クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル
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2021年11月14日(日)17:00 柏崎市文化会館アルフォーレ 大ホール
ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン
 
J.S.バッハ:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV825

J.S.バッハ:パルティータ 第2番 ハ短調 BWV826

(休憩20分)

ブラームス:3つの間奏曲 Op.117

ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番 ロ短調 Op.58

 ツィメルマンといえば、現役のピアニストの中では世界最高峰の一人であるということで異論はないでしょう。ツィメルマンは、親日家として知られており、毎年のように来日リサイタルを開催し、東京に自宅を所有していることでも知られています。
 新潟でも度々リサイタルを開催しており、私はこれまで 2008年7月2010年6月2012年12月の3回、新潟市でのリサイタルを聴き、2015年11月2019年2月の2回、柏崎でのリサイタルを聴く機会があり、今回は6回目となります。

 2007年7月の中越沖地震で被災した柏崎にツィメルマンは思いを寄せ、その年の秋に復興を祈念するコンサートを柏崎で開催すると発表しましたが、健康上の理由によりキャンセルされ、翌年の7月、ちょうど地震の1年後に柏崎で被災者を招待してのコンサートを開催し、市に100万円を寄付しました。
 そのとき被災した市民会館が新しく再建されたらリサイタルを開催すると約束し、その約束通りに、2015年11月にリサイタルが開催されました。
 そのリサイタルで柏崎市文化会館アルフォーレの音響の良さに感動したツィメルマンは、日本ツアー終了後の2016年1月に、このホールでシューベルトのソナタのCD録音を行ったという逸話もあります。ちなみに、この録音は、ソロとしては25年ぶりの録音であり、そのCDは2017年度のレコードアカデミー賞を受賞しています。
 ツィメルマンの柏崎への思いは強いようであり、今年の公演も、新潟市ではなく、柏崎市であり、3回連続して柏崎での開催です。

 ツィメルマンの今年の日本公演は、全国で全10公演開催されますが、その第1回が今日の柏崎での公演です。
 毎回のことですが、9月のチケット発売当初はプログラムの発表はなく、今回も演目も知らないままチケットを購入ということになりました。
 現在新型コロナ感染は小康状態にありますが、今回のコンサートは1席おきでの販売となり、客席数は半分となりましたので、チケットは早々に完売となったようです。

 さて、今回のプログラムは、バッハのパルティータ第1番・第2番、ブラームスの3つの間奏曲、そしてショパンのピアノソナタ第3番です。
 バッハのパルティータは、2008年7月のリサイタル、ショパンのピアノソナタ第3番は、2010年6月のリサイタルで聴いていますが、ブラームスの3つの間奏曲は今回が初めてです。さて、今年はどんな演奏を聴かせてくれるでしょうか。


 今日は午前中は青空も見え、いい天気かと思ったのですが、昼過ぎから厚い雲が広がり出しました。ゆっくりと昼食を摂って家を出ました。
 海岸沿いの国道402号線からシーサイドラインを抜けて、寺泊から出雲崎・刈羽へ。原子力発電所近くの某所でひと休みして柏崎入りしました。
 柏崎は、単身赴任で13年暮らし、その後も週1回仕事で通いましたので、飽きるほど通った道です。寺泊以降、すべての交差点を直進しますと、アルフォーレ前に出ますので、この道は初めての人にも分かりやすいと思います。北陸道経由よりは時間がかかりますが、距離的には短く、信号も少なく、景色も良いので、ドライブを楽しめると思います。

 快適なドライブで、4時前にアルフォーレに到着。まだ駐車場はガラガラでした。ホールの搬入口には、スタインウェイ・ジャパンのトラックが駐車していました。ツィメルマンは、毎回自分のピアノを運び込みますので、そのトラックと思われます。

 開場まで1階のロビーでこの原稿を書きながら時間調整し、開場とともに列に並んで入場し、席に着きました。客席は1席おきで、使用されない席にはカバーが掛けられていました。
 建物の外観と同様に赤茶色で統一されたホールは、落ち着いた感じで非常に美しく、音響の良さを別にしても、県内でも最高クラスのホールだと思います。
 ステージには、ツィメルマンが持参したと思われるピカピカのスタインウェイが設置されていました。開演前のホワイエでは、CD販売で賑わっていました。

 開演時間となり、白髪で燕尾服姿のツィメルマンが楽譜を持って登場。バッハのパルティータ第1番で開演しました。
 泉のごとく流れ出る流麗な音楽。豊潤なホールの響き。中音部が豊かに響き、刺激的な音は全く聴こえません。6曲からなりますが、プレルーディエム、アルマンド、コレンテ、サラバンド、メヌエットT/Uと明るく快活な音楽が流れ、最後のジークではペダル操作が足踏みのように聴こえ、大きく盛り上がって曲を終えました。

 一旦下がって、続いては、バッハのパルティータ第2番です。この曲も6曲からなります。1番とは違って、重厚な序奏に始まり、その後は軽やかにスピードアップしました。
 シンフォニア、アルマンド、クランド、サラバンド、ロンドー、カプリッチョと、各曲の対比も鮮やかに演奏し、最後はハイスピードでどんどんとたたみ掛け、スピードとパワーに圧倒されました。大きな拍手に応えた後、楽譜を持って退場し、休憩時間に入りました。

 後半は、係員が楽譜を持って現れて、ピアノに載せて退場。ホールが暗転し、ツィメルマンが登場し、ブラームスの3つの間奏曲です。
 第1曲は、子守り唄風の穏やかな音楽です。豊潤なピアノが、優しく、やわらかく、心にしっとりと響いてきて、疲れた心が癒されるようでした。
 第2曲は、寂しさを感じさせる悲しげな曲であり、クリアなピアノが美しく響き、肌寒さも感じる晩秋の今の時期にぴったりに感じられました。
 第3曲は、暗くて重苦しい切なさを感じさせる音楽が、胸に突き刺さるように迫り、ピアノの響きの美しさに酔いしれました。

 一旦退場して再登場。楽譜を直して、最後はショパンのピアノソナタ第3番です。第1楽章は、速いテンポで始まり、ハイスピードで突き進みました。美しく流麗な、クリアなピアノの響きに感じ入りました。
 第2楽章も、軽快に、ハイスピードで駆け抜け、第3楽章は、美しい緩徐楽章ですが、甘美になることなく、緊張感を保ち続けました。
 そして第4楽章は、力強く、グイグイとたたみかけ、有無を言わせぬパワーとスピードに圧倒され、ノックアウトされてしまいました。
 演奏が終わって、ツィメルマンは楽譜を持って退場し、何度もカーテンコールに応えましたが、アンコールなしに終演となりました。

 総じて、スピード感に溢れ、流麗で軽やかなピアノに感銘を受けました。豊潤なホールの響きがピアノをソフトに響かせて、極上のサウンドを作り出しました。
 最高のホール、最高のピアノ、そして最高の演奏。三位一体となり、至福のひと時を過ごさせていただきました。はるばる柏崎まで遠征した甲斐がありました。
 どうして新潟市に来てくれないのだろうと思いましたが、このホールの素晴らしさを体験しますと、やはりこのホールであればこその音楽だったんだろうなとも感じます。

 分散退場でホールを後にし、小雨がぱらつく中に家路に着きました。いい音楽を聴いた喜びを胸に、交通量がほとんどない海岸沿いの道路を快適に新潟市へと北上し、1時間半ほどで帰宅できました。
 

 
(客席:1階 、S席:¥7000)