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ライフスライスカメラについて

尾道帆布展の写真

ライフスライス研究所(所長:ユビキタスマン・カワイ)の尾道通信員として、この実験的な試みに参加している。

ライフスライスについては関連サイトに詳しいが、要するに一定の時間間隔でシャッターが切れるデジタルカメラを、首に掛けたり、胸ポケットに挿したりして、自動的に撮影させる。ただそれだけのことである。

しかし試してみると、これが意外に面白い。そう思うのは私だけではないようで、メーリングリストには七十名を超える人々が参加している。また研究所は同好の士による仮想的なものとはいえ、中核となるメンバーが十数名いる。これらの研究員によって、専用の画像表示ソフトなどが開発され、実際に研究所のように機能している

ごく単純な仕掛けなのであるが、考えてみると、数年前では実現できない「遊び」であった。デジタルカメラは小型軽量化された。にもかかわらず、撮影可能な枚数は大幅に増加している。玩具の感覚で買える値段にまで下がっているが、画素数は実用のレベルにある。

いま使っているカメラの場合、百枚まで撮影可能なので、時間を五分に設定しておくと、日中の生活を五分おきに切り取ることができる。文字どおり、「ライフ」を「スライス」することができる。

撮影のとき、とうぜん対象をねらってシャッターを押してはいない。無意識のうちに撮影している。しかしカメラは身体の正面に装着しているので、無意識とはいっても、付けている人の意識や行動が何らかの形で撮影した画像には反映されている。

ほとんどの画像は普通の写真として使えないが、思わずはっとする画像に出会ったりする。ねらって撮したのではと思わせるほど、構図が決まっていたりする。ただ意識と無意識の間で撮影しているためか、シャッターを押して撮した写真とは雰囲気がかなり異なる。

言葉だけでは分かりづらいので、尾道帆布展に出かけたときのライフスライスを例に説明してみる。若手のアーティストが商店街の空き店舗を会場に、帆布を素材としてインスタレーションを繰り広げるというイベントを切り取ったものである。

  1. 私は自転車に乗って一番目の会場に向かっている。ベンチに女性が二人腰掛けている。旅行者なのかもしれない、とこの時は思っている。

  2. 会場に入っている。奥でうす緑色にみえるのは、坪庭の植栽である。私は坪庭に関心があるので、かなり長い間みている。

  3. 二人は、アーティストとその友人のようだ。写っているのはアーティストだが、画像がぶれているので、私はなかをしきりに見回しているのだろう。カメラの装着位置から推測すると、身長は155 cmぐらいか。

  4. 友人と思われる女性の右顔を、きれいにとらえている。この時、私は静止し、この女性に正対している。写ってはいないが、アーティストは私のすぐ右側にいる。つまり友人はアーティストのほうを向き、この友人を基点に三人の間に二等辺三角形が作られている。会話を交わしながら、三者が微妙な間合いをとろうとしている様子が伺える。

  5. 時間は二分に設定していたので、この会場に十分はいたことになる。他の会場と比べるとかなり長い。意識はしていなかったが、若い美形の女性が二人いたことと大いに関係しているのかもしれない。遠くに坪庭の緑が写っている。会場を出る前にもう一度みている。

最初はここまでのめり込むとは思っていなかった。実験に参加してから明らかにデジタルカメラの撮影方法が変わった。いままでは銀塩写真の影響を引きずっていたので、ねらい澄まして撮影していた。一球入魂のようなことであったのだが、いまは何かに気付いたら、それが何であれシャッターを押すようになった。

百枚近くの画像をしょっちゅうパソコンでみていると、目の前の風景に対する見方も変わってくるようだ。連続した動画像ではなく、ひとつひとつ切り取った画像としてみてしまう癖がついたような気がする。すべてライフスライス的に解釈しているのかもしれない。取りためている写真もそのような感じになっている。

経験のないことだったので過剰に反応してしまっているのだろうが、新しい視点を獲得して得をしたような気分でいる。実験に参加している人の感想もおおむね好評である。老人力という言葉に惹かれてしまう年代になっているので、欲深く記憶力の補完や喚起につながるものかとも期待したが、残念ながら、そこまでの効能はないようだ。

関連サイト:http://www.lifeslice.net/

(金森國臣 2002年8月14日)

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