ネット時代の『市史』編纂
電子化の必要性と改訂版の着手など
旧版からある程度の年月が経ち、更に合併によって新尾道市が形成された今、尾道の過去・現在、そしてそこから未来を描く道標としての新たな市史作りの気運が、沸々と沸き上がってきているが、本紙上での提起や民間での「市史を読む会」の動きなどを受け、市民間でも関心が高まりつつある。軍事用語の専門家・翻訳家である向島町在の金森國臣さんから、「インターネット時代の市史編纂について」と題した一文が寄せられたので新市史への貴重な提言として、全文ご紹介したい[林良司]
新しい尾道市史の編纂について、賛否は別にして、インターネット時代の市史編纂がいかにあるべきか、気付いた点を書き出してみた。関心のある方々の参考になればと思う。
@電子化する…
既存の市町村史(以下、「市史」)の全文テキスト化は不可欠であろう。電子書籍化も検討すべきだと思う。
利用すればすぐに分かることであるが、市史の使い勝手は極めて悪く、必要な項目にたどり着くまでに相当の時間を要する。
また高価でもあり、購入するにはハードルが高すぎるし、置き場所にも困る。図書館で閲覧できるが、通常は持ち出しが禁止されており熟読するには不便がある。
これらが電子化によって、すべて解決できるわけではないが、検討すべき課題のひとつだろうと思う。
Aプラットフォーム化する…
あらゆる歴史関係資料を包含する一種のプラットフォームを構築すべきだろうと思う。技術的に正確か不明であるが「メタ的な構造にする」と言い換えてよいかも知れない。
現在では非構造化データベースが安価に利用できるので、関連する文書、画像、動画、音声などを格納したデータベースを作成し、メタデータで参照できるようにすれば、一次資料へのトレースも比較的簡単に行えるはずである。
市史の電子化は市史内および市史間のリンクを前提とするが、データベースへのリンクも技術的には可能と思う。
これらによって、参照資料としての市史の信頼度は一段と高まることになり、簡略通史やまんが版市史、歴史年表、歴史百科などの作成にも弾みがつくだろうと思う。場合によっては、農業史や個人史的なものへの活用といった面が開けてくるかも知れない。
B改訂版を作成する…
いきなり新版を作成するのは、マンパワー的には無理があろう。改訂版の作成から取りかかるのが手順ではないかと考える。適切な巻を選び、実験的に先行させる方法もある。
誤っている箇所は正し、足りない部分は補うことで、全体像が徐々に明らかになってくるものと思う。それによって、例えば、高須地区や山波地区については、さらなる調査研究の必要性が生じてくるかも知れない。
電子化すれば、変更履歴の記録が簡単に行える。改訂への心理的負担は軽減されるだろうし、何よりも世代間の引き継ぎに齟齬を生じることがなくなるものと思う。
市史の改訂には、市民の集合知を反映させるべきであるが、クラウド環境の利用がそれを可能にしてくれるものと思う。
(山陽日日新聞より転載)
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