寒かったり暖かかったりと、寒暖の差が激しい日々が続いています。晴れたと思ってもすぐに天候は崩れ、今日も雨模様となっています。雪にならないだけ良いというべきでしょうか。
こんな日曜日ですが、新潟の音楽界は大盛況であり、新潟市内では、朱鷺メッセでジャニーズ系の大型公演が昨日・今日と行われています。クラシックも負けていませんが、三浦謙司さん、小林浩子さん、石井琢磨さんのピアノリサイタルが同時刻に開催されるという異常事態になりました。
三浦さんのリサイタルは随分前からチケットが発売されており、私も発売早々に買っていたのですが、その後、小林浩子さんのリサイタル、さらには石井琢磨さんのリサイタルの発表がありました。
小林浩子さんは、新潟市のご出身で、新潟のほか全国で地道な活動を続けてこられ、4月からは令和5・6年度の第5期の「りゅーとぴあ音楽アウトリーチ事業」の登録アーティストとしての活動も期待されています。ファンも多く、私もその一人なのですが、行けなくて残念です。このリサイタルには新潟の音楽ブロガーの皆さんが行かれると思いますので、レポートに期待したいと思います。
また、石井琢磨さんは、東京藝術大学で学ばれた後、ウィーン国立音楽大学で研鑽を積まれ、ウィーンを拠点に活動しておられます。数々の国際コンクールの受賞歴があるほか、「TAKU-音 TV たくおん」としてYouTube配信を活発にしておられ、私も注目していました。今回は「47都道府県ツアー」としての新潟公演で、その実力を直に感じることができる貴重な機会であり、行けなくて残念です。
このように、魅力あるピアノの3公演が重なってしまいましたが、さらに新潟リング・アンサンブルの演奏会までもが同時刻での開催となりました。新潟リング・アンサンブルの演奏会はコロナ前には毎回通っていまいたしたので、今回も是非とも聴きたいところでした。
人口の少ない新潟で、何も同じ日・同じ時間に開催しなくてもよいのにと思わず嘆いてしまいますが、偶然なんでしょうね。身体はひとつですので、ひとつに絞るしかありません。
苦渋の選択で、一番最初に発表されチケットを買っていた三浦謙司さんのリサイタルに行くことにしました。チケットを無駄にできませんものね。
三浦さんは、2019年11月のロン・ティボー・クレスパン国際コンクールの優勝者として知られますが、13歳からヨーロッパで学ばれた後、2012年夏に音楽の世界から一度離れ、2014年4月に再びベルリンの音楽大学に入学して活動を再開したという異色の経歴の持ち主です。
新潟では、2021年9月の「東京交響楽団第122回新潟定期演奏会」(指揮:原田慶太楼)に出演されて、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番を演奏し、優しく包み込まれるような音楽に魅了されました。今回はどのような演奏を聴かせてくれるのか、期待は高まりました。
気温は高いながらも、雨が降り続く日曜日。ホームベージを一旦アップし、ゆっくりと昼食をとり、雨降る中に白山公園駐車場へと車を進めました。車をとめ、県民会館で某公演のチケットを買い、りゅーとぴあ入りしました。
チラシ集めをして、東ロビーに行きますと、スタジオAでの小林浩子さんのリサイタルの開場待ちの人たちがおられました。あきらめの悪い私は、予定を変更して小林さんを聴こうというという衝動に駆られました。
前半だけでも小林さんを聴いて、後半は三浦さんを聴こうという思いがよぎり、開場時間までスタジオAの受付前で考え込んでいました。
音楽仲間とも出会い、お話しましたが、悩んだ末に潔くあきらめて、コンサートホールへと後ろ髪を引かれながら、重い気持ちで足を進めました。
こちらも開場が進んでいましたので、すぐに入場して席に着き、この原稿を書きながら開演を待ちました。開演時間が近付くに連れて、客席は埋まりましたが、それなりの入りでしょうか。
開演時間となり、三浦さんが登場して椅子に座り、10秒ほどの静寂の後、ラヴェルのソナチネで開演しました。3楽章からなる曲ですが、優しく美しい旋律を、しっとりと歌わせて、聴衆の心をつかみ、うっとりと聴き入りました。ピアノのふくよかな、温かな響きが残響豊かなホールに、包み込まれるように響きました。
遅刻して入場した客の着席を待ち、2曲目は、リストの「詩的で宗教的な調べ」から第3曲の「孤独の中の神の祝福」です。
曲名の如く詩的で宗教的な、静かで清廉な雰囲気の中に始まり、やがて大きな感情の高まりをみせ、うねるような波に心は揺り動かされました。ピアノはあくまでも柔らかく、温かさに満ちていて、オレンジ色に燃える暖炉の炎のようでした。
続いては、リスト編曲によるワーグナーの「イゾルデの愛の死」です。ワーグナーの官能的な楽劇の世界が、ピアノで見事に再現されました。豊潤で分厚いピアノの響きとともに、たたみ掛けるような感情の高まりに圧倒され、身を委ねるのみでした。
休憩後の後半は、10秒ほどの静寂の後に、ショパンのバラード第3番で開演しました。これまでの演奏と同様に、ふくよかで柔らかなピアノの音色が心地良くホールに響き、緩急自在に揺れ動く音楽の世界を楽しみました。
続いては、ドビュッシーの「ベルガマスク組曲」です。各曲の対比も鮮やかに、それぞれの曲の良さを感じさせてくれました。特に、これでもかとゆったりと歌わせた「月の光」には、濁りきった私の心が浄化されるようでした。
そして最後は、ブゾーニ編曲によるバッハの「シャコンヌ」です。これはリサイタルの最後を飾るに相応しい、力の入った演奏でした。重厚なピアノはパワーに溢れますが、力任せに乱れることはなく、統制の取れた緊張感とともに、心に迫りました。熱く燃え上がる感情のマグマは、単に爆発して吹き上がることはなく、煮えたぎった溶岩の流れとともに、聴く者の心を熱くしました。
アンコールには、静かな曲を3曲演奏し、しーんと静まり返る静寂の中にリサイタルは終演となりました。ブラボーの声が上がるような熱狂の中に終演するというのも良いのですが、このように静かに余韻に浸りながらの終演も味わい深いですね。
総じて、ピアノの音はふくよかで柔らかく、鋭角的な刺激は感じられませんでした。曲は様々でしたが、攻撃的で突き放すことなく、優しく包み込むような音楽世界が、一貫して繰り広げられました。これは三浦さんの人間性が現われ出ているものと思います。
感動と興奮で胸が高鳴るというコンサートではありませんでしたが、一瞬の感動の爆発で終わることなく、持続的にめらめらと青白い炎が心の中で燃え続けるように感じました。良い音楽を聴けたという満足感を胸にホールを後にしました。
なお、終演後にはホワイエで三浦さんによるサイン会が開催され、ついにポストコロナの時代がやってきたことを実感しました。
(客席:2階C3-7、¥3000) |