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金森国臣のメディア掲載履歴

尾道と囲碁と人工知能

地元日刊紙の山陽日日新聞から依頼があり、「尾道囲碁人工知能」と題した小文を寄稿しました。

世界最強と目されている韓国のイ・セドル棋士と人工知能ソフトのアルファ碁の対戦に合わせて執筆したものです。記録のため、掲載します。

(2016年3月 金森国臣)

地元日刊紙の山陽日日新聞(2016年3月7日)に「尾道と囲碁と人工知能」と題したエッセイを寄稿しました。金森国臣

尾道と囲碁と人工知能

金森國臣

インターネットでグーグルの検索機能を利用されている方は多いと思います。この検索画面には、バナーが表示されており、ときどき暗喩的な役割を果たしています。

ご記憶の方があると思いますが、一昨年の本因坊秀策の誕生日に、秀策が碁を打っている姿が掲載されました。囲碁の世界では有名ですが、世界的にはローカルな存在をなぜ取り上げたのか不思議に思いましたが、しばらくして、グーグルが囲碁ソフトの開発に着手した宣言であろうと理解しました。

当時は、プロに勝てる囲碁ソフトの開発には十年かかるだろうと言われていましたので、その後は気にとめていませんでした。ところが、昨年、欧州チャンピオンに五戦五勝したとの論文がグーグルから発表され、世界を驚かせました。

詳細は理解していませんが、深層学習という人工知能技術を活用した結果のようです。プロの打ち手を三千万件読み込ませ、さらにバージョンが異なるソフト同士を数百万回戦わせ、その結果も適用しているそうです。もちろん企業秘密があり、何らかの別のアルゴリズムも組み込み、一説には一千個のプログラムが同時並行で走っているとのことです。

では、この結果がどのような影響を囲碁の世界にもたらすのでしょうか。これには先例としてチェスがあります。チェスでは、人間がコンピュータに勝つことはもはやありませんが、興味深い変化が起こっています。チェスの人気は、下火になるどころか、逆に愛好者は増えています。ソフトで楽しむ人が多くなったためだと言われています。チェス大会の賞金総額は下がったものの、教え方が上手なプロの収入は増えているそうです。

囲碁でも同様の状況になる可能性があります。尾道としては、これをチャンスと捉えることができます。なんと言っても秀策誕生の地であり、本因坊秀策囲碁記念館があることも強みです。今年の七月には中国の囲碁代表団が因島を訪れるとのニュースもあります。記念館の展示のリニューアルや隣接する切風切神社、お墓のある地蔵院などと一体化した整備を進めることで、観光資源としての価値も高まりそうです。

囲碁を市技に定めていることも、今日においては、先人の深い知恵であると思わざるを得ません。これからは、コンピュータが出題し、解答可能な脊髄反射的な教育手法は意味をなさなくなります。囲碁の学習は、それを補完する可能性を秘めています。尾道市立大学では囲碁講座を単位として認めるとのことですが、尾道では、これをさらに一歩進め、囲碁の技量が高い児童生徒には、高い評価を与えるなどの施策があってもよかろうと思います。

たびたび来尾され、尾道との縁が深い脳科学者の茂木健一郎先生は、囲碁が強いことでも知られています(ちなみに、囲碁ソフトで腕を磨かれているとのこと)。これは一例ですが、各界の指導者には囲碁をたしなむ人が多く、この点でも、技量を高めれば、人脈を拡げるツールとして使えます。無論のこと、世界中の囲碁ファンとのコミュニケーション・ツールとしても有効です。グローバル時代を生き抜くための一助になるかも知れません。

尾道振興のとりあえずのアイデアとしては、囲碁ソフトに関わる何らかの企画をグーグルに提案することが考えられます。尾道では、すでにキャット・ストリート・ビューの成功があるので、企画が通る可能性は高いと言えます。

さて、三月九日から、現在世界最強と目されている韓国のイ・セドル棋士とグーグルの人工知能の対戦が始まります。まったくの門外漢ですが、期待も込めて三勝二敗で人間が勝つと予想しておきます。最初はイ・セドル棋士が圧倒しますが、次第に人工知能が学習し、最後は体力的に限界が来るだろうとの読みです。それとも、今年の秀策の誕生日には、グーグルが勝利宣言のバナーを掲載することになるのでしょうか。

(山陽日日新聞より転載)

新訂・最新軍事用語集 英和対訳』(2019年1月刊)を出版しています。出版社は日外アソシエーツ、総発売元は紀伊國屋書店です。


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