第一項 白梅干
梅実は専ら加工用に供せられ、その酸味は該果の特徴として賞美せられている。
今日一般に広く利用されているのは、梅干であり、古来から衛生的食品として、上下の別なく重用されたものである。その方法に二種あって一は関東において行われる漬方で、他は関西において行われる漬方である。多少の相違はあるが大体相似たものではある。
材料 梅実、食塩四割
方法 用器として四斗樽又は瓶を用意し、梅実は大きさにより大、中、小に区別しておく。用器梅実何れもよく水洗し、梅実は笊に上げて水を切る。用器が乾燥したならば底に小量食塩を撒布し梅実を一粒づつきれいに並べ次に食塩を振り、又梅実を並べる、この作業を繰返してゆくのであるが、塩は下部よりも上部の方へ多くするように心掛ける。
こうして一−二日放置しておくと、梅酢が出てくるから、梅の三分の一位の重さの重石をして三週間位おく。
丁度土用の頃取出して笊に上げ梅酢を切った後、莚に一粒づつ拡げて陽光にあてて乾燥する。一日に二−三回反転して全体に陽光を受けるよう心掛け、三日程すれば目的の白梅干となるのである。この乾燥を普通土用干という。
これで白梅干として食用に供してもよく、貯蔵する場合には水気のない用器に詰めて蓋をしておけば永く貯蔵出来る。
第二項 赤梅干
材料 梅実一斗、食塩三升、紫蘇葉四〇〇匁
方法 梅実を水洗して清水に一昼夜浸しておく。後取出して笊に上げ水を切る。
次に白梅干と同様の作業をする。
一方紫蘇の葉を葉柄を除いて水洗し、塩でもんであくを出す。あくが出たならば一日位日光にあてて乾燥し、梅酢(梅実を漬けて出た汁)を三分の一取りこれに紫蘇をつけて、もみ出す。すると赤く染まるからこの梅酢を壜に入れて太陽にあてておくと、美麗な液となる。
塩漬した梅は土用干を行い、特に晴天の夜間に夜露にあてると良品が得られる。かくして一週間程すれば、再び梅酢に入れる。この時紫蘇の葉も共に漬け込み十日位おき、再び乾燥する。この場合二−三日でよい。次に本漬に移るのであるが、本漬は梅と紫蘇葉を交互に層をなすように詰め込み、前に取っておいた赤い梅酢を注入して中蓋をし更に本蓋をして、冷所に置く。
梅実選択上の注意 梅実は適熟のものを用いること、無傷のもの、黒星病のため斑点の生じたものは品質を損うものである。
果肉厚く核の小さいもの。酸味の強すぎぬもの等に留意して良い梅を選ぶことは製品の価値を向上する方途である。
第三項 月瀬漬(甘露梅)
大和月瀬の名産で、昭和七年陸軍特別大演習の時大阪行幸の御砌畏くもお買い上げの光栄に浴した誉の月瀬漬である。
材科 青梅、食塩二割、黄ザラメ(又は白ザラメ)八割。紫蘇
梅実は城州白、吉郎兵衛等の大形種がよく、苦味が去り次第青い内に収穫して用いる。完熟して軟かくなったものは駄目である。
方法 梅実を水洗し水を切る。鋭利な小刀で縱に切目を入れ、半月形に果肉を割る。出来た果肉を食塩と混合して用器に入れ、軽い重石をして一昼夜おく。そうすれば梅酢が出るからこれは紫蘇をつけるに用いる。
次に紫蘇は葉柄を切り取り、少量の梅酢の中につけて、軽く押石をしておく。二日目位経つと一枚づつ取出し塩漬した梅実一片を包む。次に黄ザラメ(又は白ザラメ)と交互に詰込み重石をしておく。かくすると秋頃になって食用とすることが出来る。
製品は肉がしまっており、歯切れよく、甘酸もその度を得て美味である。特に遠足用に万人向の漬物である。
第四項 紫蘇巻梅干
小田原地方の名産で、白梅干の梅を一つ一つ紫蘇葉にまいたものである。
材料 梅実(適熟のもの)、紫蘇葉、食塩
方法 梅実は白梅干の製法通りに処理する。紫蘇は、特に大形のものを選び水洗して、葉柄を切り去る。梅酢に一割五分の食塩を混じて、この液中に紫蘇葉を浸しよく浸み込ませる。次にこれを桶に移し、押石をして一週間−十日位漬ける。漬け終れば取出して、白梅干を一個づつ包む。
これを樽に詰め、五日位後に上位と下位を位置を変じておくと、美しい漬物が出来る。本製品は貯蔵はきかぬから早く食うがよい。
第五項 その他
その他梅干としては、花梅、紅梅、ドブ漬、甘露梅(月瀬漬に似て少し製法異るもの)等あるが花梅は、小梅による白梅干と考えて支陣なく。紅梅は同様赤梅干と思えばよい。ドブ漬は開西に多い漬物で、白梅干を土用干後、もとの梅酢内に漬け込み、上層に紫蘇葉をおいて貯蔵するものである。
大体梅干についてはこれ位にして次に移りたいと思う。
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