私が勝手にそう呼んでいるだけなのだが、向島の中富地区に石造の巨大な地蔵がある。珍しく北を向いている。併設の御堂もそれにあわせて北向きになっている。
まことに圧倒される大きさで、数年前まで知らなかったことを恥じるぐらいだ。観光の名所になってもおかしくない石仏であるが、町民のほとんども知らない。
野仏のように打ち棄てられているわけではなく、中川組の住民によって手厚くまもられている。供花や供物が絶えることはなく、掃除も行き届き、霊地としての清々しさを感じさせるほどである。御利益があるとのことで、たいてい夕方にはおばあちゃんたちがお参りしている。夏の終わりにある地蔵祭りも盛んとのことである。
江戸時代の建立であるから、当時としては一大事業であったろう。あえて北向きとしたことにも深い謂われがありそうだ。こう話すと尾道の連中は嫌がるのだが、大変な災厄が尾道からやってきて、それに懲りた島民が厄除けを願って尾道の方に向かせているのだろう、というのが私の解釈である。おいおい調べてみることにしたいが、二、三訊ねてみたところでも、言い伝えは失われてしまっているようだ。
場所はスーパーのフレスタから歩いて数分のところなので、是非一度はお参りされることをお勧めする。車はフレスタに停めておけばよいだろう。「のま文昇堂」から入り川を上ってすぐ右側にあると言えばわかりやすいだろうか。(金森國臣 2004年5月28日)
■江尻地蔵…出典:向島の石造物(向島町教育委員会)
- 場所……中富東南江尻川沿
- 刻銘……地蔵尊 天保十二年十一月
- 氏名省略 (一八四一)
- 説明……總高二四五センチ、幅最大一〇七センチ、花崗岩製完全。銘文塔身正面に梵字の下に一行三字が陰刻してあり、基礎の高さ四五センチ、幅一〇七センチ、奥行一〇七センチ、中段高さ三〇センチ、幅七六センチ、奥行七六センチ、塔身高さ六五センチ、幅五二センチ、蓮座高さ一五センチ、幅四六センチ、仏像の高さ九〇センチ、幅五八センチ。
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