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フィリピン活動記:

第6号報告書

第6号報告書(赴任29ヶ月目)として、以下の項目について報告します。


1. 協力活動終了
2. 活動報告
3. 最後に

※ 文中には「付録参照」とありますが、付録は掲載していません。ご了承ください。


1. 協力活動終了

1.1. 活動計画の達成度

協力活動全体を通して、活動計画通りにうまくいったこともありますが、大部分において計画通りには進まなかったと感じています。しかしながら、期待していた以上の成果が現れた部分もあります。
日本ではまず計画を立てて、そのとおりに実行することが求められます。しかし、ここフィリピンにおいては、いくら計画を立てても、そのとおりに進まないことが多いです。開発途上国で活動する以上、計画通りに進まないのは仕方が無いことです。
フィリピン人と一緒に仕事をしていると、外的要因で計画通りにいかないことが多いことがよくわかります。たとえば、突然の停電、台風や洪水などの災害、突如設定される休日、壊れやすい機材など、原因はあげるときりがありません。
逆に、期待以上の成果が現れることもあります。無線ネットワーク接続が実現してからは、ネットワークとサーバ構築が計画以上に進行しました。また、後述するLinux環境の移行においては、私の予想を超えて、クライアントコンピュータにおいてLinuxが使われるようになりました。
ここは日本ではありません。もちろん、計画通りに実行することは重要ですが、ここフィリピンにおいては、あまり計画にこだわりすぎると失敗する恐れもあります。柔軟に計画を変更していくのが望ましいと考えます。

1.2. 全期間の協力効果

全体を通して、技術協力がメインだったと感じています。
自分のポリシとして、自分自身からは仕事をせず、まずはカウンターパートや指導対象者に対して技術指導を行い、彼らの手で考え、問題解決をしたり何かを作り上げていこうというやり方で活動しました。
私自身が率先して仕事をしたのでは、私がいなくなった後にそれを誰も継続できません。そればかりか、ただ開発物や成果物をあげるだけになります。その点、フィリピン人が自分たちで考えて自分たちでやったものであれば、その後もその活動が確実に続きます。したがって、私は技術指導に重点をおきました。
この技術指導メインの活動から大きな効果が出たと手ごたえを感じています。たとえば、Linux環境への移行時(「2.2. クライアントコンピュータのLinux環境への移行」参照)には、それは配属先スタッフたちが技術的に実行可能だということで、配属先で判断してLinuxへの移行を決定しました。これは、彼ら自身の手で方針を決定し、彼らの持っている技術力(もちろん私が指導した技術)を活用して、問題解決を行ったのです。こういうことから、技術力の向上だけでなく、自分たちで考えて問題解決を行えるようになったと感じています。
ちなみに、日本人の行動や文化などはほとんど伝わっていないと思われます。逆に私がフィリピン人の行動や文化の影響を受けたように感じます。最後のお別れパーティでは、学長がこう言いました。「He is Filipino more than Filipino.」はっきり言って素直には喜べません。しかしながら、自分がフィリピン人について理解しようとした証拠だと思えば、多少はうれしく思います。

1.3. 後任隊員への要望

具体的な活動内容は、ネットワークの拡張および学生管理情報システムの構築支援になります。
配属先が特に期待しているのは技術指導であり、この点には力を入れて欲しいです。カウンターパートは、隊員と共に仕事をしながら一緒に問題解決をしていくことを望んでいます。
私の活動の中で引き継ぐような仕事は特にありません。すべてのきりのよいところで仕事を終えているからです。したがって、活動や仕事のやり方は後任のやりたいようにやってよいと思います。

1.4. 今後の協力の見通し等

ここトゥゲガラオはマニラから約490km離れた地方にあります。地方都市であるがゆえに、マニラ首都圏などの大都市とは状況が異なります。したがって、それに対応した協力が必要となります。
まず、すぐに実践できるような技術の指導が求められます。地方都市では学ぶ場が少ないです。たとえば、コンピュータに関連したセミナーはあまり開かれません。コンピュータに関する技術書も入手困難です。セミナー等の参加の機会を作ると共に、隊員による技術指導が求められます。
また、地方都市ならではのプロジェクトを考える必要があります。たとえば、無線を利用した僻地へのインターネット接続や、停電対策などです。大都市で使える技術が地方都市でも使えるとは限りません。地方都市の現状に合わせたプロジェクトを企画しなくてはなりません。

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2. 活動報告

2.1. セキュリティポリシの策定

(1) 活動目標

LANを敷設し、インターネット常時接続が実現されるようになると、さまざまな問題がでてきました。具体的には次のような問題です。

  • コンピュータウイルスの感染やスパイウェアの侵入
    信頼されていないWebサイトやアダルトWebサイトにアクセスし、コンピュータウイルスに感染したり、スパイウェアに侵入されたりするコンピュータが出てきました。
  • 業務時間中の私的ソフトウェアの利用
    業務時間中にメッセンジャーやチャットなどの私的なソフトウェアを利用するユーザが出てきました。モラルの問題もありますが、将来的にネットワークのトラフィック増大につながる恐れがあります。

そこで、セキュリティポリシを策定し、学内ネットワーク利用者に対して施行することで、この問題を解決しようと考えました。

(2) 活動内容

フィリピンの他大学や、アメリカの企業、日本の大学、日本の経済産業省が策定したガイドラインなどを参考にし、配属先にあわせたセキュリティポリシを策定しました(「付録1・セキュリティポリシ」参照)。
しかしながら、施行直前にLinux環境への移行作業(「2.2. クライアントコンピュータのLinux環境への移行」参照)が始まったため、クライアントの環境を変更しなくてはならず、セキュリティポリシの施行は延期されました。

(3) 今後の課題

クライアント環境の変更が落ち着いたところで、セキュリティポリシの施行を行います。もっとも私はその時点ではすでに帰国していますが、セキュリティポリシはすでに完成しているため、すぐに実行に移せると考えています。


2.2. クライアントコンピュータのLinux環境への移行

(1) 活動目標

表2-iに配属先大学管理棟のコンピュータのOSのライセンス状況を示します。

表2-i:大学管理棟のコンピュータのOSのライセンス状況(2005年9月時点)
正規版(ライセンス済) 6
オープンソース 4
海賊版(違法コピー) 51

※ 海賊版ソフトウェア使用率は83.6%。

配属先のコンピュータのOSはほとんどが海賊版(違法コピー)ソフトウェアを使用しています。
任地トゥゲガラオのコンピュータショップでは海賊版ソフトウェアが普通に販売されており、正規版(ライセンス済)ソフトウェアはまったく販売されていません。
また、任地およびマニラのコンピュータショップでは通常、海賊版ソフトウェアがインストールされて販売されています。
このことより、フィリピンにおいては日常において海賊版ソフトウェアが利用されており、ユーザは知的財産所有権や著作権の知識が無く、罪悪感もない(というか、正規版を購入する術がない)という実態がわかります。

私は以前より海賊版ソフトウェアを利用するのは悪いということを主張してきました。その甲斐があってか、学長が「今後は海賊版ソフトウェアを使用しない」という方針を明確に打ち出し、また、現在使っている海賊版ソフトウェアについては、時期を見て置き換える計画を立てました。

しかしながら、フィリピン政府が、海賊版ソフトウェアの取締りの強化を始めました。コンピュータショップ、インターネットカフェ、大学、政府機関等に立ち入り検査を行い、悪質なところについては罰金を求める、ということが新聞にも載りました。

配属先では、海賊版ソフトウェアを排除するために、オープンソースへの移行を決定しました。
当初、カウンターパートと私は正規版ライセンスの購入を主張しました。オープンソースへ移行すると環境が変わるため、利用者が混乱するからです。しかしながら、副学長、IT学部長の意見でLinuxを利用したオープンソース環境に移行することが決定しました。その理由は、コストが削減できること、技術的に可能なこと(私がカウンターパートらに技術指導をしたため)です。

(2) 活動内容

大学管理棟において、Linuxへの移行を行いました。
まず、コンピュータ環境の調査を行いました。その結果、一部のコンピュータでは、Windowsでなくては動作しないソフトウェアを使用していることがわかりました。これらのコンピュータに関しては正規版ライセンスを購入することとし、それ以外のコンピュータについてはLinuxを導入することにしました。
当初はBayanihan Linux 3.1を導入しました。このOSは、フィリピン政府が開発したものです。私が今まで指導してきたRed Hat系OSであることと、フィリピン政府が開発したものでフィリピン人向けにカスタマイズされていることから導入しました。
しかし、Bayanihan Linux 3.1にはさまざまな問題がありました。プリンタの利用や、その他バグなどです。
そこで、同じRed Hat系OSであるFedora Core 3 Linuxに変更しました。

Linuxへの移行作業は、カウンターパートに指導しながら、連日夜遅くまでかかり、休日も出勤しました。その甲斐があって、移行は短期間で終了しました。

Linux移行後、利用者から多くの苦情が寄せられました。環境が今までと異なるため、それは当然のことです。そこで、外部から講師をよび、Linuxのセミナーを行うことにしました。講師として招いたのは、PLUG(Philippine Linux Users Group)のメンバです。交通費と宿泊費さえ支給すれば、無料でセミナーを開いてくれるようです。
セミナーの効果があったようで、現在はLinux環境においては大きな問題は発生していません。

(3) 活動成果

表2-iiにオープンソース環境(Linux)移行後の配属先大学管理棟のコンピュータのOSのライセンス状況を示します。

表2-ii:大学管理棟のコンピュータのOSのライセンス状況(2005年11月時点)
正規版(ライセンス済) 11
オープンソース 34
海賊版(違法コピー) 20

※ 海賊版ソフトウェア使用率は30.8%。

海賊版ソフトウェアの問題は解決には至っていませんが、改善されました。
また、利用者のあいだで著作権に関する知識が深まりました。

(4) 今後の課題

今後は、現在やむを得ず海賊版ソフトウェアを使用しているコンピュータに対して、正規版ソフトウェアを購入する必要があります。これは、今後のコンピュータシステム導入と絡んでくる問題でもあります。
今回のLinux環境移行にあたっては、配属先で方針を打ち出して問題解決を行ったため、今後も自分たちで対処していくと思われます。


2.3. カーバッテリを利用した無停電電源装置

(1) 活動目標

配属先では、PBX(電話交換機)、HUB(キャビネット)、ネットワークサーバ等のネットワーク機材やコンピュータを利用しています。これらの機材は24時間稼動するのが基本です。インターネット関係のサーバコンピュータなどは停止するとその期間サービスが受けられず、業務が停止するばかりか信頼性も低下します。
ここ地方都市トゥゲガラオは停電が多く発生します。大雨、台風、洪水などの災害による停電はまだしも、天気がよくても停電になったりします。また、メンテナンス工事のために、定期的な停電も行われています。
このような状況ではコンピュータシステムやネットワークの運用は困難であり、たとえ運用したとしても、信頼性がひどく低く、役に立ちません。
停電対策としては、次の2つがあります。

  • 無停電電源装置(UPS)
    無停電電源装置はもっともポピュラーな停電対策のための装置です。この装置は稼働時間が数十分程度と短く、停電が発生した際に安全にコンピュータを停止させるのが主な目的です。したがって、停電中でもコンピュータを運用させるといった用途では役に立ちません。
  • 発電機
    別の方法としては、発電機があります。発電機はショッピングモールやホテルなどで使われています。発電機を使うと停電中でも長時間コンピュータを稼動させることができます。しかし、価格はとても高く、運用するにもコストが高いです。

そこで、これらの問題を解決して、コンピュータシステムやネットワークをまともに運用する方法として、カーバッテリを利用することを思いつきました。カーバッテリは価格も運用コストも非常に安いです。カーバッテリを利用してコンピュータシステムおよびネットワークの24時間運用に挑戦することにしました。

(2) 活動内容

まずはPBXにカーバッテリを適用することにしました(図2-A参照)。
配属先ではPBXを利用した内線電話を利用していますが、停電になるとPBXの電源が切れるため通話できなくなります。そこで、まず、PBXにカーバッテリを導入して、停電時でも通話ができるようにしようと考えました。
電源コンセントからカーバッテリにつなぎ、カーバッテリからPBXに接続しました。なお、PBXはインバータ内蔵です。
結果、停電時でも問題なくPBXが利用できるようになりました。

図2-A カーバッテリ 図2-A:カーバッテリ

(3) 今後の課題

今後このシステムをその他のコンピュータシステムやネットワーク機器に適用しようと考えていますが、そのためにはインバータが必要になります。カウンターパートが調べたところによると、インバータは任地の業者では扱っていないとのことです。任地の業者はマニラで仕入れを行うため、マニラにも無いかもしれません。インバータを海外から購入する必要があります。


2.4. その他

  • 大学学生情報管理システムについて
    大学学生情報管理システムについて今後どうするかを検討する委員会が学長によって設置されました。私もそのメンバに指名されました。そのほか、IT学部長、レジストラルオフィスのディレクタ、カウンターパートがメンバとなっています。今後、他のキャンパスをインターネットで結び、情報システムを共有する必要があるため、それにしたがって計画書をつくりました。その結果、配属先がプロジェクトに200万ペソの予算を出すことになりました。
    私は帰国するため、システム構築を支援することができません。後任の活動に含まれることになります。
  • JICAオフィスの見学
    カウンターパートがマニラに上京したついでに、JICAオフィスを見学させました。目的は、ネットワーク設備を見学し、そのしくみ運用方法について勉強することです。
    見学の結果、次のことが勉強になりました。
    ネットワーク設備、サーバコンピュータの運用方法。どのような機材を用いているか、どのようにシステムのバックアップをしているかを見学しました。
  • ネットワークの配線。JICAオフィスでは床下にネットワークケーブルを配線していますが、配属先の場合は壁に配線していてごちゃごちゃしています。どのように配線したらきれいにまとまるのかが勉強になりました。
  • プリンタの共有について。配属先ではプリンタの共有が進んでいません。どのようにコンピュータ資源を共有するか勉強になりました。
  • 仕事のやり方の違い。仕事中に私語を慎むこと、大音量で音楽をかけないこと、机の配置方法など。
    写真をいくつか撮り、持ち帰って配属先にて検討しました。その結果、次のような効果が現れました。
  • プリンタの共有について検討しました。コストを削減するためにコンピュータ資源をできるだけ共有していくという方針をだしました。
  • 机の配置方法の変更。アカウンティングオフィスの机の配置を今までの独立した配置から島式に変更し、スタッフ同士で情報共有がしやすくなりました。
    その他、カウンターパートはJICAオフィスのネットワーク管理者の話に影響を受けたようで、オープンソース(JICAオフィスではあまり使用されていませんが)の積極的な導入に力をいれるようになりました。
  • 引き継ぎドキュメントの作成
    今までの活動(ネットワーク構築、システム開発、ネットワークサーバ構築、コンピュータ学科カリキュラムの見直し等)に関するドキュメントをまとめ、カウンターパートに渡しました。
    これにより、私が帰国しても、配属先がプロジェクトを続けていくことができます。

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3. 最後に

協力隊活動を通して、配属先、カウンターパート、自分のそれぞれにおいて成長が見られました。
配属先においては、情報システムおよびネットワークが格段に進歩したように感じています。私が赴任した当初は恐ろしくひどい環境でした。インターネット接続がないのはおろか、コンピュータもろくに稼動しておらず、ネットワーク機材はただ導入されただけで使用されていませんでした。現在はこれらの問題が解決されたばかりでなく、Linuxの導入など、国内においても例を見ないほど進んだ環境を持つようになりました。
その理由は、カウンターパートが成長したからです。カウンターパート(複数ですが)は技術を学び、計画を立てて問題を解決するようになりました。一緒に仕事をしていく中で、日本人の私には考えもつかないようなアイディアを出すようなこともありました。
私は赴任直後、要請内容がなくなり途方にくれましたが、活動を続けていき、最終的には配属先の情報システム検討委員会のメンバに選ばれたり、配属先から200万円もの予算をプロジェクトに提供してもらえたりするに至りました。いつもフィリピン人スタッフたちと一緒に仕事をしてきたことで、信頼されるようになったからだと感じています。最初は小さな活動、プロジェクトですが、最後には大きな活動、プロジェクトを扱えるようになりました。
活動を通して配属先、私の双方に得られたものは、「成長」であったと感じています。

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