東京交響楽団第133回新潟定期演奏会
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2023年9月24日(日) 17:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
コンサートマスター:グレブ・ニキティン
 
ベートーヴェン:交響曲 第3番 変ホ長調 op.55「英雄」

(休憩20分)

R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」 op.40
  ソロ・ヴァイオリン=グレブ・ニキティン

 8月に引き続いて、2ヶ月連続の東響新潟定期演奏会です。今回の指揮者は、ロレンツォ・ヴィオッティで、新潟定期演奏会への出演は、2019年7月の第114回新潟定期演奏会以来2回目になります。
 1990年にスイスで生まれ、前回はまだ20代で、颯爽としたスピード感溢れる演奏で楽しませてくれました。あれから4年経って30代となり、今回はどんな演奏を聴かせてくれますでしょうか。

 さて、今回のプログラムは、前半にベートーヴェンの「英雄」、後半にR.シュトラウスの「英雄の生涯」という「英雄」の2本立てというのが注目されます。
 ベートーヴェンの「英雄」は、名曲中の名曲ですので、聴く機会が多く、新潟定期演奏会でも何度も演奏されているようにも思えますが、意外にも1999年4月の第1回新潟定期演奏会以来2回目であり、なんと24年ぶりというのは驚きです。
 定期という枠を外せば、コロナ禍で定期演奏会が全て中止され、新潟特別演奏会として開催された2020年7月の新潟特別演奏会2020盛夏で演奏されています。そのときはステージ上に指揮者はなく、ノット氏がイギリスから映像で指揮するという歴史に残る特別な演奏会でした。
 一方、R.シュトラウスの「英雄の生涯」は、新潟定期演奏会では今回が初めてになります。東響以外でも聴く機会は少なく、2003年11月のウィーン・フィル新潟公演(指揮:ティーレマン)、2016年5月のトーンキュンストラー管弦楽団(指揮:佐渡裕)で聴いて以来で、今回は3回目です。

 前半からいきなりメインになるべきのベートーヴェンの「英雄」で、後半は16型・4管編成の大編成を必要とする「英雄の生涯」です。2つの「英雄」を、たっぷりと楽しませていただきたいと思います。

 なお、今回のプログラムは、昨夜サントリーホールで開催された第714回定期演奏会と同じです。昨夜の演奏会は生配信されましたが、若き指揮者とともに、スピード感と躍動感に溢れる演奏に驚嘆しました。1週間はタイムシフト配信されます。コンサートに行けなかった人は、この配信を視聴されることをお勧めします。

 昨日は秋分の日。連日の猛暑から開放されて過ごしやすくなりました。夜明け前に目が覚めて、ホームページの記事を書いて更新しましたが、窓からは涼しいい空気が吹き込んで、爽やかで気持ちよい朝を迎えました。

 ゆっくりと日曜の朝を過ごして雑務をこなし、今日は昼にりゅーとぴあに行き、久しぶりに新潟定期の日に恒例の「東響ロビーコンサート」に参加し、期待通りの演奏に東響のメンバーの素晴らしさを再確認しました。
 その後は、りゅーとぴあの有料会員向けの公開リハーサルに参加しようとも考えていたのですが、本番での新鮮な感動に影響すると悪いので断念し、某所で休息して出直しました。

 夕方4時過ぎに再び白山公園駐車場に車をとめましたが、すでにかなりの混雑でした。りゅーとぴあに行く前に、チラシ集めをしようと県民会館に立ち寄りましたが、郷ひろみのコンサートの開場待ちで、ロビーはオバ様方で混雑しており、圧倒されて逃げ出て、りゅーとぴあへと向かいました。
 りゅーとぴあに入りますと、劇場では「稲川淳二の怪談ナイト」が開場されていて賑わっていました。各ホールとも盛況で何よりです。

 コンサートホールはすでに開場されており、私も入場して席に着きますと、ちょうど16時半からの榎本さんと廣岡さんによるプレトークが始まりました。
 まず、今回のプログラムの紹介がありましたが、今日の2曲はともにメインになるべき曲であり、覚悟して聴く必要があると、廣岡さんがユーモアを交えて話してくれました。R.シュトラウスは、ベートーヴェンの「英雄」に影響を受けて、「英雄の生涯」を同じ変ホ長調で作曲したそうです。
 続いて「英雄の生涯」でソロを演奏するニキティンさんの紹介があり、札幌交響楽団のコンマスとして来日して30年になること、指揮者としても活動していることなど興味深く拝聴しました。
 そして指揮のヴィオッティさんの紹介があり、ブルガリのアンバサダーに就任されていることなど、楽しく聞かせていただきました。

 プレトークが終わり、開演時間が近付いてきましたが、客席は空席が目立ち、もったいなく感じました。新潟のような地方都市では、これが現実でしょうか。学生を無料招待するとか、何とかしないといけませんね。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場し、全員揃うまで起立して待ち、最後にニキティンさんが登場して大きな拍手が贈られました。男性陣は全員白の蝶ネクタイです。
 オケは12型で、ヴァイオリンが左右に分かれる対向配置です。弦5部は、私の目視で 12-12-8-6-5 です。先回に引き続いてオーボエ主席の荒さんはお休みのようで、最上さんのオーボエでチューニングとなりました。

 長身で髭を生やしたイケメンのヴィオッティさんが、紺色の燕尾服・白の蝶ネクタイで登場して演奏開始です。最初の1音で、いつもと違う透明感のあるオケの響きに魅了されました。
 颯爽とした切れの良い演奏で、猛スピードで気持ちよく演奏が進みました。聴き飽きた感のある「英雄」も新しい曲に生まれ変わったかのごとく、胸が高鳴るような新鮮な感動をいただきました。
 第2楽章の葬送行進曲は、さすがにスピードを落とし、大きくためを作って演奏しましたが、決して暗くはありません。最上さんのオーボエも美しく、しっとりと心にしみる音楽を聴かせてくれました。
 第3楽章は再びスピードアップし、生き生きと駆け抜け、聴かせどころのホルンの三重奏もばっちりと決まっていました。
 アタッカで突入した第4楽章は、草原を馬に乗って駆け回るかのようで気分爽快です。ハンガリー風の行進曲を間に挟んで、流麗な音楽が流れるように進み、弦楽のトップ奏者だけによる室内楽的響きも美しかったです。
 オーボエがゆったりと歌い、ホルンが壮大に勝利の凱歌を歌い上げ、ゆったりとした音楽からギアチェンジして、猛スピードでフィナーレへと駆け抜けました。
 大きな拍手で見事な演奏を讃えましたが、指揮者は真っ先にオーボエの最上さんを立たせました。確かに見事な演奏でした。
 若き指揮者とともに、東響の皆さんは抜群のパフォーマンスを発揮し、躍動感・生命感にあふれる音楽を創り上げ、21世紀の新たな「英雄」を聴かせてくれました。いきなりの素晴らしさで、前半だけでも大満足でした。

 休憩後の後半は「英雄の生涯」です。オケの編成は大きくなって16型となり、弦5部は密集していてよく分かりませんでしたが、私の目視では 16-16-12-10-8 でした。ホルンは指定では8人のはずですが9人でした。ハープも右側に2台並び、ステージいっぱいの大編成のオケは視覚的にも興奮を誘いました。
 これだけの大編成ですので、賛助出演も多数あり、東響の正規メンバーは総動員かと思われますが、主席クラスでお休みの人もおられます。フルートの1番は竹山さんで、2番が高野さん、3番が相澤さん、ピッコロは濱崎さんです。オーボエも最上さんが1番で、最上さんが担当するはずのイングリッシュホルンは浦脇さんなどと、管楽器はいつもとは違う並びです。

 ヴィオッティさんが登場して演奏開始です。最初に英雄のテーマが高らかに歌い上げられ、一気に演奏に引き込まれました。9人のホルン軍団を始め、各セクションとも抜群のパフォーマンスを発揮し、R.シュトラウスの壮大な音楽世界に誘われました。
 英雄の敵が現れて暗い影を落としますが、英雄の伴侶が優しいメロディで癒してくれます。山あり、谷あり、ときには喧嘩もありますが、ゆったりとして穏やかな至福の生活を送りました。ニキティンさんの美しく、官能的なソロに、うっとりと聴き入りました。この間にトランペットの3人が舞台裏に移動しました。
 幸せな生活をかき消すような不吉な空気が流れ、舞台裏からバンダのファンファーレが聴こえて敵が現れ、戦いが始まりました。バンダの3人が席に戻り、壮絶な戦闘が繰り広げられました。
 そして苦難の末に戦いに勝利して、英雄のテーマを高らかに歌い上げ、ホルンが壮大に鳴り響き、勝利を祝いました。これが人生のクライマックスでしょうか。
 そして年月が過ぎ、英雄は人生のたそがれ時を迎え、自分の生涯を振り返ります。戦いと平穏とが繰り返した人生が走馬灯のように心の中を駆け巡り、幸福だった時代を思い起こしましたが、時折感じる胸の高鳴りは、後悔か喜びか、それとも死への不安でしょうか。英雄は行く道を見つけ、穏やかな気持ちとともに、静かに去って行く・・・。
 ホルンとニキティンさんの美しい掛け合いにうっとりと聴き入り、大きな感動とともにフィナーレとなりました。
 しばしの沈黙の後、ヴィオッティさんの手が下ろされ、大きな拍手が沸きあがり、ブラボーの声もこだましました。私も力の限りに拍手を贈りました。

 東響の全てのパートが渾身の演奏を聴かせてくれましたが、圧巻は、やはりニキティンさんのソロでしょう。胸に染み入る素晴らしい演奏でした。さすがというしかありません。
 私も人生の晩年に近付きつつあり、この「英雄の生涯」を聴きながら、苦難の人生を振り返りました。これから穏やかに消えていき、安楽な生活を期待したいところですが、現実はまだ戦いのさなかです。

 大きな感動をいただき、ホールの聴衆は力の限りの拍手で素晴らしい演奏を讃えました。ヴィオッティさんは、33歳という若さにもかかわらず、このような音楽を創り出せるなんて、驚異的にすら感じます。これからも注目すべき指揮者だと思います。

 大きな感動と興奮を胸にいだきながら、真っ暗になり、秋の虫が鳴く白山公園を早歩きして、駐車場へと急ぎ、戦いが待つ家へと帰るのでありました。

 

(客席:2階C*-* S席:定期会員:\7000)