値のまま)
    4. Reaction phase:Liquid を必ず選択する(この欄が空欄のままだと反応が計算に組み込まれないので要注意)
  3. 「Reactor」タブ(または同等の項目)で Reactor volume を入力する(例:1 m³。演習8-2でこの値を変えて比較する)
  4. 「Reactions」タブに移動し、一覧に表示された反応(esterification)を選択して「Add」をクリックし、CSTRの計算対象として組み込む

ステップ6:計算の実行と結果の確認

  1. Unit operation画面の「Calculate」ボタン、またはフローシート上部のツールバーの実行ボタン(▶)をクリックする
  2. 出口ストリームをダブルクリックし、「Overall」の mole fraction 各値を確認する
  3. 転化率を次の式で計算する:転化率 =(入口の酢酸モル分率 - 出口の酢酸モル分率)/入口の酢酸モル分率
  4. 酢酸・エタノールの減少量と、酢酸エチル・水の増加量がそれぞれ一致していれば、化学量論(1:1:1:1)が正しく反映されている

演習8-1:基準ケースの計算

以下の条件でシミュレーションを行い、平衡転化率と酢酸エチル生成量を求めなさい。

項目設定値
原料ストリーム組成酢酸 0.4/エタノール 0.5/酢酸エチル 0/水 0.1(モル分率、エタノールを化学量論比より過剰に加えて平衡を生成物側にシフトさせる想定)
原料流量10 mol/s
反応温度25℃(298.15 K、等温)
圧力101325 Pa
反応相Liquid
反応次数正反応・逆反応ともに2次(酢酸1次×エタノール1次、酢酸エチル1次×水1次)
反応器体積1 m³(基準値。演習8-2でこの値を変えて比較する)
確認の目安:上記の条件・速度定数(ステップ3の参考値を参照)で計算すると、酢酸の転化率はおよそ59%前後になります(Reactor volume 1 m³の場合)。大きく外れる場合は、Stoichiometryの符号やReaction phaseの設定に加えて、Reaction basisが Molarity になっているか(Activityに戻ってしまっていないか)を必ず確認しましょう。
COCOでのCSTR実行結果

図 COCOでの実行結果

演習8-2:反応器体積(滞留時間)を変えて転化率を比較

反応器体積を数段階(例:基準値の0.5倍、1倍、2倍、4倍、10倍)に変えて計算し、滞留時間と転化率の関係をグラフにまとめなさい。

考察のヒント:滞留時間を大きくすると転化率はどのように変化するか。今回は可逆反応のため、不可逆反応(けん化反応など)と異なり、転化率は100%ではなくある一定値(平衡転化率)に漸近するはずです。滞留時間をどれだけ長くしても平衡転化率を超えられない点、そしてエタノールを過剰に加えることで平衡転化率自体を引き上げられる点(ルシャトリエの原理)に注目してみましょう。
反応器体積Vと転化率Xの関係グラフ、平衡転化率の理論値X_eq≈0.74への漸近を示す

図 反応器体積V(基準値の0.5〜10倍)と転化率Xの関係。橙の縦線は平衡定数K=5.51から求まる平衡転化率の理論値(X_eq≈0.74)。

発展課題:後段の分離への接続

CSTRの出口には、生成した酢酸エチルと水に加え、未反応の酢酸・エタノールが混在しています。実際のプラントでは複数の分離塔を組み合わせますが、まずは未反応のエタノールと水の分離に着目し、演習7で扱った共沸系精留塔(COCO_azeotrope.html)につなげてみましょう。水-エタノール系は共沸点を持つため、演習6のメタノール-水系よりもこちらの方が組成的に対応します。「反応→分離」という実プラントの基本構成を、これまでの演習の集大成として体験できます。実際にCSTR出口の組成をそのまま演習7の塔につないでみる演習を演習8-3: 反応後の分離をシミュレートするにまとめました。