谷 昴登 ピアノ・リサイタル
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2023年5月13日(土) 14:00 新潟市民芸術文化会館 コンサートホール
ピアノ:谷 昴登
 
ブラームス:ピアノ・ソナタ第2番 嬰ヘ短調 作品2

ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲 作品35 第1巻

(休憩20分)

バルトーク:戸外にて Sz.81. BB.89
  T.笛と太鼓
  U.舟歌
  V.ミュゼット
  W.夜の音楽
  X.狩

ショパン:4つのマズルカ 作品24
  第14番 ト短調 作品24-1
  第15番 ハ長調 作品24-2
  第16番 変イ長調 作品24-3
  第17番 変ロ長調 作品24-4

ストラヴィンスキー:《ペトルーシュカ》からの3楽章
  T.Danse russe
  U.Chez Petrouchka
  V.La semaine grasse

(アンコール)
ブラームス:間奏曲 op.117-1

 今年に入って、なぜかピアノ、それも若手男性ピアニストの演奏会が続いています。2月の角野隼斗、 反田恭平・務川慧悟三浦謙司、3月の實川 風、そして今回の谷 昴登、さらに来月には亀井聖矢が控えています。たまたまなのでしょうが、続くときは続くものですね。

 ということで、今日は谷 昴登さんのリサイタルです。2021年日本音楽コンクール第1位とのことですが、今回のリサイタルまで、その名前も知りませんでした。2003年生まれで、現在桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコースに特待生として在学中とのことです。若き俊英がどのような演奏を聴かせてくれるのか確かめるべく、チケットを買いました。

 明日は雨の予報が出ていますが、今日は薄曇りながらも穏やかな天候で、過ごしやすい土曜日になりました。与えられた雑務をこなし、我が友と戯れ、ゴミ出しをして家を出ました。
 先週に引き続いて、上古町の楼蘭で絶品の冷やし中華をいただき、幸せな気分でりゅーとぴあへと向かいました。
 県民会館に立ち寄り、某コンサートのチケットを買いましたが、人気グループのコンサートがあるらしく、ロビーは若い女性の列が長く折れ曲がりながら伸びていて、場違いな場所に来たようなアウェイ感を感じました。でも、賑わっていて何よりです。

 りゅーとぴあに入館しますと、すでに開場されており、私も入場して開演を待ちました。客の入りは良いとは言えず、ちょっと寂しさを感じました。実力者ではありましょうが、ネームバリューとしては乏しく、集客に繋がらなかったものと思います。でも、ゆったりと音楽を楽しめて良かったです。

 開演時間となり、若きピアニストが登場し、ブラームスのピアノソナタ第2番で開演しました。最初のフレーズを聴いただけで、このピアニストは只者ではないことがすぐに感じられました。
 スピード感とパワーに溢れ、疾走感が心地良い演奏でしたが、ピアノの音の美しさに驚きました。クリスタルのように透き通り、キラキラと輝くような音で、低音部も力強く濁り感は全くありません。
 りゅーとぴあには2台のスタインウェイがあり、そのどちらのピアノかはわかりませんが、これほど色彩感にあふれ、煌くようなピアノの音を引き出したピアニストはめったにいません。調律の良さもあるのかもしれませんが、このピアニストが持つ天賦の才能の輝きだと思います。全4楽章を情熱的に演奏し、この曲の新たな魅力をさらりと具現化してくれました。ブラームスに抱くイメージを払拭してくれる21世紀に生きる音楽がそこにありました。この1曲を聴いただけで満足感を感じました。

 続いてはブラームスのパガニーニの主題による変奏曲です。全2巻・計28曲よりなりますが、そのうちの第1巻の14曲が演奏されました。
 先ほど抱いた印象そのままに、猛スピードでの出だしから圧倒されました。生命感・躍動感にあふれる演奏は聴いていて心地良く、爽快感を感じさせました。まさに谷ワールドの炸裂です。この若さで、いや、この若さなればこその、新鮮な音楽に、この上ない高揚感を感じ、私のような老体にもエネルギーが注入されたように感じました。

 休憩時間に知人に出会い、感想を述べ合いましたが、その方も演奏を賞賛していました。指が長いのに驚いたと話していましたが、確かにピアニスト向きの長い指でした。
 なお、3日からビュッフェが再開しましたが、休憩時間のホワイエに日常が戻ってきたようで、良かったですね。心も和みました。

 休憩後の後半は、バルトークの「戸外にて」で開演しました。5曲からなりますが、これは谷さんにぴったりな音楽であり、演奏だったと思います。各曲の対比も鮮やかに、色彩感豊かで、ダイナミックな演奏に身を委ね、頭を空にして音楽世界を堪能しました。超絶技巧が要求されるはずの激しい音楽を、いとも簡単に、流れるような指使いで演奏し、圧倒されました。

 続いては、ショパンのマズルカが4曲演奏されました。ここは一転して脱力し、柔らかなショパンの世界が描き出されました。先ほどの、荒々しさもあるハンガリーの民俗音楽から、ポーランドの民族舞曲であるマズルカを、軽やかに、さらりと演奏し、重量級のプログラムの中で、口直しの時間となりました。

 そして、最後はストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」からの3楽章です。これは今日のリサイタルを象徴し、締めくくるに相応しい演奏でした。色とりどりの、七色の音楽が、噴水の如く、ステージ上のスタインウェイから沸きあがり、ホールいっぱいに響き渡りました。太陽に照らされてキラキラと輝く音符が、ピアノから湧き上がる様が、アニメでも見るかのように、幻覚のように見えてきました。
 恍惚感に浸り、流れ出る音の洪水に溺れそうになりながら、急流下りを楽しみ、ストラヴィンスキーの音楽世界に浸ることができました。

 大きな拍手に応えて、サイド席にも礼をし、ステージマナーの素晴らしさも印象的で、高感度満点でした。できるなら満員の聴衆でその健闘を讃えてあげたかったです。
 アンコールにブラームスの間奏曲をしっとりと演奏し、先ほどの興奮を鎮めてくれました。極上のデザートをいただいて、感動のリサイタルは終演となりました。

 多彩なプログラムでしたが、曲目や配列が十分に考えられており、この点も素晴らしく感じました。天に突き抜けるような鋭い高音、パワー溢れる低音。全音域に渡って音は美しく輝いていました。これほどの演奏を聴けるなんて、当初は予想もしておらず、思わぬ誤算でした。
 弱冠20歳の若者が創り出す生命感あふれる音楽に、パワーをいただき、音楽を聴く喜びを再確認することができました。
 集客は十分ではありませんでしたが、今日来た聴衆は大きな感動を手に入れ、聴きに来て良かったと思ったはずです。私も大きな拾い物をしたような満足感をいただきました。今年聴いてきた一連のピアノ演奏会の中では、最高だったと思います。
 新潟のような地方ではまだ知名度は低いながらも実力を持ち、将来性も豊かなピアニストを見つけ出し、招聘してくれたりゅーとぴあの担当者の素晴らしさも賞賛したいと思います。
 ただし、料金設定や、コンサートの位置付けなどには再検討が必要かもしれませんね。10月に實川 風さんを招聘しますが、そちらはワンコインコンサートですものね。

 谷さんは、これからさらに飛躍していくこと間違いなしです。あのとき新潟での初リサイタルを聴いたんだと、将来自慢できることは間違いなく、それも遠い将来ではないように思います。
 これからメジャーな国際コンクールで実績を積んでいくものと思いますが、ビッグネームとなって、りゅーとぴあに再来してくれる日を楽しみにして、これからも生きて行きたいと思います。
 

(客席: 2階C3-7、S席:\4000)