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海軍砲術学校』管理人である「桜と錨」様より、明治40年に海軍大学校が出版した『兵語界説』(第4版)をPDFファイルでご提供いただきました。ありがとうございます。

全体を読み通したところ、役立つ記述が多くありました。便利のために全文をテキスト化しましたので、ここに公開致します。

読みやすくするために、カタカナ→ひらがな、旧字体→新字体に変更していますが、字体については徹底していないところもあります。論文等に引用される際には、本サイトの「古い軍事用語集の電子復刻版」にあるPDFファイルを参照してください。

テキスト化にあたっては、OCRソフトの読取革命を使用しました。かなり読み取ってくれたので作業は効率化しましたが、見通したよりは大変な作業になってしまいました。

(2007年6月 金森国臣)

新訂・最新軍事用語集 英和対訳』(2019年1月刊)を出版しています。出版社は日外アソシエーツ、総発売元は紀伊國屋書店です。


明治四十年三月改版

第四版 兵語界説

海軍大学校

本書は海軍大学校の編纂に係るものなり今仝校長の承認を得て之を覆刊し本校生徒に頒つ

明治四十年四月

海軍兵学校長島村建雄

第二版 緒言

曩に海軍大学校は一定の用語に拠り兵術を講究するの必要を認め仮りに兵語界説を編纂せり、其後多少の改正増補を施し茲に又其第二版を発刊す。抑々全軍を通して術語の定一せる事は独り平時に於て斯術講究の便益あるのみならす、実戦若くは演習に際し命令報告等に於ける繁文を省略し、通信の連繋を確実にし、其慣用の結果か間接に作戦を利すること言ふを俟たす、是れ軍事の何たるを問はす用語一定の必要ある所以なり。本校夙に此こに見る處ありしと雖も未た多数の術語を蒐集すること能はす、今回仮定する處の如きも未た二百に満たさる僅少の兵語にして唯た他日有識の士を待て之れか大成を期するの基礎を創置するに過きす。而て今回撰定の方針は単二其範囲を兵術の一科二限り主として左の諸項二準拠せるものなり。

一、現時我海陸軍にて慣用せる兵語は成可丈け之を存用したること

二、用語の字数を可成丈け二字の熟語として其記憶識別二便ならしめたること

三、意義異るも発音同一なる用語は凡て異音に改めたること

四、其出源の欧語一つにして訳語の二なるものは其一つを捨てたること

案するに我国近世の兵語其の出源を泰西の兵書二採れるもの多しと雖も輓近帝国海軍の隆興は萬般の軍事に於て又一々模範を海外に需めす、自ら案画して独立の国勢に適合するものを自選せさる可らさるの時期に到達せるか故に、今回仮定の用語中尚ほ改正を要するもの、又更に追加増補すへきもの等に就き所見を持せらる、将校は其多少に拘らす随時案を具して本校に送附あらんことを望む。

明治三十六年一月十日 海軍大平校長坂本俊篤

第三版 附

日露戦争は吾人をして益々兵語定一の必要を成せしめたるのみならす、従来仮定せる僅少の兵語も巳に我海軍信号書に挿入せられ、此戦役を利せしこと少しとせす、今回本校の再開せらるゝと共に又本版増刷の必要を生し更に多少の修補を加へ兵語界説第三版を発刊すと云爾明治三十八年十二月一日 海軍大学校兵学教官

第四版 附言

第三版に少許の修補を加へ茲に又兵語界説第四版を増刷す

明治国十年三月十五日 海軍大学校兵学教官

兵語界説

一、凡そ人類か干戈を以て相争闘する現衆を総括して兵戦(Warfare)と謂ふ

二、兵戦に従事する人衆を兵軍(Troops)と謂ひ、兵軍の団隊を軍隊(Army)と謂ひ、軍隊を常備する国を軍国(Military countries or nations)と称し。軍国の軍隊を国軍(National army)と称す、国軍は之を海軍及陸軍に大別す

(附記)Armyの欧語は陸軍と慣用されあれとも其兵学上の根源は軍隊の意義なり、故に近時欧米の兵家中Sea armyの語を以て海軍(Navy)に換用せらるものあり

(改正)三、兵軍の人力及機かを兵力(Force)と謂ひ、兵戦を為す地域を戦地(Zone of warfare)と謂ひ、兵戦を為す時間を戦時(Time of warfare)と謂ふ

四、兵戦は其兵力、戦地、戦時の大小に準し左の四種に大別す

一、戦争(War)

二、戦役(Campaign)

三、戦闘(Battle)

四、格闘(Combat)

五、戦争は広大の戦地に於て遠長の戦時に亘れる大兵軍の兵戦なり、例は日清戦争、米西戦争の如し

六、戦役は戦争の範囲内に於て一方面に起れる較や長時日の兵戦なり、例は日清戦争に於ける朝鮮役、遼東役、山東役又は米西戦争に於ける玖馬役、比利賓役等の如し

七、戦闘は戦争若くは戦役の範囲内に於て一局地に接触せる対抗兵軍(全部若くは一部の兵戦なり、例は日清戦争に於ける黄海々戦、平壌陸戦、旅順の海陸聯合戦等の如し

八、格闘は戦闘の範囲内に於て一地点に衝触せる対抗兵軍(一部)の兵戦なり、例は黄海々戦、平壌陸戦等に於て其請地点に起れる小部隊の抗戦の如し

(附記)兵戦に於ける兵力の多寡、戦地の大小、戦時の長短等は固より千状万態にして小は個兵の一地点に於ける戦闘より大は地球の全面を蔽へる海陸大軍の紛争に至る迄大小の争闘悉く兵戦ならさるはなし、従て其類別も単に前記の四大別を以て画せるものにあらす、加之格闘に戦闘を組織し、戦闘は戦役を組織し、戦役は戦争を組織して小大の兵戦相関繋して一大戦争を現出する如く界説すと雖も此等組織の配合も亦一定不変の常則あるものにあらす、故に学者は兵学上の単純なる界説に拠り兵戦の真相を誤解せさるを要す

九、戦争に当り直接間接に兵力を消長する有形無形の要素の数量を武力(Miliot−ary power)と謂ひ、戦闘に当り直接間接に兵力を消長する有形無形の要素の数量を戦闘力(Eighting strength)と謂ふ

(改正)一〇、戦争の戦地を戦域(Theatre of war)と称し、戦役の戦地を戦区(District of Campaign)と称し、戦闘の戦地を戦場(Field of battle)と称す

(附記)軍国の戦争に当たりては某戦域は対敵両国の領土、領海并に其軍を動かすに利用し得へき共同の海面を含有す、故に戦域の大なるものは時として世界を囲繞することあり、米西戦争の如き是れなり、又戦役に於ける戦役、戦闘に於ける戦場の如きも固より明劃なる区域を存せす作戦の進行如何に依り広狭の度変化して定り無し、但し空中及水中は現時の人智発達の程度を以て

未た兵戦に利用する能はさるか故に今世に於ける大小兵戦の戦地は尚ほ地球の陸面と海面以外に出つること無し

一一、兵戦に利用し得へき機具、物資、材料等を兵資(War Resources)と称し、直接兵戦に使用する機具を兵器(Weapon)と称し、直接に敵人敵物を殺傷破壊する兵器を武器(Arms)と称す

一に、兵戦に於て敵に対し兵力を運用する技術を兵術(Art of war)と謂ひ、兵術を攻究する科学を兵学(Science of war)と謂ひ、兵術の原理を兵理(Theory of war)と謂ひ、兵術に於て則るへき法則を兵術の原則(Principle of art of war)と謂ふ

(附記)欧米の兵書に慣用さるゝArt of warの語は字義に於て戦争術なれとも其実Art of warfareの意義にして凡て兵戦を実行する技術の総称なり、我国海陸軍の訳語之を戦術と誤訳せるもの多し留意を要す

一三、兵術を大別して戦略(Strategy)及戦術(Ractics)のに種とす

一四、戦畧は戦争若くは戦役等に於て敵と隔離して我兵力を運用する兵術なり

一五、戦術は戦闘若は格闘等に於て敵と接触して我兵力を運用する兵術なり、又戦術は其用ゆる兵力の多寡戦地の大小等に準し大戦術(Grand tactics)及小戦術(Minor tactics)の種別あり

(附記)兵戦の種別か其兵力、戦地、戦時の大小に準し単に其四大別に止まらさるか如た兵術の種別も亦戦略、戦術のに術を以て画せるものにあらす、加之戦争と戦闘との関繋連結せるか如く実戦に於ける戦略と戦術も相連繋して決して分離すへからさるものなり、而して之を分類してに術名を附したるものは唯た兵学上の便宜に過きす、本来兵術は実地の活術にして紙上の死学にあらす、兵術を講究する者此等の術名に拘泥せさるを要す

一六、海上の兵戦のみに属する戦略、戦術を海軍戦略反戦術と称し、陸上の兵戦のみに属するものを陸軍戦略及戦術と称す

(附記)戦争の大なるものは大抵海陸の両兵力を用ゆるか故に之れか戦略も海陸の一方に偏するものにあらす、又戦術と雖も戦闘力海陸に関連して海岸に起るときは海陸相応して戦ふか故に

一方に偏する能はさる場合あり、旅順及威海衛の戦闘の如き其実例なり、凡そ地球の表面其水陸を論せす悉く用兵の戦地たらさるなきを以て常に兵術を海陸に差別するものと誤解するときは遂に一方の利用を偏廃するの弊害を生す

一七、兵術を講究するに当り基本兵術(Elementary ―)及応用兵術(Applied ―)の科別あり基本兵術は主として有形的要素を以て単純なる数理に基き斯術を改究するものを謂ひ、応用兵術は有形及無形的要素を以て地形、情勢等の変異に応し斯術実際の活用を攻究するものを謂ふ

一八、兵術を実施する為め兵軍を指揮統率し或は之れか行動生存を経理する等の要務を戦務(Logistic)と称す、又兵軍の背後に在りて之れか軍需を補給する等の戦務を特に後方戦務と称す

(附記)欧米の兵家中には戦務か兵術実施に密接の関係あるの故を以て戦略戦術と共に之を兵術の一科として講究するものあれとも全く兵術と根原を異にする別科なり、我陸軍にては之を帥兵術と称す

一九、兵術を実施する動作を作戦(Operation)と謂ひ兵術を実施する画策を作戦計画(Plan of operation)と謂ふ、又戦術を慨施する画策を特に戦策と称し、戦術を実施する制規の方法を戦法と称す

(附記)作戦の用語は固より大小の兵戦は適用し得ると雖とも現時は主として戦略実施の兵語として慣用せられ、戦術実施の用語には直に戦闘の語を用ゆること多し(戦闘の語は第四項に界説せる如く現象の名称にして動作の名称にあらす)従て作戦計画の語も戦略的計画の用語として慣用せらる又戦策の用語は我海軍特有の用語にして他外国にあらす、我陸軍の訳書まるもん将軍の軍制要論に戦策とあるは(Operation de Guerre)即ち作戦の意義なれは学者之を混同せらるを要す

(追加)二〇、凡て作戦に関し事前の画策を計画と謂ひ、計画の実行を実施と謂ひ、実施の事蹟を経過と謂ひ、事後の結果を成績又は成果と謂ふ、又已に為せる企画を企図と謂ひ、将に為さんとする案画を意図と謂ひ、為すを可とする所見を意見と謂ひ、為すを欲する要望を希望と謂ふ

二一、作戦の目的とする事件を作戦目的(Aim of operation)と称し、作戦の目的

とする物件を作戦目標(Objective of operation)と称す、例は敵の艦隊を撃破せんとする事は作戦目的にして敵の艦隊は作戦目標なるか如し戦闘に於ては特に之を攻撃目標と謂ふ

(増補)二二、本戦(Main operation)とは全局の作戦目的を達するに直接の関係ある作戦を謂ひ、支戦(Detached operation)とは全局の作戦目的に直接の関係を有せす或は本戦を支助し或は局部の安固を保つ等の目的を以てする作戦を謂ひ、不期戦又は遭遇戦(Incidental operation)とは予期の目的を有せす不時に敵と遭遇して行ふ作戦を謂ふ

二三、戦略地点(Geograpliical strategic points)とは戦域若は戦区内に於て対抗兵軍の作戦に間接の与力を有する地点を謂ふ、例は軍港、要港、要塞地、大市街其他交活機関の集点、或は潤沢の兵軍を有する港市等は悉く戦略地点なり

二四、戦略要点(Decisive strategic point)とは戦域若は戦区に於て之を保有すると否とか対抗兵軍の作戦(戦争)に直接至大の与力を有する戦略地点を謂ふ例は日清戦争に於ける旅順、威海衛、京城、天津、北京等の如し

二五、戦術要点(Decisive tactical point)とは戦傷に於て之を保有すると否とか対抗兵軍の作戦(戦闘)に直接至大の与力を有する地点を謂ふ、海上の戦闘には固より戦術要点を有せす、唯た陸上及海岸の戦闘に之あるのみ、例は威海衛の戦闘に於ける摩天嶺、趙北嘴及日島等の如し

二六、策源地(Base of operation)とは作戦の根拠地にして兵軍之に拠りて其進攻及退守の便を得、且つ終始軍需の供給を仰くへき所なり、例は日清戦争に於ける日軍の佐世保軍港山東役に於ける日軍の大連湾等の如し

(改正)二七、前進根拠地(Advanced base)とは戦区に於て作戦せる兵軍の臨時根拠地にして作戦中其軍需の補充、軍旅の駐止等を圖る所なり、例へは日清戦争に於ける日軍の長直路、及漁隠洞等の如し

二八、作戦線(Line of operation)とは作戦目的を達する為め策源地より作戦目標

一〇

に対し兵軍の運動する戦地内の線路を謂ふ、陸上にある作戦線は大抵道路に拠り、海上にあるものは大抵航路に條る、又作戦線は本線及支線の別あり

二九、交通線(Line of Communication)とは作戦せる兵軍の背後に於て之れと策源地を連絡せる供給又は通信の錬路を謂ふ、交通線の主として供給に充てらるゝものを兵站線(Line of supply)と称す

(増補)三〇、戦線(Line of battle)とは敵と此線上に交戦する線を謂ひ、防御防御線(Line of defence)とは敵と此線上に防止せんとする線を謂ひ、警戒線(Line of guard)とは敵に対し此線上にて警戒せんとする線を謂ひ、哨線(Picket line)とは敵に対し此線上に哨備する線を謂ふ

(附記)此等の諸線は通常作戦線と殆と直角に交叉す

三一、地形(Topography)とは戦地に於ける水陸、山野、島洲等を以て形成せる天然の形象を謂ふ、又地形の高低、起伏、深浅等に関する情態を特に地勢(Topo−graphical condition)と謂ふ

(増補)三二、兵戦に於て対抗兵軍の相対位する姿勢を戦勢(Situation)と謂ひ、戦勢の変移せんとする時機を戦機(Chance of Phase)と謂ふ

(附記)欧米に於て戦勢の語は又演習の方略の語に用ふ例はGeneral or special situation(又Genera or special ideaとも云ふ)と記しあるは一般及特別方略の義なり学者之を異別せさるを要す

三三、兵戦に於て敵に向て進み戦ふ兵軍の姿勢を攻勢(Offensive)と謂ひ、敵を受けて止り戦ふ兵軍の姿勢を守勢(Defensive)と謂ふ

(追加)三四、攻勢的作戦を攻戦と謂ひ其の行為を攻撃(Attack)と謂ひ、守勢的作戦を防戦と謂ひ其の行為を防御(Defence)と謂ひ、我か攻撃に対する敵の防御を抵抗(Resistance)と謂ふ、又敵を索めて戦ふ作戦を索敵戦と謂ひ敵を避けて戦ふ作戦を避敵戦と謂ふ

三五、戦略上に守勢を持して戦術上に攻勢を執る作戦行為を攻勢防御(Offen-sive defence)と謂ひ、戦略并戦術上兵に守勢を執る作戦行為を守勢防御(Passive defence)と謂ふ

一一

一二

(追加)三六、兵戦の後対抗兵軍か其敵に対し収得する有形無形の結果を戦果と謂ふ

(増補)三七、攻撃及防御の外作戦行為に左の数種あり之を総称して行動又は作動と謂ふ

一、先制(To take initiative)とは敵に対し先つ動きて機宜を制するを謂ふ

一、牽制(To divert)とは敵の向はさる他の方面より敵の行動を抑制するを云ふ

(追加)一、圧迫(To oppress)とは我兵力を以て敵の行動を抑圧するを謂ふ

一、威嚇又は脅威(To menace)とは我兵威を示張して敵を脅迫するを謂ふ

(追加)一、誘致(To decoy)とは我か兵力を示して敵を牽引するを謂ふ

一、封鎖(To blockade)とは敵を一地に圧迫して動かしめさるを謂ふ

一、触接(To touch)とは戦ふと否とに拘はらす敵と視界内に現在するを謂ふ

一、対持(To confront)とは戦ふと否とに拘らす敵と対抗を持続するを謂ふ

一、前進(To march or advance)とは敵に対して進むを謂ふ

一、退却(To retreat)とは敵を離れて退くを謂ふ

一、追尾(To pursue)とは敵を追跡するを謂ふ

一、駐止又は停止(To halt)とは兵軍の運動を止むるを謂ふ

(追加)一、阻止(To check)とは敵の運動を阻礙して抑止するを謂ふ

一、迂回(To outflank)とは敵の側方に運動するを謂ふ

一、展開(To extent the front)とは敵に対し我正面を拡張するを謂ふ

一、包囲(To surround)とは四方より敵を囲繞するを謂ふ

一、警戒(To guard)とは敵に対し自衛するを謂ふ

(追加)一、哨戒(To picket)とは敵に対し哨を置き警戒するを謂ふ

(増補)一、護衛又は護送(To escort or convoy)とは敵に対し我か他の兵軍を保護するを謂ふ

一三

一四

一、掩護(To cover)とは敵に対し我か他の兵軍の行動を護衛するを謂ふ

一、協同(To co-operate)とは敵に対し我か他の兵軍の行動に協力するを謂ふ

一、援助(To reinforce)とは敵に対し我か他の兵軍の行動に助力するを謂ふ

(追加)一、会合(To rendesvous)とは隔離せる兵軍か相会して合同するを謂ふ

一、集合(To assemble)とは離散せる兵軍を集団するを謂ふ

一、合同(To combine)とは二個以上の兵軍か一団となるを謂ふ

一、集中(To concentrate)とは全兵力を一点に集合するを謂ふ

(追加)一、分離(To divide)とは兵軍を分割するを謂ふ

(追加)一、解散(To dismiss)とは兵軍を離散せしむるを謂ふ

(追加)一、連繋(To connect)とは分離せる兵軍の動作の連結を謂ふ

一、連絡(To communicate)とは隔離せる兵軍の意志の連結を謂ふ

一、捜索(To search)とは所在未知の敵を探索するを謂ふ

一、偵察(To reconnoitre)とは所在既知の敵情を探明するを謂ふ

(追加)一、巡邏(To patrol)とは敵に対し一所を巡行警邏するを謂ふ

一、監視(To watch)とは敵の出没動静に注目するを謂ふ

一、占領(To occupy)とは陣地、城砦等を略取して之を保有するを謂ふ

一、押領(To seize)とは家屋、物件等を略取して之を保有するを謂ふ

(増補)三八、兵戦を開始するを開戦(To commence)と謂ひ現に兵戦に従事せるを交戦又は合戦(To engage)と謂ひ、兵戦を中止する(To cease)と謂ひ、之を停止するを停戦(To stop)と謂ひ、敵に兵戦を挑むを挑戦と謂ひ、戦の挑戦に応するを応戦と謂ひ、戦の挑戦を避くるを避戦と謂ふ

(附記)前記第三六乃至第三八項の諸用語は兵戦の各種に応用さるゝものなり

三九、戦闘及格闘は其戦勢に準し左の如く種別す

一、決戦 敵に対し攻勢を取りて勝敗を決せんとするものを謂ふ

一、対待戦 敵に対し攻勢又は守勢を取り戦を持続するものを謂ふ

一五

一六

一、追撃戦 攻勢を取り敵を追ふて戦ふものを謂ふ

一、退却戦 守勢を取り退却しつゝ戦ふものを謂ふ

四〇、海上の戦闘及格闘を其対敵方向及戦闘距離に準し左の如く種別す

(追加)一、反航戦 敵と逆行して戦ふを謂ふ

(追加)一、並航戦 敵と並行して戦ふを謂ふ

一、遠戦 約五千米突以上の距離以外にて戦ふを謂ふ

一、近戦 魚形水雷(乙種)の有効距離以外にて戦ふを謂ふ

一、接戦 右同           以内にて戦ふを謂ふ

(附記)本項の用語は又動詞として応用す

(追加)四一、善戦とは戦果多大にして損害少き戦闘を謂ひ、悪戦とは戦果尠小にして損害大なる戦闘をま謂ひ、力戦とは力行甚大なる戦闘を謂ひ、激戦とは抵抗頑強にして力行激烈なる戦闘を謂ひ、殲戦とは彼我の殺傷多大なる戦闘を謂ふ

(追加)四二、戦闘の発端時期を緒戦期と謂ひ、戦闘酣なる時期を酣戦期と謂ひ、戦闘終結せんとする時期を終戦期と謂ふ

(追加)四三、凡て兵戦に於て正々堂々我か実を以て敵の実に対し其備あるを攻撃するを正攻と謂ひ我か実を以て敵の虚に対し其備へなきを攻撃するを奇襲

四四、戦闘及格闘に於ける心術的(無形)攻撃を左の如く種別す

一、実撃 我実を以て敵を攻撃するを謂ふ

一、虚撃 我虚を以て敵を佯撃するを謂ふ

一、襲撃 我実を以て敵を奇襲するを謂ふ

一、掩撃 我衆を以て敵の寡を圧倒する攻撃を謂ふ

(追加)一、斉撃 我兵力を一斉に動かして敵を攻撃するを謂ふ

一、総撃 我兵力の全部を以て敵を攻撃するを謂ふ

(追加)一、分撃 我兵力を分ち各別の攻撃目標を攻撃するを謂ふ

一、順撃 我兵力の一部を以て交々敵を攻撃するを謂ふ

一七

一八

(追加)一、環撃 我兵力を循環交代して攻撃するを謂ふ

一、進撃 戦に向ひ進んて攻撃するを謂ふ

一、迎撃 敵の来るを邀へて攻撃するを謂ふ又邀撃と云ふ

一、逆撃 敵の攻撃を反対に攻撃するを謂ふ

一、要撃 敵の来るを途上に要して攻撃するを謂ふ

一、急撃 敵の不意に出てゝ迅速に襲撃するを謂ふ

一、追撃 敵の退却するを攻撃するを謂ふ

四五、戦闘及格闘に於ける方術的(有形)攻撃を左の如く種別す

一、正撃 敵の正面より攻撃するを謂ふ又正面攻撃と云ふ

一、横撃 敵の側面又は一翼より攻撃するを謂ふ又側面攻撃と云ふ

一、尾撃 敵の後尾より攻撃するを謂ふ

一、挟撃 反対の二方面より敵を中間に挟みて攻撃するを謂ふ

一、叉撃 持続せる二方面より敵を十字に見て攻撃するを謂ふ

一、囲撃 三若くは四方面より敵を包囲して攻撃するを謂ふ又包囲攻撃と

一、旋撃 敵を中心にし其周囲に旋回して攻撃するを謂ふ又旋回攻撃と云ふ

一、突撃 敵中に突貫して攻撃するを謂ふ

(附記)前二項の攻撃に関する用語と区別する為め砲熕及水雷の射撃に関する用語は射の字を下附す例は急射、挟射、斉射等の如し

四六、戦闘及格闘に於ける攻撃の結果を左の如く種別す

一、撃退(To repel)敵を攻撃して之を退却せしむるを謂ふ

(追加)一、撃圧(To press)敵を攻撃して之を一方に圧迫するを謂ふ

一、撃壌(To scatter)敵を攻撃して之を分散せしむるを謂ふ

一、撃破(To defeat)敵を攻撃して其戦闘力を失はしむるを謂ふ

一、撃滅(To overthrow or annihilate)敵を攻撃して之を鏖滅するを謂ふ

一九

二〇

一、捕獲(To capture)敵を攻撃して之を生擒するを謂ふ

四七、兵戦に於て兵軍の敵に対して有する心力的感動を兵気又は士気(Moral)と謂ふ

四八、兵軍の単位を集団して軍隊を組織するを編制(Organization)と謂ひ、軍隊を数個の部隊に分別するを区分(Division)と謂ふ

四九、平時に於ける軍隊の編制を平時編制(Peace organization)と称し、戦時に於けるものを戦時編制(War organization)と称す、又編制の永久成立して変更せられさるものを建制(Fundamental or Fixed organization)と称す

五〇、戦闘に於て常に結合して作戦する兵軍の一団を戦術単位又は戦闘単位(Tactical unit)と謂ふ

五一、戦争に於て常に結合して作戦する軍隊一団を戦略単位(Strategic unit)と謂ふ

(附記)戦術及戦略単位は軍国を通して一定不変のものにあらす、海軍の戦術単位の最小なるものは軍艦(水雷艇は一個艇隊)にして時宜に依り一箇小隊若は一個部隊の大単位を用ゆることあり、又其戦略単位は通常一箇の大艦隊より成れり

陸軍の最小戦術単位は通常一箇中隊にして其最小戦術単位は一箇混成旅団なりとす

五二、軍艦二隻以上より編制されたる海軍々隊を艦隊と謂ふ、艦隊は其大小に準し大艦隊(Fleet)及小艦隊(Squadron)二種に大別す

(附記)大艦隊は軍艦、駆逐艦、水雷艇其他特務艦船等数十隻より編制され、小艦隊は軍艦十二隻以下より編成さるゝを常とすと雖とも各海軍国其編制法を異にするを以て兵学上未た一定の限界なし、例は我国の常備艦隊の如きは即ち大艦隊の編制なり

五三、軍隊か作戦其他の行動の為め集合して形成する制規の形状を隊形(Formation)と謂ふ。海軍にては特に小艦隊の隊形を陣形。大艦隊の隊形を陣列と称別す

五四、軍隊の各部隊か作戦其他の行動の為め定むる處の列位の順序を序列(Order)と謂ふ

二一

二二

五五、軍隊の各部隊か作戦其他の行動の為め占位すへき相互の位置を配列(Disposition)と謂ふ

(附記)前記界説の如く隊形は形状、序列は順序、又配列は位置に就きて用ゆる本来の兵語にして諸軍国其海陸軍を通して軍隊の大小に拘わらす此を適用す、然るに海軍兵家中往々此三用語の意義を混同するものあり留意を要す

五六、兵軍の作戦及生存等に要する需要品を軍需と謂ひ、軍需の供給事業を給与(Supply)と謂ふ

五七、給与は其品目に準し左の称別を附す

一、給兵 武器、弾薬等の給与を謂ふ

一、給品 糧食、被服其他普通材料の給与を謂ふ

一、給炭 石炭其他燃料の給与を謂ふ

一、給水 清水の給与を謂ふ

五八、軍国か其武力を養成して戦争に備ふるを武備と謂ひ、其兵力を養成して戦争に備ふるを兵備又は軍備と謂ふ

五九、軍国か戦争の為め其兵軍を動かして作戦するの準備を整ふるを出師準備(Preparation for operation)と称す

六〇、兵軍か戦闘の為め交戦の準備を整ふるを戦闘準備(Preparation for action)と称す、戦闘準備は其緩急の程度に準し臨戦準備及合戦準備の別あり

六一、軍国か敵を防御するの目的を以て其海岸に設置する防備を海岸防御(Coast defence)と謂ふ、海岸防御は主として要塞(Fortresses)水中防御物(Submarine defence)及水雷艇隊(Torpedo flotilla)に拠る

六二、海岸防御は其規模の範囲に準し全域防御(Whole coast defence)及管区防御(Partial coast defence)及局地防御(Local coast defence)の別あり

六三、凡て防御物は其設備の永久的なると否とにより永久(Permanent)及臨時(Temporary)と冠称し、又其移動的なると否とに拠り移動(Movable)及固定(Fixed)と冠称す

二三

二四

(増補)六四、要塞の築城を其築城法の規模に準し砲砦又は砲台(Fort)堡塁(Fortalice)に大別し、其防御目的の方位に依り正面防御砲台(Front ―)及側面防御砲台(Flank ―)及背面防御砲台(Rear ―)等の称別あり、又防御正面の海陸に準し海正面及陸正面防御砲台の別称あり

六五、砲砦は其築城法に依り露天砲砦(Barvette ―)穹窖砲砦(Casmete ―)及隠顕砲砦(Disappearing ―)と称別す

(附言)

一、近時我国に於て海軍史学上に海上権力及制海権等の訳語を多用するに至りたるも其意義に混誤あるを以て自今当校の学科用語中には一切此語を採用せす。蓋し海上権かの語ハマハン大佐の著書The Influence of sea power upon history(海上武力の歴史に及ほせる影響)の誤訳に起因せる者にて同大佐も該著の緒論にSea powerの意義は海上の実力にして権かにあらさることを説明し居れり即ち彼のPowerは馬力(Horse power)のpowerと同一にして権利(Right)権能(Authority)、若くは権勢(Influence)等のPowerと混視すへからさること例は国権と国力兵権と兵力とを同一視す可らさると一般なり。又Command of sea(制海権)の語も実力を以て海上を制圧するの意義にしてSphere of influence(権力範囲)の権の如き空権にあらす、元来(権)とは仮りの義にて名ありて実なきの語なり、然に兵事は凡て実力の問題なるか故に若し此の如き誤謬を永遠に慣用するときは後進初て兵を学ふ者の見解を誤り甚しきに至れは海戦の目的とする處は海上権を占略するにありと云ふに至らん、斯の如きは啻に兵戦の真義に悖るのみならす戦争の主体を陸上にのみ置き海軍は唯た海上の交通を開くもの、如くに誤解さるゝの原因となるへし、蓋し兵戦の目的は海も陸も同一にして主眼とする處は敵の主力を撃滅して之を屈服せしむるにあり、陸軍か陸上権の為に戦はさると等しく海軍も海上権のために戦ふにあらす、本来地球の表面其水陸を問はす悉く兵戦場裡ならさるなきに拘らす海軍々人迄か特別の観念を以て海を

二五

二六

見るか故に斯くの如き誤謬を生するものなれは深く戒めさる可からす若し夫れ爾後Sea power又はCommand of seaの訳語を用ゆるの必要あるとはき海上武力又は制海と云ふを可なりとす。加之海上武力、制海の語すらも過去を討究する史学上には其必要もあれとも現在及将来の軍事に用ふへき兵語として定め置くの必要を認めさるなり


啻に(ただに)

悖る(もとる)

鏖滅(おうめつ)皆殺しにすること。「殲滅」と同義。

曩に(先に)

蓋し(けだし)


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