東京交響楽団第123回新潟定期演奏会
  ←前  次→
2021年11月7日(日)17:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
ピアノ:児玉麻里
コンサートマスター:グレブ・ニキティン
 

モーツァルト:歌劇「魔笛」序曲

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op.19

(休憩20分)

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 op.98

 今回の指揮者は、クシシュトフ・ウルバンスキです。2015年10月の第92回新潟定期演奏会、2016年5月の第95回新潟定期演奏会と、これまで2回来演しており、今回は5年半ぶり3回目になります。
 個人的には、2016年5月に、大阪での大阪フィルの定期演奏会を偶然聴く機会がありましたので、4回目となります。いずれも素晴らしい演奏であり、感激したことをよく覚えています。
 前回は、東京交響楽団の首席客演指揮者に就いていましたが、契約が満了となり、その後新潟での東響との共演はなくなりましたので、久しぶりの今回の共演は注目されます。

 今日のプログラムは、昨日の川崎での名曲全集第171回と全く同じ内容であり、昨日の演奏はネット配信されましたので、視聴された方もおられるかもしれませんね。
 また、ウルバンスキは、11月13日の第695回定期演奏会と14日の川崎定期演奏会第83回で「カルミナ・ブラーナ」を演奏するのが注目されており、個人的にはそっちの方が良かったかなと秘かに思っております。

 今日共演する児玉麻里さんは、2016年4月のLFJ新潟2016で、妹の児玉桃さんとの共演を聴いて以来ですので、ウルバンスキと同様に5年半ぶりになります。
 ちなみに児玉桃さんは2012年7月2020年12月と、新潟で2回東京交響楽団と共演されていますが、児玉麻里さんは初めての新潟での共演となります。

 さて、これまでの新潟定期演奏会の長い歴史の中で、モーツァルトの「魔笛」序曲とベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番が演奏されるのは、今回が初めてというのは意外です。
 また、ブラームスの交響曲第4番も、2009年4月の第53回新潟定期演奏会で演奏されただけであり、今回は12年半ぶり2回目になります。そういう意味でも今回は、プログラム的にも魅力ある定期と言えましょうか。
 

 昨日に引き続いて好天に恵まれ、穏やかな晩秋の休日になりました。新型コロナも小康状態にあり、行楽地は賑わいをみせていることでしょう。
 今日は13時から、恒例の東響ロビーコンサートがあり、メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲第2番が演奏されたのですが、諸般の事情で行くことができず、この本公演一本に絞ることにしました。

 白山公園駐車場に車をとめ、落葉した木々を眺めながら、早めにりゅーとぴあ入りしました。開場まで少し時間がありましたので、やすらぎ堤に出ました。雲ひとつない清々しい快晴の空。これ以上ない秋晴れで、川面を吹き渡る風も心地よく、過ぎ行く秋を満喫しました。

 開場時間となり、早めに入場し、この原稿を書きながら開演を待ちました。ステージではクラリネット、ヴィオラ、コントラバスの団員が音出しをされていましたが、順次ステージから下がられました。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場。全員揃うまで起立して待つ元祖新潟方式です。最後にニキティンさんが登場して一段と大きな拍手が贈られました。オケは通常の配置で12型。弦5部は、私の目視で12-10-8-7-6です。今日の次席は田尻さんです。指揮台には譜面台はありません。

 長身でスリム、イケメンのウルバンスキさんが黒マスクを着けて登場。丈の短いジャケットがかっこよかったです。指揮台に上がってマスクを外して、「魔笛」序曲の演奏開始です。
 ゆったりとした出だしから、一転して軽快な音楽が流れ出ました。スピードアップしても乱れの全くない弦楽の素晴らしさに息を呑みました。金管のファンファーレもバッチリと決まり、高速道路をスポーツカーで走り抜けるような爽快感と躍動感を感じました。これを聴いただけで、今日の演奏会の成功が確信されました。ウルバンスキさんは、演奏終了して指揮台を降りるとともにマスクを着けて退場されました。

 左側のひな壇を一旦崩してステージ転換され、ステージにピアノが設置されました。指揮者用の譜面台も用意されました。暗譜での指揮が特徴であるウルバンスキさんですが、協奏曲を指揮する場合は違うようですね。

 黒地に赤い花柄?の模様のドレスの児玉さんが、ウルバンスキさんともども黒マスク姿で登場し、マスクを外して演奏開始です。
 とろけるようでしなやかな弦楽の素晴らしさ。長い序奏にうっとりと聴き入り、明るく快活なピアノが加わり、夢幻の世界へと引き込まれました。第1楽章終盤の長大なカデンツァでは、指揮者は指揮台から降りて聴き入っていました。
 ゆったりと歌わせて清々しい第2楽章。息を呑むようなピアニシモの美しさ。静寂の中に響くピアノの高音の響きが耳に、心に突き刺ささるようでした。
 そして軽快に弾むような第3楽章。季節は晩秋ですが、ホールに春風が吹き渡るような気持ち良さを感じ、この曲の魅力を再認識させていただきました。
 カーテンコールでは児玉さんは指揮者と同様にマスクで入退場し、ステージ中央で礼をするときだけマスクを外すという徹底ぶりで、ご苦労様でした。
 ピアノの最高音部での響きに違和感を感じた場面もありましたが、私の気のせいでしょうか。でも、美しいピアノの演奏ありがとうございました。ソリストアンコールを期待しましたが、そのまま休憩に入りました。

 休憩後は、オケのサイズが14型に増強されて、弦5部は、私の目視で14-12-10-7-6となりました。譜面台はなく、再び暗譜での指揮です。黒マスクのウルバンスキさんが登場し、マスクを外して上着の内ポケットにしまって演奏開始です。
 演奏開始とともに、まずは東響の弦楽陣の素晴らしさに再度驚嘆しました。全身を使った動きの大きい指揮に見事に応え、ゆったりと、大きな波のうねりのように緩急を揺り動かし、一糸乱れぬアンサンブルで歌わせ、感動の音楽を創り上げました。
 晩秋のごとく暗さを感じさせる曲なのですが、明るさと希望を感じさせました。ホルンも素晴らしく、チェロ軍団の力強さにも圧倒されました。激しく打ち鳴らすティンパニで第1楽章を閉じました。
 第2楽章は、冒頭のホルンのファンファーレがばっちりと決まり、弦楽の力強いピチカートも美しく、後半のヴァイオリンと低弦とのせめぎあいもお見事でした。ここでも弦楽の大きなうねりに魅了されました。
 第3楽章は、勝利の凱歌を高らかに歌い上げました。トライアングルも活躍し、軽快に音楽を奏で、生命感、躍動感にあふれた、生き生きとした音楽が爆発しました。あまりの素晴らしさで、一部の観客からは拍手も起きかけました。
 第4楽章は、スピーディに、ぐいぐいと押してきて、緩急を大きく揺り動かし、うねるような情熱がみなぎりました。暗さは感じさせず、エネルギーが満ち溢れていました。
 今日はフルートの相澤さんはお休みで、客演と思われる熟年奏者のフルートのソロも美しく、満を持してのトロンボーンのコラールも素晴らしかったです。大きな感情の盛り上がりの中にフィナーレを迎えました。

 総じて、スピード感、躍動感にあふれる切れのある演奏は心地よく、胸が高鳴り、否応なしに感動させられました。これほどの演奏はめったに聴けるものではなく、これまでの東響新潟定期演奏会の歴史の中でも屈指の演奏に違いありません。
 前半後半ともお見事としか言いようはなく、もちろん今年のベストコンサートにノミネートしたいと思います。ウルバンスキ恐るべし、東響恐るべしです。マスクを着けて入退場し、ステージ中央で拍手に応えるときだけマスクを外し、感染予防マナーも徹底しており、好感を与えました。

 良い音楽を聴いた喜びを胸に、ほんのりと照明に照らされた木々を眺めながら、落ち葉散る小道を駐車場へと急ぎました。
 これからしばらく新潟定期演奏会はなく、次回は来年の3月20日です。冬を飛び越して、次は春です。4か月以上も先ですので、その頃の世界はどうなっているでしょうか。安心して音楽を楽しめる状況であることを切に願いたいと思います。
 

 
(客席:2階C*-**、S席:定期会員、¥6300)