今シーズンの東響新潟定期の2回目は、井上道義さんの登場です。昨日の東京オペラシティシリーズ第121回と同じプログラムです。
本来であれば、ピアノはアレクセイ・ヴォロディンの予定だったのですが、御多分に漏れず、新型コロナウイルス感染症に係る入国制限により来日出来なくなり、松田華音さんに変更になり、曲目もプロコフィエフのピアノ協奏曲第2番が第3番に変更になりました。
まあ、ノットさんのように無理しての来日もありますが、このご時世では仕方ないですね。でも、代役が松田さんなら不満はありません。
なお、東京オペラシティシリーズのチラシは松田さんのものに差し替えられましたが、新潟定期は従来のままになっています。前回もそうでしたが、チラシを作り直すのももったいないですものね。
さて、指揮の井上さんの新潟定期への出演は、2003年10月の第23回新潟定期演奏会でマーラーの交響曲第2番「復活」を演奏して以来、18年ぶり2回目となります。
そのほかの新潟での演奏は、2018年10月のNHK交響楽団新潟特別演奏会以来3年振りです。その前の2017年4月のラ・フォル・ジュルネ新潟2017での演奏も記憶に新しいです。
また、松田さんの新潟での演奏は、昨年7月の松田華音ピアノリサイタル以来1年ぶりで、パワー溢れるスピード感ある演奏で魅了されたことが思い出されます。今回は名匠・井上さんとのピアノ協奏曲ということで、どんな演奏になるのか期待が高まりました。
ところで、今日の演目のうち、前半のプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番は、東響新潟定期演奏会では、2008年5月の第48回、2016年5月の第95回と2回演奏されており、今回は3回目となります。
当初予定されていた第2番は過去に取り上げられていませんでしたので、第2番を聴きたかったというのが本音ですが、第3番は大好きな曲ですので、これもまた楽しみです。
なお、この曲は、4月24日に開催された「相原一智 栄長敬子 2つのピアノ協奏曲を聴く愉しみ」で、相原さんがオケパートの栄長さんとともに熱い演奏を聴かせてくれたのも記憶に新しいところです。
ちなみにこの曲は、2019年に映画化された「蜜蜂と遠雷」でピアノコンクールの課題曲として使われ、その魅力を再確認したということも申し添えておきましょう。
一方、後半のプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」は、これまで東響新潟定期で取り上げられたことはなく、今回が初めてです。
個人的には、りゅーとぴあ開館記念公演として1998年12月に開催されたゲルギエフ指揮キーロフ歌劇場管弦楽団の演奏が、今なお思い出に残っています。
さて、今日は本来であれば仕事のはずだったのですが、幸いにしてスケジュール調整ができて、無事に聴きに行けることになりました。
昨日の東京オペラシティでの演奏は素晴らしかったようであり、今日の新潟定期での演奏も熱演が期待され、ワクワクしながら今日の日を迎えました。
新潟定期演奏会の日に恒例の「東響ロビーコンサート」を聴かせていただいて、カプースチンの弦楽四重奏曲を堪能し、一旦帰宅して原稿を書き上げ、再びりゅーとぴあに戻りました。
既に開場時間は過ぎており、早めに席に着いてこの原稿を書き始めました。残念ながら客の入りとしては十分ではなく、空席が目立ったのが残念でした。
昨日の加藤さんのリサイタルと同様に、レセさんが、客席内では会話はしないようにというプラカードを掲げてホール内を回っていましたが、これは良いことですね。
ただし、これを無視しておしゃべりに夢中の人も多いのが残念です。ホール内ではルールを守り、ホール外で思う存分お話ししてください。
時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待つ新潟方式です。最後にニキティンさんが登場して大きな拍手が贈られました。オケのサイズは14型(14-12-10-8-6)で、通常の配置です。今日の次席は田尻さんでしょうか。
チューニングを終え、鮮やかな赤ピンクのドレスが麗しい松田さんと井上さんが登場。吉野さんの美しいクラリネットに導かれて、怒涛の音楽の開演です。
吉野さんのクラリネットに2番クラリネットが重なり、透明感のある弦楽がメロディを奏で、ギアチェンジして機関車がパワー全開で急加速し、切れの良いピアノが猛スピードで駆け抜けました。この爽快感がこの曲の醍醐味です。
緩徐部で一息入れて、再び急加速して猛突進。野を越え山を越え、パワー全開。トップスピードでゴールへ。最後の一撃がバシッと決まって気分爽快。たまりませんねえ・・。
第2楽章は、ちょっとユーモラスにも思えるテーマが変奏曲として形を変え、緩急が入り混じりますが、緩徐部での歌わせ方も美しく、激しい場面でのパワーも十分。オケとピアノが見事に融合し、せめぎ合い、互いに高め合っていました。
第3楽章は徐々にスピードを上げて、アップダウンのある荒野を駆け抜け、幻想的な湖のほとりで一息。森の中から呼ぶ声がしてさまよい、桃源郷に迷い込む。ここは天国か極楽浄土か。意識がもうろうとなったところで我に返り、再びアクセルを踏み、パワー全開でスピードを上げ、超高速で興奮と感動のフィナーレへと駆け抜けました。
松田さんの素晴らしさは言うまでもないですが、井上さんの熱い指揮に応えて、各パートとも見事なパフォーマンスを発揮した東響の素晴らしさも賞賛したいと思います。
パワーあふれるピアノとオケの饗宴を楽しみ、胸の鼓動の高鳴りを感じました。どんどん加速するスピード感がこの曲の最大の魅力ですが、その魅力が見事に表現されていました。
ホールは熱狂の渦。松田さんと東響の快演に、ブラボー禁止ですので、大きな拍手で讃えました。松田さんは井上さんに促されて、サイド席にも礼をしていました。
ソリストアンコールとしてラフマニノフの「楽興の時第5番」をしっとりと演奏し、興奮した心を鎮めてくれました。上質なデザートをいただき休憩に入りました。
後半は「ロメオとジュリエット」です。一言で言って、「オーケストラを聴いた!」という満足感を感じました。躍動感にあふれ、美しく色彩感に満ちたオーケストラサウンド。生演奏の迫力に身をゆだねるのみでした。
井上さんの全身を使った指揮は、この曲がバレエ音楽だったということを思い出させてくれました。まさに、指揮者自身がバレエしてましたから。
細かな手の動き、くねらすような体の動き、これらすべてが意味のあるものであり、迫力の中にも繊細な響きを作り出していました。決闘の場面ではフェンシングのポーズで指揮したり、各所でオケに細かな指示出ししていました。それに応える東響の素晴らしさに息をのみました。
途中で、どの曲か追うのもばからしくなり、美しいオーケストラの音の洪水に身を任せ、トリップ状態になりました。大きな盛り上がりの後、静かな余韻の中に曲が終わり、大きな拍手が沸き上がりました。
カーテンコールの後、井上さんがマイクを持って登場して挨拶があり、アンコール代わりに曲の一節を演奏しましたが、井上さんの指示で観客も足踏みで参加。客は起立し、自動的にスタンディングオベーションとなりました。
サービス精神旺盛な井上さんとともに、感動のステージは終演となりました。前半も後半もプロコフィエフというプログラムでしたが、素晴らしい内容に気分爽やかにホールを後にしました。
6月も半ばを迎え、日没が遅くなり、ホールの外に出ますと西の空は夕焼けで赤くなり、ビルの谷間から夕日が見えました。穏やかな初夏の夕暮れです。
(客席:2階C*-*、S席:定期会員¥6300) |