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フィリピン活動記:

第3号報告書

第3号報告書(赴任12か月目)として、以下の項目について報告します。


1. 業務内容の概要
2. 支援体制
3. 活動報告
4. 今後の活動計画
5. その他

※ 文中には「付録参照」とありますが、付録は掲載していません。ご了承ください。


1. 業務内容の概要

1.1. 受入希望調査表との差異

実際の隊員活動内容と受入希望調査表の内容との間での差異はほとんどありません。配属先で期待している業務内容と受入希望調査表の記載事項は一致しており、隊員活動上問題になるようなことはありません。

しかしながら、受入希望調査表記載事項において現状とは異なった点がいくつかありました。この点について報告します。なお、これらは現在の隊員活動において影響はまったくありません。

(1) 受入希望調査表記載事項と赴任時の状況との差異

配属先がボランティアを要請したのは2000年12月、隊員が赴任したのは2003年7月であり、2年半以上の歳月が流れています。そのため、受入希望調査表記載事項と赴任時の状況とで異なる点がいくつかありました。

  • 予算がなかったこと
    受入希望調査表やPNVSCAの要請書によると、プロジェクトには200万ペソの予算が割り当てられているとのことでした。しかし、この予算はすべて使い果たされ、隊員赴任時には予算が無い状況でした。
    そのため、予算が無いことを念頭に入れた活動計画をたてることでこの問題を回避しました。
  • カウンターパートが不在だったこと
    JICAからの資料やPNVSCAの要請書によると、カウンターパートがいるとのことでした。しかし、このカウンターパートは私が赴任する直前に職場を辞めてしまったそうです。したがって、赴任時にはカウンターパートがいない状況でした。
    しかしながら、自分で新たにカウンターパートを見つけて、活動を続けていくことができました。幸いにも、コンピュータに関して熱心に質問してきたり自分から勉強しようという意思のある教職員が数名いました。そこで彼らをカウンターパートとし、一緒に活動を続けていくことができました。

(2) 疑問に思った事項

  • 職種名の現地公用語について
    受入希望調査表の職種名の項目には、日本語:コンピュータ技術、現地公用語:System Engineerと記載されています。
    しかし、現地では”System(s) Engineer”という言葉を聞いたことがありません。フィリピン人は”System(s) Engineer”が何を意味しているのかも知らない状況です。
    このことより、”System(s) Engineer”は現地公用語としてはふさわしくないと考えられます。
    職種名の現地公用語について再度検討することを提案いたします。
  • 配属省庁について
    受入希望調査表の配属先概要の項目には、配属省庁名:高等教育委員会(Commission on Higher Education)、勤務先名:カガヤン大学*1)(Cagayan State University)と記載されています。
    配属省庁について疑問を抱いています。この高等教育委員会は活動上何の関わりも持っていないばかりか、一度もそこを訪れたことがありません。しかしながら、受入希望調査表には配属省庁として記載されています。
    この配属省庁の高等教育委員会はどういう組織なのか、なぜ受入希望調査表に記載されているのか、まったく不明です。
  • 訓練すべき現地語について
    この問題については第1号報告書でも報告しました。再度ここでも報告させていただきます。
    受入希望調査表には、訓練すべき言語は「タガログ語」と書かれています。これは間違いありません。
    それにも関わらず、現地語学訓練においては「イロカノ語」を指定されました。
    配属先の指摘により、現地語学訓練は「タガログ語」に戻りました。
    この混乱の原因は、リージョン2の現地語の特殊性にあります。リージョン2では複数の現地語が存在します。代表的なものは、イロカノ語、イバナグ語、イタウェス語です。農村部や各バランガイではこれらの現地語が話されていますが、都市部、とりわけトゥゲガラオ市においては共通語であるタガログ語を話すのが普通となっています。なぜならば、都市部では異なった現地語を持つ民族が一緒に暮らしているからです。
    トゥゲガラオ市近辺に赴任する場合、現地語学訓練で「イロカノ語」を勉強したのでは一部の人としか話ができないことになります。そのため、現地語学訓練では「タガログ語」を勉強するのが正解です。
    訓練すべき現地語については、配属先と協議の上、慎重に決定していただくように提案いたします。これは後の隊員活動を左右する重要な問題です。

1*) 受入希望調査表には「カガヤン州立大学」と記載されていますが、誤訳とのことなので、ここでは「カガヤン大学」と書きます。


1.2. 配属先同僚の技術レベル

(1) コンピュータ利用水準

配属先同僚のコンピュータ利用水準は第2号報告書で述べましたので、ここでは省略させていただきます。(「第2号報告書 2.2.コンピュータ利用水準」を参照)

(2) カウンターパートの技術レベル

2人のカウンターパートのうち1人はハードウェアに精通しています。トラブルシューティングを得意とし、ハードウェアの修理や基本ソフトのインストールの業務を行っています。
彼は隊員の指導によりネットワーク構築、Linuxサーバの構築と運用が出来るようになりました。
問題点は、現時点でトラブルシューティング、ネットワーク構築、Linuxサーバ構築を完全にこなせるのが配属先で彼ひとりしかいないことです。彼がいないと誰もサポートできなくなります。そのため、彼に対して、他の同僚にも指導するようにさせています。

もう1人のカウンターパートはコンピュータ学科の学科長であり、ソフトウェアの分野を得意とします。向上心があり疑問に思ったことは何でも質問してきます。
彼女はコンピュータの基礎知識を持っていますが、経験に乏しいため、授業では机上で指導するにとどまっています。

どちらのカウンターパートも、隊員の指導により、スクリプト言語PHP、データベースMySQLを扱えるようになり、自分たちの手でWebとデータベースを組み合わせたWebシステムを開発できるようになりました。
しかし、設計の技術はまだまだです。これは設計の経験が無いことが原因として考えられます。また、この地域にはコンピュータシステムが少なく、それに接する機会も少ないため、コンピュータシステムを想像して設計するのが困難ということもあげられます。


1.3. 隊員の配属先での位置付け

ITコーディネーター、アドバイザーとして、コンピュータシステムやネットワークに関わる業務の調整役を行っています。
業務の計画をたて、カウンターパートやその他の教職員に仕事を割りふっています。もし彼らに分からないことや難しいことがあれば、その技術を教えたり一緒に仕事をしたりしながら業務を進めています。これらの業務以外でも、コンピュータに関する質問や相談があった場合は、教職員、学生問わずそれに応じています。
また、今年度より授業の見学を行い、先生方にアドバイスしたり手伝ったりするようにしています。
配属先での公式な位置付け(配属先内の公式文書等に書かれる役職)は、Non-Academic Staff, JOCV Volunteerとされています。(なお、Academic Staffとはフルタイムで授業を持っている教職員のことを指します。私は授業を持っていないため、Non-Academic Staffとされています。)
赴任当初は、Our Visitor、Our Friendなどと呼ばれ、配属先内の公式文書にも名前が書かれることはありませんでした。赴任1年近くたち、ようやく正式にJOCV Volunteerと呼ばれるようになりました。これは、隊員の活動が認知されるようになったからだと考えられます。非常に喜ばしいことです。今日では、教職員の1人とみなされ、職員会議や学科長会議などに出席したり発言を求められたりするようになりました。


1.4. 業務上の障害と対策

活動上深刻な障害はありません。障害や問題に直面しても何とか解決してうまくやっています。
今までに直面した障害や問題は次のとおりです。

(1) 人事異動について

第2号報告書で人事異動について報告しましたが、その後、再度人事異動がありました。
人事異動の理由は学長(President)が新たに赴任したことです。今までは学長が不在でしたが、今回、選挙により学長が選ばれました。組織のトップが交代したことにより、再度人事異動が行われました。
人事異動で役職が変わると当然方針も変わります。今回も前回と同様、新しい学部長と話をして今後の活動計画を立て直しました。
カウンターパートの1人が人事異動に伴い異動されそうになりました。これは本人も私も望んでいない人事異動でした。なぜならば、今まで一緒に仕事をしてきた相手ですし、彼がいなくなれば今後の活動に影響がでるからです。そこで、彼と私の活動内容を学長に説明して理解してもらうことにしました。そのおかげで、彼は異動されずに職場に残ることが出来ました。
もはや、人事異動による職場の方針にはこだわらず、流されず、自分が正しいと思ったことを続けていくようにすることにしました。なぜなら、ころころ変わる職場の方針にあわせて活動していては疲れてしまうし、ストレスもたまり、活動に影響がでます。自分が正しいと思ったことについてはそれを主張し、自分を信じて活動を進めていくことにしました。

(2) 技術書の不足

全般的に技術書が不足しています。教職員や学生が新しい技術を勉強したくても、なかなか技術書が手に入れることができません。技術書は高価であるだけでなく、数が少ないからです。
カウンターパートにWebシステム開発の技術指導としてPHPとMySQLを教えました。その際もやはり技術書が無かったため、彼らは私が持参した日本語の技術書使って勉強していました。
当然のことながら、彼らは日本語が読めません。それにもかかわらず、日本語の技術書を一所懸命に読みながら勉強していました。
その様子がとても不憫に思えたため、自分の生活費から1万ペソを使って英語の技術書を購入し、彼らに貸すことにしました。彼らは、私の購入した英語の技術書を喜んで使い勉強し、Webシステム開発の技術を身につけるに至りました。
自分の生活費を切り詰めることになりましたが、彼らが私の購入した本を利用して技術を身につけることが出来たので、結果的に良かったと考えています。
なお、技術書の購入について配属先と相談しましたが、高価であることと、直接学生への指導に結びつかないことから、予算がつくのは困難であるとのことです。

(3) ハードウェア資源が満足でないこと

コンピュータシステムの開発、運用を行うための、また、コンピュータ教室を維持するための設備が足りません。
設備を購入する予算が無いわけではないと考えています。これは、高価な設備で少数のコンピュータを導入するよりも安価な設備で多数のコンピュータを導入した方が良いという、配属先の方針です。
しかし、やはり設備が満足な状態にないため、障害や問題が発生しています。

学生情報管理システム開発中の出来事です。停電でテストサーバのハードディスク装置が故障し、プログラムが失われてしまいました。予算の都合上、そのテストサーバにはUPS*2)が接続されていませんでした。それが原因となってこの障害が発生しました。
カウンターパートは休日出勤までして必死に復旧を試みましたが、失敗に終わりました。彼は相当ショックを受けたらしく、その後数日仕事を休んでしまいました。
幸いにもバックアップを取っていたため、プログラムの8割を復旧することができ、カウンターパートもそれを喜び仕事に戻ってきて、開発を継続することができました。
停電でいつ機器が故障するかわからないため、こまめなバックアップが必要になります。

先日、UPSのバッテリーが無くなりました。UPSがないと停電の際にコンピュータが致命的なダメージを受ける恐れがあるため、UPSの新規購入を提案しました。UPS購入のための予算を作ることは可能との判断が下りましたが、手続きの都合上、購入までには時間がかかるとのことでした。
困っていたところ、電気関係の先生の提案により、そのUPSを改造して別のバッテリーと接続することに成功しました(図1-A参照)。
工夫すれば壊れたものでもなんとか対処できるということが分かりました。このような考え方がジープニーなどを生み出す文化となっているのでしょう。
後日談。UPSの故障以来、中古品や廃品が私のもとにやってくるようになりました。「予備のバッテリーを持っているからあげる」とか、「このUPSは壊れているけどあげる」といった具合です。おかげで私の机の周りはなんの役にも立たない中古品や廃品の山になっていますが、その気持ちだけでもうれしいものです。

図1-A 改造して外部バッテリーと接続したUPS 図1-A:改造して外部バッテリーと接続したUPS

*2) UPS=無停電電源装置、非常用の電源として使用する装置。

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2. 支援体制

2.1. 支援経費の使用計画等について

隊員支援経費やその他支援経費の申請は今のところまったく考えていません。
配属先内で支援したいところはいくつかあります。とくにコンピュータ環境においては、他の隊員の話を聞くと、他の大学と比べてかなりひどい状態にあるようです。
しかし、もしこれに対して支援経費を申請するとすれば、それはフィリピン人全体のためではなく、ひとつの組織だけを支援することになり不公平であるため、配属先への支援経費については考えないことにしました。
地方の農村地帯のコミュニティを視察することがあります。彼らは貧乏ではありますが幸せそうに暮らしています。したがって特に私の見る限り支援が必要な部分はありません。彼らは金や物資が無くても工夫して生活しており、その努力を無駄にしないためにも支援経費の使用は今のところ考えていません。


2.2. 活動期間延長について

5か月程度の活動期間延長を考えています。
要請内容である大学の学生情報管理システム開発をカウンターパートとともに行っています。現在は学部内でシステムを構築し、その後これをモデルにして他学部に広げていく計画です。
大学業務はセメスタ*3)単位で動いており、システム開発と導入もそれに合わせる必要があります。
計画(「付録1・学生情報管理システム導入スケジュール」を参照)では次のセメスタから学部内にシステムを導入し、翌年度より他学部に導入する予定です。他学部への導入時には、システムの運用と保守の指導に1セメスタを要します。また、引継ぎのための作業に数か月を要すると考えています。
大学の学生情報管理システムの導入と運用保守に一定の区切りをつけて引継ぎをスムーズに行うために、5か月程度の活動期間延長を考えています。

*3) セメスタの期間はおおまかにいうと次のとおりです。第1セメスタ=6月〜10月、第2セメスタ=10月〜3月、サマー(夏休みおよび夏季特別授業)=4月〜5月。


2.3. 後任の必要性

後任の要請が必要だと考えています。
継続的な技術支援を行うため、私の帰国からあまり期間をおかずに赴任するのが望ましいです。
目的は次のとおりです。

  • 学生情報管理システムを大学全体に普及させるための技術的支援を行うこと(継続)。
  • 大学全体のLAN構築の支援をすること(継続)。
  • コンピュータ学科の先生を指導し、先生と学生の技術力向上を図ること。
  • 地域におけるコンピュータシステム、ネットワークの普及に努めること。

2.4. その他

この地域の他の国立大学(State University)にも、コンピュータ技術のボランティアの要請を呼びかけていきます。
これらの国立大学も、コンピュータ環境は配属先と似たような状況です。
他のコンピュータ技術隊員の話から、情報化に関しては他の地域に比べてかなり遅れていることがわかりました。とくにネットワークへの対応は遅れており、インターネットはおろかLANすら普及していません。
したがって、この地域の情報化、人材育成を目指し、コンピュータ技術のボランティアの要請を呼びかけていきます。

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3. 活動報告

3.1. 学部内LANの再構築(継続)

第2号報告書で報告した活動から継続して、学部内LANの再構築を行っています。

(1) 活動内容

  • LANの敷設
    LANの新規敷設および再配線を行いました。工事はカウンターパートが中心となって行いました。
  • ネットワークの利用方法指導
    ファイル共有、プリンタ共有の利用方法を指導しました。

(2) 活動成果

  • LANが有効活用されるようになったこと
    カウンターパートのみならず教職員がファイル共有、プリンタ共有を活用するようになりました。
    コンピュータ資源の共有が普及した背景には、度重なる人事異動でコンピュータやプリンタの移動が頻繁に行われ、情報資源があちこちに散らばったことがあげられます。そのため、コンピュータ資源共有の必要性が高まったのだと考えられます。
    また、後述するLinuxサーバと組み合わせたネットワーク資源の活用も行われるようになりました。
    カウンターパートらは、Linuxサーバ上でCD-ROMをマウントして、他のコンピュータ上からFTPを利用してそのファイルを閲覧する、などといったことをするようになりました*4)。

*4) 配属先では予算不足のため、CD-ROMはごく一部のコンピュータしか搭載されていません。(「第1号報告書」参照)

(3) 今後の課題

  • すべてのコンピュータをLANに接続すること
    残るコンピュータをLANに接続するために必要な物品購入の予算が認可されました。すでに物品は調達され、手続きを経て手元にやってくるのを待つだけです。
    物品が到着しだい工事にとりかかる予定です。

3.2. Linuxサーバの構築指導

(1) 活動目標

  • Linuxを紹介すること
    教職員に対し、安価で高機能なサーバを構築できるLinuxを紹介します。
  • Linuxサーバを導入すること
    Linuxサーバの構築を指導し、実際に運用、活用することを目標とします。
    学部内学生情報管理システム(後述)のサーバとして利用します。

(2) 活動内容

  • Linuxサーバの構築方法を指導
    カウンターパートの1人に1対1でLinuxサーバの構築、運用方法を指導しました。
    Linuxサーバ構築に関する技術書がないため、カウンターパートは私の指導内容をメモにとり、何度かインストールを試みるなどして勉強を行いました。
    もう1人のカウンターパートにはLinuxの簡単な操作方法を指導しました。

(3) 活動成果

  • Linuxサーバの構築ができるようになった
    カウンターパートの1人はLinuxサーバを構築、運用する技術を身につけました。
    彼は彼自身でLinuxをインストールし、各種設定や、Webサーバ、FTPサーバ、MySQLサーバなどのネットワークサーバを導入することが出来るようになりました。(図3-A参照)
    彼はLinuxに心底惚れ込んだらしく、サーバだけでなく普段自分で使うクライアントコンピュータにまでLinuxを導入し、さまざまなアプリケーションをインストールたり設定を変更するなどLinuxを自由自在に操れるようになりました。
  • 授業でLinuxを紹介するようになった
    もう1人のカウンターパートは、授業でLinuxを紹介するようになりました。
    彼女は授業でLinuxの利点、理念、生い立ちを紹介し、実際に学生に触らせるなどしてLinuxを紹介しました。
図3-A 隊員の指導によりカウンターパートが構築したLinuxサーバ 図3-A:隊員の指導によりカウンターパートが構築したLinuxサーバ

(4) 今後の課題

  • 運用方法について
    停電が多いため、サーバの運用方法について悩んでいます。
    前述したとおり、一度停電のためハードディスク障害が発生し、プログラムが失われることになりました。
    UPSを導入しているものの、コンピュータを自動でシャットダウンする機能はありません。
    運用方法についてカウンターパートや学部長と話し合う必要があります。

3.3. Web技術の紹介と指導

(1) 活動目標

  • システムを開発できる技術を身につけさせること
    Webサーバ上で動作するスクリプト言語PHPと、データベースMySQLを通して、データベースを利用したコンピュータシステムを開発できる技術を指導します。
    なお、データベースの指導にあたっては、PostgreSQLとMySQLのどちらが良いかを比較しました。その結果、フィリピンにおいてはMySQLの技術書の入手が容易なことと、LinuxだけでなくWindowsでも動作することから、MySQLを採用することにしました。

(2) 活動内容

  • PHPを利用したプログラミングの指導
    前述したLinuxサーバ上で、PHPを利用したプログラミングの指導を行いました。
  • MySQLを利用したデータベース構築の指導
    MySQLを利用したデータベースの構築方法と、SQLを指導しました。

(3) 活動成果

  • PHPとMySQLを連携したWebシステムの構築ができるようになった
    カウンターパートはPHPとMySQLの利用方法を覚え、それらを組み合わせてWebシステムを開発できるようになりました。
    この技術をもとに、次で述べる学部内学生情報管理システムの開発を行うことを計画しました。

3.4. 学部内学生情報管理システムの開発支援

(1) 活動目標

  • 設計技法を伝えること
    学部内学生情報管理システムの開発支援を通して、コンピュータシステムの設計技法を指導します。
  • 自分たちでシステムを運用、拡張している力を身につけさせること
    私の帰国後を考え、カウンターパートが自分たちでシステムを運用、拡張できるようになることを踏まえて、システムの開発支援を行います。

(2) 活動内容

  • 設計
    外部設計、内部設計はカウンターパートの1人と1対1で行いました。
    カウンターパートの考えを尊重するため、彼のアイディアを私が設計書に書き下ろし、それを彼に説明しながら確認するといった形で作業を進めました。もちろん、彼のアイディアでおかしいと思う部分もありましたが、その時はそれについて指摘し、それでも彼が考えを変えない場合はそのアイディアを採用するようにしています。もしあとで失敗や不具合がでるようなことがあっても、彼にとってはそれが経験となり成長の糧となると考えています。
  • 開発
    設計に基づいて開発を行いました。
    開発にはカウンターパート2人が携わり、プログラムのほとんどは彼らが作成しました。私が作成したプログラムはサンプル用に作った数本だけです。PHPとMySQLの指導が活かされていることが確認できました。
    カウンターパートの1人はプログラムの作成は早いがバグの作りこみが多く、もう1人はプログラムは慎重に作成しミスは少ないが作業が非常に遅いといった状況で、2人の仕事の進み具合を調整するのが大変でした。
    彼らに共通して言える問題点は、数学の基礎能力が足りないということです。複雑なアルゴリズムは彼らにとっては理解するのが難しいようです。
    もし、複雑なアルゴリズムをもつプログラムに出会ったときは、気にせずに前に進めるようにさせています。
    彼らがプログラミング中に難しい問題に出会ったときは、まず私が解法を示します。それで再挑戦しても作成できなかった場合は、私がそのプログラムの作成を行うようにしています。とにかく、細かいことを気にせずに前に進めるようにさせています。プログラミングは数をこなすことで技術を身につけることが出来ますし、また、彼らに自身をつけさせるために細かいところでつまずかせないようにしています。
  • テスト
    テストケースは私が作成し、カウンターパートがテストを行うといった方法で進めました。

(3) 活動成果

  • 設計書
    システム設計を通して、数百ページにも及ぶシステム設計書が完成しました。(「資料2・学生情報管理システム概要設計書」を参照)
  • システムの第一段階が完成したこと
    学部内学生情報管理システムは、一通り完成することができました。

(4) 今後の課題

  • システムのカスタマイズ
    システムは一通り完成しましたが、まだ運用するには至っていません。
    実際の業務とシステムとの間でいくつかの不一致があることや、人事異動に伴う業務方針の変更のため、システムのカスタマイズが必要となるからです。
    このシステムのカスタマイズを今セメスタ中に終わらせ、次セメスタにシステムを導入する計画です。
  • 設計指導について
    設計の指導をひととおり行って気づいたことがあります。
    カウンターパートにとって、設計は難しい作業であるということです。
    なぜなら、この地域にはコンピュータシステムが少なく、接する機会も少ないため、想像しながらシステムを設計するのが困難であるからです。
    今回のシステム設計で、その設計書が配属先に残ることになりました。これが参考資料として今後活用されることを願っています。

3.5. コンピュータ学科の授業の見学と支援

今までの活動は、大学の業務を支援するという形で行い、大学教育に接する機会を持っていませんでした。
そこで今年度(6月)より、自分の活動の範囲を広げてみたいと考え、授業を見学することにしました。

(1) 活動内容

  • 授業の見学
    コンピュータ学科の授業を見学し、授業の進め方の把握に努めました。
    コンピュータ学科といえども机上での勉強が中心となっています。コンピュータを使った授業もありますが、それを上手に活用しているようには見えません。
    この理由は、コンピュータを使いこなせる教員が少ないからだと考えています。
    コンピュータ学科の教員であっても、実際にコンピュータを使いこなせる人はあまりいません。机上での勉強は得意であっても、実際にコンピュータを使った業務経験を持つ人は少ないです。そのため、どのようにコンピュータを使って授業を行えばよいのかがわからないのだと考えています。
    教員たちもなんとかしてコンピュータを使いこなそうと努力しているのは見受けられます。
    今後、コンピュータを上手に活用した授業を行う方法について、教員と一緒に考えていく必要があります。
  • 授業の支援
    プログラミングの授業で使うコンパイラとして、フリーソフトを導入しました。
    利用したソフトは、Borland C++とFree Pascalです。どちらもライセンスを購入することなく、無料で使用することができます。
    今までは、プログラミングの授業では体験版ソフトウェアなどを利用してきました。ライセンスを購入する予算が無かったためです。
    今回のフリーソフトの導入により、満足のいく授業ができるようになりました。

(2) 今後の課題

この活動を通して、学生と接する機会が増えました。
学生が言うには、もっと実践的な勉強をしたいとのことでした。
そこで、学生のためにコンピュータの特別授業を開催し、実践的な内容を指導することを計画しています。(「4.5. コンピュータ特別授業の開催」を参照)


3.6. WBT(Web Based Training)モニター参加

JICA本部から募集されたWBT(Web Based Training)の試行的実施のためのモニターに、配属先の教職員2人が参加しました。
この研修による成果がありましたので、報告いたします。

参加したのはカウンターパートとコンピュータ学科の先生の2人です。Database Fundamentals、E-Commerce、Linuxの3コースを受講しました。
参加理由は、カウンターパートらが講習に興味を持ったこと、受講費用の負担が無いこと、Linuxとデータベースを利用した学生情報管理システムの開発を当時計画していたためそれらの基礎知識の勉強として最適だったことです。

配属先にはインターネット接続環境がないため、受講に当たっては研修者が自宅で全てのコンテンツをダウンロードしてから研修を行うという方法で進めました。
受講を開始後は、スケジュール表を作って研修者に配布して、毎週進捗状況を確認しながら進めていきました。当初は研修内容が難しすぎるとの声を聞き不安でしたが、彼女らは自分の時間を見つけて少しずつ研修を進め、ついに全てのコースを修了することができました。

研修修了後の成果は次のとおりです。

  • カウンターパートがLinuxとデータベースの基礎知識を身につけたため、計画していた学生情報管理システム開発をスムーズに行うことが出来た。
  • 研修者は、授業においてWBTで学んだコンピュータの最新情報や実践的な技術を学生に紹介し、以前よりも制度の高い授業を行うようになった。

研修者は、今後もこのようなインターネットを利用した研修を受講することを希望しています。
今回のWBTは試行的実施ということでしたが、以上のような成果が確認できたことから、ぜひ本施行に踏み切って欲しいと考えています。


3.7. カウンターパートの地方自治体研修への推薦

カウンターパートを地方自治体研修へ推薦しました。
地域の情報システムの現状は次のとおりです。

  • この地域には、情報システムに関する豊富な知識と経験を持った人材がいません。このことが地域における情報システム化、ネットワーク化の遅れをもたらしています。
  • 大学では情報システムやコンピュータの基礎知識を教えていますが、机上での指導にとどまり、実践的な技術や経験に基づいた指導は行われていません。
  • 地域に情報システムが少ないことと、実践的な経験を持つ技術者が少ないことから、情報システムの設計、開発が困難になっています。

地方自治体研修の参加により期待できる効果は、次のとおりです。

  • 学生への実践的な技術、経験に基づいた知識の指導が行われること。
  • 現地人自身による情報システムの設計、開発、拡張が期待できること。
  • カウンターパートが地域の情報システム化のリーダーとなり、政府機関のネットワーク化、情報システム化の促進が期待できること。

3.8. 継続が困難である活動内容について

活動を続けていく中で、これ以上の活動は困難と考えられる内容がありますので報告いたします。

(1) コンピュータ教室の環境再整備

当初はコンピュータ教室の環境を再整備することを予定していました。
赴任時にコンピュータ教室を調べた結果、満足に動いているコンピュータは26台中11台だけであり、誰も管理をしていませんでした。その後、外注業者により20台のコンピュータが正常に動作するようになりました。
しかしながらその後もコンピュータが壊れることが相次ぎました。原因は停電の多発とUPSが導入されていないことだと考えられます。
コンピュータを直してもきりが無く、また、コンピュータ教室のサポートに携わるとそれだけで隊員活動が終わってしまうため、この活動からは手を引くことにしました。
現在、カウンターパートが空いている時間を見つけて数ヶ月に1度程度コンピュータのチェックを行っています。隊員はそのサポートを行う程度にとどめています。

(2) プリントサーバの構築

プリントサーバの構築を計画していました。
しかしながら、すでに各コンピュータでプリンタを共有しており、改めてプリントサーバを構築する必要性がないため、これをやめることにしました。

(3) DSLを利用したインターネット常時接続

DSL5*)を利用したインターネット常時接続を計画していましが、地理的制約によりこれを断念することにしました。
DSLは電話局より7km圏内でしか利用できず、配属先はその圏外にあります。実際に業者に来てもらい接続テストを行いましたが、満足な結果が得られませんでした。
そのため、DSLの導入をあきらめることにしました。
今後は、ダイヤルアップIP接続を利用したインターネット接続について検討しようと考えています。

5*) DSL(Digital Subscriber Line)=高速ディジタル伝送方式のこと。フィリピンでは日本と同様に既存の電話線を使うADSLが普及しています。

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4. 今後の活動計画

4.1. 学部内学生情報管理システムの導入と他学部への適用調査と移植

学部内学生情報管理システムは完成に近づいており、カスタマイズ、最終テスト、データ移行を経て導入する予定です。
導入後は様子を見て、他学部へのシステムの適用調査を行い、移植を検討します。
最終的には、全学部へのシステム導入を考えています。


4.2. LinuxによるWindowsドメインコントローラの構築

現在、各コンピュータは別々に管理されているため、運用と保守が困難になっています。また、LANの敷設に伴い、情報資源の簡単な管理が求められています。
Linuxを用いてWindowsドメインコントローラを構築し、ユーザ情報などを一元管理することを計画しています。


4.3. 他学部、他校舎のLAN構築

工学部内のLANはほぼ完成しています。
工学部のLANをモデルとして、他学部、他校舎のLAN構築と運用指導を行いたいと考えています。


4.4. 大学ホームページの構築支援と公開

大学ホームページ構築の支援を考えています。
前回の隊員総会時におけるWebコンテストや、今回のWebシステム開発により、大学ホームページ構築の機運が高まっています。
大学ホームページ構築の支援を行い、外部に公開したいと考えています。


4.5. コンピュータ特別授業の開催

コンピュータの特別授業を開催し、実践的な内容を指導することを計画しています。
今までの私の考えとしては、私が教員に技術指導し、教員が授業で学生に指導するというやりかたが良いと考えていました。もし、私が直接学生に指導したとしたら、私の帰国後に継続して指導できる人材がいなくなるからです。
今回計画している特別授業は、大学のカリキュラムと被らずに、実践的な技術を体験できるような内容を考えています。たとえば、実際にコンピュータを使ってサーバに接続してみたり、データベースの操作をさせてみたり、簡単なWebシステムを構築してみせるという感じです。(ちなみに、授業ではこういったことは行われていません。)
この特別授業を通して、机上の勉強だけではない実践的な内容に触れさせることが出来ればと考えています。


4.6. JICA-Netの利用

コンピュータ学科の修学旅行時に、JICA-Netを見学することを考えています。
配属先の教員も学生も、あまり情報システムに触れる機会がありません。JICA-Netを見学することで、情報システムを学ぶきっかけになればと考えています。


4.7. コンピュータ学科のカリキュラムレビュー

コンピュータ学科の先生たちとともに、カリキュラムのレビューを考えています。
方法は次のとおりです。

  • 学生にJITSE*6)の過去問題を解かせる。
  • その結果を分析し、現在のカリキュラムの問題点を把握する。
  • 問題点をもとに、カリキュラムを再編する。

6*) JITSE(Japanese IT Standards Examination)は、いわば日本の基礎情報処理技術者試験のフィリピン版です。合格すれば日本の同試験に合格したことと同じとみなされます。

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5. その他

赴任して1年が経過しました。
隊員活動も私生活も特に問題なく過ごしています。

配属先の人事異動が2度も行われ、その度に活動が危機的な状況に陥りました。しかし、自分の活動を信じることで何とかそれを乗り越え、現在に至っています。

配属先では、(日本の民間企業で働いていたときと比べて)特に忙しいわけでもなく、だからといって暇なわけでもありません。走り回ったりすることもあれば、停電などで何も出来なく一日中ぼーっとして過ごしていることもあります。

当初は、フィリピン人と一緒に何か「面白いこと」が出来ればいいかなと考えていました。しかし、「面白いこと」だけにとどまらず、自分の期待以上に効果が現れて活動が進んでいくので、正直驚いています。(もっとも、その自分の期待というものがかなり低かったのかもしれません。)
現地スタッフへの技術移転はほぼ終了し、現在は業務の調整を行うことをメインに、あくまで主役は現地スタッフという考えで活動を進めています。活動報告や今後の計画で述べた内容は、そのほとんどは私がやろうと言い出したことではなく、現地スタッフがやってみようといいだしたことです。私はただそれをとりまとめて手助けをしているだけにすぎません。
そのため、活動報告はどちらかというと私の業務報告ではなく、現地人の成果報告のようなものかもしれません。彼らの成果を報告できることが嬉しく感じられます。

最近の悩みと言えば、このような活動をしているからか、任地を離れるのが不安に感じられることです。
たまには羽を伸ばして国内旅行に行ったり、マニラへ遊びに出かけたりしたいのですが、業務の面倒を見られなくなるのが不安でなかなか出かけづらい。もっとも、配属先に行ったからといって活動が急に進むわけでもなく、任地を離れても誰かが困るわけでもないでしょう。(カウンターパートは途方にくれるかもしれませんが。)

赴任当初は、フィリピンと日本を比べて、フィリピンの悪いところが目に付き、日本はなんてすばらしい国なのだろうと感じていました。しかし、半年くらいたったあたりでちょっとした疑問を感じ、その後はフィリピンの良いところを見て、日本のおかしな点が目に付くようになりました。ひょっとしたら現在の日本の社会は間違っているのではないだろうか、今まで自分が当たり前と思っていたことは不自然で非人間的なのではないだろうかと考えるようにもなりました。

現在は隊員活動も私生活も何の問題もありません。しかし、今後は活動方針が変わるかもしれませんし自分の考え方も変わるかもしれません。
いずれにせよ、残り1年間を無事に過ごして帰国したいと思います。

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