東京交響楽団第141回新潟定期演奏会
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2025年5月18日(日)17:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
指揮:下野竜也
コンサートマスター:小林壱成
 
スメタナ:連作交響詩「我が祖国」
 T ヴィシェフラド(高い城)
 U ヴァルタヴァ(モルダウ)
 V シャールカ
 W ボヘミアの森と草原から
 X ターボル
 Y ブラニーク
 

 今日は、2025年度最初の東京交響楽団新潟定期演奏会です。3月に "春の「第九」" を 聴いて以来、2か月ぶりの定期演奏会になります。

 今シーズン最初の演目は、下野竜也さんの指揮によるスメタナの「我が祖国」全曲で、昨日の川崎での名曲全集第207回と同じプログラムです。
 この演奏会はニコ響で生配信され、来週まで見逃し配信もされていますので、ご視聴された方も多いかもしれません。

 さて、下野竜也さんと東京交響楽団との新潟での演奏を聴くのは、2002年9月の「東響ホリデーコンサート」、2021年1月の「新潟特別演奏会 2021睦月」以来、4年ぶり3回目になります。
 本来なら、2020年5月の定期演奏会で指揮する予定だったのですが、コロナ禍で2020年度の定期演奏会は全て中止になり、代わりに「新潟特別演奏会」が開催されましたので、下野さんは、今回が新潟定期演奏会への初登場となります。

 今回のプログラムのスメタナの「我が祖国」は、第2曲の「ヴァルタヴァ(モルダウ)」は聴く機会が多いのですが、全6曲をまとめて聴く機会は少なく、1999年4月に始まった東響新潟定期演奏会の26年の歴史の中でも今回が初めてです。

 こんな貴重な演奏会のはずなのですが、実はこの「我が祖国」全曲は、昨年9月に新潟メモリアルオーケストラの素晴らしい演奏を聴いたばかりでしたので、個人的には新鮮味がなく、プログラムの発表があったときには、正直言って、またかと残念に思いました。
 とはいえ、過去に聴いたのは、2007年12月の新潟大学管弦楽団第44回定期演奏会(指揮:河地良智)と昨年9月の新潟メモリアルオーケストラ第33回定期演奏会(指揮:工藤俊幸)の2回だけです。
 前回からはまだ8ヵ月しか経っていませんが、プロオケでの演奏は今回が初めてですので、気分を変えて期待することにしましょう。

 日曜日の午後、本来であれば13時からのロビーコンサートを聴いて、仕切り直しをして定期に臨むところなのですが、今日は13時30分から北区文化会館で新潟室内合奏団の演奏会が開催されましたので、ロビーコンサートは断念することにしました。
 ヴァイオリン:田尻順さん、清水泰明さん、ヴィオラ:青木篤子さん、チェロ:伊藤文嗣さん、コントラバス:北村一平さんという強力なメンバーで、清水さんのオリジナル曲を中心とするプログラムが組まれ、楽しみなロビーコンサートでしたので、聴けなくて残念でした。大いに盛り上がったことは間違いありません。

 北区文化会館での新潟室内合奏団の演奏会が15時過ぎに終わり、すぐにホールを出ましたが、急ぐまでもなく白山公園駐車場に30分ちょっとで到着できました。バイパスの渋滞が部分的で良かったです。
 今日はりゅーとぴあ・劇場でイベントが開催されているようで、公園にはコスプレした若者たちが何人もおられました。
 インフォメーションで某コンサートのチケットを買い、開場とともに入場しました。新年度の定期会員の特典のGODIVAのクッキーを受け取りましたが、その小ささにびっくり。クッキーを入れる伊勢丹の手提げ紙袋の方が立派に見えました。

 16時半になり、恒例の榎本さんと廣岡団長とのプレトークが行われましたが、板についた榎本さんの軽妙なトークで楽しませてくれました。
 この話の中で、「我が祖国」は全曲が演奏される機会は少なく、廣岡さんの25年の東響での演奏者生活の中でも、一度も弾いたことがなかったというのは驚きでした。そう考えますと、今日のコンサートは貴重なんですね。
 「我が祖国」の解説の中で、「プラハに行ったことがある人はいますか」という榎本さんから客席への質問に、何人も手を挙げていて、新潟人もたいしたもんだと感心しました。

 プレトークが終わり、開演時間が近付くにつれて客席は埋まり、最近のこれまでの演奏会よりは集客が良いように感じました。サイド席に空きがありましたが、相変わらず安価な席はびっしりでした。今年度の定期会員が増えていてくれると良いのですが。

 開演時間となり、拍手の中に団員が入場しました。最後にコンマスが登場して大きな拍手が贈られてチューニングとなりました。
 弦は14型の対向配置で、私の目視で 14-12-10-8-6 です。コンマスは小林さん、隣は田尻さんと、コンマスが二人並びました。ステージの左右にハープが1台ずつ配置されていて、フルートのトップには退団したはずの相澤さんがおられました。オーボエのトップは荒さんですが、2番は葉加瀬さんじゃなくて最上さんでした。
 直前にアマオケの音を聴いていましたので、チューニングの音を聴いただけで、やっぱりプロは違うなあと感嘆しました。

 下野さんが登場して、第1曲「ヴィシェフラド」で開演しました。「高い城」という名でも知られますが、プラハにあるヴィシェフラド城を題材としています。
 左右に分かれたハープの二重奏で始まりましたが、ステレオ効果も美しく、この配置にした意義を実感しました。ホルンが優しく歌い、ゆったりと美しくテーマを奏で、そして壮大に盛り上がり、一気にスメタナの音楽世界へと誘われました。
 ヴィシェフラド城の歴史が音楽で表現されていて、少し荒々しい中間部をはさんで、しっとりとした静けさからテーマが奏でられ、エネルギーを高めてクライマックスかと思わせましたが、今では廃墟となった古城を髣髴させるように、ゆったりと静かに曲が終わりました。
 連続して切れ目なく第2曲「ヴァルタヴァ」へとつながりました。「モルダウ」という名でも知られ、この曲だけは何度も聴いています。
 美しいフルートの二重奏に始まって弦が加わり、湧き出た水が小さな流れとなり、次第に水量を増して大きな流れとなりました。
 中流の村では祭りが行われていて、人々が楽しく踊っていました。嵐に見舞われ、急流になったりもありましたが、川は穏やかな大河となって下流へと雄大に流れていきました。
 一連の音楽劇が、美しく表現され、何度も聴いているはずのこの曲に、新たな感動をもたらしてくれて、うっとりと聴き入りました。

 好演したハープの二人が左右に退場し、次は第3曲「シャールカ」です。激しい一撃で始まり、荒々しさから明るくリズムを刻みました。
 クラリネットが雄弁に歌い、チェロが応え、穏やかに明るく、そして情熱的に盛り上げました。うねるような弦楽の美しさに息を呑みました。そして再び激しくリズムを刻み、静けさからクラリネットが歌い、激しく燃えてエネルギーアップし曲は終わりました。
 シャールカの地で繰り広げられた男たちと、男たちに虐げられた女たちとの戦いが音楽で描かれ、女たちの勝利で幕は下りました。

 続いては第4曲「ボヘミアの森と草原から」です。ゆったりと大きく揺らぐ波のように始まり、悲し気なメロディが明るさを見せました。そして、ヴァイオリン→ヴィオラ→チェロ→コントラバスとメロディが引き継がれフーガとなります。
 ホルンが歌い、そして高らかにエネルギーを増して主題を歌い上げ、盛大に力強くリズムを刻み、明るく踊り回りました。穏やかさと激しさを繰り返し、その対比も鮮やかに、激しく盛り上がってフィナーレとなりました。

 そして、第5曲「ターボル」と第6曲「ブラニーク」が切れ目なく続けて演奏されました。暗い空気感の中に始まり、激しさの波を繰り返すうちに大きな高まりとなり、緩急・強弱の波にのまれるようでした。
 強奏後の全休止の静けさと、そのコントラストの大きさが緊張感を高めました。刃物のように切れの良いオケ。一貫した激しさに打ちのめされました。
 波はどんどんと大きくなり、途切れない緊張感が逆に快感へと変貌しました。力強い低弦に圧倒され、何発ものパンチを浴びてノックアウトされました。弦楽アンサンブルの素晴らしさに圧倒され、息を呑みました。
 歯切れ良く刻む低弦からオーボエが優しく歌い、ホルンが呼応し、他の木管も順次歌いだして、やすらぎの時間となりました。
 それも束の間で、せわしなくリズムを刻んで駆け抜けて、緩急を繰り返してエネルギーを蓄え、壮大に歌い上げ、静けさの中からどんどんと熱く燃え上がり、第1曲のテーマを歌い上げ、チェコの勝利を祝う興奮の中にフィナーレとなりました。

 これほどの演奏を聴けるとは予想もできず、東響のパワーにひれ伏すのみでした。休憩なしの80分近い長丁場はあっという間に過ぎました。休憩を置かず、全6曲を連続して演奏することで、全体をひとつの曲として楽しむことができました。
 最初は、プログラムがこの曲だけというのは寂しく感じましたが、お腹いっぱいの満足感をいただきました。
 こんな演奏を引き出してくれた下野さんと、その指揮に見事に応えた東響の皆さんを称賛したいと思います。
 昨日の本番を終えて、問題点を修正し、さらにブラッシュアップして、コンサートホールの芳醇な響きも相まって、一期一会の感動の音楽が創り上げられたものと思います。

 カーテンコールが繰り返され、一旦退場したハープ奏者も登場し、大きな拍手が贈られました。私も力の限り拍手しました。今年度もこのカーテンコールは撮影可能でしたので、私もスマホで撮影させていただきました。

 新年度最初の定期演奏会は期待以上の盛り上がりでした。大きな感動と満足感とともにホールを後にしました。駐車場への足取りも軽く、日が長くなった春の夕暮れを楽しみました。
 

(客席:2階C*-*、S席:定期会員:¥5300)