新潟の新年を祝う特別なコンサートとして、このニューイヤー・ガラ・コンサートが企画されました。ピアノの牛田智大さん、ギターの荘村清志さん、ヴァイオリンの徳永ニ男さんという魅力ある3人をソリストとして迎えてのコンチェルト特集です。題して「コンチェルトの日」。管弦楽は東京交響楽団、指揮は広上淳一さんという豪華メンバーであり、これは聴かないわけにはいきません。
なぜこの3人なのか考えてみましたら、昨年、牛田智大さんは5月3日、荘村清志さんは5月6日、徳永ニ男さんは5月24日に新潟でのリサイタルが予定されていたのですが、新型コロナ禍で中止されました。そのリベンジとして企画されたものと思います。
さて、東京交響楽団と広上淳一さんの組み合わせで新潟で聴くのは、2016年9月の第97回新潟定期、2019年12月の第117回新潟定期以来3回目です。
牛田さんの演奏を聴くのは、2013年2月のリサイタル、2014年6月のウィーン・カンマー・オーケストラとのコンチェト、2015年10月のリサイタルを聴いて以来で、今回が4回目になります。
本当は、2018年1月のワルシャワ国立フィルとのコンチェルトを聴くはずだったのですが、このときの新潟市は今回以上の大雪で聴きにいけませんでした。このときの曲目も今日と同じショパンのピアノ協奏曲第1番でした。何か大雪と因縁があるのでしょうか。
一方、荘村さんの演奏を聴くのは、2019年5月の大阪でのリサイタルを聴いて以来3回目であり、新潟で聴くのは2016年4月以来になります。前記のように、2020年5月の音楽文化会館でのリサイタルを聴く予定にしていたのですが中止されました。
そして、徳永さんの演奏を聴くのは今回が初めてです。徳永さんも、2020年の5月の音楽文化会館でのリサイタルを聴く予定にしていたのですが中止になりました。
ということで、注目されたコンサートなのですが、客席は感染対策で半分に制限されました。チケット完売必至と思い、発売早々に購入しました。通常はS席設定のDブロックが今回はA席になっていましたので、そのA席を選んで、コンサートを楽しみにしていました。
しかし、新型コロナ感染は新年が明けて益々拡大し、首都圏の1都3県に緊急事態宣言が出されました。コンサート開催はどうなるのか危惧されましたが、東京でのコンサートは予定通り開催されているようです。でも、東京からの移動は大丈夫なのかと心配しましたが、制限はなかったようです。
それは良いのですが、1つ疑問がありました。東京交響楽団は昨日の9日は所沢、今日10日はサントリーホール、明日11日は川崎で、「ニューイヤー・コンサート2021」を開催しています。指揮は桂冠指揮者の秋山和慶さん、ソリストは小山実稚恵さんで、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番、ドヴォルザークの「新世界より」ほかが演奏されます。大曲ですので、それなりのオケの編成が必要と思うのですが、同時刻に新潟で演奏するわけですので、どういう形のオケが新潟に来るのか心配であり、興味深く思われました。
さて、昨年末からの寒波が一段落したかと思ったのも束の間、すぐにさらに強力な寒波が襲来しました。暴風雪が収まると、今度は大雪と、大変な状況が続いています。連日の除雪作業で疲労困憊です。幹線道路はまだしも、生活道路の除雪は追いついていません。気象台からは不要不急の外出は避けるようにとのアナウンスまで出ています。
こんな状況下でのコンサート。まさに3年前にコンサートを断念したときと同じ状況です。昨夜までは行けるかどうか定かでなく、断念することも考えていました。
幸い今日の新潟市は、大雪も一段落し、小康状態となりました。それでもどうしようかと昼まで悩んでいたのですが、思い切って出かけることにしました。
道路事情も考慮して、早めに家を出たのですが、思いのほか順調で、スムーズに白山公園駐車場に到着できました。雪のため、駐車場は3台分のスペースに2台とめるようになっており、規定台数分駐車できないため、早めに行って良かったようです。
チラシ集めなどしているうちに開場となり、直ぐに入場し、客席でこの原稿を書き始めました。ステージにはクラリネットの吉野さんが出てきて音出しを始めましたが、5分ほどで下がりました。
客席は1席おきに発売されましたが、開演時間が近づくにつれ客席は埋まり、きれいな市松模様というほどではありませんでしたが、かなりの盛況となりました。
大雪のため、県内のJR在来線は全面運休で交通機関は麻痺状態となりました。私も行こうか行くまいか最後まで悩んだくらいでしたから、チケットを買っていても来れなかった人も多かったものと思います。
新型コロナの問題もあり、悪条件の中、これだけ集まれば大したものでしょう。新潟市では新年初のコンサートでしたし、新春を飾るに相応しい親しみやすい演目ということもあって、皆さん楽しみにしていたものと思います。
開演時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待ついつもの新潟方式です。オケは小型で、弦5部は、10-8-6-4-3でした。
今日のコンマスは誰でしょうか。マスクをしていて確認できませんでしたが、ニキティンさんでもなく、水谷さんでもありません。客演でしょうか。次席は廣岡さんでした。
新潟にどんなメンバーが来るのか興味深く思っていたのですが、主席クラスのお馴染みの顔ぶれが見られ、それなりのメンバーが来てくれて良かったです。
オーボエ/イングリッシュホルンの最上さんの顔もあり、サントリーでの「新世界」の第2楽章は誰が吹くのだろうと勝手に心配しました。
広上さんが登場して、最初はオケだけで「フィガロの結婚」序曲です。小気味良い広上さんの指揮の下、小編成のオケならではの機動性を生かし、軽快で生き生きとしたアンサンブルで楽しませてくれました。
ピアノが設置され、2曲目はショパンのピアノ協奏曲第1番です。背も伸びて、すっかりと大人になった牛田さんが登場。13歳の新潟デビュー当時から見ている私は、どうしても父親目線になってしまいます。
オケの長い序奏の後にピアノが加わり演奏が始まりました。甘くなり過ぎないすっきりした演奏とでもいいましょうか。熟練の指揮者とオケに支えられて、ピアノが自由に動き回りましたが、熱さは感じられず、抑制が効いたクールな演奏に感じました。
ピアノと絡み合う管楽器のソロも美しく、うっとりと聴き入る場面も多かったですが、この曲に関しては、もっとねちっこく、甘くせつなく、感情露わに歌わせたほうが個人的には好きです。
アンコールにマズルカを演奏。アンコールの掲示を見るまで、ショパンとは気付きませんでした。起伏のない演奏は協奏曲と同様。こういう曲だといわれればそれまでですが・・。
休憩の後、後半最初は荘村清志さんを迎えて、アランフェス協奏曲です。ギター前にはマイクが置かれ、横に置かれたアンプ、スピーカーで音量調整されていました。
これは熟練の演奏であり、何も言うことはありません。ただただ聴き入るばかりでした。オケもスペインの香りが漂っており、広上さんの曲作りもさすがです。第2楽章ではイングリッシュホルンの最上さんの極上の演奏もあり、感動に涙しました。荘村さんの演奏を支えた東響の素晴らしさも賞賛したいと思います。
アンコールは何と「禁じられた遊び」。誰もが知る名曲であり、ギターを弾こうとする人なら誰もが練習する曲ですが、イエペスの下で学んだ荘村さんの演奏は格別です。極上の胸に迫る演奏に感動を抑えることはできませんでした。
最後は徳永ニ男さんを迎えてのブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番です。背筋を伸ばして凛とした立ち姿。有無を言わせぬ空気感が漂っています。堂々とした演奏は風格を感じさせ、徳永さんの世界であり、徳永さんのブルッフです。
徳永さんと対峙する広上さん率いるオケも堂々と渡り合っていて、渾身の演奏を作り上げていました。全3楽章を切れ目なく演奏し、感動と興奮のフィナーレへと駆け抜けました。
アンコールのパガニーニも最高でした。広上さんも指揮台に腰掛けて聴き入っていましたが、超絶技巧に驚嘆し、ため息が出るほどです。客席は声だし禁止なのですが、思わず感動の声が各所から上がっていました。若い者には負けないという気概と、それを裏付ける技巧にノックアウトされました。
前半はまだ若い牛田さん。後半は日本の音楽界に君臨するレジェンドが2人。年齢差を超えた存在感の違いは仕方ないところでしょう。
広上さんと東響は、前半は若い牛田さんを優しく見守りながらサポートし、後半は熟練の巨匠に対して尊敬の念を込めて渾身の演奏で対峙しました。
終演は16時半を回っていました。内容豊富で満足感あふれるコンサートは年頭を飾るにふさわしいものであり、コロナ禍や大雪にさいなまれている新潟に、明るい光を与えてくれたように思います。社会状況、天候状況、交通状況も悪い中、はるばる新潟に来演してくれた皆さんに感謝したいと思います。
ホールの外に出ますと冷え込みは厳しいですが、いい演奏を聴いて心は温かです。今年も苦難の年となりそうですが、音楽から力をもらい、頑張っていきましょう。
そして、早く大雪がおさまりますように・・・。
(客席:2階D4-29、A席:¥7000) |