石田泰尚 ヴァイオリン・リサイタル
  ←前  次→
2025年10月4日(土)14:00 新潟市秋葉区文化会館
ヴァイオリン:石田泰尚
ピアノ:中島 剛
 
J.Sバッハ=グノー:アヴェ・マリア
クライスラー:美しきロスマリン
クライスラー:愛の悲しみ
クライスラー:シンコペーション
クライスラー:テンポ・ディ・メヌエット
スメタナ:わが故郷より〜モデラート、アンダンティーノ「ボヘミアの幻想」
マスネ:タイスの瞑想曲
ファリャ(コハンスキー編):火祭りの踊り
ファリャ(クライスラー編):スペイン舞曲 第1番(歌劇「はかなき人生」より)

(休憩15分)

ピアソラ:アヴェ・マリア
ピアソラ:レビラード
ピアソラ:天使のミロンガ
ピアソラ:フラカナーパ
ピアソラ:タンゴの歴史より〜売春宿1900、ナイトクラブ1960
ピアソラ:ル・グラン・タンゴ

(アンコール)
ヘンリー・マンシーニ:ひまわり
Z.アヴレウ:ティコ・ティコ
チック・コリア:スペイン
ピアソラ:リベル・タンゴ
 

 10月に入りいよいよ秋も深まってきました。今月最初のコンサートは、秋葉区文化会館での石田泰尚ヴァイオリン・リサイタルです。
 現在の日本で、最も個性的で、絶大な人気を誇り、チケットの入手困難なヴァイオリン奏者といえば、石田泰尚さんということで異論はないでしょう。
 神奈川フィルのソロ・コンサートマスターや京都市交響楽団の特別客演コンサートマスターのほか、ソロ活動や石田組を始めとする様々な音楽ユニットでの活動など、多彩な音楽活動をされておられます。超硬派ヴァイオリニストとして唯一無比の個性を発揮し、全国を股にかけての活躍は目を見張るものがあります。
 9月は石田組や他の音楽ユニットとの演奏会を全国で10公演行った後に、京都市交響楽団(指揮:沖澤のどか)との「シェエラザード」を京都市のほかに全国を巡演して7公演行っています。そして10月に入っても、1日は大阪での演奏会、3日は仙台で石田組の公演、今日は秋葉区、明日は金沢で石田組、6日は横浜で弦楽四重奏と、休みなく演奏会が続きます。ここまで多忙な演奏家はなかなかいないのではないでしょうか。移動距離も考えますと、驚異的としか言いようがありません。

 さて、石田さんは新潟にも度々来演しておられ、本年も6月にYAMATO SQ として来られたばかりです。私個人としましても、独奏者として、石田組組長として、YAMATO SQ東京グランドソロイスツ三浦一馬キンテートのメンバーとして、そして神奈川フィルのコンサートマスターとしてなど、何度も演奏を聴かせていただく機会があり、容姿・振る舞いに反しての正統的な演奏に、大きな感動をいただいています。
 今回は収容客数が496席という秋葉区文化会館が会場ということもあって、チケットは即日完売となりました。私はネット発売開始直後に何とか購入することができました。

 今週末はたくさんの催しがあり、今日も他に行きたいコンサートがあったのですが、他の予定が分かる前にこのコンサートのチケットを買っていました。
 与えられたルーチンワークを終えて、ゆっくりと某所で昼食を摂り、ときおり小雨がぱらつく中に秋葉区文化会館へと車を進めました。いつもはバイパスを使用しないショートカットの道で行くのですが、途中に立ち寄る場所があり、今回は新潟バイパス〜亀田バイパス〜新津バイパスと車を進めました。
 案の定バイパスは混雑があって少し時間がかかりましたが、開場15分前に秋葉区文化会館に到着しました。いつものことながら、ここの駐車場はとめにくいですね。デザイン優先の円形の建物を含め、使い勝手が良くない思うのは私だけでしょうか。
 館内に入りますと、チケット完売だけあって、開場を待つ人たちで混雑していました。予想通りではありますが、圧倒的に女性方が多いですね。

 ほどなくして開場となり、私も入場して席に着きました。ステージ中央にはスタインウェイ、その前に譜面台が設置されていました。
 席はどんどんと埋まり、満席のホールは気分が盛り上がりますね。石田さんの追っかけと思われる人も多くおられ、石田組のTシャツを着た方もおられました。
 今日のプログラムは、前半がクラシック名曲集、後半がピアソラの名曲集となっています。大いに楽しませていただきましょう。

 開演時間となり、背中に絵が入った組長の衣装の石田さんが、絵はないものの同じような衣裳のピアノの中島さんを引き連れて登場しました。まさに組長と組員という雰囲気です。遅れて譜めくりが登場しましたが、どこかでお見かけしたような・・。

 登場してすぐに、挨拶もなく演奏が始まりましたが、最初は容姿にそぐわないバッハ=グノーの「アヴェ・マリア」です。豊潤なヴァイオリンがホールに美しく響き、しっとりと優しく繊細な調べに、うっとりと聴き入りました。

 拍手に応えることもなく、チューニングして切れ目なくクライスラーの「美しきロスマリン」の演奏が始まりました。軽やかに明るく演奏し、続けて「愛の悲しみ」を、あまり悲しげではなく、明るくロマンチックに演奏しました。間をおかず、続けて「シンコペーション」を明るく跳ねるように、軽やかに演奏しました。

 チューニングして、すぐに「テンポ・ディ・メヌエット」の演奏が始まりましたが、これも明るく軽快な演奏で、大きく盛り上げて大きな拍手が沸き起こりましたが、意に介しておられないような素振りで、これが石田流です。

 チューニングして、スメタナの「わが故郷」より「モデラート」が演奏されました。甘いメロディを少し速めに歌わせ、感傷に浸る間も与えませんでした。少し激しく感情を高ぶらせて熱く歌い、穏やかに終わりました。
 続けて「アンダンティーノ ボヘミアの幻想」が演奏されました。落ち着きの中に熱い思いを秘めて、嘆くような高ぶりを見せ、ピチカートとともにしっとりと歌いました。再び感情を高ぶらせて速足で駆け抜け、大きく歌わせてスピードアップしてフィナーレへと駆け上がり、ブラボーとともに大きな拍手が贈られました。

 拍手に応えることもなく、一転してマスネの「タイスの瞑想曲」を、しっとりと切なく演奏し、しみじみとした感動をもたらし、艶やかなヴァイオリンの調べにうっとりしました。

 チューニングして、すぐにファリャの「火祭りの踊り」です。情熱的なピアノとともに、激しく、熱く、燃えるような力強いヴァイオリンは迫力に溢れ、オーケストラを聴くかのようでした。朗々と歌わせ、軽快に疾走してフィナーレとなりました。

 チューニングして、「スペイン舞曲 第1番」です。スピーディな演奏で激しく燃え上がり、そのパワーに圧倒され、大きな興奮をもたらして演奏が終わりましたが、拍手に応えることもなく、さっと振り返って素早く退場し、そのまま休憩になりました。

 これらの所作を含めて、全てが石田組長流であり、魅力にもなっています。このような所作・振る舞いとは裏腹に、演奏はしっかりとしたものでした。
 抜群の演奏技術をバックにして、全体的に速めで、パワフルな演奏でした。ムード音楽的に甘く歌わせることはなく、筋の通った演奏であり、まさに超硬派ヴァイオリニストを感じさせました。

 休憩後の後半はオール・ピアソラです。前半と同様に石田さんが中島さんを引き連れて登場し、遅れて譜めくりが席に着きました。
 
 チューニングの後、1曲目は「アヴェ・マリア」です。しっとりとしたピアノとともに、ゆったりとメランコリックにメロディを奏でました。切なく胸に染み入る音楽とともに、艶やかに美しく響くヴァイオリンの音に酔いしれました。
 続けて「レピラード」が演奏されました。長いピアノの序奏の後に、少しけだるさも感じさせるヴァイオリンが熱く歌いました。
 続けて「天使のミロンガ」が演奏されました。最初はピアノが前面に出て熱く歌い、ヴァイオリンが引き継いで、しっとりと切なくメロディを歌わせました。哀愁に満ちた音楽は、夜のブエノスアイレスの場末の情景が思い浮かぶようでした。もちろん行ったことなどありませんが。

 チューニングして、すぐに「フラカナーパ」です。前の曲から一転して、軽快なタンゴのリズムとともに、激しくヴァイオリンがかき鳴らされました。

 チューニングして、「タンゴの歴史」から「売春宿1900」が演奏されましたが、軽快にスピーディに、明るさとともに走りぬけ、次第にヒートアップしました。ピアノを叩いたりもあり、緩急の後にスピードアップして、盛り上がりの中に終わりました。
 続けて「ナイトクラブ1960」が演奏されました。速いリズムで情熱的に演奏し、緩急を繰り返して、緩徐部では甘く切なく歌い、そして激しく感情を高ぶらせて終わりました。

 チューニングして、切れ目なく「ル・グラン・タンゴ」が演奏されました。激しい導入部に始まり、緩急を繰り返しながら熱量を上げ、一瞬の静けさから大きくゆったりと歌わせ、繰り返す感情のさざ波の後に、次第に感情を高ぶらせて熱量を上げ、激しいピアノとともに、興奮の高みへと登りつめて、予定されたプログラムは終演となりました。

 ブラボーが沸き起こる中に、振り向くこともなく退場しました。拍手に応えて再登場し、中島さんはタブレットをピアノの譜面台に設置して、アンコールとなりました。
 まずヘンリー・マンシーニの名曲「ひまわり」をしっとりと演奏し、先ほどの熱狂の興奮を鎮めて、しみじみとした感動をホールにもたらしました。
 拍手に応えて、もう1曲「ティコ・ティコ」を軽やかに演奏して明るく盛り上げて高揚感を誘ってステージを去りました。

 これで終わりかと思いましたが、再び登場し、ポケットからマイクを取り出して、ホールは大喝采となりました。ここで初めて石田さんのお話があり、新潟には何度も来ているけれど、このホールは始めてであること、響きが良いことなどを話されました。前半も後半もたくさんの曲を演奏し、二人ともヘロヘロなんだけど、もう少し演奏すると話され、大きな拍手と歓声が贈られました。
 「スペイン」が演奏されましたが、静かなアランフェス協奏曲のメロディに始まり、ノリノリの音楽に切り替わり、盛り上がりの中に演奏が終わって退場しました。

 拍手は鳴りやまず、再び登場して、もう1曲ということで「リベル・タンゴ」を熱く演奏して、興奮と感動の演奏会は観客総立ちのスタンディングオベーションの中に終演となりました。

 組長としての風貌とは裏腹の、卓越した演奏技術に支えられた音楽性豊かな演奏はさすがであり、ヴァイオリンも音量豊かに艶やかに響き渡り、音色の美しさにも感動しました。秋葉区文化会館というほど良い大きさの濃密な空間で、大ホールでは味わえない豊潤なサウンドを堪能することができました。
 ヴァイオリンリサイタルで、これほどの興奮をもたらしてくれるなんて、さすが石田さんです。昨日の仙台に引き続いて、明日は金沢で石田組です。これから休む間もなく移動されるものと思いますが、過酷なスケジュールには恐れ入ります。

 期待以上の盛り上がりとなり、気分も爽やかにホールを後にしました。演奏中に雨が降ったらしく、車は雨に濡れていました。某所に立ち寄って休息し、バイパスを通らないショートカットの道で快適に帰宅しました。

 追記:石田さんは、来年3月6日(火)に、ホテルイタリア軒で、国際ソロプチミスト新潟認証50周年記念のチャリティ・コンサートディナーに出演されます。ディナー付きで2万円だそうです。これも賑わうことでしょう。
 

(客席:1階13-17、¥6000)