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歌集しがらみ

目次

大正六年

大正七年

大正八年

大正九年

大正十年

編輯雑記

歌集しがらみ(中村憲吉)

歌集しがらみ(大正八年)

歌集しがらみ』の「大正八年」部分のテキストです。他の項目には、左のカラムからジャンプしてください。

林泉集』(中村憲吉)も全編テキストにしています。こちらも御覧ください。

凡例:

  • 旧字旧仮名です。 旧字が存在しない場合は、新字にしています。
  • JISコード外漢字は、〓のあとに組み合わせ文字で表しています。
  • 《 》は金森による註記です。おもにルビを示しています。

(2013年4月 金森国臣)(2013年5月 邉→邊、隠→隱、瀬→P)


大正八年

大正八年 (九十三首)

山守 一

秋づけば山のぬすみのまた増加えぬ今朝もこと告げ山守きたる 《増加えぬ(ふえぬ)》

秋づけば山に入る人おほみかも山にぬすむ人を仔細にきけり 《仔細(しさい)》

朝まだき敷居をまたぐ山もりの顏すでに動き小言をいふも

山守の言ふことくどし霧さむく吹きいる土間に朝立ちながら

荷縄さげて山へゆく人とほりたり霧のなかより我れに會釋す 《荷縄(になは)》

こと細く山のぬすみを言ひてくるこの山守もまた物をぬすめり 《こと細く(ことこまく)》

この村に貧しきがおほし天然の山にいりて半ば食をもとむる 《半ば(なかば)》

この朝も寒さ身にしみて山家住みこころの痛きおもひをぞする 《山家住み(やまがずみ)》

霧にぬれて山守來たりふところより珍しき栗を疊にこぼせり 《山守(やまもり)》

林間に人をとらへ來て叱れといふ山守の顏に我れおどろけり 《山守(やまもり)》

斧のおとに耳のさとけれ山守は黄葉のなかへ入りてしらぶる 《山守(やまもり)、黄葉(もみぢ)》

わが前に小者とらはれて恐れ入れり山守の口はいたく罵る 《小者(こもの)、山守(やまもり)》

咎めたつる山もりの記憶こまかなり小者の眼には憎惡わくも 《憎惡(にくしみ)》

脅嚇とりかつて獄屋にくだされしこの山守を思ひいだせり 《脅嚇(ゆすり)、獄屋(ひとや)、山守(やまもり)》

いさかへる二人のこゑの木魂して秋山のひよりしづかなるかも 《木魂(こだま)》

貧しくて盗むを知れりわがまへの小者に向ひ叱りて思ふも 《小者(こもの)》

あたらしき樹の伐りあとへつれ來りつぶやきやめぬ山守の顏 《つれ來り(つれきたり)、山守(やまもり)》

山もとへ人をゆるして去らせたり黄葉の間を下り隱るみゆ 《黄葉(もみぢ)》

山もりを先にたたせぬ白髪交りさすがに老いしその頭見つつ 《白髪交り(しらがまじり)》

添水

山ぐちは淙々と鳴るみづのおと栗黄葉かげに水碓搗きたり 《淙々(さうさう)、栗黄葉(くりもみぢ)、水碓(そほづ)》

山おくの小村の日和ものおとは秋田のなかに米つく添水 《小村(こむら)、秋田(あきだ)、添水(そほづ)》

歸住 一  大正五年秋東京より歸る

山かひの秋のふかきに驚きぬ田をすでに刈りて乏しき川音 《乏しき(ともしき)》

山かひに歸れる我れをおもひたり冬川のみづともしらに見ゆ 《冬川(ふゆがは)》

秋ふかき道にたまたま過ふ人は布子を着たりわれの村かも 《過ふ(あふ)、布子(ぬのこ)》

日の暮れて我家につけば家うらよりさみしき川の音のきこゆる 《我家(わぎへ)》

峽の家に古りし洋燈をいまも釣れり久びさに父と膳を並ぶる 《峽の家(かひのいへ)、古りし洋燈(ふりしらんぷ)》

みごもれる妻をともなひ歸りたり家に久しく母待ちたまふ

かへり住む我が家はひろしはや架けし炬燵によれば祖母思ほゆ 《祖母(おほはは)、思ほゆ(もほゆ)》

落葉はやき庭をさみしめり昨日まで住みし都のき樹を思ふ 《思ふ(もふ)》

日暮るれば都よりとほき心すも裏山のかぜ雨戸をゆすり

家族おほき家に起きふしこの頃の我がかかはりの重きをおぼゆ 《家族(うから)》

山家住みゆふさり來れば今にして諦めがたき寂しさ湧くも 《山家住み(やまがずみ)》

今日も出て眼に見るものみな山なりひと日ひと日と冬のさみしさ

朝の間はこころに忘れかぎろひの夕ベとなれば悔いつつぞ居る 《朝の間(あさのま)》

けながき冬來むかへば山かひの家にも人にも堪へがたく倦めり 《來(き)》

忘れたる十呂盤算になづみつつ村びとの顏を日日に見知りぬ 《十呂盤算(そろばんざん)、日日(ひび)》

我がいへの帳簿にのれる人びとの負債はおほし村のまづしさ 《負債(おひめ)》

明け暮れを人に倦みつつ冬のかぜ寒き峽間に我れ生きんとす 《峽間(はざま)》

眞さみしき冬になり來も我がつまの身おもき肩は息づきしるく 《眞さみしき(まさみしき)、來も(くも)》

冬されば一つ家ぬちもことしげし産月ちかく妻はやつれぬ 《一つ家(ひとつへ)、産月(うみづき)》

柳と燕

春のあめ潮ののぼる河岸ごとにこの街の柳みな芽をひらく 《潮(うしほ)、河岸(かし)》

江戸川のみづ落ちぐちのみかほりにつばめの來舞ふ春さりにけり 《來舞ふ(きまふ)》

春峽C音

百穂畫伯、重病癒えて保養旅行の途次、來りて我が山峽を訪ふ

山かひの鋤田にいでて飛ぶつばめ旅を來つる君は春におどろく 《鋤田(すきだ)、來つる(きつる)》

手をとりて云ひがたきかも現し世にいのちを死なず君きたりたり 《現し世(うつしよ)》

春と云へど峽間はさむし夜をいとひ厚き衾に人を寢ねしむ 《峽間(はざま)、衾(ふすま)、寢ねしむ(いねしむ)》

日蔭りの小早き峽にかへり住み三とせ過しぬ友と云ふもののなく 《日蔭り(ひかげり)、小早き峽(をばやきかひ)》

冬山の春にむかふを一人して見んとおもふに來つる君かも 《來つる(きつる)》

春あさき峽はともしき水のおと此處に住む我れを思ひたまはね 《峽(かひ)》

春山に敷ける落葉のぬくむ如す君に會ひてぞ胸ぬくむかも 《如す(のす)》

裏山の川べにはやく鋤ける田を鋤くを君は眼にとめて繪に寫しけり 《裏山(うへやま)》

山どりを係蹄に捕らしめ石川に小鱒とらしむ我が友のために 《係蹄(わな)、小鱒(こます)》

峽驛の小丘に君をつれのぼり見するにさみし我が住む小驛 《峽驛(けふえき)、小丘(こをか)、小驛(こえき)》

君を送り國のさかひの山越えのふかき峽路にわかれけるかも 《峽路(かひぢ)》

茱萸樹

裏山の裸木ぬらすこの雨に下田鋤きいそぐ人と牛ひとつ 《裸木(はだかぎ)、下田鋤き(しただすき)》

雨にぬるる冬山したの小河原に芽を吹く茱萸のいちじるきかも 《茱萸(ぐみ)》

小河原の茱萸樹の芽にふる雨ひさし田を鋤き終へて牛繋がれぬ 《小河原(をがはら)、茱萸樹(ぐみ)》

河邊田を雨にぬれつつ鋤きてゐる牛の鳴きごゑの山にひびかふ 《河邊田(かはべだ)》

河ばたに白き芽を吹く茱萸一ぽん子供來りて虐げて去れり 《茱萸(ぐみ)、虐げて(しひたげて)》

河原邊にものの芽あさる子ども來て茱萸樹に手届き葉をみな摘めり 《河原邊(かはらべ)、茱萸樹(ぐみ)》

春と云へば一度虐げし河原茱萸樹枝を起して葉をまたつけぬ 《虐げし(しひたげし)、河原茱萸樹(かはらぐみ)》

乏しらに井堰がうへの茱萸樹のはな河鹿鳴くべき時にいたりぬ 《乏しら(ともしら)、井堰(ゐぜき)》

朧夜

背戸川の音のさむけれ向うにてやうやく色ににほふ春山 《向う(むかう)》

おぼろ夜と春になるらし山かげの川Pに音のすくなき聞けば

朧夜と更けたゆたへる山がはは下Pひかりて音かすかなり 《朧夜(おぼろよ)、下P(しもせ)》

山がはの音は夜ふけて眼かひはおぼろになりし裏山ひとつ 《眼かひ(まなかひ)》

おぼろ夜の風ぬくみかも著じるく小庭が上の芽立ちのにほひ 《著じるく(いちじるく)、小庭(さには)》

裏山の春

裏山の樹にたつ霞いや日けに眼ぢかくおほくなりにけるかも 《眼ぢかく(まぢかく)》

うら山の芽吹きをはやみ殖えてくる春どりのこゑしじに悲しも 《殖えてくる(ふえてくる)》

春と云へば霞みふくらむ背戸の山芽を吹くいろに日日動きける 《背戸の山(せどのやま)、日日(ひび)》

四方の山みな芽を吹きて煙りたるたふとさ見れば涙ながらふ 《四方の山(よものやま)、煙りたる(けぶりたる)》

雨あとの山は眼ぢかしこの朝芽をととのへし樹々におどろく 《眼ぢかし(まぢかし)、この朝(このあした)》

春山の夕照るかげに鳴く小どり下心なやましく塒すらしも 《夕照る(ゆふてる)、下心(した)、塒す(ねぐらす)》

日ぐれまで兒を遊ばする山かげの紫雲英田のうへ月淡くあり 《紫雲英田(れんげだ)、月淡く(つきうすく)》

山川の風吹きあげて揺るるまで若葉を盛りぬこの裏山は 《山川(やまがは)》

山したをしづかに落つる堰のおと山よりくだる鳥ひとつあり

裏山の高ニとのひ山したの川底に石の見ゆるしづけさ

五月雨はまた暗くならし店の間の天井に來て舞ひとどまる燕 《五月雨(さみだれ)》

雨くらし長押の額にとまりたる燕の窒謔闔エ落ちけり 《長押(なげし)》

雨ふれば梁木の暗く沈みたる店に居りつつ靜けきをよろこぶ 《梁木(うつばり)》

天井低く來舞ふ燕のしたしけれ腹の白きをあらはに見つつ 《來舞ふ(きまふ)》

門ぐちを出入るつばめの忙しみか口にふくみし泥おとしたり 《忙しみ(せはしみ)》

門ぐちを啼きつつ出入る濡れつばめ開け放つ家を抜けてとばずも

雨ふれば土間を出入るは燕のみ酒場の瓶に藤の垂れたり 《瓶(かめ)》

雨ふれば土間を出入るは燕のみ酒場の瓶に藤の垂れたり 《瓶(かめ)》

雨の日に磨る墨にほふたまたまは濡れたるつばめ机にきたる 《磨る(する)》

雨の日は晝過ぎてさらに靜かなれ家の何處へかみな休みたる

家しづみ我がよべる聲におどろけり酒倉の遠くより人の答ふる 《酒倉(くら)》

大き家に梅雨のくらけれ土間の梁に燕のこゑの隱れてしつつ

雨に倦む店の部屋かも思ひ出して十呂盤をはぢき音の靜けさ 《十呂盤(そろばん)》

日竝べて五月雨さむき山の家火鉢によれど蠅はやく居り 《日竝べて(けならべて)、五月雨(さみだれ)、蠅(はひ)》

雨くらき夕べとなりぬ土間の上の巣におのづからかくるる燕

人の來ぬ土間に目そそぐ夕つかた寂しき我れに思ひ至りぬ

家のうちは寂しくくらし燕の糞また一つ落ち日ぐるる土間に 《日ぐるる(ひぐるる)》

梅雨長く梁の巣につける渡りどり燕もあはれ子を生みにけり


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