「花いっぱい音楽祭」は、2004年の中越地震からの復興を祈念して2005年に始まりましたが、20年目の節目の今年が最後の開催だそうです。
この最後の演奏会の前日に、これからの未来を担っていく、長岡の若き演奏家によるプレコンサートが開催されました。
全日本学生音楽コンクール優勝記念コンサートという副題があり、昨年の第78回全日本学生音楽コンクールのヴァイオリン部門高校の部で優勝した長岡高校理数科2年生の後藤苺瑚さんが出演されます。共演するピアニストは長岡出身の大瀧拓哉さんということで、これは聴くしかあるまいということで、長岡遠征することにしました。
後藤さんの演奏を初めて聴いたのは、2019年11月の「第54回新潟県音楽コンクール受賞者コンサート」でした。このときは県知事賞を受賞しての出演でしたが、当時は何と小学校5年ということで驚きました。(なお、第57回新潟県音楽コンクールでは大賞を受賞されています。)
その後、2021年6月の「音コン・チアフルコンサート」に出演されときに、演奏を聴かせていただきましたが、そのときは中学校1年生でした。
あれから4年が経ちましたが、まだ高校2年生という若さです。こんな逸材が長岡に、いや新潟県にいるというのは誇るべきことであり、さらに成長した姿を、この目で、この耳で、確かめさせていただきたいと思います。
一方、共演する大瀧拓哉さんは、いろいろな機会に何度も演奏を聴いていますので、改めての紹介はしませんが、今年1月のリサイタル以来ですので、4か月ぶりです。
与えられたルーチンワークを早目に終えて家を出て、どんよりとした天候の中、いつものように国道116号線を南下して大河津分水の橋を渡ってすぐに左折し、信濃川沿いに与板市街に入りました。
今日は、そのまま長岡市街へは直行せず、三島の某所に寄り道をして昼食を摂り、ひと休みして、リリックホール入りしました。
受付でチケットを買いましたが、アンサンブルオビリーでお馴染みの片野さんが雑用をされていました。お疲れ様です。
開場まで時間がありましたので、ラウンジで休憩し、開場とともに入場しました。中段に席を取り、この原稿を書きながら開演を待ちましたが、客の入りとしましては、まずまずでしょうか。
開演時間となり、水色のドレスの後藤さんと大瀧さんが登場。チューニングの後、演奏開始です。1曲目は、パガニーニのカンタービレです。
やわらかなピアノとともに、ヴァイオリンがゆったりと、しっとりと美しいメロディを奏で、優しい気持ちにさせられました。
ヴァイオリンは、サントリー芸術財団から貸与された1740年製のANGELO TOPPANIとのことですが、ちょっと渋めの音色で、ふくよかに音量豊かに響きました。
抑えたピアとともに、朗々と歌わせて、聴衆の心を鷲掴みにして、演奏に引き込まれました。演奏技術だけでない音楽性の素晴らしさに感嘆しました。
一旦退場して再登場し、後藤さんによる曲目紹介と挨拶があって、大瀧さんから次のフランクのヴァイオリン・ソナタについての詳しい解説がありました。
ヴァイオリン・ソナタというものの、正式にはヴァイオリンとピアノのためのソナタで、ヴァイオリンとピアノが同等に演奏すること、イザイの結婚式に演奏するために作られた曲であることなど、興味深く拝聴しました。チューニングの後、第1楽章、第2楽章、第4楽章が演奏されました。
第1楽章は、やわらかなピアノに始まり、ヴァイオリンが甘く歌いました。そして、ピアノが熱く歌い、ヴァイオリンが寄り添い、朗々と歌いました。落ち着きがあり、風格すら漂う演奏に、一気に引き込まれました。
第2楽章は、不安げなピアノに始まり、ヴァイオリンが力強く響きました。ピアノとヴァイオリンがせめぎ合い、緊迫感を生みました。中間部では、しっとりと寄り添い、そして激しく、ともに燃えて、熱量を高めました。緊張感とともに高揚し、束の間の穏やかさの中からスピードアップ、エネルギーアップして、フィナーレとなり、演奏に圧倒されて、客席から拍手が沸き起こりました。
第4楽章は、柔らかに明るくメロディを奏で、少し速めに駆け足しました。ピアノとヴァイオリンが絡み合い、ときに激しさも感じさせながら、どんどんと熱さを増していきました。そして、再び穏やかに歌い、どんどんと高揚し、熱いフィナーレへと駆け上がりました。
素晴らしい演奏に、ホールは感動に包まれ、二人の熱い演奏を讃えて、大きな拍手が贈られました。大瀧さんは押さえ気味だったと思いますが、後藤さんの演奏を見事に支えてくれました。
休憩後の後半は、後藤さんだけが登場して、後半最初に演奏する「夏の名残のバラ」による変奏曲についての詳しい解説がありました。
歌曲である「夏の名残のバラ」についての説明があり、これをもとにエルンストがヴァイオリン独奏用に作曲し、超絶技巧が駆使されている点では、数あるヴァイオリン曲の中でもトップレベルであるとのことでした。左手ピッチカートや、フラジオレットという超絶技巧についての詳しい説明があり、興味深く聞きました。
落ちついた話し振りは理知的で、まさに芸術家であり、とても高校2年生とはと思えず、トークの面でも後藤さんの凄さが実感されました。
チューニングの後に演奏が始まりましたが、チューニングの音からして、前半より良く響いていて、演奏への期待が高まりました。
いきなりの左手ピチカートに始まり、超絶技巧が駆使されたこの曲の凄さがまざまざと示されましたが、お馴染みのメロディが始まりますと、そんな超絶技巧のことなど感じさせずに、美しい音楽世界へと誘われました。
変奏曲ですので、メロディはどんどんと形を変えて繰り返され、その技巧と音楽性の素晴らしさに圧倒されました。左手ピチカートでメロディを奏でたり、フラジオレットでの高音の繊細な響きに感銘したり、演奏の凄さに息を呑みました。
こんな超絶技巧の曲を、いとも簡単そうに弾く姿は、高校生ではなく、大人の音楽家であり、巨匠然としていました。何か、ものすごい、とんでもない演奏を聴いてしまったという驚きと感動で、胸が高鳴る中に演奏が終わり、客席からため息も聞かれるほどで、大きな拍手が贈られました。
二人が登場し、最後はグラズノフのヴァイオリン協奏曲です。演奏前に後藤さんから曲の解説があったほか、挨拶があり、客席におられた4歳のときから師事している奥村和雄先生を紹介しました。
音楽家を目指すなら、高校から東京に出て音楽関係の学校に進むのが普通ですが、高校の間は音楽以外のことを勉強したいと考えて、長岡市内の普通の高校に進学し、勉強しながらコンクールにも出場し、奥村先生には苦労かけていることなどを話し、感謝の言葉を述べておられました。
その落ち着いた話し振りは、ただの高校生ではなく、音楽以外の学業でも、人間的にも大変優秀であることが伝わってきました。県内有数の進学校の理数科に通われており、しっかりと自分の目標を持ち、自分の道を歩まれている姿に感動しました。たいしたものですね。
入念なチューニングが行われ、単一楽章からなるヴァイオリン協奏曲の演奏が始まりました。朗々としたヴァイオリンに始まり、柔らかなピアノとともに、美しくメロディを歌わせました。
ピアノの間奏をはさんで、繊細な響きでゆったりと歌い、朗々とした音色にうっとりしました。美しく、少しミステリアスなピアノの間奏の後に、ヴァイオリンが激しくかき鳴らされました。力強いピアノとヴァイオリンがせめぎあい、ヒートアップしました。
ピアノの間奏をはさんで、再びゆったりと歌い、長大なカデンツアとなりました。高音の美しさ、心に染み入るヴァイオリンにうっとり。ピチカートを交えながら、緊迫感とともに深遠な音楽に圧倒されました。このカデンツアの見事さに言葉を失いました。
ピアノが加わって、階段を上るようにエネルギーを高めて、互いに呼応しながら、堂々と行進するように明るく踊り、そして、スピードを速めて力強く足を踏み鳴らしました。
次第にエネルギーを高めてスピードアップして、猛スピードのピチカートから、どんどんと休みなく突き進み、熱く燃えてフィナーレとなりました。ブラボーの声とともに大きな拍手が贈られ、その熱い演奏を讃えました。
アンコールはヴィエニアフスキのヴァイオリン協奏曲の第2楽章が演奏されました。緩徐楽章ですので、ゆったりと美しい調べにうっとりし、先ほどの興奮を鎮める極上のデザートとなりました。
小学校5年生、中学校1年生、そして今回は高校2年生と、演奏を聴くのは3回目でしたが、その成長振りには目を見張りました。
大瀧さんというこの上ないピアニストのサポートを得て、実力を遺憾なく発揮されたものと思います。とても高校生の演奏とは思えず、驚きでいっぱいでした。
こんな俊英が長岡の地におられ、それもまだ高校2年生というのが凄いですね。奥村門下生からは素晴らしいヴァイオリニストが輩出されていますが、これからは先輩方を追い抜いていくのは間違いなく、これからの発展を見守って行きたいと思います。
いい音楽を聴いた喜びとともに、明るい気分で帰宅の途に着きました。小雨が降ったりしましたが、気分は晴れやかでした。
(客席:11-10、¥1000) |