2021年11月以来、2年ぶりのツィメルマンです。親日家として知られるツィメルマンは毎年のように日本でリサイタルを開催しており、私もこれまで2008年7月、2010年6月、2012年12月の3回、新潟市でのリサイタルを聴き、2015年11月、2019年2月、2021年11月の3回、柏崎でのリサイタルを聴く機会があり、今回は7回目となります。外来のピアニストのリサイタルでは最も多く聴いています。
ツィメルマンは柏崎市文化会館アルフォーレがお気に入りであり、ここでのレコーディングも行っていますが、今回のリサイタルも新潟市ではなく柏崎市です。毎度のことながら、チケット発売時には演奏曲目は発表されておらず、プログラムを知らないままチケットをネット購入しました。
10月になってプログラムが発表されましたが、ショパンの夜想曲第5番とピアノ・ソナタ第2番は、2010年6月のリサイタルで、ドビュッシーの版画は2012年12月のリサイタルで演奏されています。また、シマノフスキのポーランド民謡の主題による変奏曲は、2008年のリサイタルのアンコールで演奏されています。ということで、プログラム自身は新味はないのですが、どのような演奏を聴かせてくれるのか楽しみでした。
今回の日本公演は、11月4日の柏崎公演から始まり、12月16日の所沢公演まで、全国で10公演開催されます。11月4日の柏崎公演から22日の鹿児島公演まで間隔が空いており、この間はどうしたのかと気になります。なお、日本公演と同じプログラムはニュルンベルクで演奏されており、そのレポートがJAPAN
ARTS のサイトに載っていました。これを読みますと期待は高まります。
昨日は快晴で気持ち良い文化の日でしたが、今日は朝から雲が広がり、雨が降り出しました。ちょっと気持ちが沈む天候ですが、13時過ぎに自宅を出て、海岸沿いの道をシーサイドライン経由で南下。途中で雨は止み、寺泊の魚の市場通りの賑わいを横目に、柏崎へと車を進めました。途中某所でゆっくりと休息をして、快適に柏崎入りしました。
この道は、13年間の柏崎の単身赴任時代に通った道であり、その後も10年間週1回仕事で通っていましたので、走り慣れた道です。北陸道を使用しない場合、国道116号線経由でも良いのですが、この海岸沿いの道がドライブの楽しみがあって良いです。
原子力発電所を過ぎましたら、何も考えずに、すべての交差点を直進しますと、アルフォーレに到着できますので、新潟市から行かれる方にはお勧めの道です。
予定より早く駐車場入りできましたので、車の中で時間調整して入館しました。ホールの搬入口前には、ツィメルマン専用のスタインウェイの白いピアノ運搬車が止まっていました。
館内に入りますと、ロビーは開場を待つ人たちの熱気に包まれていました。私を含めて新潟市からの遠征組や県外からの客も多いようです。日頃お世話になっている某氏にもお会いできました。
予定時刻より数分遅れて開場となり、私も列に並んで入場し、この原稿を書きながら開演を待ちました。ステージ上にはスタインウェイが設置され、倒された譜面台に楽譜が載せられていました。
開演時間となり、白い髭とふくよかな白髪が美しいツィメルマンが登場して、鍵盤の蓋を開けて、演奏開始です。以後すべて楽譜を見ながら演奏されました。
最初はショパンのノクターンが4曲続けて演奏されました。一番有名な第2番を、ロマンティックながらも甘くなりすぎず、半ば淡々と演奏しましたが、終盤は感極まったかのごとく熱を帯び、抑え切れない感情の高まりを感じました。
以後、第5番、第16番、第18番と、緩急の幅を付けながらもしっとりと演奏し、その音楽世界に引き込まれました。入念に調整されたスタインウェイが、弱音から強音までクリアに豊かに響くホールにこだまし、演奏とともに、音響の良さにもうっとりしました。
一旦下がって、すぐに再登場し、楽譜をめくって、続いてはショパンのピアノ・ソナタ第2番「葬送」です。第1楽章は、緩急の幅を大きく付けながら、猛スヒードで駆け抜けました。第2楽章も、緩急の幅を大きく取りながら、ゆったりと歌わせました。第3楽章の葬送行進曲は、重々しく、音量豊かに歩みを進め、中間部の安らかなメロディーが心に染みました。再び重々しく行進し、間を置かずに続けて第4楽章を息もつかせぬ猛スピードで走り抜けて曲を終えました。
何とも美しく心を打つ音楽とクリアなピアノの響きに、唖然として聴き入りました。おそらくは、生で聴いたこの曲の最良の演奏のように感じました。さすがツィメルマンと胸を熱くし、力の限りに拍手しました。ブラボーの声も上がって前半が終了し、休憩に入りました。
休憩時間が終わり、後半の開演です。係員が楽譜を譜面台に載せ、ツィメルマンが登場して、ドビュッシーの「版画」で演奏が始まりました。
第1曲「塔」、第2曲「グラナダの夕べ」、第3曲「雨の庭」と続けて演奏されましたが、緩急・強弱のアクセントを大きく付けながら、イメージの異なる3曲を弾き分け、いずれもツィメルマン独自の音楽世界を創り出していました。
そして最後のプログラムは、シマノフスキの「ポーランド民謡の主題による変奏曲」です。これは今日のリサイタルを締めくくるに相応しい、素晴らしい演奏でした。
叙情的で美しい主題が柔らかく、しっとりと演奏された後、10の変奏が続きました。これまでの演奏と同様に、各変奏の対比も鮮やかに、緩急・強弱の幅を大きく取って、静かに染み入るような音楽にうっとりしたかと思えば、ダイナミックに、聴く者の心を揺さぶるような演奏に圧倒されました。
第8変奏の葬送行進曲を沈痛に演奏し、第9変奏・第10変奏と音量と熱量を増して、そのパワーに圧倒され、熱く沸き上がる音楽の洪水に身を委ねながら演奏が終わりました。
大きな感動にホールは熱狂し、ブラボーの声とともに割れんばかりの拍手が贈られました。数回のカーテンコールがあり、アンコールを期待しましたが、そのまま終演となりました。
おそらくは、自分でも納得のいく演奏ができたたため、アンコールなど不要と考えたのではないでしょうか。予定終演時間までにはまだ10数分残っていましたが、聴衆に十分すぎるほどの満足感を与えて、リサイタルは終了しました。
期待通りの素晴らしい演奏会でした。いずれの曲目も、緩急・強弱を大きく揺り動かし、ツイメルマンの味付けがされて、ツィメルマンの音楽に昇華され、心に迫る熱い音楽が生み出されました。
いずれの演奏も良かったですが、圧巻は、やはり最後のシマノフスキでしょうか。豊潤でありながらクリアに響くピアノの美しさとともに、心を揺り動かす音楽に圧倒され、胸を熱くしました。
ショパンもドビュッシーもシマノフスキも、ツィメルマンの音楽に作り変えられており、その音楽世界にこの身を委ねて感嘆し、良い音楽を聴けた幸せを実感しました。
このホールにはスタインウェイD275とヤマハのCFXが常設されていますが、ツィメルマンが持ち込んだピアノの音のクリアさは絶品でした。低音部は大音量でも濁りはなく、突き抜けるような高音の透明感も格別でした。
ツィメルマンが音響の良さを絶賛しCD録音もした豊潤なホールの響きも相まって、贅沢な時間を堪能しました。柏崎まで遠征した甲斐のある素晴らしい演奏会でした。
帰り道は、信号もほとんどなく、交通量もない海岸沿いの国道を快適に北上し、1時間20分ほどで自宅に着きました。良い音楽を聴けた幸せをかみしめながらこの原稿を書き、感動の余韻に浸りました。
(客席:1階16-13、S席:¥7000) |