武満徹没後20年 ギターとうた 〜名曲を贈るプログラム〜 
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2016年4月10日(日) 14:00  新潟市民芸術文化会館 能楽堂
 
ギター:荘村清志、大萩康司
メゾ・ソプラノ:林美智子
 
第一部 オール・タケミツ・プログラム

1.不良少年 (荘村、大萩)
2.ヒロシマという名の少年 (荘村、大萩)
3.すべては薄明のなかで(1987) (大萩)
4.小さな空(作詞:武満徹) (林、大萩)
5.昨日のしみ(作詞:谷川俊太郎) (林、大萩)
6.小さな部屋で(作詞:川路明) (林、大萩)
7.うたうだけ(作詞:谷川俊太郎) (林、大萩)
8.フォリオス (荘村)
9.三月のうた(作詞:谷川俊太郎) (林、大萩)
10.○と△の歌(作詞:武満徹) (林、大萩)
11.死んだ男の残したものは(作詞:谷川俊太郎) (林、大萩)
12.翼(作詞:谷川俊太郎) (林、大萩)

(休憩15分)

第二部

13.タレルガ:アルハンブラの思い出 (荘村)
14.モリコーネ(鈴木大介編):ニュー・シネマ・パラダイス (荘村、大萩)
15.横尾幸弘:さくらの主題による変奏曲 (大萩)
16.ファジル・サイ:リキアの王女 (荘村、大萩)
17.ファリャ:7つのスペイン民謡 (林、荘村)
18.ドリーブ:カディスの娘たち (林、大萩)

(アンコール)
ビゼー(大萩康司編):ハバネラ
 
 
 満開の桜で春爛漫の新潟。行楽地は賑わいを見せていることでしょうが、コンサートも花盛りです。今日は聴きたいコンサートが同時刻に重なってしまい、悩ましい日曜日になりました。

 合唱団にいがたのメサイアが注目されていましたが、私はこちらを選びました。ずいぶん以前からこのコンサートの主催者からご連絡いただき、是非聴かねばと想い、早々にチケットを購入していました。その後同じ日時でメサイアの公演があることが発表され、残念に思ったしだいです。日時がずれてくれたら良かったのですけれど。

 さて、荘村さん、大萩さんは日本を代表するギタリストですので、演奏を聴く機会は多くありましたが、録音やメディアを介しての演奏ばかりで、実は生演奏を聴くのは初めてです。林さんは2011年3月、大震災直前に当地で開催されたコンサートを聴いて以来となります。

 今日は天候に恵まれ、絶好の花見日和となりました。白山公園ややすらぎ堤の桜は満開で、たくさんの花見客で大混雑でした。そのため、駐車場はどこも満車で、走り回った末に少し離れたコインパーキングに空きを見つけてどうにか駐車できました。
 白山神社を通りましたが、お祭りのような賑わいで、露天には長い行列ができていました。雑踏をかき分けて白山公園に行きますと、たくさんのグループが花見の宴の真っ最中であり、お弁当を広げて地面に隙間もないほどでした。春の喜びをみんなで満喫していました。

 自由席でしたので早めに5階の能楽堂に上がり、開場待ちの列に並びました。予定より若干早めに開場され、中正面最前列に席を取りました。

 開演を告げる興ざめのブザーが鳴り、いよいよ開演です。第一部は、今年没後20周年を迎えた武満徹のギター作品と、「SONGS」からの数曲が演奏されました。

 荘村さんと大萩さんの二重奏で開演しました。柔らかなギターの音が能楽堂に響き渡り、一気に演奏に引き込まれました。能楽堂という狭い空間がギター演奏にはちょうど良く、濃密な音楽空間が創り出されました。
 心地良い2曲の後は、大萩さんのソロで、いかにも現代曲というような音楽が奏でられました。テクニックの凄さに驚きましたが、緊張感を強いられる音楽に、精神的疲労も感じました。

 シルバーのドレスが麗しい林さんが登場して、「SONGS」からの4曲が歌われました。おなじみの名曲「小さな空」に始まり、バラエティーに富んだ武満の音楽を楽しませていただきました。どういうジャンルの音楽なのか分類しがたいですが、存在感ある朗々とした歌声に酔いしれるばかりでした。大萩さんの見事な演奏にも聴きほれました。

 続いて荘村さんによる演奏で「フォリオス」です。この曲は荘村さんが武満さんに依頼した曲だそうですが、武満による最初のギター曲だそうです。緊張感あるなかに、透明感が感じられ、心地良い疲労を感じました。

 続いて林さんと大萩さんが登場して、再び「SONGS」からの4曲が歌われました。ユーモアあふれる曲もあり、武満の音楽の懐の広さに感嘆し、楽しく聴かせていただきました。

 休憩後の後半は様々な名曲が演奏されました。最初は荘村さんの独奏で、おなじみの「アルハンブラの思い出」が演奏されました。いぶし銀のような老練の演奏で、独特の音楽世界を感じさせました。

 続いては荘村さんと大萩さんの二重奏によるモリコーネです。柔らかなギターの音色と絶妙な二人のハーモニーが胸を打ち、曲の良さを再認識させました。

 次は大萩さんの演奏で「フェリシダージ」が演奏されるはずでしたが、今日の満開の桜にちなんで急遽曲目が変更され、「さくらの主題による変奏曲」が演奏されました。大萩さんの卓越したテクニックに支えられた聴き応えある演奏に、うっとりと聴き入りました。

 続いては荘村さんと大萩さんの二重奏でファジル・サイの曲が演奏されました。サイがこういうギター曲も書いているとは驚きでしたが、多彩に変化する曲調で楽しませていただきました。

 次は林さんと荘村さんによるファリャです。スペインにちなんだものと思いますが、林さんは黒地に赤いバラ(?)の模様の情熱的なドレスで登場しました。フラメンコ調の、いかにもスペインというような曲を、荘村さんのギターをバックに、力強く歌い、林さんのただならぬ実力を知らしめてくれました。

 最後は、林さんと大萩さんによるドレーブです。華があり存在感がある林さんにはぴったりのように思いました。情熱的な歌声に酔わせていただき、感動の中にプログラムは終了しました。

 拍手に応えてアンコールは「ハバネラ」。ギター二重奏をバックに妖艶に歌い、林さんの魅力が全開となり、熱狂と興奮の中に終演を迎えました。時間は4時25分。内容たっぷりのコンサートに大満足でした。

 荘村さんは私が子供の頃からすでに日本の第一人者でした。その実力と風格は、単に演奏技術だけでは推し量れないものに思えました。存在感あふれる音楽は、あくまでも優しく心に響きました。
 一方大萩さんは、若手から中堅になろうとする実力者。抜群のテクニックには感嘆するばかりでした。脂の乗り切った演奏は、有無を言わせぬ説得力がありました。
 そして、林さんの歌声。メゾソプラノということで、ソプラノにはない落ち着きと力強さが感じられました。声量豊かであり、多彩な歌声は実力の高さを物語っていました。容姿端麗でチャーミングな中に妖艶さも漂わせ、私のようなジジイの心を虜にしました。

 外に出ますと薄雲が広がり、若干肌寒さも感じましたが、公園は花見客でまだ賑わっていました。美しい花に酔いしれ、美しい音楽に酔いしれ、美しい林さんに酔いしれ、至福のひと時を過ごすことができて良かったです。


 
(客席: 中3-12、¥4000)