今日は若手ピアニストの中で絶大な人気を誇る角野隼斗さんのコンサートです。角野さんは、音大ではなく東京大学大学院卒という異色のピアニストですが、2021年のショパンコンクールのセミファイナリストであるほか、ピアニストとしての素晴らしい実績を積み重ねておられます。
その一方で、ジャンルを超えた活発な演奏活動をされており、「かてぃん」の名前でYouTubeで活躍しておられます。私も演奏を視聴させていただいてファンとなり、CDも購入させていただきました。
今回は「角野隼斗 全国ツアー 2023 “Reimagine”」という公演で、全国で16公演開催され、新潟は4公演目に当たります。300年前のバロック音楽と現代の音楽を分け隔てなく並列にとらえ、クラシック音楽を生きた音楽として再構築(Reimagine)しようというのがテーマです。
昨年秋にこの公演が発表され、その中に新潟での公演があることを知り、後先を考えずに、すぐにチケットを買ってしまいました。
その後、平日であること、冬の一番天候が悪い時期であること、などの現実に直面しました。さらに、わずか2日後の2月3日には新潟で反田恭平さんと務川彗悟さんのコンサートがあり、そのチケットも買ってしまいました。
大荒れの天候が予想される2月の初めの平日の夜に、2公演に行けるのかという大問題を前に、衝動的にチケットを買ったことへの後悔と、新潟で連続して魅力ある公演がある幸せを感じながら、この日を待ちました。
幸い根回しをしてスケジュール調整し、天候も大荒れにならずに済み、コンサートに予定通りに行くことができました。
職場を早く出て、奮発して高速道路を使い、雨の中に安全運転の範囲内で大急ぎでりゅーとぴあへと向かいました。雪でなく、雨のためもあって、予想よりも順調に到着できました。駐車場からりゅーとぴあへと、雪道で足元が悪い歩道を速足しました。
館内に入りますと既に開場されており、ロビーは入場する人たちで賑わっていました。客層はいつものコンサートとは大違いで、若い人が多く、平均年齢はかなり低いものと思われました。特に若い女性の多さに驚きました。恐らくは、私などは最高齢の部類であり、場違いな所に来たようなアウェイ感を感じました。角野さんの強い希望で学生席が設けられ、25歳以下の学生は3000円で聴けるということもあったものと思います。
半券を自分で切って入場しますと、ロビーはグッズ販売で賑わっており、角野さんの人気のほどがうかがえました。混雑を横目に客席に着き、この原稿を書きながら開演を待ちました。
ステージは、ピアノのコンサートにも関わらず、雛壇が高く作られており、通常のスタインウェイが中央に設置され、その左にアップライトピアノが置かれ、マイクが設置されていました。ステージの両端にスピーカーが置かれ、1階席後方にPA調整卓が置かれ、操作員がスタンバイしていました。開演時間が近付くに連れて、客席はびっしりと埋まって、熱気に包まれました。いつもとは違った開演のチャイムが鳴って、いよいよコンサートの始まりです。
1曲目は、バッハのインヴェンション第1番です。軽やかに、よどみなく音楽が流れ出て、一気に角野ワールドに誘われました。
最初はグランドピアノでしたが、後半は振り返ってアップライトピアノに移動しての演奏でした。アップライトピアノは角野さん流に調整され、ふくよかな、温かみのあるサウンドで、PAが使用されました。その音色は通常のピアノの音とは全く異なり、新しい楽器と表現した方が良さそうでした。その音色はむしろハープに近いように感じました。
2曲目はグランドピアノで、ラモーの新クラヴザン組曲集第2番を軽やかにスピーディに演奏した後、続けて3曲目のグルダのプレリュードとフーガを演奏し、そのジャジーな曲と違和感なくつながり、バロック音楽と現代の音楽が、時空を超えて、まさにReimagine(再構築)されていました。
一旦退場した後、角野さんのMCがあり、挨拶の後、今回のコンサートの趣旨である「Reimagine」についての説明があり、新潟か今回のツアーの4公演目であることなど話されました。
4曲目は、場内が暗転された暗さの中で、アップライトピアノで自作の「追憶」が演奏されました。ショパンのバラード第2番の旋律を元に作られた曲だそうですが、ソフトフォーカスで柔らかなピアノの音色が心地よく響きました。
5曲目は、オルガンに照明が当てられ、アップライトピアノでバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」が柔らかく、暖かなサウンドで演奏され、母の胎内にいるかのように、安らかに癒すような音楽に包み込まれました。
そして前半最後はバッハのパルティータ第2番です。最初はグランドピアノで演奏し、その後クリアな音色に変えられたアップライトピアノで演奏し、さらにアップライトピアノを元の暖かな音色に戻して演奏し、最後は再びグランドピアノに戻って曲を終えました。6曲からなりますが、ピアノを変えながらの効果的な演奏に感嘆しました。
休憩時間に、用を足した後、客席でこの原稿を書いていましたが、ピアノの後方に4本の電球の照明が立てられました。この目的は後で判明しました。
角野さんは前半は上下黒の衣裳でしたが、後半は上は白い衣装に着替えて登場し、照明が落とされて暗い中で、自作の「胎動」が演奏されました。ショパンのエチュード第1番をモチーフに作られた曲だそうですが、ダイナミックで聴きごたえある曲です。
ここで角野さんのMCがあり、宇宙に興味があって作ったという自作の「Human Univers」が演奏されました。バッハ的な音楽が次第に熱を帯びて燃え上がりました。
一旦退場し、続いては、本日のメインともいえるカプースチンの8つの演奏会用エチュードとバッハのインヴェンションです。「Reimagine」というコンサートの趣旨そのままに、バッハの音楽とカプースチンの現代音楽とを融合させたプログラムです。
カプースチンの8曲とバッハの3曲の計11曲が続けて演奏されましたが、今どの曲(何番)が演奏されているかを、先ほど紹介した4つの電球の照明で表示するとの説明がありました。4つの照明は、右から1、2、4、8と数字が割り当てられ、点灯した照明の組み合わせから、1〜15の数を表示することができ、各曲の番号をこれで表すというものです。さすが東大の理系で学んだ角野さんですね。
カプースチンの1番から3番まで演奏した後、バッハのインヴェンション第13番、続いてカプースチンの4番、5番を演奏しました。続いてバッハのインヴェンション第4番を演奏し、カプースチンの6番、続いてバッハのインヴェンション第14番、そしてカプースチンの7番をアップライトピアノで演奏し、途中からグランドピアノに戻りました。そして最後に8番を演奏して終わりとなりました。
カプースチンは現代曲ではありますが、ジャズとクラシックが融合されており、バリバリの現代曲とは違って聴きやすい曲です。バッハも軽快にスピーディに演奏し、熱さと躍動感を感じさせましたので、各曲が300年の時間を超越して違和感なく融合し、生き生きした音楽に作り上げられました。
カプースチンは、現在戦火に苛まれているウクライナ東部のドネツク州の生まれで、モスクワ音楽院で学んでいます。自身がピアニストであり、この曲の自演のCDも出しています。最近人気で聴く機会がありますが、角野さんの演奏は素晴らしく、各曲の対比も鮮やかに、アップライトピアノも交えた演奏で新たな魅力を付加してくれました。もう、さすがというしかなく、若き才能の前にひれ伏すのみでした。
大きな拍手に応えて、アンコールにショパンのワルツを躍動的に演奏し、続いてバッハの「羊は安らかに草を食み」を、アップライトピアノで柔らかく穏やかに演奏しました。
そして角野さんのMCがあり、撮影可能であること、30秒以内なら動画を公開しても良いことなどの説明があり「ラプソディ・イン・ブルー」がショートバージョンで演奏されました。
これをやってくれたら良いなあと期待していた曲であり、大満足でした。もちろん私も撮影させていただきました。
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スタンディングオベーションの中に、感動と興奮のコンサートは終演となりました。考え抜かれたプログラムと期待にたがわぬ演奏に、角野さんの素晴らしさを再認識し、高鳴る胸と満足感とともに、駐車場へと雪でぬかるむ道を急ぎました。
(客席:2階C2-9,¥6800) |