井上静香 ヴァイオリン ミニコンサート
  ←前  次→
2019年9月16日(月・祝) 14:30 田上町交流会館 中ホール
 
ヴァイオリン:井上静香
 


J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番 より アダージョ
ビーバー:パッサカリア

(休憩10分)

イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番 バラード

(休憩5分)

竹内邦光:落梅集 〜無伴奏ヴァイオリンのために〜
        1.流離  2.古謡  3.激り落つ

(アンコール)
山田耕筰:この道
ドヴォルザーク:ユーモレスク

 井上さんの演奏は、これまでも何度か聴かせていただいていますが、その卓越した演奏技術に支えられた熱く燃える豊かな音楽性に感激してきました。今年も新年早々の品田真彦さんと共演したコンサートでの鬼気迫る演奏に驚かされたことが思い起こされます。

 その井上さんからこのコンサートの案内をいただき、幸い休日で時間を作れましたので、新しい施設の見学もかねて田上町まで遠征することにしました。

 某所で休息と昼食を摂り、ゆっくりと田上町へと向かいました。バイパス沿いながらも田園地帯の真ん中にある田上町役場の隣に、田上町交流会館があります。
 ここは、9月1日にオープンしたばかりのピカピカの施設ですが、道路沿いに看板はなく、地元民以外には分かりにくいかもしれません。
 1階にコンサート用グランドピアノを備えた大きな多目的ホールがありますが、今日は3階の中ホールが会場です。

 3階に上がりますと、すでに受付が始まっており、私も受付して開場を待ちました。今回のコンサートがどこの主催かは全く理解しないまま参加してしまいましたが、ほとんどが地元のご婦人方のようで、アウェイ感たっぷりでした。ピアニストの品田さんに挨拶していただいたのが救いでしょうか。

 開演15分前に開場となり、せっかくですので、図々しくも最前列に席を取りました。無伴奏は近くがいいですものね。ご婦人方がほとんどでしたが、100人近くの集客だったようです。盛況で何よりです。

 開演時間となり、主催者の挨拶と井上さんの曲目紹介のあと開演しました。最初は、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第1番のアダージョとビーバーのパッサカリアが続けて演奏されました。
 眼前に響く音量豊かなヴァイオリン。私の乏しい語彙では表現し切れませんが、魂を揺さぶる演奏とでもいいましょうか、熱く心の中に攻め込んでくるような演奏に、たじたじとなるような感じです。当然聴く方に緊張感を強いられますが、心地良い緊張であり疲労です。
 攻め込むようだと表現しましたが、決して鋭角的ではなく、まろやかさ、優しさにくるまれており、聴く者を包み込むような優しさも感じられました。

 実は、ビーバーのパッサカリアは私が大好きな曲です。この曲が演奏されるということも、田上に駆けつけた大きな動機になっています。
 この曲を初めて聴いたのは、2013年9月の野口万佑花さんによる演奏で、CDショップの「コンチェルト」がまだ、東堀にあった時代のインストアライブでした。このときの感動は今なお色あせていません。
 その後生で聴く機会は少なく、2014年10月の鍵冨弦太郎さんの演奏、2017年6月の鈴木理恵子さんの演奏、そして同じく2017年10月の新潟メモリアルオケの定期演奏会でソリストアンコールでの風岡優さんの演奏くらいです。
 それぞれが、それぞれの演奏を聴かせてくれましたが、どれもが心を揺さぶるというのは、曲自身の良さ、曲に秘められたパワーがあってのことと思います。さすがにバッハの「シャコンヌ」と並ぶ無伴奏の名曲ですね。

 演奏する方も、聴く方も緊張が強いられ、ここで休憩が取られました。そして、今度はイザイの無伴奏ヴァイオリンソナタです。
 イザイはベルギーの20世紀を代表する名ヴァイオリニストのひとりであり、この無伴奏ソナタは、バッハととも無伴奏ソナタの名曲として知られます。
 息をするのもはばかられるような張り詰めた緊張感。決して長い曲ではありませんが、与える感動は時間では推し量れません。大曲を聴いたかのような満足感と高揚感を感じさせました。

 この緊張を緩めるため、ここで再び短い休憩が置かれ、最後は日本の無伴奏曲です。竹内邦光さんは今も活躍中の作曲家で、井上さんも直に指導を受けたことがあるそうです。
 日本人が、こういう曲を作っていたということは全く知らず、いい曲に出会えた幸せを感じました。「落梅集」は3曲からなり、それぞれが味わい深い音楽となっています。
 初めての曲ですので、何とも言い難いのですが、井上さんの熱く音量豊かに響くヴァイオリンが心地良く、ジーンと心に響いてきました。

 大きな拍手に応えて、アンコールを2曲演奏してくれました。これは誰もが知る曲で、緊張感で疲れた心を癒す、極上のデザートとなりました。

 親密な空間で聴く井上さんのヴァイオリン。さすがとしか言いようがありません。義務教育以外の音楽教育は受けていない私ですので、音楽性がどうの、精神性がどうのと議論はできず、単に私の心に響いてきたかどうかが良し悪しの判断基準です。今日の演奏は、そんな私の心を大きく揺さぶる音楽でした。

 田上町という田園地帯での小さなホールでの演奏会。よくある名曲コンサートではなく、手を抜くことなく、無伴奏ヴァイオリンの本流で攻め込んでくれた井上さん。こちらも負けじと精神を集中させて受け止めました。

 休憩時間は地元のご婦人方のおしゃべりが賑やかでしたが、演奏中は皆さん真剣に聴いており、心にダイレクトに迫る音楽を堪能していたものと思います。

 アウェイ感を感じた田上町でのコンサートでしたが、遠征した甲斐のある素晴らしいコンサートでした。コンサートの開催を案内していただいた井上さんに感謝申し上げます。なお、9月21日19時より、ギャラリー蔵織で、同じ内容のコンサートが開催されますので、新潟市近辺の方は是非お聴きください。

 井上さんに挨拶して家路に着きましたが、農道から信濃川左岸の堤防道路をノンストップで黒埼まで進み、40分ほどで家に着くことができました。この道はバイパスを利用するより早いですね。
 

(客席:正面右・最前列、¥1000)