石丸由佳オルガン・リサイタル
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2020年6月20日(土) 14:00  新潟市民芸術文化文化会館 コンサートホール
オルガン: 石丸由佳
 

J.S.バッハ : 少フーガ ト短調 BWV578

J.S.バッハ : 「われ心よりこがれ望む」 RWV727

J.S.バッハ : 幻想曲 ハ長調 BWV570

後藤 丹 : 《大きな古時計》 によるバラード

O. リンドベリ : ダーラナ地方の夏の牧舎の古い讃美歌

C.M.ヴィドール : オルガン交響曲第6番より 第1楽章

(休憩20分)

J.S.バッハ : 前奏曲とフーガ ハ短調 BWV549

J.P.E. ハートマン : 幻想曲 イ長調

G.ホルスト : 組曲 『惑星』 作品32 より 第4曲「木星」

L.ヴィエルヌ: オルガン交響曲第一番より フィナーレ

(アンコール)
J.S.バッハ : G線上のアリア
 

 りゅーとぴあ第3代専属オルガニストとして、多大な貢献をし、絶大な人気を博した山本真希さんがこの春に退任し、新型コロナのために最後のリサイタルを開催しないまま、新潟を去ってしまわれました。

 その偉大なる山本さんの後任として第4代専属オルガニストに就任したのが石丸由佳さんです。山本ロスで悲しみに暮れる新潟の音楽ファンにとりまして、石丸さんの就任は不幸中の幸いと言いますか、これ以上の人選はないという喜びです。

 ご存知のように、石丸さんは新潟市出身で、高校は私の後輩になります。りゅーとぴあ第1期オルガン研修講座を修了し、東京藝大に進まれました。同大学院修了後はヨーロッパで研鑚を積まれ、第22回シャルトル国際オルガンコンクールで優勝した後の活躍ぶりは改めて記す必要もないでしょう。
 ヨーロッパ各地での演奏会や、全国各地でのリサイタルやオーケストラとの共演など、その活躍は目覚ましく、日本の若手オルガニストのトップを走っているのは間違いありません。
 りゅーとぴあで育ち、世界に羽ばたいた新潟の希望の星、オルガンの華といえましょうか。これほどの逸材は新潟に埋もれてほしくないという気持ちもありますが、まずは故郷に戻ってきてくれたことに感謝しましょう。

 石丸さんは、シャルトル国際オルガンコンクール優勝直後の2011年2月に、りゅーとぴあでグランプリ受賞記念リサイタルを開催しています。万華鏡でも見るかのように華やかで、若さとエネルギーあふれる演奏に魅了されたことが、つい昨日のように思い出されます。
 その後、2012年10月に、第2回のリサイタルを再びりゅーとぴあで開催し、ヨーロッパで修行を積み、成長した姿を見せてくれました。

 しかし、その後は市内の教会で、サロンコンサート的な小規模な演奏会が何度か開催されていますが、りゅーとぴあでのリサイタルは開催されることはなく、寂しく思っていました。
 CDを2枚出し、全国での活発な演奏活動を目にし、「スターウォーズ」や「オペラ座の怪人」など、クラシックの枠を超えた華やかなコンサートも各地で開催されており、新潟でもやってくれないかと期待していました。

 今回りゅーとぴあ専属オルガニストとして新潟に帰って来られましたが、クラウドファンディングで東京での活動拠点も構えられていますので、今後どのような形で活動してくれるのか注目したいと思います。

 今日は就任記念のリサイタルであり、また長期のコロナ休館後最初のりゅーとぴあ主催公演です。開催も危ぶまれましたが、予定通りに6月19日から全国の移動自粛解除とともに、1000人規模(収容人員の2分の1以下)でのコンサート開催が解禁され、この公演も可能となりました。


 ということで、2月24日以来、4ヶ月ぶりのコンサートです。りゅーとぴあのコンサートホールに行くのは2月22日の辻井さんのコンサート以来です。

 今日は好天ながらも気温は高くなく、爽やかな過ごしやすい陽気となりました。白山公園駐車場に車をとめ、白山神社を抜けて古町へ。上古町の楼蘭で絶品の冷やし中華をいただきました。

 空腹を満たした後は、古町から西堀に出て、ギャラリー蔵織前へ向かいました。いつもは告知されずに突然開催される“ゲリラライブ”が、8回目の今回は開催予告がありましたので、聴かせていただくことにしました。
 すでにオーボエの大木雅人さんの演奏の真っ最中でした。2階の窓から外に向かって奏でられるオーボエに、歩道上で多くの人が聴き入っていました。
 屋外で聴くわけですので、車の音や救急車の音などで賑やかではありますが、西堀通りに響くオーボエの音は美しく、うっとりと聴き入りました。曲目紹介しながら、テレマンやバッハをはじめ、多彩な曲が演奏されましたが、「ガブリエルのオーボエ」には泣かされました。
 ドイツや日本のプロオケで活躍された後、フリーで演奏活動されている大木さんの演奏は素晴らしく、今度はホールでじっくりと聴かせていただければと思います。

 40分ほどのライブが終わり、ほど良い時間となりましたので、りゅーとぴあへと向かいました。検温を無事通過し、開場待ちの列に並びますと、待つことなく予定時刻より早く開場となりました。受付ではチケットを呈示するだけで、半券は自分で切り取って箱に入れるシステムでした。

 客席は、ステージ周りのA、E、Pブロックは使用されず、1階席と3階のサイド席はグループ席ということで、隣り合っての着席が可能ですが、その他のブロックは1席おきに着席する様になっており、着席不可の席にはテープが張られていました。私は3階の正面に席を取りましたが、両脇とも他の客がいないので、ゆったりと聴くことができて良かったです。

 開演時間が近付くにつれ、客席は次第に埋まり、正面のブロックは満席となり、他のブロックへとレセさんが誘導していました。オルガンの演奏会としては大盛況と言えましょう。久しぶりのコンサートを、多くの市民が待ちわびていたものと思います。

 さて、配布されたプログラムは縦開きのこれまでにない仕様で、新鮮な気分にさせてくれました。今日の演目は石丸さんの自己紹介的内容で、オルガンとの出会いから現在に至るまでの石丸さんの歴史を、音楽とともに振り返るという趣向です。就任記念リサイタルのために良く練られた内容だと思います。

 開演時間となり、支配人の挨拶の後、石丸さんが登場しました。石丸さんは、中学生時代は吹奏楽部でフルートやサックスを演奏していたそうですが、その中学生時代に初めて聴き、オルガンとの出会いとなった想い出の曲であるバッハの「小フーガ ト短調」で開演しました。

 以後石丸さんのトークとともに演奏が進められました。ステージに置かれたスクリーンに、数々の思い出の写真が映し出され、石丸さんの音楽遍歴を順にたどりました。演奏の素晴らしさもさることながら、石丸さんのトークも楽しく、あっという間の2時間でした。

 中学生時代にりゅーとぴあのグレンツィング・オルガンで弾いたというバッハの「われ心よりこがれ望む」と「幻想曲」。中学時代にすでにこのような曲を弾いていたとは大したものですね。

 高校生のときは藝大受験のために後藤丹先生に師事したそうですが、その後藤先生の曲が演奏されました。おなじみの古時計のメロディですが、良い味付けがされていて、楽しく聴きました。

 藝大卒業後はデンマーク、スウェーデンと、2年間の北欧での留学生活を送りましたが、北欧にちなんだリンドベリの曲は、北欧の暗さ、静けさを感じさせる美しい曲でした。

 そして、フランスのシャルトル国際オルガンコンクールに挑戦し、見事に優勝することになるのですが、コンクールで演奏したヴィドールのオルガン交響曲は、さすがと思わせる華やかさとパワーで圧倒し、感動の中に休憩となりました。

 休憩後の後半は、北欧からドイツのシュトゥットガルトへと移住したところから始まりました。ドイツにちなんでの曲として、バッハの「前奏曲とフーガ」が演奏されました。

 続いては、ヨーロッパ・コンサートツアーでの思い出の曲です。ツアーでは、最初に留学した思い出の地であるデンマークでも演奏し、そのデンマークのハートマンの曲が演奏されました。

 そして、ドイツでの4年間の生活を終えて帰国して現在に至りますが、帰国後に福井のホールで録音してリリースした2作目のCDから、ホルストの「木星」が演奏されました。石丸さんは、オルガンは「ひとり吹奏楽」、「ひとりオーケストラ」だと話されていましたが、まさにオーケストラ顔負けの迫力ある演奏に魅了されました。

 最後は、火災で焼失したパリのノートルダム大聖堂での演奏の思い出が語られ、大聖堂で演奏したヴィエルヌの「オルガン交響曲」を絢爛豪華に演奏してフィナーレを飾りました。

 アンコールは、デザート代わりに「G線上のアリア」が演奏されました。コロナ禍に苦しむ世界の人々への思いを込めて、しっとりとした中に終演となりました。

 総じて、色彩感豊かで、総天然色の煌びやかな音世界。エネルギー感にあふれ、みなぎるパワーで圧倒されたという感じでした。オルガンの音作りも新鮮に感じ、奥行き感もある立体的な音響など、これまでに聴いたことのない音色を生み出してくれました。
 4代目の新任の挨拶としては、十分すぎるほどの内容の濃い演奏であり、海外でもまれ、成長した姿を新潟市民に見せてくれました。

 優しく包み込むような山本真希さんの演奏とは対照的に、ちょっと鋭角的な、攻撃的な演奏に圧倒されました。それぞれの音楽性の違いが興味深く、それぞれの良さがあり、どちらも魅力的です。

 これからりゅーとぴあが誇るグレンツィング・オルガンからどのような音楽を創り出してくれるのか、楽しみにしたいと思います。

 
 

(客席:3階 I 3-7 、東響定期会員招待)