今年度の東響新潟定期演奏会は、5月、6月、7月と続けて開催されたため、今回は4ヵ月ぶりという久しぶりの開催となりました。
今回のプログラムは、昨日午後に開催された東京オペラシティシリーズ第120回と同じ内容です。東響の前音楽監督で桂冠指揮者のユベール・スダーンさんが、2015年5月の第89回新潟定期演奏会以来、7年半ぶりの新潟登場というのが注目されます。
今回のプログラムの、メンデルスゾーンの「静かな海と楽しい航海」は、2009年4月の第53回新潟定期演奏会以来13年振り、ブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲は、1999年4月の記念すべき第1回新潟定期演奏会以来23年振りです。シューマンの交響曲は、2009年11月の第56回新潟定期演奏会で交響曲第2番がスダーンさんの指揮で演奏されていますが、交響曲第3番は今回が初めてとなります。前回も今回もマーラー版での演奏で、ここがスダーンさんのこだわりに思われます。
ということで、ちょっと渋めのプログラムではありますが、久しぶりにスダーンさんのお顔を拝見できるのを楽しみにしていました。
また、前半のブラームスの二重協奏曲で共演するヴァイオリンの郷古廉さんは、1993年生まれですから、まだ20代の若手です。数々の国際コンクールでの入賞歴があり、国際的に活躍されていますが、私は今回が初めてです。
チェロの岡本侑也さんは、1994年生まれですから、郷古さんよりさらにお若いですが、エリザベート王妃国際音楽コンクール第2位などのほか、数々の賞を受賞され、ツィメルマンとの共演など、世界的に注目されていますが、私は今回が初めてです。
正直言えば、好きな曲ではないのですが、若き日本の音楽家二人と、老練の指揮者・スダーンさんとが、どんな演奏を聴かせてくれるのか楽しみにしたいと思います。
午前中は雲は多いながらも青空が見えて、比較的過ごしやすい日曜日になりました。当初は、13時からのロビーコンサートを聴き、14時半からの公開リハーサルを見学しようかと考えていましたが、疲労が蓄積しており、十分な休息を取ってこのコンサートに備えました。
天気は何とかもつかと期待していましたが、昼過ぎより次第に雲が空を覆いだしました。15時半に家を出ましたが、海から黒い雲が迫って来て、16時前には中央区上空は厚い雲に覆われ、やがて小雨が降りだしました。
いつもの駐車場は満車で、陸上競技場の駐車場に車をとめて、雨がぱらつく中、急ぎ足でりゅーとぴあへと向かいました。
館内に入りますと、ちょうど開場時間となり、早めに入場してこの原稿を書きながら開演を待ちました。ステージでは、コントラバスの皆さんが音出しをしておられました。
開演時間が近付くにつれて次第に客席は埋まってきましたが、安い席は埋まっていたものの、他の席は空席が目立ち、ちょっとアンバランスでした。
開演時間となり、拍手の中に団員が入場し、全員が揃うまで起立して待ち、最後にコンマスの小林さんが登場して大きな拍手が贈られました。
オケは弦5部が 14-12-10-8-7 の14型の通常配置で、ティンパニは左側の第2ヴァイオリン後方に設置されていました。
管楽器は最小限のひな壇が作られていましたが、弦のひな壇は作られておらず、コントラバスの2列目だけ低い台に載っていたものの、他は平面に並んでいました。指揮台は設置されていませんでした
背筋がピンと伸びて年齢を感じさせないスダーンさんが、足元も軽やかに登場して、メンデルスゾーンの「静かな海と楽しい航海」で開演しました。
演奏開始とともに、東響の弦の美しさに息をのみました。昨夜アマオケを聴いたばかりで、そのオケはアマチュアとしては高水準だと思ったのですが、さすがに東響の弦楽セクションの安定感と美しさは格別に感じられました。もちろん管楽器も素晴らしく、ティンパニの乾いた渋い音が良いアクセントになっていました。
この曲は、メンデルスゾーンがゲーテの2つの詩「海の静けさ」「楽しい航海」に触発されて作曲した序曲で、その光景が管弦楽で表現されています。同じ詩をもとに、ベートーヴェンはカンタータを書いており、その曲は2019年9月の第115回新潟定期で演奏されています。
いろいろと先入観を持ちながら聴いていましたが、美しい弦の響きが、まさに波ひとつない静かな海を感じさせました。鏡のような海面に光が反射し、そよ風が吹きわたる光景が眼前に広がりました。
爽やかなフルートに導かれて楽しい航海が始まり、波を切りながら颯爽と走り抜ける船。風が吹き、波立つ海。楽しい船旅が、耳によくなじむ美しいメロディとともに描かれました。時には荒れた海に出会いますが、それもまた船旅の楽しみともいえましょう。
ティンパニの連打の後にトランペットの壮大なファンファーレが高らかに奏でられ、再び静けさの中に曲を閉じました。コンサートの始まりとしましては、この上なく極上の演奏でした。
ステージが整えられ、チェロの演奏台が置かれ、二人のソリスト用の譜面台も置かれました。若き二人のソリスト・岡本さんと郷古さん、そしてスダーンさんが登場して、2曲目は、ブラームスのヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲です。
短くも力強いオケの序奏の後、すぐにチェロのカデンツァとなり、岡本さんのチェロが音量豊かに朗々と響き渡りました。やがてヴァイオリン独奏も加わり、ヴァイオリンとチェロの二重奏となり、力強いオケが加わって、うねるような起伏を重ねながら次第に熱を帯びて行きました。
楽器の特性によるのでしょうが、音量豊かなチェロに比して、繊細なヴァイオリンが埋もれる印象もありました。老練の巨匠に導かれて、若き二人の俊英の演奏は見事でしたが、東響と対峙するというより美しく協調し、協奏曲というより、ソロ付きの管弦楽曲という印象を受けました。ともあれ、情熱的に熱く燃える重厚な音楽に、ブラームスを聴いたという満足感を感じました。
第2楽章は、柔らかく美しいメロディが心地よく、うっとりと心に滲みてきました。ロマンチックに切なく奏でるヴァイオリンとチェロではありましたが、さっぱりしてクールな印象があり、もう少し甘く、ねっとりとした演奏でも良かったかななどと夢想しながら聴いていました。
第3楽章は、舞曲風の軽快なメロディに始まり、ヴァイオリンとチェロが絡み合い、オケが激しくリズムを刻みました。静けさと激しさを繰り返し、反復するうちに熱を帯びて激しさを増しました。同じメロディがこれでもかと繰り返し奏でられ、力強いオケの強奏とともに盛り上がって演奏を終えました。
スダーンさん率いる東響の演奏は素晴らしく、ともに演奏した若き二人の独奏者の素晴らしさは讃えるべきでしょう。日頃聴く機会のない曲でしたが、大いに楽しませていただきました。
カーテンコールの後、ソリストアンコールとして、マティヌーの二重奏曲第2番第2楽章が演奏されました。美しいヴァイオリンとチェロの深遠な響きに心が洗われるようであり、ブラームスでの興奮を鎮めてくれる鎮静剤となりました。ホールの聴衆は息をのんで聴き入り、無音の静寂を味わいました。
日本の音楽界の時代を担うであろう二人の演奏を聴くことができた貴重な機会となり、大きな満足感の中に前半を終えました。
休憩後の後半は、シューマンの交響曲第3番「ライン」です。ライン川の光景やケルンの大聖堂に感銘を受けて作られた曲だそうですが、有名な割にはなかなか聴く機会がありません。スダーンさんが登場して演奏開始です。
明るく耳に良くなじむメロディで演奏が始まりました。雄大に流れるライン川。川面に春風が吹き渡るような爽やかな空気感が心地良く感じられました。勇壮なホルンのファンファーレが素晴らしく、演奏を引き締めてくれました。
第2楽章は、のどかな舞曲風のメロディが、中間部でひと休みしながら、これでもかと繰り返されましたが、この楽章でもホルンが良かったです。
第3楽章は、クラリネットとファゴットによる美しい主題に始まり、上品さと優しさに満ちた優美なメロディで酔わせられ、うっとりと聴き入り、癒されました。
第4楽章は、「荘厳に」と楽譜に書かれていますように、もの悲しく、嘆き悲しむような胸に迫るメロディが切々と奏でられ、まさに荘厳な音楽が、しんみりと心に染み渡りました。金管のコラールが美しく、レクイエムとでも言えそうな音楽に涙しました。
アタッカで突入した第5楽章は、一転して明るく快活で、躍動感と生命感に溢れています。この楽章でもホルンの響きが美しく、曲にエネルギーを注入するかのようで、その素晴らしさは際立っていました。大きな盛り上がりを見せて、壮大なフィナーレで曲を終えました。
シャイー/ゲヴァントハウス管のマーラー版によるCDを聴いてこのコンサートに臨みましたが、今日の演奏がはるかに感動的であり、声は出せませんが、ブラボーを贈りたいと思います。
スダーンさんが作り上げた音楽は、寸分の隙もなく、風格を感じさせる堂々たるものでした。ノット/東響とは一味も二味も違った、いぶし銀の音楽がそこにありました。
数々の名演を新潟の聴衆に届けてくれたスダーン/東響の素晴らしさを思い起こさせました。桂冠指揮者に退かれて、新潟での演奏の機会がなくなりましたが、今日は貴重な来演であり、記憶に残る演奏会となりました。
この記事を書くにも力が入ってしまい、これまでになく長文になってしまいました。7年半ぶりに新潟に帰ってきてくれたスダーンさんに感謝し、大きな拍手を贈りたいと思います。またの来演を期待したいと思います。
明るい気分で外に出ますと、冷たい小雨が降っていました。足元に注意しながら、薄暗い白山公園の歩道を急ぎ足で駐車場へと向かいました。
(客席:2階C*-**、S席定期会員:¥6300) |