チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
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2023年10月30日(月) 19:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:セミヨン・ビシュコフ
ピアノ:藤田真央
 
ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」op.92

ドヴォルザークピアノ協奏曲 ト長調 op.33

(ソリストアンコール)
プロコフィエフ:ピアノのための10の小品 op.12 より No.7「プレリュード」

(休憩20分)

ドヴォルザーク:交響曲第8番 ト長調 op.88

(アンコール)
ブラームス:ハンガリー舞曲第5番

 今日は名匠セミヨン・ビシュコフ指揮によるチェコ・フィルの演奏会です。チェコ・フィルといえば、若い頃からドヴォルザークやスメタナの録音で親しんでおり、特にドヴォルザークの交響曲といえば、LPの時代ではアンチェル&チェコ・フィルやノイマン&チェコ・フィルが定番だったなあ、などと感慨にふけっています。

 チェコのオケといえば、ブルノ・フィルを、2007年11月2011年10月2019年2月と3回聴き、プラハ交響楽団も、2001年1月2008年1月2016年1月と3回聴いています。2016年11月にはプラハ国立歌劇場管弦楽団、2000年12月にはプラハ放送交響楽団も聴いています。そして今回のチェコ・フィルは、1999年11月に聴いて以来ですので、今回は何と24年ぶりになります。
 今年はりゅーとぴあ開館25周年を記念する一連の演奏会が開催されていますが、メインに位置づけられる演奏会が、今日のチェコ・フィルでだろうと思います。

 2024年はチェコを代表する作曲家のドヴォルザークの没後120年ということで、ビシュコフとチェコ・フィルにによる2023/24年のシーズンは、プラハでの公演を皮切りに、韓国、日本、そしてヨーロッパの主要都市で、オール・ドヴォルザークのコンサートツアーを行うことになりました。
 本拠地プラハでの演奏会を終えて、アジアツアーとして、10月24日(火)、25日(水)と韓国公演が行われ、10月28日(土)から日本公演が始まりました。
 全7公演が開催され、10月28日(土)は名古屋の愛知県芸術劇場、29日(日)はサントリーホール、30日(月)が新潟、31日(火)・11月1日(水)は再びサントリーホール、11月3日(金)は大阪のザ・シンフォニーホール、11月4日(土)は横浜みなとみらいホールで開催されます。新潟公演はサントリーホールでの公演の合間を縫っての開催であり、いかにも無理をして招聘したような印象を受けます。
 チェコ・フィルとしての公演が終わった後には、チェコ・フィルハーモニー弦楽アンサンブルによるコンサートも5日(日)にあり、その後もチェコ・フィル・ストリング・カルテットによる公演も続き、チェコ・フィルの皆さんはご苦労なことです。

 さて、今回の日本公演は、オール・ドヴォルザーク・プログラムですが、序曲3曲のほかに、交響曲第7番、第8番、第9番、チェロ協奏曲(チェロ:パブロ・フェランデス)、ヴァイオリン協奏曲(独奏:ギル・シャハム)、ピアノ協奏曲(独奏:藤田真央)が演奏されます。
 このうち藤田真央さんを迎えての公演は、新潟のほかは、31日(火)のサントリーホールでの公演のみですので、大変貴重といえましょう。
 藤田さんは、24日(火)のソウル公演、25日(水)の大邱(テグ)公演に引き続いての共演となります。ネット情報では、韓国での2公演は大成功だったようですね。

 ということで、ビシュコフとチェコ・フィルという黄金コンビによるこのコンサートですが、最近新潟では外来オケの公演がなくて寂しかったところに、有料会員向けの割引販売があり、さらに藤田真央さんが共演するということもあって、後先考えずに勢いでチケットをネット購入してしまいました。

 ただし、メインの交響曲が第8番というのは良いとしても、藤田さんが共演するのは、ドヴォルザークのピアノ協奏曲です。
 はじめは何かの間違いかと思いましたが、今回のツアーはオール・ドヴォルザークがテーマですから、当然ピアノ協奏曲もドヴォルザークです。せっかく藤田さんと共演するのですから、もっとメジャーな曲が良いのになあというのが本音ですが、文句を言わず楽しませていただきましょう。
 このピアノ協奏曲は聴いたことがないとばかり思っていましたが、手元にリヒテルとクライバーによるCDがありました。予習のために改めて聴いてみましたが、恥ずかしながら途中で寝てしまいました。
 現在若手ピアニストのトップランナーとして君臨する藤田さんを聴くのは、コロナ禍中の2020年8月のリサイタル以来、3年ぶりになります。日頃聴く機会がない秘曲と言ってよいこのピアノ協奏曲を、どのように聴かせてくれるのか期待したいと思います。

 ということで、楽しみなコンサートではありますが、月曜日の夜、それも18時30分開演というのは厳しいものがあります。通常は19時開演のはずですので、どうしたんでしょうね。明日もサントリーホールで公演がありますので、最終の新幹線で帰京するため、終演時間を早めたいというのがその理由ではないかと勝手に邪推しています。

 先日のジュリアード弦楽四重奏団は行けませんでしたが、今回は開演に間に合うべく早く退勤できるように先月から根回しをしており、予定通りに聴きに行くことができました。

 幸い渋滞もなく、白山公園駐車場に無事到着できました。足早にりゅーとぴあに入館しますと、既に開場されており、気のせいかロビーはいつものコンサートより華やいだ空気感を感じました。
 席に着いてこの原稿を書きながら開演を待ちましたが、客の入りとしましては、あまり芳しくないようで、開演時間になっても席は埋まらず、寂しさを禁じ得ませんでした。
 藤田さんが出演する明日のサントリーホールはチケット完売ですが、さすがの藤田真央人気でも新潟では集客には繋がらなかったようですね。

 平日の開催であること、それも週の初めの月曜日であること、開演時間が18時半と早いこと、他公演に比較して料金は安いものの、それでも地方としては高額であること、そしてプロクラムが集客の悪さにつながったのではないかと思います。
 世界で活躍する藤田真央さんの来演というのは素晴らしいのですが、演奏曲目にも問題ありと言わざるを得ません。音楽好きを自認している私でも、ドヴォルザークのピアノ協奏曲には興味がわきませんでしたから・・。
 首都圏ならいざ知らず、新潟のような地方都市では、チェロ協奏曲か横浜公演のように8番と9番の2本立てあたりの方が集客できたのではないかと思います。名古屋や大阪でもチェロ協奏曲ですものね。

 と、勝手に思いを巡らしながら開演を待ちました。ステージにはすでにピアノが設置されていました。オケの編成は大きく、ステージいっぱいに、たくさんの椅子が並べられていました。 

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場しました。コンマスが最後ということではなく、その逆で、コンマスが真っ先に出てきて一礼し、他の団員が揃うのを待つというのには驚きました。オケの配置は通常の形で、弦は16型で、16-14-12-10-8 という大編成です。

 ビシュコフさんが登場して、1曲目は序曲「謝肉祭」です。演奏は華やかで熱を帯びていましたが、個人的感想としましては、オケの音色が若干薄く感じられました。16型ですので、弦の厚い響きを期待しましたが、希薄さを感じました。透明感のある美しい響きという表現もできますが、この辺は個人的好みによりましょう。音色は別にして、演奏そのものは素晴らしく、挨拶代わりの演奏を十分に楽しませていただきました。

 弦が減員されて12型となり、続いてはピアノ協奏曲です。お馴染みの黒い衣装の藤田さんとビシュコフさんが登場して演奏が始まりました。
 オケの長い序奏は少しとらえどころがなく、ピアノが加わってもその印象に変わりはありませんでした。曲調がコロコロ変わって、ゆったりと美しい旋律にうっとりもありましたが、どこかおどけたように、ときに馬鹿にしたようなメロディになったりと、感動するタイミングを逃し、まとまりのない音楽に感じました。
 藤田さんによるカデンツァ部分は聴き応えありましたが、やはり演奏されない理由はあるんだなあ、などと思い巡らしながら第1楽章が終わりました。
 客席から数人の拍手があり、第2楽章が始まりました。さすがに緩徐楽章ですので、ゆったりと美しい音楽が流れ、ホルンの響きもきれいでした。しかし、うっとりとする間もなく、突然曲調が変化して、せっかくの気分がそがれたりもありました。
 第3楽章も美しいメロディが散りばめられていますが、曲自身が雑な造りという印象は否めず、感動もほどほどに終演となりました。
 藤田さんの演奏そのものは素晴らしく、完成度が高いとは言えないこの曲を、聴かせる曲に仕上げてくれました。流れるような輝きのあるピアノ。どんな曲も自分の音楽に変えてしまう藤田さんは、やはりすごいですね。
 会場からはブラボーの声も上がっていましたが、この曲は私の波長と合うことはなく、感動も8分目でした。まあ、私の個人的な好みですので仕方ないですね。
 拍手に応えて、藤田さんがアンコールとしてプロコフィエフの小品を演奏しましたが、これは爽やかでいい演奏でした。今度は藤田さんのリサイタルを聴きたいなあ・・。

 休憩後の後半は、編成は16型に戻りましたが、ヴァイオリンが1人、ヴィオラが1人欠けていました。ビシュコフさんが登場して演奏開始です。
 第1楽章は、柔らかなチェロがヴィオラとコントラバスのピチカートに導かれて歌い出し、フルートが美しく曲の始まりを告げて演奏が進みました。弦楽や管楽器の柔らかな響きが美しく、さすがチェコ・フィルと感じました。
 前半同様にサウンドとしての濃厚さには欠けましたが、耳が慣れたせいか、透明感のある心地良いサウンドに感じられました。次第にエネルギーを増して、熱く燃えて楽章を閉じました。
 第2楽章は、柔らかでふくよかな弦楽に始まり、管楽器との掛け合いもきれいでした。のどかなボヘミアの田園風景が眼前に広がり、コンマスのソロも美しく、うっとりと聴き入りました。地を這うような低弦の響きからホルンが咆哮する暗い場面と、その後の穏やかな音楽との対比も鮮やかで、静と動、緩急のメリハリを大きく付けた鮮やかな音楽に感動しました。思いっきりゆっくりと歌わせながら緊張感が途切れないのはさすがです。
 第3楽章も美しく、ゆったりと歌わせました。これでもかと言うくらいのゆっくりさですが、破綻することなく美しくまとめ上げるのはチェコ・フィルならではでしょう。
 アタッカを期待しましたが、ひと休みしてトランペットのファンファーレで第4楽章が始まりました。ここからチェロの合奏が始まるまでの休止が長く感じられました。
 この楽章も緩急の幅を大きくとった演奏でした。弦が力強くメロディを奏で、これに管が加わり、激しくリズムを刻んで行進しました。次第に力を増してエネルギーがみなぎりましたが、再び弦がこれでもかとゆったりと歌わせました。ここに管が加わって熱を帯び、穏やかさの中からギアチェンジしてヒートアップして感動のフィナーレを迎えました。ホールに大きな感動をもたらし、ブラボーがこだましました。私も力の限りに拍手して演奏を讃えました。

 アンコールが演奏されましたが、当然ドヴォルザークで、スラブ舞曲あたりに違いないと踏んでいましたが、なんとブラームスのハンガリー舞曲第5番でした。いい演奏で、トライアングルの妙技にも感嘆しました。
 でも、せっかくのオール・ドヴォルザークなんですから、最後もドヴォルザークで〆るべきかと感じました。演奏は良かったので、文句を言うこともないのですけれど。
 パートごとに礼をし、最後は全員で礼をしてコンサートはお開きになりましたが、空席は多かったものの、観客の興奮度としましてはかなり高い演奏会でした。

 全体として、繊細な弱音まで配慮が行き届き、透明感のあるチェコ・フィルの美しい味わいを楽しむことはできましたが、感動で胸が高鳴るほどではなく、ほどほどの感動でホールを後にしました。私の感受性が鈍っているのでしょうね。

 実は、今日のメインであるドヴォルザークの交響曲第8番は、8月に新潟市ジュニアオーケストラ教室のB合奏が演奏しているのですが、演奏技術は別にして、私の思い入れが強いジュニア・オケの方が感動の度合いが高かったというのが正直な印象です。まあ、偏屈者の素人の戯言ですけれど。


追記:チェコフィルのYouTubeに新潟も少しだけ出ています。
    → https://www.youtube.com/watch?v=OiEpDYax80E
 

(客席:2階C6-11、S席:フレンズ会員:¥15000)