オーケストラ・アンサンブル金沢 能登半島地震 復興応援コンサート
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2024年11月1日(金)17:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:碇山隆一郎
バンドネオン:小松亮太
コンサートマスター:アビゲイル・ヤング
 
池辺晋一郎:祈り、そして光 −能登半島地震犠牲者の鎮魂として
小松亮太:風の詩〜THE 世界遺産
ゲーゼ/ピアソラ:ジェラシー
ガルデル/小松亮太:ポル・ウナ・カベザ
小松亮太:夢幻鉄道
ピアソラ:リベルタンゴ
ピアソラ:オブリビオン
ピアソラ/小松亮太:アディオス・ノニーノ

(休憩20分)

モーツァルト:交響曲第41番 ハ長調「ジュピター」

(アンコール)
ふるさと
 
 
 オーケストラアンサンブル金沢(OEK)は、能登半島地震に被災された皆さんを応援するために、9月から来年3月まで「復興応援コンサート」を開催中です。全部で22公演が開催されますが、そのうち新潟公演は8公演目に当たります。
 公演によって指揮者や共演者が異なりますが、新潟公演の指揮者は、新潟市ジュニアオーケストラ教室B合奏の指揮者でおなじみの碇山隆一郎さんで、共演はバンドネオン奏者の小松亮太さんです。
 10月29日の敦賀公演も同じメンバーで同じプログラムでしたので、新潟公演は2公演目に当たります。11月3日に開催される妙高公演も同じプログラムです。そのほか、新潟県内としましては、11月26日に長岡公演が開催されますが、今回とはまったく別のプログラムになります。

 さて、私がOEKを聴くのは、2000年3月の新潟定期公演(指揮:岩城宏之)が最初でした。定期公演と銘打っていましたが、その後の新潟での演奏会の開催は不定期で、開催も少なかったのが残念でした。
 その後は2002年11月のブーニンと共演した演奏会(指揮:ビヒラー)、2004年9月の新潟定期公演(指揮:岩城宏之)、2012年7月の妙高公演(指揮:ハーディング)、2014年4月のLFJ新潟での三ツ橋敬子さんとの公演と金聖響さんとの公演を聴いたくらいで、それ以来10年以上も聴く機会がありませんでした。
 今回は能登半島地震復興応援コンサートということで、是非とも聴かせていただこうと思い、早々にチケットを買っていました。
 この地震では、新潟市内でも液状化現象で大きな被害を受け、まだ復旧が進まない現状がありますが、それも含めて応援させていただこうと思います。

 指揮者の碇山隆一郎さんは、新潟市ジュニアオーケストラ教室B合奏でおなじみですが、2023年3月のスプリングコンサートから指揮者として指導してくれています。直近では、今年8月の定期演奏会で、新潟の子供たちから、素晴らしい演奏を引き出して下さいました。

 また、共演するバンドネオン奏者の小松亮太さんの演奏を聴くのは、2010年3月の東京交響楽団第58回新潟定期演奏会(指揮:秋山和慶)、同年5月の「live imege 10」以来、14年ぶりになります。

 後半のメインプログラムはモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」です。この曲は今年の6月に新潟A・フィルハーモニックによる演奏を聴いたばかりですが、OEKによる演奏を聴くのは、2002年11月の演奏会以来、22年ぶりになります。


 金曜日とは言え、平日のコンサートは厳しく、今年も何回かチケットを無駄にしていましたが、今回は予定通りに参加することができました。
 早めに職場を出て、安全運転の範囲で車をとばし、無事にりゅーとぴあ入りできました。既に開場が進んでおり、自由席でしたので急ぎ足で入場しました。
 客席は、1階席と2階席正面だけが使用されていて、2階席は既に大方埋まっていましたが、左端に空きがあり、そこに席を取りました。
 ステージには、左手にピアノが設置されていたほか、バンドネオン用のPA装置が用意され、演奏場所のほか、ステージの左右にスピーカーが配され、1階席後方に調性卓が設置されていました。

 開演時間となり、OEK関係者による場内アナウンスがあり、コンサートの趣旨などの説明がありました。その後拍手の中に団員が入場しました。全員揃うまで起立して待ち、コンミスが最後に登場して、全員で礼をしてチューニングとなりました。
 小型の室内オケですので、弦5部は、私の目視で 8-6-4-4-2 とこじんまりとしています。左から第1ヴァイオリン8、ヴィオラ4、チェロ4、第2ヴァイオリン6、右後方にコントラバス2 と並び、ヴァイオリンは左右に分かれた対向配置です。指揮台はありませんでした。
 
 碇山さんが登場して、1曲目は、池辺晋一郎の「祈り、そして光」です。能登半島地震犠牲者も鎮魂のために作曲された曲で、鈴の音ともにゆったりと始まりました。心を打つ美しい曲であり、悲しみに沈む心を癒してくれるようでした。
 オーボエをはじめ、管楽器の美しさが際立っており、弦楽も小編成とは思えないふくよかな美しいアンサンブルで魅了しました。能登の里山といいますか、日本の原風景を思い起こさせ、郷愁を誘い、鈴の音とともに、静かに曲は終わりました。

 碇山さんがマイクを取り、挨拶とOEKの紹介がありました。そして前半の共演者の小松亮太さんが登場して、以後小松さんとの演奏が進められました。

 まずは、小松さんのオリジナル曲の「風の詩」が演奏されました。聴きなじみのある美しい曲でしたが、日曜日の18時から放送されている「THE 世界遺産」の以前のテーマ曲で、2010年〜15年まで使用されていた曲だそうです。
 小松さんは、右足を台に乗せて浮かせて、右膝の上でバンドネオンを演奏していました。PAが使用されて、ステージの左右のスピーカーからバンドネオンの音が、広がりをもって美しく聴こえました。

 続いて小松さんによる曲目紹介があり、ピアソラ編曲による「ジェラシー」と小松さん編曲による「ポル・ウナ・カベサ」が続けて演奏されました。
 「ジェラシー」は、ピアノも加わって、美しいオーケストラにのせてバンドネオンが歌い、タンゴのリズムが気持ちよく響き、コンミスのヤングさんのソロも良かったです。
 「ポル・ウナ・カベサ」も、ヤングさんのソロの美しさが際立ち、ピアノと美しい弦楽アンサンブルとともに奏でられるバンドネオンが心に滲みました。
 PAの使用により加工された音ではありましたが、甘く美しいサウンドと、しっとりと美しいメロディが心に優しく響きました。

 再び小松さんの曲目紹介があり、小松さん作曲による「夢幻鉄道」とピアソラの「リベルタンゴ」が続けて演奏されました。
 「夢幻鉄道」は、電車好きの小松さんの子供さんにちなんで作った曲だそうですが、しっとりとしたバンドネオンと弦楽アンサンブルの美しい響きに始まり、機関車のように走り出して軽快にリズムを刻み、列車が駆け抜けていくようでした。
 お馴染みの「リベルタンゴ」は、弦楽アンサンブルとピアノとともにバンドネオンが情熱的に歌いました。コントラバスが刻むリズムにのせて、弦楽が美しくメロディを歌い、バンドネオンが上乗しました。激しさもほどほどに、ノーブルさを保った演奏でした。

 小松さんの曲目紹介があり、続いては「オブリビオン」です。この曲はマルチェロ・マストロヤンニ主演の映画のテーマ曲だそうですが、映画は駄作で、曲だけが残ったそうです。
 コントラバスが刻むリズムにのせて、美しい弦楽アンサンブルとともに、バンドネオンが、甘く、切なくむせび泣き、しっとりと胸に迫りました。PAの影響で、オケのサウンドも異質に聴こえましたが、これはこれで美しかったです。

 小松さんのお話があり、話の間に管楽器・打楽器が入場し、オケはフル編成となりました。そして前半最後に、プログラムにはありませんでしたが、ピアソラの名曲「アディオス・ノニーノ」が演奏されました。
 小松さんの編曲でしたが、オケのゴージャスなサウンドがこれまでとは異質に響き、癖のあるアレンジとともに、有名なこの曲を新たな味付けで楽しませてくれました。
 ピアノとともに奏でられたチェロの独奏も美しく、次第に熱量を上げていく豊潤なオーケストラサウンドとともに、大きな盛り上がりの中に演奏を終え、大きな感動をもたらしてくれました。

 休憩時間中に、ピアノとバンドネオン用のPA装置が片付けられて、広いステージの中央に小型のオケが固まって配置され、さっぱりした印象になりました。後半はモーツァルトの「ジュピター」です。
 団員が入場してチューニング。碇山さんが登場して演奏開始です。小編成とは思えないふくよかなオーケストラサウンドがホールを満たしました。使用されない客席が多かったせいか、ホールの響きもいつもより豊潤に感じました。ゆったりとして、風格を感じさせる演奏で、OEKのアンサンブルの美しさに魅了されました。
 第2楽章、第3楽章ともゆったりと歌わせて、堂々とした安定感のある演奏でした。そして第4楽章は、ギアチェンジして、歯切れよく、スピーディに突き進み、生き生きとした躍動的な音楽に。胸が高鳴り、高揚感を感じました。
 変にいじることのない直球勝負の実直な演奏でしたが、OEKの素晴らしさを感じさせる聴き応えある演奏だったと思います。

 カーテンコールののち、碇山さんの挨拶があり、アンコールに「ふるさと」が演奏されました。客席も歌ってほしいと、碇山さんは客席を向いて指揮をし、それに応えて、客席から美しい歌声がホールに響き渡り、合唱団を密かに仕込んであるのではないかと感じるほどでした。最後にオケのメンバー全員が礼をして、感動の演奏会は終演となりました。

 帰り際には、碇山さんをはじめ、関係者が募金箱を持って客を見送り、私も些少ながら募金させていただいて退館しました。
 前半の小松さんとの共演も、後半の「ジュピター」とも素晴らしく、安価な料金で聴かせていただいてありがたかったです。
 入場料収入で遠征費用がまかなえるのかという素朴な疑問はありましたが、素晴らしい演奏に感謝したいと思います。
 

(客席:2階C6-3、全席自由:\3000)