大正七年 (百五十首)
峽のあらし 一、夕燒
夕まけて暴風雨のきざす雲の燒け山にからすの聲啼かぬかも 《暴風雨(あらし)》
時じくも峽間おぼほしく明るめり風呂をあがりて氣倦きわれは 《氣倦き(けだるき)》
夕燒の雲のくらめば暴れぬべみ峽の四方山ざわめき立ちぬ 《暴れぬべみ(あれぬべみ)、峽(かひ)、四方山(よもやま)》
わが宿の梨の夕木に吹きしなふ風にやうやく雨交ぜんとす 《夕木(ゆふき)》
暗がりて山風ひたに田を吹けば田にゐる人を出て呼びかへす 《山風(やまかぜ)》
夕がらす山にも啼かず戸をはやく締めて夜に入る大あらしあめ 《夜に入る(よにいる)》
格子より透ける道路の夕あかり雨しらじらとほとばしる見ゆ
小山田の灰屋たふると來て告げし日ぐれにいたり暴風雨つのりぬ 《小山田(をやまだ)、暴風雨(あらし)》
二、夜
くつがへす暴風雨となりぬ屋敷なる水車の水を急きて落せば 《暴風雨(あらし)、急きて(せきて)》
潜戸よりおぞの暴風雨と云ひてくる人はしとどに顏もぬれたり 《潜戸(くぐりど)、暴風雨(あらし)》
裏の田に稻架木をたふす風の夜に蓑着て行きし下男かへりぬ 《稻架木(いなぎ)、下男(しもべ)》
おぼろ夜の外のあらしに吹きおとす梨をひらひに下男を行かす 《下男(しもべ)》
暴風雨より拾ひてきたる濡れ梨を家人よりて喰むにかなしも 《暴風雨(あらし)、家人(いへびと)、喰む(はむ)》
洋燈の心をくらめて起き居れば戸に吹きつくるいたき雨かも 《洋燈の心(らんぷのしん)》
雨かぜの音に眠らざらむみどり兒の起きて疊を甜めつつあそぶ
家うごく暴風雨にきけばはたや鳴きはたや鳴き止むこほろぎの聲 《暴風雨(あらし)》
暴風雨いや募る夜ふけぬ疊の上に這ひ上り來て鳴かぬ〓(虫車) 《暴風雨(あらし)、疊の上に這ひ上り(たたみのへにはいのぼり)、鳴かぬ〓(なかぬこほろぎ)》
棟にあつる夜あらしの音大きなり木納屋にかあらん物の落つる音 《夜あらし(よあらし)、木納屋(きなや)》
夜おきて山かひの空にみなぎれる暴風雨の音
に耳すまし居り 《暴風雨(あらし)》
母屋には父るすの夜なり屡々起きて屋敷見廻りあらしに濡れぬ 《屡々(しばしば)》
夜立ちせる下女栗山に着きたらむ今朝はさやかに風おちにけり
朝庭は吹き荒れてありはるかなる山の木の葉の散りまじりたる
霧
朝ゆふの息こそ見ゆれもの言ひて人にしたしき冬ちかづくも
霧くらく道路にふれり顏向きてつぶさに人といふがかなしさ
道に出て人にいふ間も息にふかく被りて濡るるあはれ朝霧 《被りて(かかりて)》
さむき霧あさ朝ふかき宿驛より荷ぐるま鳴りてこもごも下る 《宿驛(まや)》
うしろより町への用を云ひしかど霧にかくれて荷車ゆくも
炭積みてあかとき峽を出てくだる落谷ぐるまに霜おきそめぬ 《峽(かひ)、落谷(おちや)》
こまごまと向うの家の軒瓦ぬれて降りゐる霧が眼にみゆ 《軒瓦(のきがはら)》
庭のうへに霧ふりなづむ朝まだき霜の白きをふむ鷄の脚 《鷄(とり)》
秋夜獨居
家びとを皆寢しづめていち日の息やすらぎぬはじめて我れは
日もすがら人に倦みたる下ごころ直に息づく夜ふかみかも 《直に(ただに)》
竈土端にこほろぎの聲滿ちにけり長夜の家にひと覺めざらむ 《竈土端(くどばた)》
この夜ごろ竈土にこほろぎの聲しげし裏川の音と聞きてあやまる 《竈土(くど)、裏川(うらがは)》
夜おそく仕事を終へて安けかれ妻が出し置ける夜食をしつつ
土間のうへの寒き風より酒瓶のにほひ流るる夜はふかけれ 《酒瓶(さかがめ)》
ただひとり寢酒飲みゐるうつつなさ今宵はことに疲れたるかも
大き家ふかくねむりて靜かなりをりをり棟の木のしとる音
寒しぐれ 一
朝よりの時雨のかはる日照雨をりをり明む目のまへの倉 《日照雨(ひでりあめ)》
炬燵にて寢つつし聞けば門倉にながく聞ゆる雨滴りのおと 《雨滴り(あまだり)》
門倉へ俵負ひくる寒しぐれつぶさに人は今日も濡れたり
眞寂しく降りつぐ雨は寒しぐれ冬にせまりてことせはしかも 《眞寂しく(まさみしく)》
俵まだ集まるおそき床敷に倉のにほひの冷たくなりぬ 《床敷(とこじき)》
この秋を寒きしぐれの降りつづき新米をとる時におくれぬ 《新米(にひまい)》
朝ゆふに鍵を鳴らして我が閉づるおもき倉戸もひき慣れにつつ
冬に入りて納米減りぬ倉につるす秤の棒の日日に冷たさ
その二
倉へ入りて今日も小暗し小作人より秤にかけて米を受取る 《小暗し(をぐらし)、小作人(こさく)》
雨ながら人の負ひ來し俵には背なかのぬくみなほのこりたり
秋されば孫にも米を背負はしめ山の家より人きたりたり
山家びと老いてなほ生くこの年も手作り米をはこび來れり 《山家びと(やまがびと)、手作り米(てづくりまひ)、來れり(きたれり)》
倉にあがる小作人は老いて懇なり草鞋をぬぎて足ぬぐひ居り 《小作人(こさく)、懇なり(ねんごろ)》
うす暗き倉の隅かも俵かき老いしがなやむ息ぎれきこゆ
眞つぶさに寂しくなりぬ掌ぞこの米しらべつつ明り窓により 《掌(たな)、明り窓(あかりど)》
秋は日ごと來つる小作人に酒添へて家の爲來の膳を据ゑしむ 《小作人(こさく)、爲來(しきたり)》
杵の音
この頃となり屋敷のうちの水ぐるま酒米をいそぎ夜もつく音
大き家族我にかかはりぬ然すがに事にわづらひて日日に我があり 《家族(うから)、然すがに(しかすがに)》
大きなる聲ひとつだに擧げずして心さみしき秋は過ぎにき
家びとの多きがなかに我が居りて晝もかなしき胸わだかまる
夜くれば我がことを一人わが思ひ星影の澄む空にしたしむ
夜くらき屋敷もとほる物おもひ音にひかれて水車へくだる
水車小舎夜目にほのけき壁のうちは絶えずかなしき杵の音かも
夜も搗ける屋敷水車の杵のおと常やすらはぬわが心かも
氷川
雪山よかぜ吹きつけり凍りたる川Pの岸のいく朝とけず 《凍りたる(こごりたる)》
遊免へわたる土橋の橋ぐひの濡れたるほどはみな凍りたり 《遊免(ゆうめん)、土橋(どばし)、凍りたり(こごりたり)》
おしなべて寒き風かも川のPの五百箇岩群は濡れてこごれる 《五百箇岩群(ゆづいはむら)》
樋のうへに重たくめぐる水ぐるま沫ことごとく朝は凍れる 《沫(しぶき)、凍れる(こごれる)》
塀越ゆる川風さむし夕かたに裏の座敷へ立ち入りぬれば
裏戸より見ればかきくれ河のPの岩むらがうへに雪つもる見ゆ
山川に雪かきくらし降るみれば夕べもしぬに一人と思ほゆ 《山川(やまかは)》
屋根の雪凍みつつすでに軒の樋にしづく落さず夕さむみかも
雪の朝
雪ふかく積りし朝は山かひの川上のPに音のしづけさ
雪ふかき川しも見れば岸の上の竹むらしろく川に垂れたり
屋敷なる水車を今朝はとどめけむ水樋のおとの靜かにきこゆ 《水樋(みづひ)》
落ちつきて物をば書かむ雪のあさ母屋のかたに音靜みかも
片戸さし部屋はひそめど外の雪の障子へ明りうべ落ちつきぬ 《外の雪(とのゆき)》
うづたかき街のゆきかも晝しづむ向うの家より時計鳴りつも
深ぶかと雪夜あかりの田のなかは水車にみづのただ被るおと 《被る(かかる)》
足もとの凍つく夕べとなりぬれば山した川の音のかそけさ 《山した川(やましたがは)》
元旦
東雲はすでにうごけれ下駄にふむ庭の堅雪へ赤くにほひつ
年の立つあかとき起きの星のかげ堅きゆきをふみて心ととのふ
雪なかに暗くせせらぐ屋敷川今朝も下り行きて顏あらひけり 《屋敷川(やしきがは)》
天つちの永世にむかふ年をおしみ現し身われは顏を洗ふも 《永世(とこよ)、現し身(うつしみ)》
雪深き屋敷のうちは夜あけつつ彼方こちに見えてうごく人かげ 《彼方こち(をちこち)》
わが父ははや起きたまひ朝暗き倉を出入りて鏡餅飾りをり 《鏡餅(もち)》
雪山に朝日子赤く出づるころ一村は起きて鷄鳴きうたふ 《朝日子(あさひこ)、一村(ひとむら)》
西の國の大き戦爭なほやまず今日の天つちに年あらたまる 《戦爭(たたかひ)》
淺春
夕だにの北山に立つ曇り雲いまだも寒し雪をはらみつ
晝は陽の照れる峽間となりぬれど夕空は曇り雪ふりかはる 《峽間(はざま)》
めづらしく吹くかぜ暖き夕ベかも北山のくもり雨をもちけり 《暖き(ぬくき)》
向か山の夕かげの雪に靄だちて降りゐる雨の春めきて見ゆ 《向か山(むかやま)、靄(もや)》
うら山の冬木のあひの雪のうへに鴉啼きつどふ雨ふるらしも
山かひの日和つねならぬ昨日の夜の雨のぬくみに風邪ひきにけり 《昨日(きそ)》
ひねもすを裏の座敷に冬日させ感冒にこもりて我が眠りたる 《感冒(かぜ)》
この夕の軒にととのふ雨のおとみ冬のあくる眞がなしさかも
病床惜春賦
假初めの風邪とのみ思ひしに、腸チブスなりける。事顯はさず治療を受くることとなりければ、訪るる醫師も看護の家人も、おのづから心遣ひのみ多かりなむ
日のくれに我れの疫病を診にきたりし醫師の面わのしたしきろかも 《疫病(ねやみ)、面わ(おもわ)》
日ぐれ迄はまだわが知れり言ひつけて藁の蒲團を作らしめたる
洋燈の暗きかげにて夜々をとほし夢におどろく熱つづきけり 《洋燈(らんぷ)、夜々(よよ)》
うつつなき病の夢に見えくるはみな忘れたる吾がをさなごと
眞夜なかを裏の鋤田に鳴くかはづ今宵はじめて聞きのかなしさ 《鋤田(すきだ)》
春寒き夜の背戸田に鳴くかはづ冬をとほして死なざりしかも 《背戸田(せどだ)》
日のうちに度々來り見まねく去る父のうれひの大きなるを知れり 《度々來り見(まねくきたりみ)》
枕よりすこしく見ゆる母のかほ妻のかほには氣の張りの見ゆ
眞がなしき命つがむと病床にひたすらになりて物をわすれつ 《病床(やみどこ)》
暗くせしわが病室にいく日か吾が子を見ざる日を過しけり
忝けなく人みなありぬ病むわれのほしいままにせる後のさみしさ 《忝けなく(かたじけなく)》
春なかば山に殘りし雪をとり我れのつむりは冷されてあり
病室の慰めにとて、はじめて活けられたるは、白梅の大きなる蕾なり。世の冬はすでに明け初めけむ、發熱に苦しむうちにも、花を愛しまむ心のみは保ちて
梅の木の畑に雪のふかくありし昨日と思へど久しからしも
うつつなき病床にありて白うめを見るよろこびのかすかに動く 《病床(やみどこ)》
日竝べて眺むる瓶のしら梅のこの暗き部屋に咲きがたきかも 《日竝べて(けならべて)》
熱高くつづきては夜晝をわかたず、眠るともなく、幻を見る苦し日のみ重なりぬ
覺むとなく時に氣のつく我がまわり譫ごとをいま言ひやしたらし 《覺む(さむ)、譫ごと(うはごと)》
天井より黄の熱の降りてくる如く我がまぼろしの晝も苦しさ
朝は體熱下りてやや快きことあり。ふと枕頭の藥餌の臺をさぐれば、冷く指にふれし洋盃の水に、鮮かなる菜の花挿されたるに、はやくも野に立てる春に驚きて
世の春にはやく種をおろす菜の花や病みこもりたる我れのかなしさ
洋盃なる菜種のはなに挿しそへし小すみれ草に心ときめきぬ 《洋盃(こつぷ)、小すみれ草(こすみれそう)》
鋤きかへす裏田の土にこぼれ咲く菜たねかあらむかはづの鳴くも 《裏田(うらだ)》
晝かはづ鳴けるは水をやや引きし鋤田に咲ける菜の蔭ならむ
發熱次第に怠れば、病室とみに閑あり。戸外には暖き日、おのづから長閉なる物音も聞え來りぬ
看護びと晝寢しづめりこの部屋にさくら活花しきりに散りゐ 《看護びと(みとりびと)、晝寢(ひるい)》
病室に日影めぐれば背戸の田へ家鷄おりて長鳴きにける 《背戸(せど)、家鷄(いへどり)、長鳴き(ながなき)》
今日にしてはじめて聞ける人のこゑ崖したの川に芹摘みてとほる
寢てきけば背戸川とほる芹摘人の草履のおとは水淺みかも 《背戸川(せどがわ)、芹摘人(せりつみ)》
日向にて咲かせて入れし白うめは蕋のみ目立ち散りすぎにけり 《蕋(しべ)》
病室の花は幾度か活け變りて、わが病また漸く危險の絶頂を過ぎたるものの如し。今日は珍しく山より折りし丹躑躅の活けられたる。春に終に山にも深くなりにき
みどり立つ樹したの赤き花を折りに起きて行かれぬ山をしぞ思ふ 《みどり立つ(みどりだつ)、樹した(こした)》
春山の〓(木若)枝の芽立ちいちじるみやや隱ろへる丹つつじ愛しも 《〓枝(しもと)、丹つつじ(につつじ)、愛しも(おしも)》
物がなしく病の床に活けてある山躑躅ばな照りあかりたり 《山躑躅(やまつつじ)》
病臥月餘に亘り、直接には、世の寒暖の移るを知らざれども、おのづから臥して見聞くものの、一つとして闌なる春の思慕を唆らざるはなし
部屋にいる人の衣にも天つ日の春のにほひの染みたるをおぼゆ 《天つ日(あまつひ)、衣(きぬ)》
川原べの石の間より萌えいづる小ぐさの芽にも聲あれなとおもふ 《川原べ(かはらべ)、石の間(いしのあひ)、小ぐさ(をぐさ)》
天つ日のひかりに遇はぬ病床に春のはな見て暮れここだ悲しも 《天つ日(あまつひ)、病床(やみどこ)》
みどり立つ春の山川へ起きてゆかば我が如何ばかりなつかしからむ 《みどり立つ(みどりだつ)、山川(やまかは)》
徂く春は須臾とどまらね今にして思ふいのち
のわれに悲しく 《徂く(ゆく)、須臾(すゆ=少しの間)》
病退けば食慾とみに進む。されどこの病のならひとて、食事を極めて嚴重に制限さるが故に、僅かばりの流動食は、殆んど限りなき餓えを救ふに足らず
看護人らのまなこ盗みて這ひあがりびつをさぐる飢は宜べなり 《看護人ら(みとりら)、びつ(いひびつ)、宜べなり(うべなり)》
餓じさはつひに悲しもうつつなき夢のうちにも我れは思へり 《餓じさ(ひもじさ)》
ひたぶるに喉にさはる粟めしの強き茶漬も我がうまからむ 《喉(のみど)、強き(こはき)》
我がやまひ癒えなむ日らはP戸の海のさかなを食ひに魚島へゆかな 《魚島(うをじま)》
この朝けはじめて含む粥汁の齒にかかりたるのうれしさ 《含む(ふふむ)、粥汁(かひじる)、(いひ)》
長臥徒然にたへず、外の景色頻りに戀しき折柄、裏山の麓には山吹のはな咲きつ、と云ふ聲のしければ
障子押さば田川も見えむ裏やまの麓を思へばしづかなる道
つぐみ鳥山を出入りて啼くこゑす鋤田はすでに水引けるらむ
病臥六十日餘、はじめて障子を少しく開かしめて、晩春の野山を眺むるに、久しく暗き室にのみ慣れし眼の力は、俄かに遠きものに及ばず、何が故にや、悲しきままに思ひ出せるは、彼の芭蕉翁が「若葉して御目の雫くぬぐはばや」となむ、潮風幾度の御渡航に、盲ひ給へる唐僧鑑眞和尚の木像に向ひて、奈良にて詠みし發句どもなり
我がまなこ衰へにけり若葉せる山にむかひて只だおぼろなる 《只だ(ただだ)》
眼かひの山のみどりを見むものと眼をぬぐひをり悲しきわれは 《眼かひ(まなかひ)、眼を(めを)》
春さればとほき海より吹き來とふ潮風ぐもり山はかすみたり
淺みどり眼に山川はおぼろなれど其處にすがしき水おときこゆ 《眼(め)、山川(やまかは)》
山の奥より切り持たりけむ。朝は露をふくみし藤なみの花の活けらるる頃となりぬれば
わが病とみによからし藤なみの花活けかふるこの明けの朝
み冬より病みたる我れも今日の朝の藤なみの花を見ればうれしも
うら山にひとごゑひさし我がために山百合を掘りに行きて居るらむ 《居る(ゐる)》
五月のはじめ漸く扶け起されて湯浴みしつ。別の室に新しく臥床も變へられたれば、氣持俄かにCしくなりぬ
久しくも臥ねし床より起されて疊にはかに低きここちす 《臥ねし(いねし)》
眞晝間の湯浴みづかれの寢ねごこち身體もかろくなりにけるかも 《寢ねごこち(いねごこち)》
たまたまに障子をあけて吹き通す疊のかぜの夏めきにけり
この夕ふべ山川の音にしたしみて腹足るをやや爲たりけり 《山川(やまがは)、腹足る(はらたるいひ)、爲たりけり(したりけり)》
しづかなる若葉を見ればおほけなくしみじみ我れのよくぞ生きたる
日のくれの山かげふかき川Pよりいちはやき夏の河鹿鳴きたり
弟を悼む
秋さめのかなしき夜に灯を振りてこの世には歸らぬ弟をうづむ 《かなしき夜(かなしきよ)、弟(おとと)》
父母も我れも香焚きて且つかなしはらからの墓つひに四つならぶ 《父母(ちちはは)》
|